474:弥次郎:2023/01/07(土) 22:40:05 HOST:softbank060146109143.bbtec.net


憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「鋼鉄の裁定 -あるいは天空神の見定め-」3



  • C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月後半 15:25 朝鮮半島周辺東部海域 合衆国海軍 ニミッツ級戦術機母艦 セオドア・ルーズベルト


 BETAの奇襲により、撃沈されたという意味でも、文字通りの意味でも虫食い状態となった艦艇を抱える米国の艦隊は、しかしようやくの余裕を得ていた。
β世界の艦隊がどうしても抱えていた近接防御能力の不足を担う直掩の機動兵器が駆けつけたからであった。
 やり方は簡単。ホーネットのブラック・キャバルリィが母艦級を優先して排除し、ノーマル部隊とMT隊が細かなBETAを次々と排除していくのである。
膨大な数押し寄せてくるBETAは戦術機では苦労するとしても、ノーマルから見ればいい的にすぎないのだ。
確かに驚異ではある突撃級であっても、GA系列のノーマルでさえ余裕で追い抜ける程度でしかなく、防御も容易く貫通できるほどしかない。
 そうなれば後は注意すべきは誤射や過剰な威力により友軍へダメージを与えてしまうことだけであり、ある程度の慎重さを持って行動するだけであった。

『こちらハイヴ4、これよりパンテオンの投下を開始する!』
『ハイヴ5、同じくパンテオンを投下する』

 そして、問題であった艦艇に張り付いていたBETAについては、パンテオンの投入による排除が開始された。
如何せん連合側の有する機動兵器の火力が高すぎるがために、人サイズのBETAの排除は、貫通して艦艇にまでダメージを与えてしまうのだ。
故にこそ、パンテオンによる排除を行う。電子機器の塊であるし、あちらの方から寄ってくれるであろう。

『こちらブラック・キャバルリィ、周辺警戒に移る』
『了解しました』

 オペレーターに一言報告し、周囲にセンサーを走らせる。
 水中のMS隊とのデータリンクも合わせ海中の索敵も行うが、今のところ水中に目立ったBETAの反応もない。
まとまった数を捌ききることができたか、それともBETA側としては一当てする程度だったのか。
いずれにせよ、米艦隊の安全確保が完了するまでは油断しない方がよさそうだ。
既にノーマル部隊も含めて母艦級などに対応できる戦力が張り付き、警護しているのだから。
 しばし、身体の力を抜く。
 武装をハンガーに預け、感触を確かめるように手を開いたり閉じたりを繰り返す。

『……』

 自分は命じられるままに命を救った。
 戦術機空母を筆頭とした艦隊の艦艇、その乗員、戦力を。
 この海の上というテリトリーにおいては、科学と知識の重なりによって作り出した船に縋らねば死んでしまう、そんな弱いホモ・サピエンス達を。
違う惑星、違う世界、違う国、違う過去。あらゆる要素が違えど、しかし同じ人間。
しかも、理由は様々であろうが人類の敵となるBETAと戦うことを選び、そして今も戦っていた。
 だというのに、そこに「アメリカ合衆国」というタグが付くだけで、こうにまで分け隔てられてしまう感覚がするのか。
国家のせい?政府のせい?はたまたそんな国家を作った国民=兵士たちのせいだろうか?
 だが、そんな責任の追及など、何の意味がある?そんなことをしても、結局は対処療法、遅すぎる尻拭いでしかないのに。
 そも、人類共通の敵であるBETAと戦うためにここにきているはずなのだ。なぜ、後ろ側に向ける銃口の方が多いのか。

 駄目だな、と思考を一時中断する。
 栓のないことだ。ここで自分一人が考え込んでも、何ら建設的でもなければ、解決にもならない。
 ただ、自分の感情をぐるぐると持て余すばかりでしかないのだ。

475:弥次郎:2023/01/07(土) 22:40:38 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 そんなホーネットの意識を浮上させたのは、オペレーターの声だ。

