788:弥次郎:2022/12/21(水) 20:59:08 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「1944年9月、ペテルブルクにて」9
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年9月 オラーシャ帝国 ペテルブルク 502JFW基地別棟
日が落ちて夜の寒さが満ちたころ、疲労困憊の身体を引き釣り、管野は別棟を歩いていた。
別段、戦闘に苦労したというわけではない。カーチャからの通信の後に駆けつけて交戦した時、すでに群れは数を減らしていたのだ。
だから残敵掃討の手伝いをした程度で終わり、ペテルブルグ上空へと侵入されたりすることはなく撃滅に成功したのだった。
では、なぜ疲労困憊なのか。
それは大規模なメンテナンスが完了し、元の機能が復活した502JFWの基地へと帰還した後にうっかり口を滑らせたことが原因だ。
カーチャからの通信で駆け付けたものの、管野とニパの撃墜数は振るわなかった。無理もない、MPFとでは火力が違いすぎるからだ。
それについてニパ相手に愚痴ったことまでは、まあよかった。問題はその後に、ストライカーアームズなりライフルを装備できないかと喋ったことだ。
事もあろうに、今回の出撃では装備の破損などがなかったために機嫌よく出迎えてくれたサーシャの目の前で、である。
そこから始まったのは、管野個人へのお説教であった。直枝は冷たい格納庫の床に正座させられ、滾々と説教された。
曰く、直枝はストライカーユニットもそうだが武器をポンポン投げ捨てて無くすことが多い。
曰く、予備のライフルやストライカーライフルなどは連合からも供与されているが、予備の在庫も点検や整備が必要で、使うだけの直枝にはわからない苦労がある。
曰く、ただでさえ物品を壊して戦うのに、少数しか支給されていない新装備などを持たせたらどうなるかわからない。
曰く、装備ひとつでさえも各国の国が出し合った金、つまり税金や国債から出ているので、決して無駄にはできない。
普段はあまり言及しない、そういった後方や国家の事情も含めて、鬱憤と共にぶつけられたのである。
(ちょっと口を滑らせたらあれかよ……勘弁してくれ)
管野とて、そういったことはわからなくもないことである。軍事とは金がかかることだというのは百も承知。
自分がここオラーシャで戦い、飯を食べ、休める環境が整備されているのも、偏に金を出してくれる国々がいるからだ。
何ならば自分がウィッチとして訓練を受けて任官されるまでの教育課程だって扶桑皇国の金を使ってのものなのだ。
とはいえ、戦場において装備を後生大事に扱いすぎては勝てる戦いも勝てなくなる、というのは管野の持論だ。
装備か自分の命かとなったら、迷わず自分の命を優先するのは当然のことである。
ネウロイと戦うときだって、弾を撃てば当たるものもあれば外れるものだってあるわけで、生き残るために多少雑に使うことくらいはあるのだ。
とはいえ、彼女の場合、それが多少を超えていることが多いからこそサーシャは怒っているのであるが、それはさておき。
(今日はもう風呂だ風呂!)
キツイお説教の後なので、癒しを求めた管野は基地の別棟にある風呂へと赴いたのである。
今夜は普通の風呂ではない、配給されている切符を使ってでも癒しが欲しかったのだった。
風呂は命の洗濯である、とは誰が言ったか。
扶桑式の風呂---それも浴場があるのが、502JFW基地の別棟である。
元々要塞として建築された基地に併設されている別棟は、地球連合が設営していったものである。
軍事関連の設備があるのはもちろんであるが、ここは地球連合が提供する娯楽や休息の場という面もある。
789:弥次郎:2022/12/21(水) 20:59:52 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
各国から文化風習の違うウィッチやウォーザードが集まっているということは、それだけ娯楽の需要があるということである。
ウィッチやウォーザードだけではない。整備士や通信士、あるいは医師や看護師、調理師など非戦闘要員もいるが、彼らだって休みなどは必要。
そんな彼らの欲求を満たすのが、ここというわけである。
「よし、一番乗り!」
脱衣所を抜けた先、それなりの大きさのある浴場のドアを開ければ、そこには湯気に満ちた極楽が広がっている。
