35:弥次郎:2022/12/24(土) 19:42:27 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「女神を振り向かせて」2
- C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月後半 日本列島 帝都東京 首相官邸
榊是親は首相官邸の執務室において、深くため息をついていた。
それは彼が如何に心労を背負っているかを示す証左であった。
「オペレーション・ジュピター」、その作戦をめぐり、日本帝国は大きく巻き込まれることになっていたのだった。
(可能であるならば国連と米国に押し付けたいところであるが……そうもいかない)
日本帝国領を射程圏におさめる新しいハイヴ---それこそが光州ハイヴであった。
確認がされたのは本土奪還作戦の最中、地球連合の偵察衛星によってであり、その後いくつかの手段で確定がなされた。
朝鮮半島の南側、かつて撤退戦が行われた光州において、フェイズ1もしくは2相当と思われるハイヴの存在が見られた。
人類が大きく版図を奪還したのに応じるかのように、あるいは立ちふさがるかのように、そのハイヴは大陸への入り口をふさいでいる。
日本帝国の国防上、このハイヴに対処することはほぼ確定事項であった。
佐渡ヶ島ハイヴよりは本土より遠いとはいえ、水際での防衛体制と定期的な間引きの行える佐渡ヶ島とは違い、着々とBETAが集結していると推測された。
そも、あとから構築されたということもあり、どのような段階で、どれくらいの数がいるかが未だに諮りかねているのである。
順当に考えるのであれば、佐渡ヶ島ハイヴの攻略作戦が先である。
地球連合も日本帝国領内のハイヴの一掃には協力的であり、そのための準備に大いに協力してもらっているのだし。
(しかし、問題はG弾か)
しかし、なぜ光州ハイヴを優先するのか。それは、国連が出張ってくる国外であり、尚且つ再びG弾の使用が検討されたということにある。
G弾。
アメリカにおいて開発された五次元効果爆弾。G元素とよばれる、BETA由来の兵器がもととなっているとされる戦略兵器。
この爆弾が明星作戦において炸裂したことが、現在のβ世界、ひいては融合惑星の誕生につながっている。
そのように地球連合が想定し、危険視しているという爆弾の投入が前提となっていたのだ。
これに慌てて待ったをかけたのが、前述の通り地球連合だった。その攻略は危険すぎる、という理由で。
帝国は元々は国連軍などに攻略を任せ、その間に国内の立て直しと戦力の回復に努める予定であったのだが、半ば巻き込まれた。
帝国としては、半信半疑ではあっても、G弾によって大きな影響があった国だ。故にこそG弾の使用は反対するのもわかる。
大東亜連合にしても、欧州にしても、通常戦力で奪還できるところにわざわざ環境などに多大な影響を与えるG弾に固執する理由はないと反対している。
それに加えて、各国が米国の案に反対するのは政治的な理由もある。偏に、結果というものを作られては困るから。
ここでG弾による攻略成功という既成事実を作られれば、戦後体制はもちろん、今後のBETA戦のイニシアチブを握られることになるとの判断だ。
因みに、横浜ハイヴ攻略のための明星作戦において、G弾の投下後、横浜基地の出現をはじめとした不可解な現象の発生でG弾の評価は有耶無耶なまま。
恐らく攻略できたのだろう、という体裁にはなっているが、疑問符がついている。
だからこそ、アメリカとしては、なんとかG弾の有用性を証明したいというのが本音の所であろう。
それに追い打ちをかけたのが、明星作戦から1か月余り後に発生したBETAの大規模侵攻だ。
G弾や核の集中投射でなければ防げない、と判断されたその大規模侵攻は、地球連合により通常兵器のみで解決された。
さらにはハイヴを2つも破壊に成功し、失地奪還を果たし、前線を大きく押し上げることに成功していた。
このままでは国家を挙げて推進した計画がいらぬものとして捨てられかねず、ひいては戦後の影響力が落ちると判断した。
36:弥次郎:2022/12/24(土) 19:43:03 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
榊としては、情報の精度や信頼性に欠けるとはいえ、通常兵力による攻略に肯定的な意見だ。
無論、戦略兵器によって一発で攻略できるならばそれに越したことはない。通常戦力をぶつけるのはこちらにも被害が出る。
だが、その発生するであろう被害以上に想像もできない事態が発生するとなれば話は全く別だ。
ことに、地球連合から「この融合惑星が崩壊するかもしれない」とまで警告されたならば。
ここまで考え、榊は頭を掻きむしる。
