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憂鬱SRW ファンタジールートSS 「1944年9月、ペテルブルグにて」4



  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年9月 オラーシャ帝国 ペテルブルク周辺空域



 新型のネウロイとの追いかけっこは、徐々にではあるが天秤をネウロイ側に傾けつつあった。
 無理もない話だ、鏡子は1人で、ネウロイは2体に分裂しスウォーム攻撃を展開している。
高速で逃げるという選択をしていなければ、完全に包囲されて全方位からの集中砲火で撃墜されていたことは想像に難くない。
 かといって、この逃げを打つ状況でも、単純な火力のぶつけ合いでは不利だ。持っている火力が違いすぎる。
ネウロイとて馬鹿ではないので鏡子が放つ攻撃を回避するし、次々と繰り出す小型個体で攻撃を防ぐことまでやってくるのだし。

(相手もこちらに情報をこれだけ晒してくれたなら……!)

 未知との敵の遭遇など、これまで訓練で何度となくやってきたことだ。
 分裂だとか分身、あるいは理不尽な動きをすることなど、正直なところ想定の範囲内ですらある。
 あとはどう対応するかだが---その戦術の組み立ては完了していた。

「仕掛けます」

 そして、ナハト・リッターの機構が動作する。
 残っていた空中機雷コンテナがすべて展開。中身を一斉にぶちまけた。上下左右にもばらまき、壁を作るように。
そして、ついでのように空になったコンテナはパージされて投棄、本体の重量を軽くする。これからすることにデッドウェイトは邪魔だ。
ついでのように、翼部やバックパックから余計なプロペラントタンクや打ち尽くした武装もパージ。

(撒けるだけ撒いた……)

 この速度域だ。ネウロイの本体が作り上げた壁にぶつかるまで数秒どころか1秒あるかどうか。
 その一瞬に合わせ、一瞬で動き出せるように、準備を整えるのだ。それは覚悟も含めて、だ。
 HUDには後方の様子が映し出されている。こちらを追尾するネウロイ2体とそれの放ったスウォーム個体が、空中機雷に接触。

「今!」

 その瞬間に、一気に動く。ためらわず、自分のくみ上げた戦場の流れに沿うように。
 他方のネウロイとて、バカではない。レーザーで適度に空中機雷を破壊し、飛んでくるコンテナなども撃ち落していく。
 だが、それは連鎖反応を引き起こした。ありったけ撒かれた空中機雷は連鎖的に盛大に爆発を起こし、巨大な爆炎と煙を展張したのだ。
それはもう、大地にまで影響を及ぼすようなものだった。何しろ、ネウロイへの殺意も籠った電子励起爆薬だ、これくらいはする。

『……』

 しかし、超音速飛行戦闘中のネウロイはその煙幕を一瞬で突破する。
 そして、その煙幕と爆炎の向こう側にいるであろう標的を捉えようとして----

『……?』

 いない。
 先行して飛行していたナハト・リッターの姿がない。ほんの一瞬、周囲を認知する能力が遮られた瞬間に標的が消えたのだ。
さしものネウロイも、それには戸惑った。まさしく消えてしまった。速度を上げたかと探すが、とんと見えない。
 だが、すぐに発見した。敵の背中についていた巨大なブースターユニットが、雲の中へと高度を上げて突入していたのだ。
即座にネウロイ2体はレーザー攻撃を開始する。相手の動きは直線的。回避はしているが、命中弾を得ていく。
爆雷による攻撃で数は減ってはいたが、スウォーム個体を再度展開し、相手を追尾させてさらに追い打ちをかけていく。
 そうして、ついに姿勢が崩れた---と思えば、それは重要なものが欠けていた。

『!?』

 飛んでいたのは、ブースターユニットだけだった。
 それを背中につけて飛んでいるはずのナハト・リッターの姿が消えていたのだ。

941:弥次郎:2022/12/11(日) 20:21:06 HOST:softbank060146109143.bbtec.net


 そして、その瞬間こそ、鏡子の待っていた瞬間であった。

「とったぁあああああああ!」

 ホーミングレーザーキャノンとホーミングレーザーライフルの連射を放ちながら、後方からナハト・リッターが吶喊する。
後ろを、完全に6時方向を晒していたネウロイの片割れは、後ろ側からその形状を失っていく。
 そして、動きが鈍ったところで、さらにナハト・リッターは加速。同時にその手には一つの武装が構えられた。
この哨戒任務においては使用頻度が少なく、しかしフェイルセーフも兼ねて搭載されていた、マギリング・ブレードだ。

