321:奥羽人:2023/03/12(日) 12:21:24 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
近似世界 イタリア戦線の一幕



モンテ・カッシーノとは、イタリア半島のローマより南東に約130km下った所に存在する、標高519mの岩山である。
カッシーノの街を見下ろせる山頂には荘厳な修道院があり、そこでは敬虔な修道士達が働き、写本を残し、そして祈りを捧げていた。

しかしこの地は、不幸にも戦略上の要衝に成り得る位置に存在しており、長い歴史の中で度々戦災を被り、幾度となく破壊の憂き目に遇ってきた。
そして、第二次世界大戦が中盤に差し掛かる頃にもまた、南からやってきた戦火に巻き込まれることとなる。




「しかし……確かに枢軸の防衛線は強固とはいえ、あんなものまで持ち込むなんてねぇ」


イタリアの風情ある……風情があった筈の街並みの残骸を、緑に塗られた兵士と兵器が進んでいる。
ここはカッシーノの街より東に十数kmの隣街である。
この先には枢軸軍の防衛線「グスタフライン」の重要地点。
ラーピド川、リーリ川、ガリリャーノ川が交差する街カッシーノがある。そして、そこは枢軸軍の全力を投入した要塞となっていた。


「使えそうな物は片っ端から投入してるんだろう。少なくとも、アレは要塞相手にはいい働きをしそうだからな」


彼らは、イタリアの爪先からゆっくりと北上してきた極東の凶悪極まりないサムライの軍勢、日本軍である。
その中でも、先鋒の機械化歩兵師団のすぐ後方を着いてきた彼ら独立野戦重砲兵連隊は、より凶悪で物騒なものを運んでいた。


「だいぶ手の掛かるお嬢様方ですがね」


腹に響く無限軌道の音を響かせるのは、巨漢の車台から20m超の重厚無比な巨大砲身を出しているオープントップの自走砲。
一目見ただけで、正気の沙汰を疑う代物。
「一式41糎自走迫撃砲」である。
重量750kgの41cm迫撃砲弾を45km先まで飛ばす怪物砲。数字だけで言えば戦艦の主砲を陸に揚げたものと言っても過言ではない。

その化け物が、この連隊には24輌ほど存在していた。





日本の使う爆撃機というのは、同時期における他国のそれと比較して爆弾搭載量が文字通り一世代違う。
これにはエンジン性能や製造技術の格差など様々な要因が絡んでくるが、重要なのは、それが戦場で敵に破滅的な効果をもたらすことである。

『黒豹1、突入する。全機続け』

沖合いに展開する最新鋭空母「翔鶴」から出撃した攻撃機彗星4機の編隊が、カッシーノの西側、未だ枢軸軍が占領している地域の上空に侵入する。

『状態は良好、目標が丸見えだ』

先発した爆装零戦隊によって、枢軸軍の対空火器はその大部分が既に制圧されており、戦場では連携の取れてない力不足な光弾が、見当違いな方向へと散発的に撃ち上がっているだけだった。
その先には、丸裸にされた枢軸軍の砲兵陣地がよく見えた。

彗星の編隊は、一本の単縦陣となって砲兵陣地へと一直線に進路を取る。その翼下には、6本のパイロンを通して30発の250kg爆弾が懸下されていた。

『投下!』

その声と共に、すべての爆弾が連続的に切り離される。各々30発の爆弾が4機、合計120発の250kg爆弾が砲兵陣地へと降り注ぐ。
これは、他国からすれば戦略爆撃機の編隊に襲われたのに等しかった。

地面に激突した爆弾が激しく炸裂し、逃げ惑う砲兵と大砲を火の波に飲み込んだ。
侵攻してくる日本軍に向けられる筈だった砲口は、その役目を果たす前に破砕されていく。
炸裂した爆弾のうち一つは、集積された弾薬のど真ん中に直撃しており、その陣地ごと隠匿された野戦砲を天高く吹き飛ばしていった。



322:奥羽人:2023/03/12(日) 12:22:32 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp


「うおっ……なんだ!?」

凄まじい地揺れが、カッシーノの岩山の斜面に築かれた枢軸軍陣地を襲う。
街に侵入してくる敵を高所から狙い撃つ為に造られた土嚢と塹壕の陣地には、MP40(史実StG44)やパンツァーファウストを持ったドイツ軍兵士達が詰められており、その全員が不安げに辺りを見回す。

「砲兵陣地がやられた!」

陣地に籠っていればそう多くの情報は入ってこない以上、何処からかの噂が隊内に蔓延するのは時間の問題だった。

「不味くないか?代わりの砲兵は?」
「このままだと、撃たれ放題になるんじゃないのか」

日本軍が戦場の一切合切を焼き尽くすのにご執心な事は、これまでの戦いからよく知られていた。
そしてイタリア人とフランス人が浮き足立つ。

「不味いな……」

砲兵陣地が破壊されたとなると敵前線部隊はともかく、敵砲兵への対抗射撃も不可能となる。
イギリス相手じゃなきゃやる気の無いフランス兵とそもそもやる気がないイタリア兵はともかく、いかに精強なドイツ軍人であっても相手の大砲と航空機から好き勝手に叩かれている中で善戦できるとは考えられない。