そう、ここまで偉そうに考えてきたが、本音では佐渡ヶ島ハイヴ攻略まで時間をかけて用意し、攻略をしてからそちらに向かいたい。
半ば以上に日本帝国は巻き込まれた立場であって、まさかG弾がそこまでの影響力を及ぼす、文字通りの地雷となるとは思いもよらず。
(それに、武家の問題もあるというのに)
そう、それも問題だ。
日本帝国と地球連合の間の外交を今取り持っているのは、事実上、将軍職にある煌武院悠陽だ。
個人が抱えているというのが悩みどころ。
自身の政権は洗脳未遂事件、武家の多くも大規模侵攻において信用を失っていたのだ。表ざたにはなっていないが、同じ日系国家という誼が使えない。
地球連合の中の大洋連合という国家が、日本帝国の支援の担当国という形なのだが、そんな彼らの信頼や信用を損ねている。
それこそ、大規模侵攻を受けた時に地球連合を動かしたのは煌武院悠陽だったのだ。自ら行動に移し、出陣までして、武勲をたてた。
これにより事態は大きく打開され、日本帝国は祖国の領土の奪還に成功していた。
しかし、これはよろしくはない。
あくまでこの国は民主国家なのだ。武家と皇帝という存在を抱えてはいても、この帝国は民意の総意を以て動くもの。
その中において、武家において影響力を持つ将軍が、民衆を含めて大きな支持を集め、実体はどうあれ影響力を強めすぎているのは問題なのだ。
肩書としては日本帝国国務全権代行という地位にあり、人気に乗っかればそれこそ親政ということさえもできかねない。
事実として、武家では彼女を持ち上げて政権への圧力を高めようとする動きがあるという。彼女の意志に全く関係なく。
「儘ならないものだな……」
「まったくですな、榊首相」
思わず愚痴った言葉に、応じる人間がいた。
顔をあげてみれば、そこには鎧衣左近の姿があった。帝国情報省外務二課、つまり非合法な面も含めた外交活動を行う部署の男。
こうして神出鬼没に現れ、重要な情報を伝えてくることが多いのだ。よくもまあ警備やらをすり抜けるものである。
昨今では地球連合からの情報を持って現れることも多いため、榊はあえて見逃しているところもある。
「鎧衣か、どうした急に」
「いえ、ちょっと寄り道をしただけのことです。
ああ、こちらは地球連合からのお土産となります」
天然の玉露ですよ、と茶葉の入った容器を恭しく取り出して机の上に置かれる。
つまり、地球連合との折衝の帰りにでも寄った、ということか。
「本当はもう少し情報の裏を取りたかったのですが、見つかってしまいましてな。
丁重に送り出されてしまいまして……ですが、得るものもまたありました」
「何があった?」
37:弥次郎:2022/12/24(土) 19:43:41 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
その問いかけに、肩をすくめて鎧衣はソファに身を預けると、端的に切り出す。
「こちらを」
差し出されたファイルは何やら書類が収められている。
「横浜で行われたG弾の影響調査の結果だそうです。
あちらではほぼ確定となったようです……G弾はこの惑星を容易く滅ぼし得る、とてつもなく危険なものであると」
飛びつくようにファイルを手に取り、中身を貪るように読む。
重力に端を発した五次元作用は、重力と空間と次元の秩序を大きく乱す。
その結果に生じるのは、最低でも重力異常、最悪の場合、次元の壁が薄くなっているこの宇宙のバランスを崩壊させ惑星を崩壊させると。
「すでに横浜の方には……ああ、香月博士も確認をし、検証したところ同じ結果にたどり着いたそうです。
あちらがなぜか保有しているHI-MARF計画の実物に搭載されていた機関をスピンオフしたG弾は、多大な影響を及ぼすものと。
興味深いのは因果律関係にまで影響が出る、とかの博士は推測したようでして」
「……つまり、危険だと確認が取れたのか」
「はい。欧州の方でも、どうやら同じような結論に達しつつあるようです。
だからこそ、今回の作戦をめぐって帝国に対して援護射撃をしたと考えられます」
AL5推進派閥の牙城が崩されているということでもあります、と付け加えた。
それだけのリスクが伴うものを使われては困ると、これまではアメリカを支持していた後方国家は手のひらを返しつつあるのだ。
「だからこそ、アメリカは事を急いでいるということか」
「ええ。今回の作戦において主導権をとられたことにだいぶご立腹なようで……もはやなりふり構わず、という可能性もあり得ますな」
「……内憂外患とはまさにこれか」
「首相が懸念されておりますように、今国外へ派兵を行うことにだいぶ反対意見もあるようですからな。
殊更に斯衛などは鼻息も荒いようでしてね」
「わかっていたとはいえ、全く……」
斯衛の言わんとすることもわかる。