「たああああああああ!」

 レーザーの集中砲火でぐずぐずになったネウロイの身体に、その刃を止めるすべはない。
 進行方向が一致しているために相対速度が殆どない状態であるが、そうであるがゆえに正確にコアを通り過ぎながら切り裂くことができた。
エーテルの刃による切断は正しくなされた。コアは真っ二つに切り裂かれ、形状崩壊を起こしていく。
同時に、スウォーム個体の半分近くが同じように形状崩壊を起こし、形を失って墜落していく。
どうやら、親個体と連動しているようだ、と鏡子は推測した。これで親個体は残り1体に減って、尚且つ飽和攻撃の密度も減る。

(一気に……!)

 ブレードをしまうと、次の親個体目がけ、ナハト・リッターは飛翔する。
 ブースターユニットをパージしている関係上、速度はさほど出ない。このまま逃げを打たれると追いつけなくなる。
だから、というように最短距離を飛び、同時に放てる火力を集中させて追撃をかけていく。
相手は前方にいる敵への攻撃力に特化しているあまり、後方からの攻撃に弱い、そのように判断していたのだ。
事実、ネウロイはこちらへと向ける攻撃がほぼ0になった。かろうじてスウォーム個体によるレーザーが飛んでくるが、この程度は怖くない。

「撃ち落す……!」

 逆に、盾になるように進路をふさいでくるそれらを叩き落す。
 こちらの火力が十全に投射できるならば、いくら数があろうとも怖くはない。
 だが、相手もさるもの。相手をしている間にこちらとの距離を稼ごうとひたすらに加速していっている。
 今からブースターユニットを呼び寄せてドッキングしても、その間はこの追いかけっこにおいては致命的になりかねない。
よって、火力を戦力で投射していく。そして追いかけ続ける。今度はこちらが追う側になったのだ、容赦しない。

「……まず!」

 HUDからの警告と、目視での確認で、とっさに鏡子は機体を横にスライドさせる。
 刹那の間に、レーザー光が先ほどまで飛んでいたところを貫いていったのだ。

「後方への備えもばっちりってわけ……」

 生意気な、と思うが、お互い様だろう。
 HUDにズームで表示されたのは、ネウロイの翼の後ろ側の付け根。そこからレーザーが放たれているのだ。
 2枚ある翼の根本から2門ある発射港からは連続してこちらをけん制する射撃が連続してくる。
 だが、逃がさない。その意志が鏡子にはあった。あえて、加速速度を抑え、姿勢制御に集中。
スウォーム個体が減ったのでこちらへの攻撃は弱いので、あえて受けつつ、良く照準を定める。
既に先ほど潰した個体のデータから、コアの位置はおおよそ見当がついている。半分になった円錐状ボディの先端付近。
通常ならばヘッドオンでの方が撃破の可能性は高いが、この際贅沢は言うまい。

(……!)

 ホーミングレーザーライフルのホーミング機能をカット、代わりに収束モードに切り替える。
 相対速度を合わせ、射線軸を固定し、彼我の間の大気の状況を勘案に入れたうえで、狙う。
 相手は上下左右に飛び回り、狙いを外そうと必死だ。しかし、速度を優先している以上、どうしても単調になる。そこが狙い目となる。

「今」

 トリガー。
 そして、結果が生じる。
 高出力で収束したレーザーは、たがえることなく飛び、ネウロイのボディを破砕し、コアを貫通したのだ。
それでももがくように飛行し、攻撃しようとしたが、ネウロイはついに墜落していく。そして地面を目前にして消滅した。

942:弥次郎:2022/12/11(日) 20:21:36 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

