83 :ヒナヒナ:2012/02/27(月) 20:24:45
―1944年 北米独伊共同戦線
激しい銃撃戦の音が聞こえる。
荒地に設けられた検問所が戦場になっていた。
鉄柱と砂袋でできた臨時のゲートを挟んで、左右に分かれての銃撃戦だ。
ゲートの片側には10名ほどのイタリア兵が、反対側には同数程度の敵兵が、
互いに車両やバリケードの陰に隠れながら壮絶な撃ちあいをしている。
検問所に設置されたトーチカには誰もおらず、
重火器こそ持ち出していないが、非常に近距離での戦闘で、
なかにはスコップを手元に引き寄せて白兵戦の準備をしているものまでいた。
双方の陣地の周囲には赤黒い血溜まりができており、
時折、銃声に紛れて叫び声や苦悶の呻きが聞こえてくる。
隣で銃を構えていた戦友が撃たれようとも彼らは怯むことなく戦い続ける。
そこにヘタリアと呼ばれ、格下の相手にも手玉に取られるような彼らの面影は無く、
死すら恐れぬ勇猛な戦士たちがそこにいた。
「クソ、弾が少ない。カッサーノ!弾もって来い!」
「軍曹!このままじゃ埒があきません。スコップもって乗り込みましょう。」
「弾詰まりだ。くそ。武器がない! 乗り込むしかない。」
ヘタれで有名なイタリア兵がそこまで敵意を向ける相手。
それは友軍であるドイツの武装親衛隊だった……
○「ヘタリア」から「イタリア」へ その2
アメリカ合衆国崩壊が決定的に成り、1943年の4月より欧州連合軍が侵攻を開始した。
この遠征軍の陸軍は、ドイツ軍とイタリア軍が中心となっており、
友邦であるこの二国はたびたび共同戦線を張って、進軍を続けた。
連邦政府の崩壊と
アメリカ風邪の蔓延によって、旧アメリカ人の抵抗の意志は弱く、
また、まともな武器が残っていなかったため、
欧州各国が進軍中、殆ど組織的な抵抗というものは起こらなかった。
そのため、独伊両軍は快調に進撃を続けた。(補給担当からは泣きが入ったが)
補給が貧弱でも勝ててしまう程度には、各州の抵抗が弱かったのだが、
さすがに州境などには検問所を設け、独軍、伊軍またはその双方が警戒にあたっていた。
とある検問では、これからの作戦の重要ポイントになるので、特に警戒が厳重だった。
84 :ヒナヒナ:2012/02/27(月) 20:25:32
ここで問題が起きる。
基本的に生真面目なドイツ軍人にとって、この天真爛漫な友軍は、
時折、我慢できないくらいの怒りをもたらすのだ。
具体的には作戦途中でパスタを茹ではじめたり、
待機中に装甲車にカラーでジャパニーズキャラクター落書きを始めたり、
それに文句を言うと「ツンデレ」と言う訳の分からない呪文を唱えられたり……
武装親衛隊は職務に忠実な精鋭部隊だ。誇りも相応にある。
伊軍も最前線には強力な部隊を配置してきた。
そして、些細な事件が起きた。
日頃からこの同盟軍の兵の質に問題意識を持っていた親衛隊員が、
(ドイツ人視点で)任務以外のことに精を出すイタリア兵に注意を行ったのだ。
もちろん、この親衛隊員は教養もそれなりにあったので真面目に忠告した。
「任務中にそんな退廃芸術を車両に書くとは一体どういったことか?」と。
退廃芸術とは、総統ヒトラーの趣味である19世紀的風景画、習俗画以外を指す。
この親衛隊員は、芸術の種類を指す言葉として「退廃」という言葉を使ったのだが、
イタリア兵側はそうは捉えなかった。
(俺達の「嫁」が「退廃的」だと……!)