扶桑式の大人数で入ることができる風呂に加え、個室のシャワー、そしてサウナと水風呂まで用意されている。
特にサウナはニパが良く入り浸っており、そして水風呂に飛び込んでリラックスというのをしている。
無論、ここは解放される日が決まっている上、配給制の切符が必要になる風呂である。
そう、端的に言えばこれは戦地のど真ん中にいる彼らへのご褒美、というわけだ。
質素且つ実用性を主眼としている普通の風呂では得られないものが、ここでは得られるというわけだ。
特に大きな風呂はいい。一応普段使いの浴室にも扶桑式の風呂はあるが、ここまで大きくはないし、開放的でもない。
「さて、と……」
今日は開放日ということもあり、整備士たちへの賄賂には使わないでおいた切符を使っての一番乗り。
サーシャによる説教を喰らうというアクシデントこそあったが、それでも一番をとれたのはいいことだ。
だが、彼女とて扶桑の乙女である。いきなり湯船に飛び込むなどというはしたない真似はしない。そんな教育は受けていないのだ。
幼少期の頃からそんなことをやろうものならば姉にキツイ修正を喰らっていたのと、意外と乙女なので恥じらいくらいはあるのだ。
「ふーん、ふーん」
鼻歌交じりに準備を整える。
まずは髪の毛だ。シャワーヘッドを手に取り、蛇口をひねって勢いを調整、ついでに温度を確認する。
そして派手に被ろうとして---誰かの手に止められた。
「カンノ、それはいけない」
「うげっ……」
視線の先、オラーシャ人特有の白髪と瞳を持つ年上のウォーザードが、ケアの心得もないままにお湯を被ろうとしている手を止めていた。
そう、カーチャである。髪フェチで有名なカーチャが来てしまったのである。
「今日は助けてもらったし、私が髪を洗ってあげるよ」
「いや、自分でやる……やります」
「そう固いこと言わないの。もうちょっと髪の毛の手入れは丁寧にやらないと」
あれよあれよという間に、管野はシャワーヘッドを取り上げられ、主導権をカーチャに握られてしまった。
髪の毛大好きな女帝によるフルコースが確定した瞬間であった。諦めが肝心である。
しかし、始まった女帝のケアは非常に丁寧だ。直枝の髪の状態を確認し、汚れ具合や傷み具合を調べ、その上で取り掛かる。
管野の髪は短く、すでに蒸気によって水気を増していたが、それでも櫛を先に入れ、荒れた状態を整えていく。
790:弥次郎:2022/12/21(水) 21:00:26 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
ついで、ぬるま湯程度の温度にしたお湯で髪をほぐすようにしていく。髪の毛や頭皮に傷をつけないよう、丁寧に、緩やかに。
殆どの汚れはこれで落とせてしまえるのだ。管野のようにやると、頭や髪の痛みは避けられない。
「サーシャに怒られたんだって?」
「ああ……」
「まあ、派手に壊しちゃうのは困るからねー。私たちが着任した直後からまさかフォローに回ることになるとは思わなかったけど」
もう一年近く前になるかなーと、カーチャは懐かしげに振り返る。
そう、着任した翌日のことであった。届けられたストライカーユニットの慣らし運転と称し飛んでいったのだ。
その途中でネウロイと遭遇して、着任したばかりの管野とニパとクルピンスキーは協同でこれを撃墜し、ついでに仲良く墜落した。
その日はちょうどカーチャを筆頭としたオーカ・ニエーバの着任した翌日でもあり、荷解きが完了していざ始動となった日であった。
入念に泡立てられたシャンプーで丁寧に髪を洗われながらも、直枝は鼻を鳴らす。
「あんなのをまだ覚えてんのかよ」
「そりゃあ、衝撃的だったもの。まさかラル隊長にいきなり頭を下げられて『しばらくの間哨戒と迎撃任務を全部頼む』と言われたんだから」
当時、502JFWにいたウィッチは、ラル、サーシャ、そして着任したばかりの直枝ら3名。
ラルは502JFWが始動したばかりで書類業務に終われており、実働できるのが実質サーシャのみ、という状態。
当然の事ながらたった一人ではどうしても回らないため、お鉢が回ってきたのがオーカ・ニエーバというわけだった。
「当時はまだストライカーユニットの融通が始まってなかったから、いつもカツカツだったよね」
「よく知っているな」
「ラル隊長が愚痴っていたよ。それに、101の整備士も時々本隊の整備を手伝っていたから」
言いながらも、丁寧に直枝の頭皮をマッサージしながら洗っていくカーチャ。
