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憂鬱SRW ファンタジールートSS 「1944年9月、ペテルブルクにて」2
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年9月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 滑走路
空から、ゆるりと翼が舞い降りてきた。
偉く詩的な表現だ、と「ジュース」を傾けるヴァルトルート・クルピンスキー中尉は、それを見上げつつ口の中でつぶやく。
今日は非番。だから「ジュース」を飲むことくらいは、勤務に差しさわりない範囲で許されている。
かといって、それだけでは暇をつぶせないので、こうして基地に併設されている滑走路へと歩いてきたのだ。
つまみになるものも購買で購入してそれを持ってきているので、ゆっくり楽しめる。
「お、来た来た」
最初は点のようにしか見えなかったそれは、徐々に大きくなっていく。
それは、人の姿を一回り大きく、そして翼を与えた形となっていくのだ。
クルビンスキーは、それが何であるかをよく知っている。
MPF、マギリング・パーソナル・フレーム。地球連合から派遣されてきたリーゼロッテ・ヴェルクマイスターらが開発した装備の名前だ。
素養のない人間でも、それこそ男性でもウィッチのようにネウロイと戦うことができるようになるという装備。
魔導士と同系統の技術を用いながらも、比較にならないほどの性能を持つというそれ。
ウィッチの互換を目指し、しかし失敗した魔導士と異なり、ネウロイ相手にウィッチと同じかそれ以上に戦える兵科、ウォーザードの纏う翼だ。
それが502JFWには配備されている。それも訓練さえすれば誰もがナイトウィッチになれるという「ナハト・リッター」を複数機。
ナイトウィッチの絶対数を補えるということもあり、各国で奪い合いにすらなっているというそれが予備パーツもたっぷりで配備されている。
しかも、それを行うウォーザードが全員ティル・ナ・ローグにおいて専門の訓練を受けた女性軍人という徹底ぶりであった。
それこそが、502JFW隷下にあるウォーザードを擁する第101独立飛行隊小隊「オーカ・ニエーバ」であった。
(相当配慮されているよねぇ……)
また一口「ジュース」を飲む。
言うまでもないが、ウィッチをその主力に据えるJFWは女所帯だ。しかも年頃の、魔法が使える少女ばかりが集まっている。
そんな中において男性がいれば年齢がどうあれ問題が起こりかねないのである。それへの対策ということだろう。
ウィッチを軍事的に運用する、という中においてこれはどうしても問題になってきたことであり、時には大事になったこともある。
実際、これまで彼女らが配属になってからその手のトラブルは起こっていない。
それどころか、有益だったくらいだ。隊員にはウィッチ上がりのウォーザードもあり、先達としてのアドバイスがもらえる。
こちらの事情を踏まえたうえで、必要な人材を揃え、機材と装備を与え、送り出す。その恩恵はとても大きい。
「政治的な都合」とやらで、その「オーカ・ニエーバ」は哨戒や偵察などを主任務としていると聞く。
けれど、ウィッチに負担が大きいそれらを専門にやってくれている「オーカ・ニエーバ」のおかげで、502JFWのローテーションはかなり余裕があるのだ。
夜間哨戒に出れば必然的に生活リズムが崩れ、どうしても休息が必要になる。それを主戦力があまりやらなくてよくなるのは非常に大きい。
さらに、彼女らの活躍は夜間などに限定されない。
大規模な作戦時においては、彼女らの言うところのAWACS---早期警戒管制機としての役目も果たしている。
これにより、戦場の状況把握や情報共有がスムーズに行われ、ネウロイの大群が押し寄せてきた時も円滑に作戦行動ができた。
少し前の作戦で大立ち回りをした時も彼女らの支援抜きでは恐らく失敗していたであろうことは、クルビンスキーでも知っていることだ。
「ほんと、頭が上がらないよねー」
これで、隊員たちにもっとお近づきになれたらなーとクルビンスキーは思うのだ。
「オーカ・ニエーバ」を構成する女性ウォーザード達、そして専属の整備班にはクルビンスキーの好みのタイプがいるのだ。
