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憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「鋼鉄の裁定 -あるいは天空神の見定め-」7



  • C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月後半 17:53 朝鮮半島 鉄原ハイヴ南方およそ250㎞地点



 凄乃皇は展開している人類の軍勢からハイヴの方へと50㎞ほど進出していた。
 BETAが優先的にこの凄乃皇を狙ってくるということを見越し、あえて突出することでBETAの動きを誘導、優位な配置での撃滅を狙う形だ。
BETAの動きは凄乃皇を包囲するように動いてはいるが、展開している人類の軍勢からすれば逆包囲してくださいと言っているようなものなのだ。
その逆包囲までの時間は凄乃皇を中心とした部隊により稼ぐことが決定している。
 無論のことだが、凄乃皇は単独ではない。付随する戦術機部隊やAC部隊、さらに無人MTを搭載した母艦を大量に引き連れての大進撃だ。
長距離侵攻後の戦闘に備え、戦術機やACなどはSFSによる展開を行っている。SFSは補給物資も搭載しているので、長期戦に備えた準備は万全と言えた。
それ以外にもホエールキング級などが数は少ないながらも追従していることもあって、万が一に備えた備えもあった。

 誰も彼もが、大きな興奮を抱えていた。
 BETAの巣であるハイヴを消し飛ばすような砲撃。モニュメントが消し飛び、粉みじんとなり、数えきれないBETAが消え失せた。
絶望的とも思えた母艦級の集団進撃さえも、ただの一撃を以て蒸発することを強いられてしまったのだ。
これまで敗北ばかりを重ねてきた人類にとってみれば、最早劇物にも等しい勝利体験であったのだ。

「お前も、お前も、お前も!消えなさいよぉ!」

 しかして、その喜びをぶつけられる側となった香月夕呼という人間は、いい加減限界であった。
 通信回線がパンクするのではという勢いで怒涛の称賛の通信が彼女に襲い掛かり、適度にあしらっていた彼女をかなりイラつかせた。
勝ったつもりでいるなど、愚の骨頂だ。むしろBETAが本気を出してこちらを攻撃してくるきっかけになったのだ。
そんな中においてたった一撃を入れただけで浮かれ騒ぐ?冗談ではないのだ。
 そして、その怒りは健全にBETAへと向けられた。具体的には、制御を回してもらったドライバーキャノンで吹っ飛ばすことで発散しているのだ。

(さすが博士、怒っていても、冷静ですね……)

 上司の激昂とその行動を見ながらも、しかしピアティフは冷静であった。
 夕呼の砲撃は押し寄せてくるBETAの群れを的確に砕いているのだ。
 コンピューターの補助を受け、射撃管制ソフトに従う形であるとはいえ、それらを制御するのは結局夕呼自身。
本当に怒り狂って我を忘れているならば、的確な操縦など望めはしないであろう。

(AL5との折衝は大荒れだったみたいだし、鬱憤もたまっていたんでしょうね……)

 良い機会ではある、そう思うことにした。
 そうでなければ、ピアティフは自分が乗っている凄乃皇のとんでもなさに圧倒されて思考停止していたであろうから。

「てぇー!」

 400㎜という大口径、尚且つブラックホールエンジンから供給される電力を基にしたドライバーキャノンの威力は語るべくもないだろう。
地面に着弾するそれは、地面ごとえぐっていく。もはやクレーターを量産していくがごときである。

「……ふぅ、すっきりしたわぁ」

 そして、濃密な10分余りが過ぎたころ、夕呼は操縦桿から手を離す。
 チューブドリンクを一気に飲み干し、深く深く息を吐き出した。

「お見事な砲撃でした、香月大佐」
「どーも。まあ、引き金をコンピューターに従って引いていただけなんだけど……」

 戦果は?と目で問われ、冷静に報告する。

「先ほどまでの砲撃により、鉄原ハイヴから出現したBETAはおよそ50万ほど撃破。
 これに僚艦の戦果も合わせれば、総数にして100万は撃破したと推測されます」
「想定されているハイヴ内のBETAの4倍以上か、圧倒的ね」

696:弥次郎:2023/01/18(水) 21:49:57 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 しかし、とピアティフの報告は続く。

「しかし、依然としてBETAの群れの出現は止まっていません。
 ハイヴからもそうですが、地上に出現した母艦級からもかなりの数が吐き出されています。
 さらに、地下においても相当数のBETAが動いているのが確認されています」
「馬鹿みたいに数をぶつけてくる。単純だけどわかりやすい解決ね」

 そう、あれだけ攻撃を与えてもなお、未だにBETAの動きは健在であるのだ。
 夕呼が述べた通り、すでに嘗て推定されていたハイヴ内にいるBETAの総数を超える数を撃破している。
無論大雑把な計測の結果であり、取りこぼしなどがいる可能性もあるにしても、それでもかなり数を撃破しているのだ。
転移発生から一か月ほど後に起きた大規模侵攻で確認されたBETAの総数に匹敵する数がすでに消え、しかし、おかわりが出てくるという事態。

「やはり跳躍者はBETAにおいても発生しているようね。
 これまでの推測などまるであてにならないわ」
「人類が増えたと一概に喜べない現象ですね、本当に……」
「そうね……大規模侵攻にしても、BETAが新しいハイヴを構築したのも、全て跳躍によりBETAが増えたことがきっかけというのはよく言われているわ」

 それに飛びついたのは一種の逃避の結果だ、と夕呼は考えている。
 当然だ。これまでの自分達の予測などがまるっきり外れており、尚且つBETAはその気になればいつでも人類を蹂躙できたなど、目をそむけたくもなる。
それならば、G弾がきっかけで起きた現象のせいだと決めつけたほうが精神的にも大いに楽であるのだ。

