422:弥次郎:2023/01/06(金) 22:48:24 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「鋼鉄の裁定 -あるいは天空神の見定め-」2.5
- C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月後半 15:11 朝鮮半島周辺東部海域
アメリカの艦隊に接触する数分前、ブラック・キャバルリィは海上を飛行していた。
速度で勝る自分が先行し、それに続く形でSFSに乗るノーマル部隊が到着する形となっている。
事前の、発艦直前の作業の最中に行われた最終ブリーフィングで、米艦隊の状況については把握していた。
他の艦隊と同様に、海中から出現したBETAの群れに包囲され、苦境に立たされているということだ。
(それにしても妙に数が多い気がする…)
母艦級にしろ、水中行動する突撃級にしろ、連合が感知した米艦隊に集るBETAの数は非常に多かったのだ。
監視のために張り付けていた地球連合軍の潜水空母の艦隊がMSを出して密かに援護してもなお被害が出るほどに。
BETAがたまたまそちらに集中した、というのは少々考えにくい話だ。そも、東部方面はあくまでも補助的な、BETAへの陽動という意味が大きい。
それにBETAが釣られたというならばそれは戦略的には成功なのかもしれないが、なんともしっくりこない話である。
何かBETAを誘引するような、それこそ戦力を惜しみなくぶつけてでも得たいような何かがあるのだろうか?
(真っ先に考えられるのは……G元素)
G元素。ハイヴから得られるという、BETA由来の元素のことだ。G弾の材料でもあるという。
性質は色々とあるのだが、BETAの個体はこの元素に目敏く反応し、走性を見せるというのが判明している。
つまり、東部方面を担当する米艦隊は実はG元素を運搬しており、それによってBETAを誘引しているという仮説が成り立つ。
だが、これは否定されてもおかしくない説だ。というのも、連合はG元素及びG弾の持ち込みを警戒し、米国の艦艇や戦術機、物資などを調査していたのだ。
その調査を問題なく通過したということは、何かエラーがない限り、G元素は存在していないということのはずだ。
(……あるいはG元素がないかの調査を何らかの方法で潜り抜けた?)
環境中に微量に含まれるそれ以上のG元素などは艦艇などからは確認されなかったのも事実。
そうなるとやはり米国側が何らかの手段で調査を潜り抜けたということになるのだが、方法がわからない。
いや、とそこでホーネットは自分の考えの加速を一旦止める。
手段がどうか、というよりも、G元素あるいはそれを使ったG弾をなぜ持ち込んだかというわけの方が問題ではと視点を切り替えたのだ。
余計なことを抜きにして言うならば、G弾を使うために持ち込んだ、というのが理由だろう。犠牲を減らすためという理由でG弾の使用を米国は推していた。
そしてそれはアメリカの進めるAL5の計画の実証にもつながることであり、その為にあらゆることをしてきた米国らしいものではある。
しかし、それでは疑問が残る。
何しろ、米国から派遣されてきた艦隊が配置されているのは、光州ハイヴから遠い東部方面だ。
これは無許可での投入を、例えば弾道弾や巡航ミサイルなどによる投入を警戒し、万が一には撃墜などをできるようにするための配置だった。
繰り返しになるが、G弾の有効性を一番わかりやすく証明するにはハイヴに落とすのが一番である。
そうであるがゆえに、遠ざけられ、監視を受けながら、陽動という役割を任されている。
そんな不確定要素の大きいところにG弾を無理やり持ち込み、使うだろうか?