自他ともに認める酒好き女好き且つ享楽主義の彼女は、そういう目でも彼女たちを見ていたのだ。
特に扶桑から来た工藤みちるというウォーザードが好みだ。生真面目で、几帳面な彼女を陥落させたいという欲が湧いた。
623:弥次郎:2022/12/08(木) 21:31:55 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
だが、これは「オーカ・ニエーバ」の小隊長を務めているエカチェリーナ・ルキーニシュナ・トゥクタムイシェヴァに悉く阻止されている。
案外抜けているみちるに対し、エカチェリーナ---カーチャは隊員たちの面倒をよく見て、周りも見張っている。
温厚そうに見えて、一番隙がなく、軍人らしい。最年長で尚且つウィッチ上がりなのは伊達じゃないということか。
一番手を出してきそうな、というか前科ありの自分が目を付けられている自覚はある。
「あらあら、伯爵様はお暇なのかしら?」
ほら来た、とクルビンスキーは声には出さないがげんなりする。
振り返れば、オラーシャ人らしい青い瞳の、白い長髪を垂らしたウォーザードの姿があった。
所属としては502JFW---その実としてはティル・ナ・ローグからの派遣ということで、軍服はそれを纏う姿はとても絵になる。
見とれそうになるが、咳ばらいを一つして切り替える。
「かわいい後輩の帰還の出迎えですよ。いつも哨戒任務の多くを熟してもらって、助かっていますし」
「ふふ、ありがと。あの子にも言っておくわね」
あの子。そう、今哨戒飛行を終えて着陸しようとしているMPF「ナハト・リッター」は件のみちるがパイロットを務めているのである。
クルビンスキーとカーチャが話している間に、みちるは速度を十分に落とし、着陸態勢に入っていた。
対ネウロイレーダーコンプレックスユニットのレドームやアンテナを折りたたみ、手足のAMBACやスラスターの逆噴射で準備を整える。
「……!」
そして、着陸。
ランディングギアの展開された脚部の先に展開されたエーテルバリアで衝撃を殺しつつ、さらに減速していく。
MPFはストライカーユニットよりも重装備であり、必然的に重量はかさむ。故に、着陸の難易度はストライカーユニットより高い。
おまけに背中の方に飛行のためのユニットが背負われていることから、どうしても重心が後ろにあり、平時とは感覚がかなり異なる。
その為に、ウィッチ上がりのウォーザードは以前の感覚に引きずられてしまい、苦労することも多いという。
飛行中にうっかりバランスを崩そうものならば、そのまま重量に振り回され、良くて転倒、悪いと墜落だ。
勿論、搭乗者の操作をアシストする機能もついているのであるが、だからといってそれに委ね切っていいわけではない。
コンピューターだよりではなく、自分の感覚でもMPFのバランスや速度、姿勢を把握し、管理してこそのウォーザードだ。
その点、訓練を受け、実戦を何度も重ねているみちるは慣れたものだ。装備などに傷をつけることもない、綺麗な着陸を決めた。
そして、自分の着陸を眺めていたクルビンスキーとカーチャに気が付いたのかこちらに手を振る余裕さえもある。
一連の動きを振り返れば、非常に美しいものであった。ウォーザードに魔導士から転科してまだ数か月も過ぎていない。
そうだというのに、一線級のウィッチ並みのマニューバを熟し、さらには長時間の紹介飛行任務帰りで、尚且つ重装備での着陸さえもやってみせた。
「有望株、ね。彼女はほんと、日を追うごとに実力をつけているわ。きっともっと強くなるかも」
「元ウィッチのお墨付きとは、彼女はすごいんだね」
「当然よ、養成課程の競争を潜り抜けたのは伊達じゃないわ」
ティル・ナ・ノーグではね、とカーチャは回顧する。
ウォーザードの秘めたスペックと実力を証明したのはあのオーバーロード作戦の時の事。
ウィッチでさえも地獄を見たあの場において、ウィッチと同じように戦い抜いたのがウォーザードであったのだ。
当時はシティシスの派遣した部隊にのみ配備されていたのであるが、その活躍ぶりは各国へと拡散。
地球連合が実践投入できるモノを量産できるようになったことも合わせてPRしたものだから、各国は飛びついた。
肝入りで送り出された魔導士が思った以上の戦果を出せなかったということも合わさり、ウィッチの互換戦力として求めたのだ。