悔しいが、カーチャの腕はいい。何度も受けてきたが、こればかりは否定できない。
洗い終われば次は洗い流す工程だ。シャワーの勢いを調整し、丁寧に、しかしシャンプーの成分をしっかりと流していく。
そしてそれが終われば、トリートメントだ。髪の短い直枝の頭皮にかからないように慎重に髪に塗っていく。
塗る量に関しても注意が必要だ。迂闊に塗りすぎると、頭皮にダメージを与えてしまう。
「はい、終わり。あとは自分でできるよね?お風呂の後で乾かしてあげるから、逃げないでね?」
「わかってるよ」
逃げたらどうなるかよくわかっているからな、とつぶやく。
カーチャは人の髪の手入れをするのが好きでしょうがない人間だ。502JFWで被害に遭っていないウィッチはいないほどに。
そのカーチャは、自分の髪の手入れを始めたので、直枝は自分の体を洗うことに注力する。
なんだか頭だけがいつもと違う感覚に包まれていて、むず痒い。手入れをしてもらうといつもこれだ。
他人に、しかも髪の手入れに情熱を傾けている彼女にやってもらうと、特別な感じがするのだった。
791:弥次郎:2022/12/21(水) 21:02:10 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
それからしばらく、身体を洗い、清めることに集中する。
だが、どうしてもそれが気になる。つい、口をついた。
「なあ」
そう呼び掛けた先、カーチャは丁寧に自分の髪を洗っている。
その様は、ちょっとした絵になりそうだ。なんだかんだで彼女は美人だ。
それこそ、リベリオンの記者……たしかデビーといったか、その記者がはしゃいで写真にとるくらいには。
10代のウィッチにはない、大人の色気というものがあり、それがファンには受けるのだと、そういっていた。
「どうしたんだい?」
こちらを振り返る仕草さえ、様になっていて、ちょっと言葉を失って、慌てて咳払いをして問いかける。
「いや、さ。俺がもっとネウロイを倒すにはどうしたらいいかって思ってな」
「ウィッチの鑑だねぇ」
こういう時にも考えるなんて、とカーチャは笑って言うが、言葉は真剣だった。
髪をシャワーで流しながら、先達として女帝は指摘する。
「正直なところ、カンノはそのままでいいよ。
あとは経験値を積んで、固有魔法とそれを生かす立ち回りを覚えればいい。
もっと言えば、装備を壊したりしないように飛べれば満点」
「けど、それじゃ……」
「ネウロイには追い付けない、それは事実だ」
不意に、言葉が重くなる。直枝さえも、この場に相応しくない重さに言葉に詰まる。
「正直なところね、ウィッチは壁にぶつかっている。
創意工夫や連携などで補っているけど、個々の能力ではネウロイが上だ。
何かそこを打ち破る要素が欲しい。MPFだけでは足りない、もっと全体的な底上げがね」
シャワーの音が止まり、沈黙が満ちる。
そして、もう一度ノズルをひねる音がした後、カーチャはつぶやいた。
「ジェットストライカー……」
「は?」
「もう一度だけ言うよ、カンノ。ジェットストライカー。それが今後の鍵になる。
これは独り言。風呂に入って、ついうっかりつぶやいてしまっただけのこと。
カンノ、これから先おいて行かれたくなかったら、ラル隊長に頼んでシミュレーターの制限をカットしてもらうこと」
そして、女帝はいつの間にか体を洗い終えたのか、湯船の方に向かう。
ジェットストライカー。その言葉を、直枝は噛みしめた。
これは、まだまだ迂闊に休めないなと、そう思えたのだった。
792:弥次郎:2022/12/21(水) 21:03:13 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
オフの回且つサービスシーンのある回のはずが、なぜか後半シリアスに…!
因みに、女帝様のボディはボンキュッボンです。おまけにクルピンスキーより背が高いからなおのこと目立つ…!
宮藤が見たら飛びつきそう(こなみ
793:弥次郎:2022/12/21(水) 21:08:06 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
因みに「オーカ・ニエーバ」のウォーザード達の身長とか身体的特徴はは以下の通りですね
カーチャ:178センチ、ボンキュッボン!
みちる:156センチ、トランジスタグラマー
バルバラ:151センチ、ぺったんこ
鏡子:167センチ、人並み
最終更新:2023年11月03日 11:17