674:弥次郎:2023/01/08(日) 23:22:22 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「鋼鉄の裁定 -あるいは天空神の見定め-」4



  • C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月後半 16:24 朝鮮半島周辺南部海域 大洋連合海軍笠置型航空母艦「薬来」



 BETAの新しい行動パターンによる攻撃を退け、「オペレーション・ジュピター」の参加艦隊はようやく一息ついていた。
 負傷者の治療や戦死者の後方への移送の手配。虫食い状態になった艦艇戦力の再編。海に放り出された兵士たちの救助。
あるいは、損耗した戦術機などの武器弾薬の補充に整備や修繕など、やるべきことは山積みであった。
 何しろ海上艦艇への肉薄どころか取り付いての肉弾攻撃だ。海の上ならばという油断もあり、負傷者は出たし、艦艇の損傷もかつて以上に発生した。
 とはいえ、本来ならば戦闘よりも長く時間を要するそれをスムーズに進め、終えることができたのは偏に地球連合軍によるフォローがあったゆえにだった。
保険として控えさせていた戦力によって一時的に防衛線を引き直し、安全圏を確保したうえでそれらを行えたのだ。
通常であるならばそのまま壊走、そうでなくとも追撃を受けて作戦失敗となっていた可能性もあった。

 しかし、戦力再編が終わったからと言って、それで終わりではない。
 むしろ、ここからは作戦を巻きで進めなくてはならないのだ。

 理由としては二つ。一つはBETAが新戦術を多用してきており、迂闊に消耗戦に付き合うとこちらの被害が増大する可能性があること。
 そしてもう一つは、地球連合しか知り得ないことだが、米国がさらなる妨害や独断行動をとることを警戒していたためであった。
 特に後者は切実な問題であった。SLBM搭載と思われる米国所属の潜水艦が接近していたことや、G元素によるBETAの誘因という事実は、如何に米国が危険かを語る。
 そうであるならば、参加している各国軍の安全の確保のためにも、ここは急ぐべきであった。
 よって、地球連合が選んだのは現地勢力の協力のもと漸進的にハイヴ攻略をするのではない。もっとスピーディーかつ確実な、力による解決である。

「ライグ=ゲイオス、ヘヴィーバレリオン、および各艦隊、砲撃準備完了です」
「参加艦艇への対ショック防御の指示は完了しました」
「射線上の友軍機の退避完了、観測機も砲撃範囲外に移動しました」
「各艦および艦載機の準備も完了しております」
「よし」

 しかし、それはちょっと危険が伴う、友軍にとって。
 発生するのは戦略兵器もかくやな破壊であるわけで、当然その影響は周囲にも及ぶ。
BETAによって周辺の地形が均されており、まあ、着弾やら何やらの衝撃は距離による減衰しか期待できそうにないのである。
それによって友軍艦隊や友軍機に被害が出てはとんでもない間抜け、ということになる。
 それはともかくとして、オペレーターたちから上げられる報告に、一つ頷いた柴島は合図を出す。

「やれ」

 ぱちりと鳴らした指の音を合図に、常識を打ち破る砲撃が幕を開けた。
 ライグ=ゲイオスとヘヴィーバレリオン、これらの機体の出自は実のところ地球連合ではない。
 ライグ=ゲイオスはゾヴォークが、ヘヴィーバレリオンは源流をたどればリオンでありDCの保有していたAMの一つだ。
 ただそれを地球連合があれやこれやして入手することに成功し、自軍の戦力として運用しているということである。
 この両者に共通するのは、破格と言える砲撃能力である。それこそ、機動兵器サイズに圧縮された戦艦と言えるほどに。
ここで言う戦艦はβ世界基準の戦艦ではなく、新西暦やC.E.基準というのは言うまでもないこと。
 そしてその力が他の艦艇の火力と合わせて、BETAとハイヴを、いやその周辺の地形を丸ごと飲み込む勢いで放たれた。

「弾着……今!」

675:弥次郎:2023/01/08(日) 23:23:35 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 一斉に艦隊から放たれた砲撃の着弾地点は複数個所。
 それらは一斉に飛び立ち、距離を貪り、着弾という結果を得る。
 そして、即座に反応が出た。爆音と破壊、さらにはそれによって起きる噴火じみた大地の崩壊。
 その後に生じるのは、巨大なエネルギーの放射によって生じるエアポケットだ。