結果、各国へ割り当てられるMPFは絶対数が足りなくなることになったし、シティシスが用意していたウォーザード育成課程への応募は飽和した。
すでにあれから2年近くがたつので、当時ほどの勢いは今はない。とはいえ、男女の性に関係なく優秀な人間を乗せる傾向は変わっていない。
必然的に適合する人間が多いことから、競争率というのは飛行ウィッチさえも凌ぐほどだったのだ。
それを、元は航空ウィッチを目指していた経歴があるとはいえ、若干19歳で突破できたのは伊達ではない。
「そりゃまた……」
クルビンスキーは感心するしかない。同時に、興味がさらに湧いてしまった。
それが露骨に顔に出たのをジト目で見られ、慌ててクルビンスキーは話題を振る。
624:弥次郎:2022/12/08(木) 21:32:28 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
「で、彼女はどんな感じなの?」
「そうね…紹介飛行任務中に遭遇戦での撃墜はそれなり。
ネウロイもこちらを良く偵察しているし、哨戒機を狩ろうとする意図を感じる動きをしている。
直接戦闘が少ないからと言って、こっちの隊の腕が悪いわけじゃないわよ」
それは、決して馬鹿にできない戦績だ。
哨戒飛行任務というのは、繰り返しになるが長時間の飛行を行う必要があり、なおかつ集中力を維持してネウロイの動きがないか探す必要がある。
必然的に体力や集中力というのは削られていくわけで、時には散漫になってしまうことだってあるだろう。
これはネウロイの動きが確認された時、それに応じて出撃する自分達ウィッチ達よりも条件が悪いとクルビンスキーにはわかる。
「でも、油断してしまうところがあるのが心配ね……そこさえ直せば、一人前以上ね」
「そしたら僕たちがいなくなっても安心、かい?」
そのクルビンスキーの言葉に、カーチャは無言を返した。
そう、クルビンスキーは未だにウィッチとして現役でいられるが、カーチャは一度はウィッチを引退した身だ。
空気中のエーテル濃度が非常に濃い世界に転移した影響で、ウィッチが現役でいられる期間は伸びているとされている。
けれど、それでもウィッチは年齢を重ねると魔力が減衰していくのは変わりのない事実。
魔力で肉体強化や魔法の行使、あるいはストライカーユニットを動かせなくなれば、戦力外になる。
そうなれば、教官であるとか後方勤務ということになり、第一線から遠ざかってしまうのだ。
そして、ウォーザードとして戦うにも、肉体的な成熟が終わり、劣化していくという普遍の現象には抗えない。
日々の鍛錬も欠かしていないカーチャでさえも、それは同じだ。
「ネウロイと長く戦うとさ、そういうことを考えちゃうよ。大尉は違う?」
「……そういう意味でも、みちるを気にかけているの?」
質問に質問で返すのは正直意地が悪い。
けれど、それを気にすることなくクルビンスキーは少し考えてから答えた。
「うーん、6:4くらいの割合で」
「そこは嘘でもそういう欲求の割合を下げなさいよ」
「えー?だって、他にも若い子が多いし?もう一人来るかもだし?」
来るかもしれない、という言葉で、誰のことを言っているかはすぐにわかる。
「雁淵ひかり軍曹のことかしら?
そうね……ヴェルクマイスター大佐の教育を受けるなら、案外一気に成長するかもしれないわね」
「その根拠は?」
問われたカーチャは薄く笑って断言した。
「この私がそうだったもの。オーバーロード作戦の後に腑抜けた私を往時以上に強くできたのは、大佐の手腕によるところと思っているわ」
ともあれ、とカーチャは歩き出した。
「私はみちるの所に行って引き継ぎに行ってくるわ。貴方は?」
「もう少しここでのんびりするよ」
「そう」
非番の特権を行使する彼女は、手を振ってカーチャを見送る。
けれど、その目は、至極真面目なままであった。
625:弥次郎:2022/12/08(木) 21:33:00 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
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502JFWにティル・ナ・ノーグから派遣された支援部隊「オーカ・ニエーバ」でした。
細かい設定はオイオイネー
最終更新:2023年11月03日 11:06