『……ホーネット、よろしいですか』
『コピー』

 時間を意識すると、どうやら10分程度が経過したようだ。
 通信回線を窺えば何やら騒がしい。アメリカ側と連合側を結ぶ通信回線で何やら頻繁にやり取りが起こっている。
オペレーターが呼び掛けてきたのは、それに関することだろうか。

『通信で起こっている言い争いのこと?』
『イエス、残念ながら。
 BETAの排除が終わり、負傷者や損傷の大きな艦艇を後退させ、戦力再編を行うことで話が進んでいたのですが、トラブルが起きています。
 一部感情的になった兵士がどうやらこちらの兵士たちに食って掛かり、発砲騒ぎが起こったようで……』
『なんてこった……』

 いや、感情としてわからなくもない。もっと早くに助けが来れば、助かった命があったのかもしれないのは事実だ。
 さりとて、このBETAによる奇襲は連合はもちろんのこと、β世界にとっても初めての経験であったわけだ。
何らかの行動パターンの変化が予測はできても、内容までわかるわけでもなく、そのタイミングもわからない。
 だからこそ、被害が広まる前に大急ぎで対処し、火消しを完了させたのだ。
 だというのに、文句を言うだけでは飽き足らず、武器を向けて発砲までした?国家間の共同作戦において致命的過ぎる。

『加えて、総旗艦の方にいた米国指揮官の方から連合の対応に抗議をしまして、これ以上作戦に従えないとまで……』
『……まさか』

 ええ、とオペレーターも嘆息しながらその米国の指揮官の発言内容を告げた。

『これ以上の犠牲や奇襲を受ける前に、直ちにG弾集中投射によるBETAの排除およびハイヴ攻略に切り替えるべきだと主張を始めました、今も続いているようです』
『WT〇……』

 思わず悪態がこぼれ出た。
 確かに被害は出た。しかし、作戦遂行能力を完全に失うほどではなかったし、戦力再編を行えば参加国の戦力はまだ戦えるレベルだ。
 だというのに、この程度の損耗でG弾の使用という、この後の行動計画まで一切破棄して過程をすっ飛ばし、最終手段に出る?
米国の指揮官は正気なのか?この程度の被害で即座に作戦を放り投げるほど、米国は弱腰だというのか。

『そんなにG弾が使いたいのかね……』
『おそらくはそうでしょう。それだけでなく、アメリカ合衆国本国からも抗議の連絡が多数』
『……いや、ちょっと待って』

 おかしい、その思いがホーネットにはあった。あまりにも情報伝達が速すぎるし、行動が速すぎる。
 まるで米国上層部は被害が出ることを最初から理解していたか、予知していたかのように行動しているのだ。
この突発的な事態は連合も読めなかったわけで、まさしくトラブルといってもいい。歩いていたら車が突っ込んできたレベルの、予測できても回避できないこと。
それを当然のように受け止めているアメリカ合衆国の態度はおかしいどころではなかったのだ。

476:弥次郎:2023/01/07(土) 22:41:20 HOST:softbank060146109143.bbtec.net


 可能性は二つ。
 一つはG弾の使用という自国の推進するAL計画のため、何かあった場合のホットラインが用意されていたことだ。
 一つは、そうであっては欲しくはないのであるが、このBETA奇襲をアメリカが意図的に引き起こしたというものである。
これまで米国はこのオペレーション・ジュピターの準備や進行の段階において有象無象の嫌がらせを仕掛けていた。
それによって作戦の主導権がアメリカに移譲されるまでの時間を稼ぎ、G弾を使用したいという意志の表れと考えられていた。
 だが、それはあくまでも人間の行うこと妨害などであったのだ。今回のようにBETAの行動をアメリカが誘引したものはなかった。

『いや、いやいや、そんな……』
『混乱はわかりますが、こちらとしては抗議を受けつつ、原因調査を行うことが決定しています。
 何らかの手段でBETAをコントロールした、あるいは誘導した可能性も否定しきてませんので』
『……ああ、クソ、気分がよくないな』