「くっ……」
「ここまで影響がくるだと!?」
「核でも使ったのか?!」

 それは、距離をとっていたβ世界からの参戦国の艦隊からも見え、そして襲い掛かった。
 強い風と粉塵と様々なモノを伴った衝撃波が、着弾地点を中心にして広がったのだ。

 そして、それらが落ち着いた後に生じたのは、空白だ。
 BETAの活動に伴って平らにされていた朝鮮半島の光州ハイヴ周辺には、BETAの群れがいた。
艦隊の、BETAにとっての「災害」が接近したことを探知し、ハイヴの内側から大量に湧きだして大地を埋め尽くしていた筈だったのだ。

「すげぇ……」

 しかし、どうだ?
 今となっては、事前の砲撃を受けて数を減らしていたものの、それでも膨大な数展開していたはずのBETAがいない。
あるのは無惨に破壊された残骸ばかりであり、動いているものは見受けられなかった。
 しかも、その範囲がとてつもなく広いというのも驚愕すべき点だった。ハイヴ周辺どころか朝鮮半島南部を丸ごと綺麗にしてしまった。

「……これは、夢か」
「いや、そんな……」
「あれだけのBETAが蠢いていたっていうのに……」

 誰かがつぶやく、これは本当に現実なのかと。
 何しろ、本当に何もかもが消し飛ばされているのだ。
 遠方には鉄原ハイヴの姿も見えるほどに、余計なものが吹き飛ばされているほどに。
 G弾どころではない、もっととんでもないものが、BETAを迅速に駆除するためだけに叩きつけられたのだ。

「勝てるぞ」

 誰かがそういった。
 そう、勝てると。
 これほどの火力を発揮できることを、各国は知らなかったわけではない。
 だが、同時に半信半疑でもあったのだ。本当に現実なのかと。G弾のように何か副作用や影響があるのではないかと。
それらをまとめて払しょくしてしまうかのような、そんな強烈すぎる事実が、各国に対して突き付けられたのだ。
 誰もが、喜色を浮かべた。あるいは、闘志を漲らせた。
 本当にBETAを、ハイヴの攻略ができると、人類の力で反攻できると、そう信じられたのだ。

「-------------!」

 そして、回線はそれをぶつける声で飽和する。
 歓声、まさにそれで埋め尽くされた。
 これまで長年の敗北を重ねていたBETA相手に、本当に勝利することができると。

676:弥次郎:2023/01/08(日) 23:24:28 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 しかし、まだ作戦は終わっていない。まだ前面の敵をとりあえず吹き飛ばしたに過ぎないからだ。

「揚陸艦及び航空艦隊は前進、揚陸を開始せよ。余計なBETAはいない、このまま包囲を形成する」

 柴島の合図とともに、航空艦隊や無事だった揚陸艦や輸送艦から戦力が飛び立っていく。
あるいは水中で待機していた潜水艦から水陸両用の戦術機達が発進を開始し、戦列に加わらんと前進していく。
 そして、連合の艦隊からも、薬来からも艦載機群が飛び立つ。
 腹に大量の無人機を抱えた輸送ヘリや航空機も次々と行動を開始し、連合お得意の物量を展開する。
 BETAが数で押してくる?ならば同じだけ展開しよう、質でも圧倒しよう、と言わんばかりの脳筋解決法だ。

「大東亜連合軍、および帝国軍も上陸を開始、包囲形成が始まりました」
「対地ソナーおよびセンサーユニットの敷設作業、開始されました!」
「揚陸地点に簡易港湾設備の敷設完了、ルート形成作業が開始されます」
「国連AL4艦隊、予定通り北進、光州ハイヴ北部の包囲に加わります!」

 オペレーターたちの報告の通り、一気に動いた人類の軍勢は無防備になったハイヴを包囲し始めた。
 これまでの戦訓から地下から進行してくる母艦級への警戒のための対地ソナーの敷設も行いつつ、万が一の対処を担う連合の戦力と合流する。

「提督、後方、済州島地下茎攻略部隊より入電です。
 間もなく朝鮮半島南部方面へと到達、地下よりハイヴへの浸透を開始すると」
「よし、目標は予定通りハイヴ最奥の反応炉だ。
 G元素があるという情報がある以上、これを残すわけにはいかない。蒸発させろ」

 そして連合は何も地上からのみ侵攻しているのではない。
 済州島の地下茎を攻略し、進撃してきた部隊がついに到着したのだ。このままハイヴ内へ突入させる手はずとなっている。
BETAも警戒しているし、なんならば複雑な構造で迷路のようになっているだろうが、そこの突破は容易い。
唯一の懸念は侵攻を受けて地下茎を丸ごと崩落させるという対所をしてきた場合であるが、無人機主体故に問題は小さいだろう。