「ふう……ふう……」

 半ば止めていた呼吸を再開し、荒い息をつく。
 さすがに先ほどの、ブースターユニットをパージして囮として飛行させ、それに注意が向いている間に撃破するという一連の流れはきつかった。
特にパージしてから爆炎に紛れて急減速した時は、慣性制御がかかっていたとはいえ、それなりに体に負担がかかっていた。
 それに、一気に手を休めることなく攻勢に出たのは緊張と判断の連続であり、集中力を要した。

「……自立モードで、速度を落として、と」

 ともあれ、無事に撃退できたのだ。
 自律飛行させていたブースターの速度を落とし、こちらから接近。そして再度ドッキングする。
 あとは速度を上げ、基地へと帰投するだけだ。哨戒任務は今回行うべきところは大体終わっている。
 それに加え、今回遭遇した新個体に関するデータを送って、報告も行うべきと判断していた。

(武器もほとんど使い果たしたし、ね)

 一応マギリング・ウェポンはまだ使えるが、遠慮なく使った実弾兵装はほとんどない。空中機雷は全部使い果たしたし。
それ以外でも、肉体的にも二度の遭遇戦を熟した結果かなり疲労している。これ以上の戦闘続行は危険で、さっさと戻った方が安全だ。

「CP、こちらリッター3。哨戒中に2度の遭遇戦に発展。弾薬を使い果たしたので、任務を切り上げて帰投したい」
『CP了解。そちらに迎えが向かっているので、エスコートを受けて帰投せよ』

 了解の返答を送り、一息。
 そして、進路を変更しようとして---HUDの警告表示に合わせ、とっさに回避運動をとった。

「……嘘でしょ」

 先ほど撃退した---要撃型ネウロイと呼ばれる飛行型のネウロイが4体も見えた。
 あの分裂するタイプではないと思われるが、すでに戦闘を2度行っている鏡子にとってはきつい相手だ。
 少なくとも、ここから再度追いかけっこをしながらの戦闘は負担であるし、武器も消耗している。体力勝負になればこちらが不利だ。
とはいえ、安全に帰るには戦うしかない。覚悟を決めてやるしかないのだ。

『こちらベルクト2、エンゲージ』

 その時、通信に突如として友軍機の声が届いた。
 そして、レーダーにも素晴らしい速度で接近してくる友軍のIFFの情報が乗る。

「あ……」

 それは、多数の飛翔体と共に、ネウロイを狙う空対空ミサイルの群れと共に飛来した。
 こちらの背後に夢中になり、側面を晒していたネウロイに次々と突き刺さったミサイルは、ネウロイの身体を砕く。
ついで放たれた強力なマギリング・キャノンの連打が、むき出しになったコアを次々と潰し、破壊へと導いた。
一瞬であった。鏡子の上空を一回フライパスし、再度のアプローチで残存していた個体をマギリング・キャノンで消し飛ばした。

『こちら、ベルクト2。バルバラです。大丈夫ですかー?』
「ふ……こちらリッター3、無事よ。おかげで助かったわ」

 飛んできたベルクト2---ブライト・リッター要撃装備型を纏うのは、「オーカ・ニエーバ」の若手であるバルバラ・タマロ曹長だった。
そういえばCPがエスコートを送ったと言っていたが、彼女の事であったのか。
恐らく、1度目の遭遇戦の時点で万が一に備え準備をしていたのだろう。そして2度目の戦闘が長時間になったことで援護のために送り出したということか。

『よかったです。2度も遭遇戦になるなんて不運でしたね、先輩』
「まったくよ……疲れたから、エスコートとかよろしく」
『はい、任せてください』

 元気な声を聴くと、ひどく安心して力が抜けた。
 まだ道中であるので油断は危険であるが、少なくとも安全度合いは一人の時よりも増した。
 斯くして、2機のMPFは哨戒任務を終え、ペテルブルグ方面へと進路をとり、飛翔していった。

943:弥次郎:2022/12/11(日) 20:22:33 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
戦闘回でした。
これがやりたかったんだよなぁって…

次回はSSに登場したキャラとかMPFの設定を投げます。

944:弥次郎:2022/12/11(日) 20:27:18 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
誤字修正
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 そうして、ついに姿勢が崩れた---と思えば、それは重要なものが書けていた。


 そうして、ついに姿勢が崩れた---と思えば、それは重要なものが欠けていた。
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最終更新:2023年11月03日 11:07