自分だって佐渡ヶ島を優先したい。遠方の光州ハイヴよりよほど危険なのは佐渡ヶ島ハイヴだ。
けれど、国土や将軍の周りだけを考えればいい斯衛と違い、こちらは帝国全体を背負っているのだ。
その認識の差と常識の違い、そして情勢の理解度の差こそが、軋轢となっているのであると。
それを伝えている努力は欠かしていないつもりだが、うまくはいかないか。
「……武家との、斯衛との折衝も力を入れなくてはならないか。すまないがセッティングをよろしく頼む」
「かしこまりました」
そして、胡散臭くはあるが信用はできる男が窓から出ていくのを見送り、榊はまた深くため息をつく。
ああ、全く楽ができない。まだ作戦の細かいところを詰めていかなくてはならないのに、やることだけが積み上がっている。
人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。不自由を常と思えば不足なし。
心に望みおこらば困窮したるときを思い出すべし。そのように嘗て幕府をひらいた徳川家康は述べたという。
さりとて、その重荷がただ一人で背負うには重すぎるのではと、そう思えてならないのだ。
しかし、志は未だにおれず。その思いを改めて振り返り、榊は仕事に取り掛かることにしたのだった。
「今頃、舞鶴は大忙しであろうな」
38:弥次郎:2022/12/24(土) 19:44:29 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
「オペレーション・ジュピター」、帝国呼称「帳作戦」に向けた準備は着々と進められていた。
それは、出発地点となる舞鶴においてもそうであった。
回航が完了した地球連合軍の艦艇に加え、帝国海軍の艦艇が集い、吶喊で整備された軍港にあふれかえっているのだ。
いや、ここにいるのはその一部にすぎない。地球連合の艦艇は艦艇数の関係から沖合のギガフロートで待機しているのだ。
特に文字通りの意味で浮かぶ要塞であるAFなど、如何に舞鶴という軍港でもあっても受け入れることはできなかったのだ。
そして、軍港にほど近い地点に建設された仮設基地には、これまた大量の戦力が集っていた。
まずは帝国軍の戦術機---陽炎、不知火、撃震などが格納庫に次々と搬入されていくのが見える。
続けてその戦術機の付属品---武器弾薬や消耗品、交換用部品、オプションなども続けて搬入が続けられる。
本土奪還作戦において消費した後ということもあり、在庫を惜しみなく引っ張り出した形であった。
まあ、これが絶望的な防衛戦ではなく、攻勢の作戦ということもあり雰囲気としては比較的明るいのは救いというべきか。
さらに続くのは、通常兵科である。主力戦車、自走砲、自走式ロケット砲、装甲車などなど、陸上での戦闘を支援する車両が続く。
BETAとの戦闘は確かに戦術機が主眼となるが、かといって他の兵科は遊んでいるわけではないのだ。
戦術機では不可能な大口径の砲による長距離からの砲撃、飽和攻撃、あるいは支援砲撃でBETAの数を減らすことを主任務とする。
ここには、地球連合から供与された戦力---マゼラ・アタックや61式戦車なども大量に含まれていた。
地球連合からすれば旧式すぎるそれらであっても、このβ世界においてはとびぬけたスペックの兵器である。
少しでも兵士たちを生かすためにも、在庫処分的な意味でも、ここで惜しむ理由など全く存在していなかった。
他方の帝国海軍は、例によって艦艇からの艦砲射撃による支援と輸送を担うこととなる。
これまで戦い抜いていた戦艦群や巡洋艦、駆逐艦が集まっているのは何時もの通り。
何しろ今回の作戦は上陸戦であり、同時にBETAに占拠されている島の奪還と制圧にある。
つまるところ、海上を移動することができる艦艇が的確に砲撃支援を行うことこそ、円滑な作戦の遂行につながるのだ。
一方でこれまで違うのは、こちらも地球連合から貸与された大量の輸送艦や揚陸艦が控えていることであろう。
地球連合軍だけでなく、β世界の戦力を輸送することになるのだから、当然と言えば当然だ。
武器弾薬や兵器だけでなく、それを動かすための人間が消費するであろう大量の物資も詰め込まれている。
また、空母や輸送艦にG弾などを紛れ込ませるリスクがあるとのことから、米軍や国連軍も地球連合の艦艇で輸送されることになっている。
こんな言い方は失礼かもしれないが、地球連合は米軍も国連軍も信用しきっていない。
後催眠暗示や指向性たんぱくなど、この世界においては人を洗脳し、行動を誘導する技術が発達しているのだ。
あるいは必要以上のことを教えない軍事上のルールをうまく使われると阻止しようがない。だから、箱に入れて監視してしまう。
そういうものがあるという時点で、地球連合は米国による妨害工作を疑わざるを得なかったのであった。