「まだハイヴを……欧州を含めて2つ程度しか潰していないってのに、皮算用だけはよくやるものよね」
「はい……まだ二つしか取り掛かっていないのに、これだけの数ならば、残るハイヴ全てにはどれだけいるか……」

 そう、そういうことなのだ。
 空前絶後の規模の大規模侵攻において、各地でBETAは相当数が撃破され、ハイヴも欧州においては一つが陥落した。
 だが、人類が必死に立ち向かったそれも、BETAにとってはほんの一部でしかないとすれば、跳躍により増えたとすれば、今後ぶつかるBETAの数は---

「下手をしなくとも億を超えてくるわね」

 無慈悲に、あるいはどこか悲しげに夕呼は断定した。

「それに加えて、今回の作戦の序盤であったように、BETAの行動パターンが多様化するのは明らかね。
 ひょっとしたら新型のBETAも今後出現するかもしれないのだし……」
「前途多難、ですね」
「まあ、まだまだ先は長いってこと。この作戦も、BETAを駆逐するのもね」

 さて、と切り替えるとコンソールを操作し、周辺索敵を行う。

「社、BETAの動きはどう?」
「凄乃皇を中心に包囲を形成しつつあります。
 砲撃によって数は減らされていますが、あとから吐き出されたBETAで強引に補われています。
 地下から地上に湧いて出てきたBETAの反応も増大中。直近にも出現しています」
「……迂闊に地上を進撃させていたら飲み込まれていたわね。
 とりあえず、ドライバーキャノンの砲撃は一時中断。逆包囲するためにBETAを引き寄せて適度に排除するわよ」
「了解です。凄乃皇、近接戦闘態勢へ、最終チェック入ります」

697:弥次郎:2023/01/18(水) 21:52:29 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 社の操作で、凄乃皇は各所の動きを活発化させる。
 砲弾を送り出していたドライバーキャノンの砲塔が一旦収まると、今度はフレキシブルビームキャノンや大小のVLSらが起動する。
近距離での迎撃を担当するパルスレーザーも砲塔にエネルギー供給が始まり、ようやく出番かと唸り始めた。
 また、その巨体に見合ったサイズの腕も動き出し、格闘戦---文字通りの意味での、クロスレンジでの殴り合いに備える。

「こいつの巨体で本当に格闘戦をやることになるとはね……」

 未だに、夕呼はこの巨体の、言うなれば空飛ぶ要塞である凄乃皇に格闘戦闘をさせる連合の設計を理解できずにいた。
いや、正確に言えば理解はできているのであるが、感情の面からは納得できていなかったというべきか。
近距離に、それこそ懐に飛び込まれれば弱いというのは設計的に見ても明らかだ。
本来ならばラザフォード場による圧殺、あるいは近距離用の迎撃機銃などで対処する設計であった。
 さりとて、母艦級という超大なスケールのBETAに対してそれらが有効かと言われると微妙なところだったのだ。
ただでさえ戦艦の主砲さえも凌げるとされる固い外皮に、大量のBETAを運搬・展開する能力。
至近距離に突現出現された場合には、有効打になる火器を真っ先にぶつけなければならないと推測された。
 そして、もう一つの解決策が---

「ビームソード、ドライブ完了です。いつでも使えます」

 そう、腕部に備えられた、機体のスケールに似合うビーム格闘兵装だ。
 それこそ超至近距離において、目の前に母艦級が現れようがすぐさま対処できるのがこれなのだ。

「準備できたかー……そして直近に迫ってきたかー……」

 呻く。
 そう、このビームソードが想定する間合いにBETAが飛び込んできているのだ。
 現在のところ近接防御を担うパルスレーザーとフレキシブルビームキャノンで対処はしているが、まだまだ押し寄せてくる。
これらを効率的に排除するには、極めて単純な方法が実に最適であった。

「私、これ結構好きですよ?」
「なんで近接格闘戦に固執している日本人より格闘戦好きなのピアティフ……」
「だって、こう、目の前の敵をバッサリ!って気持ちいいじゃないですか」
「社、あんたは?」
「ウルフみたいにできると思うと、気分がいいです」
「あんたもかー……」

 社の情操教育役であり、さらに護衛という役目のブレードウルフのことを思い出す。
 見かけとしては犬や狼であるが、その実態としては解析もできない高度なロボット。
名前の通り格闘戦に備えたブレードなどをアタッチメントを介して装備できるという、対人想定にしては過剰と言っていい能力を持っている。
 そして、社は四足歩行動物型でありながら刀を使いこなすウルフにすっかり懐いてしまった。
リーディングが通用しないので、通常のコミュニケーションに依る必要があるというのもあるが、その刀で一芸を見せてからはのめり込んでいる。
野菜やら果物をウルフに投げ、それを目にも留まらぬ斬撃で切り分けてもらい食べるというのが彼女のブームであった。

「正直、社の教育というか趣味趣向にちょっと悪影響が出そうだから、あとで釘を刺しておかないとね……」

 ともあれ、である。

「やるわよ。ばかばかしいけど、使えるって話ならなんだって使い倒してやるわ!」

 その声に応じるように、凄乃皇はカメラアイを一際輝かせながら、前進を選択する。
 狙うのはBETAの排除。その手法は---航空要塞の名を裏切るがごとく、機動しながらの格闘戦である。

「吶喊!」

 そして、凄乃皇とBETAの群れが激突した。

698:弥次郎:2023/01/18(水) 21:54:13 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
まだまだ続くよ凄乃皇の進撃。

他の部隊の活躍についてはオイオイネー。

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最終更新:2023年01月24日 12:28