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日蘭ネタ アムステルダム砲弾職人の朝は早い


砲弾職人の朝は早い。
砲弾職人は御年八〇を超えてなお現役である。
ここオランダ海上帝国が誇るアムステルダム砲兵工廠では大は戦艦、列車砲の主砲弾から小は軽迫撃砲やグレネードランチャーの砲弾まで製造される。
大半が自動化なされているがそれでも職人の仕事が無くなることはない。


「おはよう。」

「おはようございます!」


職人に工員一人が挨拶をする。
侮る様な空気は無く、寧ろ尊敬の念すら感じられる。
職人はそのまま自分の仕事場へと向かう。
仕事場に着くと早速朝礼を行い本日の業務確認に加えラヂオより流れる二百年以上の伝統を誇る鉄血体操を行い身体を解す。


『……大きく背伸び運動から。』

「「「エーン、トゥェー、ドゥリー、フィア。」」」


今日の仕事は来月に予定されているシナ中央地域への定期掃討作戦における戦死者への追悼行事で使用される予定の軽榴弾砲の砲弾の仕上げである。
砲弾生産の主軸がオートマティシーングされて以降、現在砲弾職人の主な仕事はこういった式典などで使用される砲弾の製造が主となっている。
そうした砲弾も製造ラインで作られた物を使用するのが合理的と言う者もいるがそういう問題ではないと職人は言う。


「私らの砲弾職人がね、未だこれでご飯食えてるのはもしもの時の為なんですよ。


職人はそう話ながら砲弾の弾殻を一つ一つ塗装していく。
無論砲弾の種類等情報を記した文章も養生した上で白塗りの塗料で砲弾に文字を塗装する。


「もしも生産ラインが破壊されたら?もしも電子機器が無効化されたら?そんな時にでも砲弾を作れなきゃ話になりませんよ。」


幾つもの皺と傷がある手で塗装の仕上がった砲弾を磨いていく。


「砲弾の製造出来なくて本土が攻撃を受けましたでは鉄と血に殉じた父や爺さんたちに面目が立ちませんよ。」


職人の祖父はケープ=ネーデルラント親衛連隊に所属し退役、四カ国同盟占領時は抵抗運動帝国領ケープ解放の為に奮戦し壮絶な最期を遂げられたという。
父もまたフランス制圧戦にて戦死されたそうだ。


「まあ私達の作る砲弾が実戦で試験的に使われることはあってもこの地球上で活躍することはもうないでしょう。」


職人は真剣な表情で作業しながら言う。


「あの戦争で私たち人間は国家という垣根を超えて協力出来るということを学びました。ですがそれだけじゃない。
FFRもBCもCISもあの戦争の時よりずっと大人になりました。
もうね、俺らが作る砲弾が活躍する機会は来ないですよ。
砲弾だって人を不幸にするよりは追悼だとか誰かの役に立つ方が良いに決まってる。」


職人は笑う。


「それにね鉄血に殉じた人らに贈る砲弾だ。己の血と汗を鉄に詰め込んだ砲弾の方がいいだろう?」

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以上になります。転載はご自由にどうぞ。
日蘭各国とも砲弾の人力製造は生きている悪寒で式典だとかで使われるだろうなというお話。
多分その内伝統工芸として扱われる気がする…。

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最終更新:2023年05月03日 23:26