480:モントゴメリー:2023/02/23(木) 17:17:23 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
仏帝連合ネタSS——「退役式葬送曲」——

Petit Japon(プチ日本)世界、仮称フランス連合占領地域(旧フランス)、サン=ナゼール
現在ここではとある催しが行われようとしていた。

「催し?『宗教儀式』の間違いではないのかね?」
「そこは『祭典』ぐらいで許してあげましょうよ」

フランス連合の一員ではあるが、今回の主役ではない出席者がつぶやく。
ちなみに前者はこの世界のネット界隈では『ヤバいフランスその1』と呼ばれるブルボン朝フランス連邦帝国、後者が『ヤバいフランスその2』のボナパルト朝フランス帝国の出身者である。

「まあ良いではありませんか。我々にも利がある事なのですから」

『ヤバいけどヤバい中では一番理解しやすいフランス』ことフランス連邦の者はそう言いながら菓子を口に運ぶ。
主催者側が用意した屋台で手に入れたこの世界では失われた菓子(メリュジーヌというらしい)を二人にも勧めながら彼は続ける。

「…まあ確かに、ここまで大それた事になるとは私も想像できませんでしたがね」

事の発端は1隻の「漂流船」であった。
ブラジル海軍の空母であったその船は退役し、2019年9月に解体業務を請け負うトルコの会社が買い取った。
権利が移った後、確かに同艦は、トルコのイズミルへ向かっていた。しかし途中で、トルコの野党や環境団体が、同艦の受け入れ拒否運動を展開し始めたのである。
理由は、その船の断熱材に健康被害をもたらすとされているアスベストが数トン使われていたからである。
アスベストの正確な量は当時判明していなかったが、この抗議運動を受け2022年8月、トルコはその船が2回目の含有物検査を受けなかったことを理由に、「トルコ領海への進入は認められない」と受け入れを拒否。
その船ブラジルへ引き返したが、ブラジル側もその船の寄港を拒否。
結果2022年10月以来、その船はペルナンブコ州の沖をあてどなく彷徨っていた。
具体的にはブラジルの北東海岸に沿って円を描くようにタグボートに引かれながら、沖合を漂流していた。
まだ解体を請け負った会社は船を放棄していなかったが、ブラジル当局と調整は難航しており放棄する可能性も無くはない。
国際法上的にはブラジル海軍、ブラジル政府に法的責任があるのであるが、彼らも積極的に問題を解決しようとはしなかった。

そうこうしているうちにも、その船の状態は悪化していった。
船体に大きな裂け目が発見され、漂流開始から既に約2800リットルの浸水が確認されたのである。
これが3530リットルまで達すると安全な航行ができなくなると予想された。
この件に関して、ブラジル海軍はその船を自沈させようと考え計画を練り始めた。環境省と国防省で駆引きが始まったがこのまま行けば遠からず実行されただろう。

しかし、それに待ったをかける第三者が乱入した。
つい先日、この世界のフランスを6時間で制圧した異世界のフランスたち。
その中の一つ、「ヤバい奴らの陰にいるけどアレが一番ヤバくない?なフランス」ことフランス連邦共和国である。

481:モントゴメリー:2023/02/23(木) 17:18:04 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
彼らはブラジル政府にその船の購入を打診した。
その金額は3000万レアル。この金額は、最初に解体業務を請け負うトルコの会社が払った金額の約3倍である。
そして「誠意を示す」と称して戦艦(彼らは重巡洋艦と称しているが)で直接交渉団を送り込んできた。
そして交渉団の代表は現役の軍人、それも海軍歩兵であった。
フランス占領時、原子力機関搭載艦を沈めるのは面倒だとシャルル・ド・ゴールや潜航中の戦略原潜へ接舷斬りこみを敢行し確保してのけた化け物たちである。

砲艦外交の手本のような交渉を受け、ブラジル政府は売却を決定する。
(その際、金額を大幅値下げしようとしたブラジル側に対し、それでは申し訳ないと連邦共和国側が固辞し、最終的には2000万レアルで落ち着いた)

何故彼らはそこまでしたその船に固執したのか?
それは、その船の来歴を見れば明らかである。
その船——ブラジル海軍航空母艦「サンパウロ」は、旧名をフランス海軍の「フォッシュ」と言う。

半世紀以上もの間、務めを果たしてきた「女神」の最後が漂流の末の自沈ではあまりにも惨いと彼らはフランス連合内の会合で主張し、「フォッシュ」の受け入れとフランス国内での解体を提案した。
その突飛な提案に他の参加国は困惑したが、その中でフランス連邦は即座に賛成を表明。
曰く、武力行使によってこの世界での印象が悪くなった我々には「善行」をする必要がある。
また、この世界には他にも始末に困る老朽船が多数存在するようであるからそれらの解体を今後我々で請け負うというアピールにもなる。
これは国際貢献であり、かつ我々にとってビジネスチャンスでもあるのだ。

この主張に対し他の参加国も「反対する理由はない」と消極的ながら了承。
「フォッシュ」退役式への道は開かれた。

まず、漂流中の「フォッシュ」を迎えにフランス連邦共和国本国から「ジュール・ヴェルヌ」級工作艦と浮きドックシステムがやって来た。
『我らが指揮官』の洋上修理も想定しているこの組み合わせの前では、基準排水量3万トン未満の「フォッシュ」は幼子も同然である。
いとも簡単に収容し、「フォッシュ」の生まれ故郷であるサン=ナゼールへと連れて来た。
(「ジュール・ヴェルヌ」乗組員曰く「緊張感のある実地訓練だった」)

フランス国内でも(命知らずな)環境保護団体が受け入れ反対運動を展開したが、治安維持のため派遣されたフランス連邦共和国、国家憲兵隊治安介入部隊(GIGN)が完膚なきまでに粉砕した。
実弾や致死性の化学兵器を投入しなかった彼らを誉めてあげて欲しい。
彼らも最後の一線で理性を保ったのである。

無論、アスベスト飛散への対策も抜かりはない。
「地球にやさしい総力戦」は彼らの世界(=日蘭世界)共通の努力目標であるが故に、環境保護に関する技術も彼らは十分に有しているのだ。
その技術そのものは、この世界でも原形はあるものなので珍しいものではなかったが、それよりも実際に作業をする者たちが着用した防護服(短時間ならば宇宙にも対応できる軽装甲服)が注目された。
それ以上に騒がれたのは” Coppélia”ことアンドロイドであるが、本筋とは関係ないので割愛する。

こうして舞台は冒頭へと戻る。
丁度予定時刻となり、司会者が壇上へと現れた。

「ご来賓の皆様、大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、ブラジル海軍航空母艦「サンパウロ」にしてフランス海軍航空母艦である「フォッシュ」の退役式を始めさせていただきます。———」

482:モントゴメリー:2023/02/23(木) 17:18:50 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
以上です。
ウィキ掲載は自由です。
私もホワイトベアー氏に倣って「頭の中の声」に正直になって書きたいものを書きました。
サンパウロの最後があまりにも寂しいので、仏帝連合世界では救済いたしました。

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最終更新:2023年05月03日 18:47