「……まだ来るか」

 光州ハイヴの航空映像を見て、柴島は呻いた。
 事前の想定では50万と推定されていて、すでにその過半数以上を排除し終えたと考えていた。
 だが、周囲を吹き飛ばされたハイヴからは、再度BETAの群れが湧いてくるのが確認されたのだ。

「地上構造物が消えてメインシャフトが丸見えですね」
「内部まで爆撃してしまうのも可能ですが……?」
「やめておけ、そこまでやってはやりすぎになる」

 参謀の一人からの進言を却下する。
 手助けはするにしても、あくまでもハイヴ突入と反応炉破壊は現地勢力にやってもらう必要がある。
 それに、今の段階でハイヴの反応炉を破壊した場合、BETAは一斉に北にある鉄原ハイヴに逃げ込むことが予測された。
 だが、それでは困るのである。実際に破壊するのは鉄原ハイヴからの増援を排除して、この後の攻略を楽にしてからが望ましい。
 これはあくまでも連合の予想ではあるが、BETAはハイヴを見捨てられないのだ。
 なればこそ、これを餌にしてBETAをおびき寄せて楽に排除してしまう方がよいと判断したのだ。

677:弥次郎:2023/01/08(日) 23:25:07 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

「政治的な案件で済まないが、連合がすべてをやってはそれはそれで問題だからな。
 米国からの横やりが怖いのは重々承知しているがな……」
「いえ、過ぎたことを言いました」
「構わんよ」

 現在のところ、米国の妨害は鳴りを潜めている。
 ただ、懸念としては東部方面から上陸している米軍と国連軍が「トラブル」を起こしてしまうことであるが、それはそれで織り込み済み。
言い訳程度の役割を与え、重要度の低いところに配置したのだ。監視がすでに援護の名目で張り付いている以上、よほどのことでなければ動けまい。

(まあ、何もないのも逆に怖いくらいなんだが……)

 正直、米国の妨害はひどいくらいであったので、まだ何かあると疑心暗鬼になりそうなのだ。
 チェックしていなかった兵士の身体への工作という前例からすれば、今度は機材や戦術機に細工が施してあってもおかしくはない。
作戦遂行を急がねばならない関係上、そこまでチェックする時間も人員もいないのがネックだ。
 派遣されてきている米軍関係者が陳謝し、それでも作戦への協力を申し出ていることが余計にいたたまれなくなる。
彼らは何も知らないままに派遣されてきて、何も知らないままに陰謀に加担させられた被害者だというのに。

(もしそういう工作がされていて、尚且つ彼らが狙われてしまえば、こちらにとっても負担か……)

 悪いことは重なるものだ、というのが経験則であり、過去の教訓だ。
 確信があるわけではなく、発生するかもしれないというレベルの話であるのがこれまたいやらしい話である。
かもしれない、というのは想定して備えておいて、それが無駄になってしまう可能性もあるということ。
かといって、絶対に起こらないというわけでもないので、何も対策を打たないのも危険なのである。

(面倒な……)

 頭を抱えたくなるが、部下の手前、それは控える。
 できることは、東部方面で米軍の支援にあたっている部隊に警戒を促すくらいだ。

 そして、もうひとつの懸念というか心配事項が一つ。
 激戦区になる可能性が大な北部方面に展開している国連AL4艦隊である。
 特機に相当する航空戦略要塞を筆頭に、AL4が用意した戦力が実戦でのテストも兼ねて戦うというのだ。
こちらは鉄原ハイヴからの増援と真っ先に会敵する激戦区にいて本当に大丈夫なのかという純粋な心配である。
 AL4は地球連合との間で協力関係を構築している。あちらにもこちらにも打算はあるにしても、それでも共同歩調をとれてきた。
AL5を推進するアメリカとは天と地ほどに開きのある関係性だ。故に彼らの心配だってする。
 それにここにはAL4の重要人物たる香月博士が来ているのだ。それも、自ら戦術の航空戦略要塞にパイロットとして乗り込んで戦うという。
 万が一が無いようにはしているのだが、それでも心配になろうというもの。なんでこう、最重要人物の研究者が最前線に出るのか。

(こちらは、胃が痛いな……)

 オペレーターから、鉄原ハイヴからのBETA出現の報告が飛んできて、胃痛は加速したような気がする。
 柴島にできることは無事を祈ることと、現地にいる部隊に指示を念入りにしておくことだけであった。

678:弥次郎:2023/01/08(日) 23:26:38 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
次の話はAL4の方に話が移りますね。

いやぁ、水星の魔女のアレから逃避するように書きましたよ。
ちょっとマジで癒しが欲しいですね……
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最終更新:2023年08月28日 22:20