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憂鬱SRW ファンタジールートSS 「1944年9月、ペテルブルクにて」3



  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年9月 オラーシャ帝国 ペテルブルク周辺空域



 どこぞの速度狂が目撃したら、興奮のあまり鼻血を吹き出し、ぶっ倒れるであろう光景がそこでは展開されていた。
 人が、音速を軽く飛び越えて飛んでいるという、そんな光景だ。
 画像合成とかそんなものではない、れっきとした現実だ。
 主演となるのは巡航速度マッハ2.7で飛ぶMPFの姿だ。ついでに言えば、それを追従するネウロイ複数体もおまけについてきている。
音速の先、熱の壁にぶつかる数歩手前の速度。空気を切り裂き、あらゆる地形を飛び越え、飛翔する。

 だが、後ろから追従するネウロイもそれに速度で負けていないのだから怖いものだ。あまつさえ、レーザーを放って攻撃してきていた。
その攻撃が向かう先は、ネウロイを振り切らんとするMPFである。正確無比であり、同時に数が伴っていた。それこそ、弾幕と呼べるスケールであった。
MPFが立体的に進路を変えることによる回避や、通常の航空機ではありえない推進方向に対して直角のスライド回避を重ねても、しぶとく追従していた。

「あー、もう!2回連続でこれとかヤダー!」

 その叫びを作るのは、MPFを操るウォーザードの各務原鏡子であった。
 第502統合航空戦闘団 第101独立飛行隊小隊「オーカ・ニエーバ」に属する彼女は、定期的に行われる哨戒任務に出撃した。
 502JFWの本拠地があるペテルブルクから飛び立ち、ネウロイの支配領域と人類の版図の境界線を飛ぶという、ギリギリの飛行。
ネウロイがどういう動きをするかを観測し、調査する。そして、侵攻などの動きがないかを監視するという仕事である。
 当然ながら、長時間飛行し、尚且つ緊張感や集中力を維持する必要があり、楽な仕事ではないのは事実だ。
とはいえ、そこはそれ。そういった502JFW本隊が行うには負担がある仕事をこなすのが支援部隊である「オーカ・ニエーバ」の任務だ。
ローテーションを本隊の人員と組み、本隊の人員の負担を下げるのが目的である。そういうものとわかっていれば、そのように振舞うまでだ。

 だが、その偵察任務は非常に危険が伴う。
 ネウロイが出てきたらそれを通報し、接触されないように逃げるというのが基本。
 ネウロイも無理な追撃などをしてくることはない。むしろ、見つからないようにすることもある。

 ネウロイもまた、人類側同様に偵察や哨戒を行っているのはすでに確認されたことだ。
それこそ、ウィッチが全力で追いかけても逃げきられてしまうこともあるような、そんな個体が時には基地周辺にまで近づいてくる。
その個体は何をするでもなく、そのまま飛び去っている。だが、これは偵察行為と推測され、可能な限りのインターセプトが行われている。

 そして、ネウロイもまたときにインターセプトを図ってくるのである。
 航続距離を延ばすためと速度を強化するために、使われているナハト・リッターには大型のブースターユニットが装備されている。
さらには夜間哨戒とは違い、前線に赴くことから、脚部や翼部などに速力を増すためのオプションパーツなどが追加される。
それらを以てしても、なお追従されるのだ。
 さらに、例え一度振り切っても、今現在の鏡子のように、二度目のインターセプトを受けることもある。
嫌らしいことに、一度目の送り狼でわざと疲弊させ、二度目で数を送り出してくるという徹底ぶりだ。
内情を探ってくる哨戒機への殺意というのはネウロイでも変わりがないようだ。

891:弥次郎:2022/12/10(土) 22:36:23 HOST:softbank060146109143.bbtec.net


 ともあれ、今回の哨戒任務で2度目のインターセプトを受けた鏡子は、それを基地へと打電しつつ、対応に迫られたのである。
 これはMPFに限った話ではないが、この手の哨戒任務中にネウロイからの攻撃を受けた場合、とる方策は2種類。
 1つは速力をあげ、さっさとケツをまくって逃げる。
 もう1つは、搭載している武装で撃退もしくは撃墜する、である。
 しかして、ここ最近の事情は後者を選ばざるを得ないことが多い。前述のようにネウロイの殺意が高いのである。
速力に優れ、尚且つ攻撃力も高い新種の個体がわざわざ出てくるようになったことで、速度に任せ振り切ることが難しいからだった。