密かに運び込んだとしても発見される可能性が高く、リスクが大きすぎてわりに合わない公算が高いのだ。
(わからないな……)
G弾をそもそも持ち込んでいないという、こちらの杞憂という可能性もある。
しかし、それでは説明もつかない。思考が一巡し、ホーネットは別の可能性を考える。
423:弥次郎:2023/01/06(金) 22:49:14 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
他の可能性としては高度な電子機器に反応したということになる。
だが、これも肯定できない説だ。
比べるまでもなく、この世界の電子機器の技術水準は連合と比較すれば低いからである。
BETAが戦術機を狙うのは戦術機に搭載されているコンピューター目当て、という説もあるくらいBETAは電子機器に反応を示す。
これは、これまで連合がBETAとの戦いに参戦した中においても明確に確認されていることだ。
しかし、その理屈であるならば、BETAは米艦隊ではなく、米艦隊の督戦をしていた連合の潜水艦隊を優先して狙うはずだ。
彼我の距離を発見されない程度に離していたからそっちを優先したというのもありえなくもないが、執拗に狙う理由にはならない。
現在、襲われている艦隊に対して督戦を行っていた潜水艦隊は接近し、これまた電子機器の塊であるMSなどを投入して救援を行っている。
そちらへもBETAは反応しているが、艦隊に固執する理由というのがこれまたわからないのだ。
ともあれ、とホーネットは意識を切り替える。
間もなく戦場なのだから、そろそろ余計なことは考えない方がよい。
(でも、面倒だな)
今回の東部方面を担当する米艦隊の救援は、正直なところ気は進まない話ではある。
自国の利益のみを追求してハイヴ攻略を立案し、そのくせG弾という何が起こるかわからない兵器の使用に固執し、それ以外を排除しようとする。
その作戦の主体から外されたとみるや、今度は作戦が遅延したり失敗するように工作を仕掛けてくるという始末。
国連が何とかとりなす形で参加を認められ、G弾も攻略できなかった場合にのみと限定されて使用が許可されているとはいえ、なりふり構わないどころではない。
BETAとの戦いの後を見越しての判断という割には方々に恨みを買うような真似を重ねている米国は、あまつさえ地球連合にも喧嘩を吹っかけているのだ。
この世界におけるアメリカにおいて外交を担っている大西洋連邦に対する嫌がらせは枚挙にいとまがなく、外交的非礼も平然とあると聞く。
これは又聞きなので脚色されている可能性も考慮して話半分に聞くべきであるが、そうだとしても看過しがたい。
まさか、惑星の外から来た自分たち地球連合を人間そっくりなBETAか、あるいはBETAと同類の程度の低い宇宙人とみているのだろうか?
BETAはいずれ駆逐することはできるし、地球連合を名乗る集団も、自分たちの上を行くことはないだろう、という考えなのか。
ある種の正常バイアス。そんな言葉が頭に浮かんでくるのも無理からぬ話であった。
424:弥次郎:2023/01/06(金) 22:50:31 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
いずれにせよ、とてもではないが救援すべき相手と考えにくいのが、ホーネット個人の意見だった。
別に最前線国家であるわけでもなく、他国と比べ困窮状態でもなく、ギリギリで持ちこたえているというわけでもないのだし。
はっきり言えば、何を言おうが無視してさっさとBETAの駆逐をしてしまった方が速いとさえ考えている。
いや、それではG弾を振りかざすアメリカが何をしてくるかわからないのか、と眉をしかめる。
(敵がBETAだけとは限らないからってのはわかるんだけどなぁ……)
ちょっと素が出てしまった。反省。
いずれにせよ、相手との対話を行い、協力関係になるというのが連合の方針。
そうであり、所属のGAもそれを支持しているならば、自分はそれに従うべきである。
だが、感情の整理がつかず---結局ぐるぐると自問自答の連続。いや、分かってはいるのだ。
ある程度区別はするにしても、分け隔てなく協力関係を作り、地球という星の安全保障体制を作ることが重要だというのは。
(だから、アメリカの援護に回されたのか)
新人の自分が積むべき経験ということなのか。
救うに値しないように見える相手を、それでも救うために手を伸ばせるのか、と。
同盟国を見捨て、G弾を使用しないという確約を裏切って投下し、さらにはBETAの大攻勢において多くの国を見捨てた、そんな国であろうとも。
その国の国民を、戦場にいる兵士を、そんな判断を下した政府や政権をも、窮地とあれば自らの利益のためもあるとはいえ、救うために行動できるかと。
重たく、そしてハードな問題だ。
それが命じられたことであり、尚且つそうすべきというのが理屈としてはわかる。それと反発し合うのが個人の感情だ。
その感情を飲み込んだうえで、理性と人道に基づいて、正しい選択をすることができるかと、問われているのだと理解できた。
自分と同期しているブラック・キャバルリィが、ぎしりとマニュピレーターを強く握る。
自分がまだ新人であり、これから実戦を重ねていくべき段階にあるというのは理解している。
単純に戦闘技能だけではなく、精神的な涵養や感情を整理して目的のために行動する能力も磨かなくてはならないことを。
だからこその配役。だからこその仕事。だからこその---米国戦力の援護と救援。
(厳しい職場だなぁ)
スパルタだ。次々と侵略者が現れるからこそ、戦力の増強に余念がなく、また同時に余裕がないからこその厳しい育成。
その意図を理解してもなお、憂鬱な感情はどうしても押し殺せそうになかった。
せめて、戦闘でいくらかでも発散したい。そう、ホーネットは思うばかりであった。
425:弥次郎:2023/01/06(金) 22:51:45 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
ホーネットの一人語りみたいになりましたね。
それでも、目の前の人間を救えるか?
連合も覚悟を決めた人だけじゃないんですよね…
最終更新:2023年08月28日 22:16