 まさか、自国の兵士であり国民の命までも使って、自国の利益を追求した?
 正気とは思えない行動であり、計画だ。
 読書好きの先輩リンクス曰く、国家とは目的のために手段を選ぶな、という過激な論を展開した外交官がいたという。
それが国家にとって有効な手であるならば惜しむことはするなと。イギリスにも、戦争と恋愛では手段を選ぶなという言葉もある。
 だが、それとこれとは話と次元が違う。
 自国民を自ら危険にさらすというのは、国家としての前提をぶち壊すものである。
 確かに軍人は国の命令を受けて切った張ったの鉄火場に躍り込み、危険に立ち向かい、殺したり殺されたりするものである。
だが、同時に軍人であっても国民であることには変わりはない。軍人の周囲には家族や親戚や友人などがおり、彼らもまた国民なのだ。
無駄死にさせたどころか、積極的に死なせたと分かれば黙っているまい。

(責任を全部こっちにおっ被せるつもりか……)

 だが、多少頭が回れば、どうするかは理解できる。本当は理解したくもないことであるが、分かってしまう。
 まったく、とあきれるどころではない。
 もはや狂気だ。BETAと戦うという目的でG弾を使うのではない。G弾を使いたいがために、BETAと戦っているようなものではないか。
典型的過ぎる手段の目的化。主と従の逆転。そんな初歩的なモノに陥っているようにしか見えない。

『……ハァ』

 思わず、何度目かの吐息が漏れそうになり---哨戒にあたっていたMSからの連絡に意識をバチリと切り替える。
 海底に振動が多数。観測された振動パターンはすでに既知のモノであり、特定は即座に行われ、データリンクで共有される。

477:弥次郎:2023/01/07(土) 22:42:00 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

『海底より振動!BETAです!』
『またかよ!』

 こういうのを、ルーツのある大洋連合の方ではなんとか万来というのだったか。
 そう思いながらも、即座にホーネットは、同一化しているネクスト「ブラック・キャバルリィ」を動かした。
 武装を抜き、出現ポイントに向けて一気に加速していくのだ。
 自分と同様にノーマル部隊も動き出しており、

『位置を特定、レーダーに反映させます』
『コピー』

 脳内に直接届けられるレーダーマップの情報。
 狙われたのは、やや下がった海域で負傷者をはじめとした人員の移動や行動可能な艦艇の選定を行っていた米国艦隊だ。
 第一波が出現してきた時と状況は似通っていて悪い状況。なにしろ、艦隊の動きが鈍くなっており、ヘリやボートによる人員移動が行われている。
戦闘の最中において、そんな矮小なユニットは流れ弾一発や移動の余波だけでも容易く影響が出てしまうだろう。
こうなると高性能機であるがゆえにネクストが下手に接近するのは危険になってしまう。

『水中での阻止攻撃は!?』
『現在進行中、ですがBETAの反応増大しています!』
『……!浮上されるのは避けえないか!』

 ならば、と自分のすべきことを即座にホーネットは導き出す。
 ネクストが動き回っても問題のない範囲、すなわち外延部を中心に行動し、BETAの浮上を阻止することだ。
特に母艦級を主として狙うべきであろう。ノーマルなどでも倒せないことはないが、彼らは自分が入れない艦隊の内側を担当してもらった方がいい。
 そして、その指示はオペレーターを通じて上から届けられた。機を見るに敏という奴か。

『鬱憤晴らしに付き合ってもらうぞ……くそったれのBETA共め……!』

 ああ、気分が悪い。
 目の前にいるBETAも、後方で連携を乱そうとする馬鹿な人間も、何も知らされずに利用されている兵士たちも、苛立ちを誘う。
 リンクスとして、それなりに不条理を見てきた。C.E.世界で起こったいくつもの事件を見聞きし、学んできた。
そんなホーネットをしても、自分の内に発生した感情を抑えきるには、まだまだ若すぎたのだった。

478:弥次郎:2023/01/07(土) 22:42:47 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
戦いはまだまだ続く。

次の話で、どういうことだったのか種が割れます。
まあ、お楽しみに。
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最終更新:2023年08月28日 22:17