「いい加減にしろ、ネウロイ!」

 鏡子の声に応じ、ナハト・リッター各所の武装が立ち上がり、戦闘態勢に入る。
 まず展開するのは背中の飛行ユニットに搭載されているマギリング・ガトリングガンだ。
機体に内蔵されているエーテルリアクターから供給されるエーテルを弾丸として打ち出す射撃兵装。
後ろに伸びているブースターユニットを誤射しないよう射角は制限されるが、それでも後方を攻撃できる兵装だ。
速度を上げて飛行しながら、引き金を引いていく。

「! やっぱり回避されるかー……」

 だが、HUDに表示される後方の映像を見て諦め顔で鏡子は漏らす。
 OSとFCSによる制御を受け、マギリング・ガトリングガンは正確にネウロイを狙って発砲していた。
 だが、ネウロイもさるもの。超音速で飛行しながら雨霰と飛んでくるそれらを恐ろしく正確に回避してくる。
回避運動を強いて、相手の動きを鈍らせたり、迂回させることはできても、ほんの一時のモノだ。

「……来た!」

 そして、お返しとばかりにレーザーが放たれる。
 追撃してくるネウロイは、これまでに出てきたのと同じタイプ。円錐形のボディから4つの羽のようなものが生えている。
違う点として、追撃してくる2体のうち1体は大きさが1.5倍ほどあるということがあげられる。
レーザーが放たれるのは円錐形のボディの先端と、翼の先端部分の3か所から、合計13門という豪勢なものだ。
 迎撃の結果、残っているのはあと2体というのが救いではあるが、決して油断はならない。
 即座に回避運動。フレキシブルに稼働するマギリング・ガトリングガンの弾幕を押し付けつつ、レーザーの射線軸からずれることで回避する。
相手もすぐにこちらに追従してくるが、単調にならないようにしているので、すぐさま相手は側面を晒す。
それを見越して、すでに次の武装が展開している。それは膝部に内蔵されている誘導兵器だ。

「発射!」

 ホーミングレーザーキャノン。エーテルバリアを干渉させることで、発生させたレーザーを屈曲させ、相手を追尾させるという兵装だ。
直線しか飛ばない兵装が多い中にあって、相手を追尾する兵装というのは貴重で、尚且つ航空戦で優位をとれる。
 マギリング・ガトリングガンを回避したかに見えたネウロイの一体が、それを先読みしたホーミングレーザーの嵐で貫かれ、一瞬で崩壊する。
コア持ちであるから遠慮なく打ち込んだ結果、見事に打ち抜けたようである。

「次!」

 だが、撃墜に喜ぶ暇はない。次の個体にレーザーを浴びせていく。
 ついでに敵の進路をふさぐようにガトリングガンを放ち、それでも生じる隙間に空中機雷を散布してルートをふさぐ。
残っているのは通常より大型の個体だ。動きが小さかったそれが、ついに行動に移してきたのである。

892:弥次郎:2022/12/10(土) 22:37:10 HOST:softbank060146109143.bbtec.net


(来るとしたら、機雷の強行突破……!)

 手持ちのライフル---正面を向きながらも後方へと攻撃が可能なホーミングレーザーライフルを構え、それに備える。
コンテナから放出されたそれは、ネウロイが近づくと反応して起爆するという設置型のトラップだ。
逃げながら後方にいる敵に対処するという点において有用なそれは、こうしたインターセプトが増えたことで新たに配備されたものでもある。
 しかしながら、ネウロイには効果が乏しい面もある。理由は簡単、コア持ちの個体はダメージを無視して強行突破できるからだ。
小型の、コアを持たないスウォーム攻撃主体の個体ならば容易く吹き飛ばすのだが、コア持ちは回避せずに突っ込んでくる。
そして強引に突破し、損傷を癒しながら追撃を仕掛けてくる。ほんの数秒とかからず再生するのだからふざけている。

「でも、そこが隙!」

 ロックオンし、ホーミングレーザーを何発も放つ。
 自機にあたらないようにある程度の距離直進し、そこから一気に後方へと方向転換したレーザーは、爆雷でむき出しになったコアを狙う。
爆雷で損傷したところを直ちに再生しようとするが、何発もレーザーが穿ち、再生と破壊が拮抗する。
 そして、直撃。露出したコアにエーテルエンチャントがされたレーザーが突き刺さり、破壊した。

「よし……!?」

 だが、コアを貫かれたのに、その個体はまだ迫る。飛行を続ける。
 それに動揺して動きが一瞬鈍ったナハト・リッターにレーザーが突き刺さった。
 展開されていたエーテルバリアがそれを受け止め、ウィークポイントになるブースターを保護するが、それ以上の衝撃があった。

(コアを潰したのに……まさか、ダミー?)

