131 :ヒナヒナ:2012/02/29(水) 21:58:36
薄暗い洋館のような内装。窓がないことからして地下室のようだ。
広間と呼ぶには手狭な部屋は、光量を抑えられたランプや燭台に照らされており、
壁には幾何学模様の書かれたタペストリー、棚には羊皮紙製の洋古書の類が並んでいる。
部屋の中央には円卓が一つ。卓を囲むように椅子に掛けているのは4人。
フードつきのローブの様なものを被っているので顔はうかがい知れない。
全員を睥睨する様に上座に座っていた男がゆらりと立ち上がる。

「皆、それぞれの任務(さだめ)の中、此度の召集に応じてもらってご苦労だった。
ではここに第32回、大日本帝国聖魔封印結社秘密集会を開催する。」

バッと、フードつきのローブを取り去ると、
そこにいたのは金モール付き階級章のついた軍服を身につけた陸軍軍人。
夢幻会一の邪気眼の使い手、富永だった。



○邪気眼派の休日



「ふっ、原罪の開放(アメリカ風邪)とはソドムの民(旧アメリカ人)もやってくれるじゃないか。」
「くっくっく、そして、原罪を解放しようとした罪深きゴモラの民(メキシコ人)は
ラピュタの雷……いやインドラの矢(核)によって裁かれた。
危ない所であったが、原罪は再びソドムの地に封印されるだろう。」
「そうなると、今世のラグナロク(世界大戦)は回避できたということか?」
「すでに第二の封印(核実験とメヒカリの分)まで解き放たれたが、
俺の右手の第三の力(メキシコシティの分)を使うには至らなかったようだな。」

全員、ノリノリだった。
ちなみにここは東京都某所にある邪気眼派の人員(独身)の自宅地下だ。
怪しさ満点の作りだが、地上部は普通の日本建築だ。
隠し扉のカラクリを作動させて地下への階段を出現させると、この地下へ入れる。
廊下の奥のカラクリ階段から降りると土塀から石塀へと代わり、
実用性のないように見えて実は複製が困難なつくりをしているという
意味不明な大型の鍵を使って入るこの部屋は、邪気眼派のサロンになっているのだ。

彼らはあまり人目を気にしなかったが(気にするようなら真の邪気眼ではない)、
彼らの趣向からして、一般人の目から隠れて活動する超人的な設定が好まれたので、
周囲からみれば、独り言が多くて偶に言動が少し怪しくなる人達という認識になっている。
ちなみにこれは邪気眼でなくとも逆行者には比較的多い性質の人間だ。
我らが帝国宰相も、傍から見ると独り言が多く(辻やアホ議員への呪詛)、
多分に妙に確信的に行動を起こす(未来知識のため)。

それはともかく、何かを知っている様な素振をしてみせるだけではつまらない。
そのため、彼らはこのような同じ趣味の人間で集まり、堂々と妄想
(前世設定だったり、封印された力だったり、所属する秘密組織だったり…)
を語る場として定期集会が実施されているのだ。

まあ、そもそも逆行者であるという事実や、
夢幻会という秘密組織の構成員であること自体が、すでに中二的ではあったが。
しかし、すでに彼らはそんな物は超越し、更なる設定を求めていたのだ。

互いに役に成りきり妄想を語り、それを自分なりに咀嚼して話を発展させ、
一つの世界観を作り出していく様子は、パッと見TRPGっぽかったが、
(ちなみにこのメンバーでTRPGをやると超展開ばかりで一向に収束しなかった)
内容は核攻撃だの、戦争だのと焦げ臭いことこの上なかった。
また、陰謀的なイメージからか、邪気眼保持者は陸軍軍人になるものが多くを占めた。

富永を筆頭に常に思わせぶりなセリフを吐き、周囲を引かせている彼らだが、
本気の邪気眼トークは内容が内容なだけ(核とか)に表では話せないのだ。
もちろん彼らとしても、自重して話していい事と悪い事はより分けてはいるが。

132 :ヒナヒナ:2012/02/29(水) 21:59:08


「さて、この場は我々がそのエターナルフォースを解放して、情報を交換する会であるが、
ここで一つ議題を提起したいと思う。」

その富永が大きな身振りで注目をひきつけた後おもむろに口を開いた。

「皆知っているが、未来の記憶を持つ者は比較的多いが、
その中で我々の様に力(邪気眼)を持つ者は一握りだ。
我々はその強大な力故に衰退の道を歩んでいるように思われる。
しかし、この力を絶やしてはならない。この力こそ非情な敵(現実)から、
同胞を守ることができる唯一の力であり、我々の真の定めだからだ。」
「力を絶やさずに守り続けると?
ふむ、他の未覚醒の能力者(非邪気眼派の逆行者)の引き込みを?」
「いや違う。今まで非能力者(この時代の人)として捉えていた中から、
封印された才能の種を見つけ出すのだ。」
「しかし、我らは少数精鋭。新たな人間は必要ありますかな。」
「ラプラスの悪魔(未来を知ることの出来る思考実験上の存在)を使役できない民に、
我らと同じ力を目覚めさせた所で、上位組織(夢幻会)への貢献にはならないのでは?」
「現状では俗世のパトスに囚われて、真の力を解放できる者は少ない。
よしんば、瞳を解放できても我々と肩を並べられる者は少ないのでは。」

面倒なやり取りであるが、富永の言う事は、
もう夢幻会からじゃなくてこの時代の一般人を、邪気眼にしてしまおうぜ。
ということなのだが周囲は困惑気味だ。
同じような価値観がないと白けてしまいかねないからだ。

「そうだな、諸君らの言うことももっともだ。
しかし、私はただ能力者を目覚めさせようとしている訳ではない。
我らが女神の下僕を増やすため、アニメを作り共鳴したものを引き込むのだ。」
「女神?アニメ?……まさか!?」
「そう……ゼ○魔だ。」
「おお、聖典か!?」
「女神クギミーのしもべを作りだすと?」
「これならばアニメ派の支援も受けられる。なにより我々の仲間となりうる下地を作りだし、
なおかつ我らが女神の信者を増やすことができる。」


奇妙な笑い声や歓声が響き渡る部屋。
それは確かに彼らが設定した通りに、怪しい雰囲気を醸し出していた。
邪気眼派=クギミー派という訳ではないのだが、
ここに集まった人間は粗方、富永に染められており、
クギミー至上主義に目覚めていたのだった。
そして、彼らの聖戦が始まる。


(了)

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最終更新:2012年03月05日 22:10