故にこそ、厳重な監視と管理の下での作業が行われているのだ。
地球連合の人員やアンドロイド、あるいは監視のためのUAVなどが動いているのも、不審な動きがないかの対策であり、摘発のためのため。
実際、表にはなっていないがどこかの国の誰かが仕組んだと思われる工作員が摘発され、あるいは工作が発見されている。
大なり小なり規模や手口はさまざまであるが、どれもが進行を妨げかねないものであった。
大洋連合から出向してきている、「オペレーション・ジュピター」における指揮官も務める柴島隆行海軍少将はそれらの報告を受けていた。
順調に準備---戦力の招集、資材の搬入、戦力の調整、物資の集積---が進んでいるのはいい。
しかしながら、人類共通の敵を前にして、こうにまで露骨に足の引っ張り合いに力を入れるとは、と憤りを感じるのだった。
39:弥次郎:2022/12/24(土) 19:45:26 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
勿論、彼自身も経験がないというわけではない。新西暦世界でのことやC.E.におけるテロリストことを忘れてはいない。
あの時ような状況であっても、人類は人類同士の争いを決して0にすることができず、守るための力を人類同士で突きつけ合ったのだ。
(国益の追求は国家の本能。だが、それ以上に理性を働かせるべきであろうにな)
そう思わない日はない。
無論、アメリカとしても自分たちの考えた最善を尽くしてはいるのであろうと思うのであるが、そうであるがゆえにぶつかり合うのか。
だからと言って、外道な手段を相手がとってきている以上、こちらも相応に振舞わなくてはならないので悲しいところだ。
とはいえ、救いであるのは現場の国連軍兵士や米軍兵士が、そのような扱いを甘んじて受け入れてくれていることであった。
彼らとて、いきなり最前線からいきなり撤収を命じられて困惑した立場であったからだ。
「とはいえ、それがほんの一部でしかなく、アメリカの総意に影響を及ぼすほどではないのも事実、か」
いかに彼らが協力的とはいえ、絆されてしまうわけにいかない。
彼らはほんの一部でしかなく、彼らの祖国は未だに意見的に対立し、いざとなれば彼らの意志に関係のない行動をとるのだから。
(憂鬱だな……)
まさに憂鬱だ。
正直なところを言えば、BETAなどよりも同じ人間の方がよほど怖い。
前方の敵より、後方にいる守るべき人類の方を警戒しなくてはならないとは。
いや、相手がやけっぱちになってこちらまで無差別に攻撃してこないだけまだマシか。
「失礼します、柴島提督。……提督?」
「ああ、すまない。すこし、な」
「ご無理をなさらず。
こちら、済州島の制圧と拠点化についての書類です」
「ああ、すまない」
紙の書類は、いつになっても消えることはない。たとえ地球連合であってもだ。
ともあれ、済州島の制圧と拠点化については、合同で作戦を展開する帝国軍や大東亜連合との間でだいぶ話が進んでいる。
済州島にハイヴなどは設置されておらず、ただBETAが駐留しているだけと航空偵察などの結果から判明している。
地下茎により大陸のハイヴとつながっているということが海底探査機による探査でわかっていることから、これにも対処する必要がある。
即ち、地上のBETAの排除と制圧、そして大陸から海を渡ってくる群れと地下から来る群れへの対処。
地下通路の制圧と補強を行えば、そのまま進撃路として利用することができると推測されるため、無人機を主として送り込む予定だ。
そして、それらの完了後には、拠点化を行う手はずとなっている。巨大な湾港設備そのものの形をしたプラットフォームを接舷するのだ。
そう、一々工事などするのは手間であるから、必要となるのは島がしっかりと存在することだけだ。
(米国が思う以上に、早くに攻略ができる理由がこれだからな)
長期作戦において後方拠点は重要。さりとて、時間制限付きとなればそうもいかないはずだ、と米国は判断した。
拠点を構築したりしている間に、どんどん時間が過ぎていき、G弾投下へのリミットが迫っていくのだと。
しかし、地球連合はそんな思惑も織り込み済み。拠点をあらかじめ作って持ち込めばいいのだ。
そんなことができる地球連合に、米国はよくわかっていないG弾を強力な爆弾感覚で振りかざし、脅しをかけている。
「蟷螂之斧、だな」
問題はその蟷螂が、核弾頭よりも恐ろしいものを抱えていることだが。
そう呟きながらも、柴島は仕事を続行するのであった。
40:弥次郎:2022/12/24(土) 19:46:15 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
国力と物量で殴る、これが正攻法ね!
最終更新:2023年01月24日 10:10