 いくつかのパターンが想定される。一つは潰したコアが偽物だった場合。もう一つはコアが複数ある場合。
飛行態勢を立て直し、再び回避運動を続行し、後方への攻撃を行いつつも鏡子は考えを巡らせる。
コア持ちのネウロイの、新しい変化とみるべきか。それとも、そういう個体であるのか?

「って、あれなに……?」

 後方カメラに映ったのは、そのネウロイが突如として二つに分離した光景だった。
 上半分と下半分に綺麗に分かれ、そのままの状態で追撃を仕掛けてきたのだ。分離した断面からは、小型の個体が多数飛び立っていく。
小型の個体を使ったスウォーム攻撃だ。しかも、2体が連携してくるという地獄のような状況。

「ちっくしょうめー」

 これは全力で対応するしかない。即座に鏡子は判断する。
 解き放たれた小型個体は、それぞれがレーザーを放ってきた。出力的には本体のそれに劣るが、それでも脅威となりうる。
 当然、これには対処しなくてはならない。相手が数を出してきたら、こちらも数を出すべしだ。
 鏡子の操作で、肩部にあるサブアームが予備として持ってきていた30㎜アサルトライフルをそれぞれ持ち、ガトリングガンと合わせ弾幕を張る。
この手の攻撃に対処するにはとにかく攻撃を放つことだ。下手に逃げるより、相手を攻撃してしまえば安全が確保できる。

893:弥次郎:2022/12/10(土) 22:37:40 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 ナハト・リッターは加速しながら、ひたすらに攻撃を放つ。弾幕はうまく個体群に突き刺さり、数をゴリゴリと削っていく。
他方のネウロイも諦めることなくレーザー攻撃を放ちながら、距離を詰めようとしてくる。
 鏡子にとって困ったことに2体に分離したことで、攻撃が来る方向が増え、回避が難しくなっている。

「くっ……」

 エーテルバリアで防ぐことはできる。だが、本体への直撃コースに入っているのを理解した。
このままレーザーの乱打を喰らっていけば、堅牢なエーテルバリアでも貫通されてしまう。
飽和攻撃を喰らい続けていればやがてはエーテルバリアも減衰し、強度を維持できなくなってしまうのだ。

(相手の特性は……2つのコアを潰さないと、再生されてしまうってところかな。
 今は分離しているから通常のコア持ちと同じ対応で良いと思うけど……)

 問題なのは、2体に後ろをとられているということだ。
 片方を潰しにかかろうとすれば、必然的に片方に隙を晒すことになる。
 かといって、両方を攻撃しようにも、小型個体にも対処しているので一体に指向できる火力が少ないという状況だ。
 こちらの回避運動やマニューバで相手に自分を追い抜かせ、その背後から狙い撃ちというのも考え実行したが、それは読まれている。
かといって速力を出して逃げようにも、こちらに余裕で追従できることも事実。それに武装を使うためエーテルの余剰を食っており、出力も限界がある。

「何とかするには……」

 鏡子は、この状況にあっても冷静であった。
 状況は刻一刻と悪化しているのは確かだ。だからといって、それに徒に抵抗しても意味がないことも理解している。
この手の鉄火場の経験を、鏡子は持っていた。元々はウィッチで、あがりを迎えてからウォーザードへと転向した口であるからだ。
あのオーバーロード作戦の時もそうだった。あの時に比べれば、今は何と余裕に思えるか。
 あの時よりも武器はある。装備も充実している。逐次情報を送っている本部とのリンクも良好。それに加え、自分のコンディションも悪くはない。

「……」

 HUDに表示される2体に分離したネウロイの映像。
 それに加えて現状のナハト・リッターの現状を示すステータス画面。
 残る判断材料は、自分の技量と技術のみ。

「よし、仕掛ける」

 それらを勘案し、ウォーザードは、戦う戦士である魔法使いの鏡子は行動を選択した。

894:弥次郎:2022/12/10(土) 22:38:21 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
唐突に戦闘シーン!次話に続きます。
設定とかはその後に投下する予定ですので悪しからず。

897:弥次郎:2022/12/10(土) 23:08:27 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
誤字修正をお願いします
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 それに同様にして動きが一瞬鈍ったナハト・リッターにレーザーが突き刺さった。


 それに動揺して動きが一瞬鈍ったナハト・リッターにレーザーが突き刺さった。
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最終更新:2023年11月03日 11:07