そう、最前線に送られてきた勇猛なイタリア軍部隊とは「痛リア」部隊だった。
自分達の車両に書き入れた緑髪のナイスバディな「ラ○ちゃん」を侮辱された。
イタリア人側はそう思ったのだ。
ちなみにイタリアでは、清楚な女性より女性的魅力のあるキャラクタが好かれた。
具体的には「不○子ちゃん」タイプのセックスアピールを全面に押し出した感じだ。
「○ムちゃんが退廃芸術とはどういう了見だ。だからご婦人方から嫌われるのだ。」
「顔全体のパースが狂っているし、そもそも角があるとは悪魔崇拝か!?」
「俺の嫁を悪魔呼ばわりとは、美的センスのない石頭め!」
「米国人といい、お前らといい、なぜ裸ばかり書きたがるのか!」
はじめは純粋な意見や忠告だったのだが、
徐々にヒートアップしてすでに怒鳴りあいに近くなっている。
もちろん、こんな検問所では全員の耳に届いており、
何事かとみなが集まってきている。
「自分の女を侮辱されて引き下がれるか!」
「てめぇらちゃんと働け!」
「ラ○ちゃんを侮辱するな!」
「このっ!脳まで茹で上がったパスタ野朗が!」
既につかみ掛からんばかりだ。
そして、今までのイタリア兵の所業に怒り心頭であった親衛隊員が、
足元にあったペンキを蹴飛ばし、それが痛リア車(ラム○ゃん)に
掛かったことからイタリア兵達が爆発した。
歩哨に立っていたイタリア兵が銃器を持ったまま、突っかかったのだ。
戦場に立つものの条件反射として、武器を向けてくるのは敵として認識される。
親衛隊側はそのイタリア兵を見て、とっさに敵と認識し銃口を向けたのだ。
そして、戦闘が始まった。
85 :ヒナヒナ:2012/02/27(月) 20:26:59
障害物の陰に隠れながら、小銃を敵に向けて撃ち続ける。
さすがに頭に血が上っていても双方ともに精鋭部隊なだけあって、
策も無く攻めたりはしない。双方ともに遮蔽物の陰に隠れて撃ち出した。
そこからは泥沼だった。
昨日まで一緒に飯を食うこともあったが、今は敵だ。
罵声が飛び交い、それに倍する銃弾が飛び交った。
そのため、ここまでの激しい銃撃戦となったのだ。
「ブリアーニ突っ込むぞ。中央の車両の陰を占領できればラ○ちゃんが守ってくれる。」
「よし、嫁の胸元に突っ込むぞ。」
「そのまま乗り込んで石頭をかち割ってやる。一番乗りの栄誉は貰った!」
「援護は任せろ!」
イタリア兵は個人の武勇を武器に攻め立ててくる。
10人以下のイタリア人は、どの国の勇士よりも勇猛果敢なのだ。
対するドイツ親衛隊は隊長指揮下で整然と集団行動を取る。
「あのパスタどもが突っ込んできます!」
「ドイツ軍人はうろたえないっ! 何も入ってない頭の中身に鉛玉を詰めてやれ。」
「止らない!? 奴ら恐怖心が無いのか?」
「ちっ、白兵用意!」
スコップを片手に物陰から突進してくるイタリア兵。
何人かは撃たれながらも乗り込んでくる。
いかに精鋭の親衛隊といえども、
殺気を纏った相手が至近距離に詰め寄られれば、踏みとどまるのは困難だ。
すでに弾幕と言えるものではなくなっていた。
そこにイタリア兵が踊りこみ、自分たちの嫁を侮辱した不埒ものを全力で殴る。
スコップの刃は使わずに、面で殴っているのは、友軍への良心というよりは、
アドレナリンジャンキー状態で、単に目の前が見えていないだけだった。
…そんな事をしているうちに、近くで戦闘が行われているという報を聞きつけた
ヴィシーフランスの兵が急行して、仲裁に入った。
フランス兵は、イタリア兵には国の彼女とマンマが悲しむぞと言い、
ドイツ親衛隊には、命令で戦闘区域外での戦闘は禁止されているはずだ。と言った。
もちろん咄嗟に言った口から出任せであったのだが、
双方とも弾薬が尽き掛けていたということもあり、何とか止った。
気が付くとこの戦闘で、双方とも相当数の死傷者を出し、
部隊の半数が戦闘不能となるまで続けられていた。
特に親衛隊側は、みなスコップで殴られており、
立っている者もグロッキー状態の有様だった。
この事件はじきに双方のトップが知るところとなったが、
ドイツはイタリアに負けかけたという不名誉を隠すために、
イタリアは余計な喧伝をして友邦ドイツの不興を買わないように、
それぞれの理由でなかった事にされた。
しかしその後、ドイツ親衛隊のとある部隊が全員軍籍を抹消され消えており、
対してイタリアのとある部隊が真の勇者として、夜の街で浮名を流している辺り、
ドイツ人とイタリア人の気質の差が浮き彫りに成っていた。
これが、今日ドイツ人とイタリア人についてのジョークとして知られる話だった。
(了)
86 :ヒナヒナ:2012/02/27(月) 20:27:47
○あとがき&おまけ
前回の「痛リア」から微妙に続いている話。
元ネタの
名無し三流さまの「ドゥーチェのパスタ」を読み直したら、
「イタリアVS武装親衛隊の話、書いても良いのよ?」(違う)
という文章を見つけたので……すみませんでした。
○おまけ1
帝国陸海軍名も無き一般兵(夢幻会員)の会話
「リアル彼女いるとか、汚いな、さすがパスタ汚い!」
「クソッ、結局リア充かよ。爆発しろ!」
「ここは俺達の居場所なんだ。三次元で満足できる奴は入ってくるなよ……」
「三次元に片足を突っ込む輩が、二次元の真の愛を知るなどできるものか!」
ことの顛末を聞いた日本軍人(逆行者)たちはアニメ愛を解するイタリア人の
味方に付くかと思いきや、わりとそうでもなかった。
日本の重度のオタからは、こんな具合に必ずしも歓迎されているわけでもなかった。
そして、帝国陸海軍の一部で「痛リア充」という
侮蔑だか、嫉妬だか分からない言葉が生まれたという。
○おまけ2
前作、痛リア軍の情報を聞いた
夢幻会での会話
「イタリアで痛機とか……」
「元ネタ的にエスコンのエメリア共和国化か? この世界じゃ共和国じゃないが。」
「キャラ的にはシュトリゴンの気もする。
中隊で来るときよりも、アニ機一機(+無人機)の方が強いという。」
「タリズマンェ……」
「まあ、エスコン6の速攻首都陥落はヘタリアっぽかったな。」
「その後、首都奪還と女性のために命令無視の挙句、無双とかもな。」
「止めろ。主人公補正持ちがイタリア軍に現れるとか洒落にならん。」
最終更新:2012年03月05日 22:03