しかし、敵は待ってくれない。
一通りの爆撃が済んだと思われた後、日本の地上部隊が砲を撃ち鳴らしながら一斉に前進を始めたのだった。
彼らが隠れる岩山の塹壕陣地にも、他の枢軸軍と同じように砲弾が突き刺さる。

「畜生!好き勝手に撃ちやがって!」

恐ろしいことに日本軍砲兵は、師団砲兵ですらその殆どが15cmクラス以上のカノン砲を使うと聞く。
こちらの師団砲の多数を占める、75mmや100mmクラスの野砲で対抗するのは難しい。
とはいえ、その苛烈な攻撃にも彼らの塹壕陣地はよく耐え抜いているようだった。

「奴らが来たぞ!!」

土嚢に据え付けられたMG34(史実MG42)が特徴的な射撃音を鳴らし、眼下に見える街の外側に弾をばら蒔いていく。
敵までは2km程の距離があり、撃ち下ろす形とはいえ狙い撃つことは不可能であるが、少しでも敵の動きが鈍り、隊形が崩れるならそれだけでも儲けものだった。

同様に、日本軍の反撃も飛んでくる。

歩兵師団にも装甲部隊を付属させてくる日本軍らしく、市街地の川向こうには多数の日本軍戦車が集まり、長大な90ミリの主砲を絶え間なく撃ち込んできていた。
更に、枢軸軍歩兵が畏れる日本の突撃砲。日本軍が「自走歩兵砲」などと嘯くそれが放つ15cm級の砲弾によって、幾つもの機関銃陣地が掘り返されてしまっていた。

「ヤーボだ!頭下げろ!!」

そこに続けて襲撃機が飛来し、ロケット弾と機関砲を斉射していく。
なけなしの迫撃砲が数を減らし、最後の対空機関砲は無慈悲にも反撃する前にロケットの直撃で粉砕された。

「畜生!これ以上好きには────」

だが、塹壕に篭る彼らが悩む事は無くなった。
戦艦の主砲が直撃したかのような爆発が岩山を砕き、強烈な衝撃波と爆炎が塹壕陣地を兵士ごと掘り返し、そして埋め立ててしまったのだから。



323:奥羽人:2023/03/12(日) 12:24:19 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
「初弾命中!そのまま効力射!」
「効力射ってもねぇ……」

隣街の広くなっている畑の跡地には巨大な自走砲が24輌。
柔な地面を無限軌道で切り裂いて体躯に比例した巨大な轍を残し、その41cmの砲口からはもうもうと紫煙を吐き出している。
たった今、カッシーノの岩山を文字通り粉砕した砲撃を行った彼ら、独立野戦重砲兵連隊の重迫撃砲大隊は、あまりの反動に車体ごと数メートルも後退した自走砲を元の位置に前進させている。

「あー、こいつは……操行装置にガタが入ってるぞ」

威力は強大、とはいえ一発撃つと車体に何かしら不具合が起こることも稀ではなかった。

「威力は凄いんだよな、威力は」

指揮官が呟くように、その破壊力は要塞陣地を前にしても尚圧倒的であり、不具合に悩まされつつも、これまで無数に造られた枢軸軍の生半可なトーチカを地面ごと破砕してきていた。


砲弾を積んだトラックが自走砲の後ろに横付けされ、クレーンが41cm迫撃砲弾を吊り上げる。
持ち上げられた砲弾はゆっくりと揚弾トレーに乗せられ、機力で巨大な尾栓の奥へと挿入される。
装填時間は5~10分。

その間にも、近隣で全力射撃を行っている24cm自走榴弾砲の大隊が鳴らす砲声が響いてくる。
20cm級の砲なんかは、数を数える気にならない程に多い。

「こりゃあ、撃たれる側はたまったもんじゃないな」

そう言いつつ、彼らは今日も哀れな枢軸の兵士達を業火で焼き尽くすのだ。



【一式四一糎自走迫撃砲】
オープントップ式の自走迫撃砲。
武装は後装式45口径41cm迫撃砲。数字だけ見るなら戦艦の主砲レベル。
要塞化されたイタリア半島の多重防衛線を破壊する為に設計されたが、試作段階から問題が頻繁。
材料なんかに多少ズル(相当な先行技術)をしながら改良を重ね、なんとか使えるようになった。
外見的には史実ソ連の2B1オカ。

324:奥羽人:2023/03/12(日) 12:29:37 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
以上となります。
戦略上ここではあまり拙速を意識していない日本軍は、強固な防衛線にありとあらゆる火力を叩き付けながら足並み揃えて悠然と前進しております。
故に、この化け物自走砲も戦線に追随できるのです。

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最終更新:2023年05月05日 23:38