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憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「鋼鉄の裁定 -あるいは天空神の見定め-」3.5



  • C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月後半 15:44 朝鮮半島周辺南部海域 大洋連合海軍笠置型航空母艦「薬来」



 急遽艦橋を離れ、別室に移動した柴島は信じられない報告を受け取っていた。
 先ほどまで起こっていた、執拗なまでの米国艦隊へのBETAの攻撃。その理由が、判明してしまったのだ。

「間違いない、のか」

 通信の先にいるのは、セオドア・ルーズベルトにいるスタッフだった。
 艦載機として搭載されたヘリからパンテオンと共にセオドア・ルーズベルトに乗り移り、BETAへの対処などを行っていた彼ら。
彼らは、艦内において執拗なまでにBETAに追われる乗員を助け、負傷した彼らを治療することも行っていた。その中において、その事実に突き当たってしまったのだ。

『複数の人員において確認されました、ほぼ間違いないです。
 簡易センサーではありますが、反応も確認されていました』

 それは、と医療スタッフが硬い言葉で続ける。

『G元素です。グレイ・ナインやイレブンが確認されました』

 そう、G元素。
 ハイヴやカナダに落ちてきた落着ユニットの残骸から回収された、人類が手に入れた新元素。
 その元素が、何と人間の体内から確認されたのだ。それも、最悪と言っていい形で。
 セオドア・ルーズベルトにいるスタッフの操作により、多少荒いにしてもその画像が転送され共有された。
レントゲン写真のようなそれは、人の身体の一部を切り取っており、そして体内に明らかな人工物があることを映し出していた。

『G元素を封じ込めた容器が、確認されただけでも十数名以上の体内に確認されました。
 事情を聴いたところ、健康診断において異常がみられ、外科手術を受けさせられたとのことです。
 恐らくですが……』
「その際に体内にG元素を入れられた、か」

 呻くように柴島はスタッフの言葉の先をつぶやく。
 そう、確かに連合はG弾もしくはG元素の持ち込みがないかの調査を行った。
 持ち込まれる物資、武器弾薬、戦術機、そして艦艇に隠されていないかの綿密な調査を行っていたのだ。
G元素のサンプルがあったからこそ、それを検知する検知器の開発は完了しており、それが大いに役立てられた。
 しかし、その調査が行われたのはあくまでも物が対象だった。衣服までも徹底して調べたが、兵士たちまでは調べていなかったのだ。
そうであるがゆえに、検査を潜り抜けて、艦内にG元素を持ち込むことができたのだろう。
まさかそうまでしてもG元素を持ち込むとは、と今更ながらに後悔するが、どうにもならない。

『また、このG元素の容器の密封は完全ではありませんでした。
 構造はまだ特定中ですが、時間経過により容器の密封が解除。そして体外にG元素が漏洩する仕組みと推測されます』
「個人個人に埋め込まれた量はおそらくは微量。しかし、それが多数の人間に及べばまとまった量を持ち込める……」

 そうすれば、G元素に目敏く反応するというBETAの目にも留まることだろう。
 その結果に生じることは一体何であろうか?想像する必要もない。
 柴島の部下の梶原少佐が、青い顔で起こることを、そして実際に起こったことを述べる。

503:弥次郎:2023/01/08(日) 00:26:41 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

「そしてG元素に誘引され、BETAは集中的に米国からの派遣艦隊を、特にセオドア・ルーズベルトを攻撃する。
 やがては撃沈に至り、ついでのように他の艦艇も攻撃を受けることになりますね」

 ああ、と梶原の言葉を柴島は肯定する。

「いつ頃BETAが気が付いたのかは不明だが、奴らはこれらを手に入れるために一斉に襲い掛かった。
 BETAに対して、これほど有効な誘蛾灯は存在しない。督戦していた潜水艦隊よりも優先したのも納得だ」
「提督、これはもしや……」
「ああ」

 こんなことをした理由など、考えるまでもない。
 米国が担当するエリアが存在する朝鮮半島東部方面の艦隊が崩壊すれば、それはかなり大きな作戦進行の躓きとなる。
同じく東部方面に展開している連合艦隊はその救援と収容、救助などに人員を割かれ、東部からの攻略の遅延あるいは戦力の分散につながる。
現場の兵士は、艦隊の兵士たちは必死に戦っていたのだし、そういう意図があったとは知りもしない。むしろ作戦の遅延を懸念するだろう。
何もなければたまたま米国艦隊が集中的に被害を受けた、と連合さえも判断していたのかもしれなかった。
 だが、これを計画し、実行させた米国は自国の戦力さえも犠牲にしてまでも、艦隊一つを捨ててまでも邪魔をしたかったということだ。

「なんてことだ……」

 事実が究明されたことによる喜びは全くない。
 むしろ真逆だ。事実に突き当たってしまったことが、むしろ悪感情を招いてしまった。
 こぶしを握り締めつつも、何とか冷静さを維持し、柴島はスタッフに問いかける。

「G元素の容器の取り出しは可能か?」
『場所さえ特定してしまえば、すぐにでも。
 外部に漏れ出ないように該当の人員を隔離するだけでも、BETAの誘因は止められるでしょう』
「そうか。すまないが、早急に頼む」

 何しろ、文字通り虫食いにされた米艦隊の能力は大幅に落ちている。
 先ほども第二波の攻撃を受け、何とかしのぎ切ったばかりと聞く。
 このままG元素で誘引してしまう人間を艦隊に置いていては、やがて防ぎきれなくなることは明白だ。

「それと、米国が兵士の引き渡しを要求してくるだろうが、絶対にしないでくれ。
 米国からの人員が接触することも阻止してほしい。これほどのことをしてきたのだから、口封じをしてきてもおかしくない」
『もちろんです』

 彼らは米国が細工を施して作戦を妨害したという事実の証拠となる。
 この作戦完了後には、これを絶対に追求するように上申する。その強い意志が、柴島にはあった。
 そして、彼は指示を出す。感情は強火の竈の如しだが、冷静さを失うことはなかった。

「梶原少佐、この事実はまだ伏せておけ。味方にも、人知れず協力してしまった彼らにもな。
 下手に広めれば、作戦自体が滞ってしまう。米国への報復に走りかねない。
 それと、少し早いかもしれないが、戦力の揚陸を急ぐ。BETAもそうだが、米国の妨害が入る前に行動するように参謀たちにも伝えてくれ」
「了解です」

 怒りや憤りは、彼だけでなく、事実を知ってしまった人員に共通していた。
 けれども、その感情を今ぶつけない理性だけは残っていた。
 さりとて、許してやるつもりなどこれっぽっちもなかった。むしろ何倍何十倍にして報復することさえも厭わない。

(超えてはならないものを、越えたな……!)

 指示を出し終え、しかし、憤懣やるせない柴島は、その思いを強くした。
 この国家の垣根を超えた共同作戦は、もはやとんでもない爆弾となってしまったことを、意識しながらも。

504:弥次郎:2023/01/08(日) 00:27:13 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
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こういうことをやるよねって……
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最終更新:2023年08月28日 22:18