544:奥羽人:2023/03/18(土) 22:56:46 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
近似世界 イタリア戦線の一幕 2


至る所で光弾が飛び、爆炎が弾け、轟火と黒煙が空を埋め尽くすカッシーノの街。
その阿鼻叫喚の中でも、被害らしい被害を受けず悠然と立って燃える街を見下ろしている建物があった。

モンテ・カッシーノ修道院。

岩山の頂上に存在しており、そこからは市内と周辺地域を容易く見渡すことができる。
その壁材は厚く頑丈であり、徹底的な砲撃か空爆でなければ完全な破壊は困難である。
もし仮に此処を要塞化された場合、極めて優秀な防御陣地もしくは観測拠点として利用されてしまうだろう。

では、なぜ一思いに破壊しないのか?
それは、極めて政治的な理由からであった。

この修道院の歴史は古く、6世紀頃には既にキリスト教系修道院として存在していた。
そこで営まれた修道士の生活様式は西方系修道院の雛型となり、此処から多くの修道院に派生していったという経緯がある。
要するに、キリスト教の歴史において重要な施設なのである。

例えば日本国内で浅間大社や平等院を、敵に利用されるからといって問答無用の空爆で吹き飛ばしたら大問題になるように、ここも遠慮無しに破壊したら政治的・宗教的にあまり面白くない問題へと発展するかもしれない。
特に、日本軍は彼らにとっての“異教徒”なのだから尚更である。

只でさえイタリア半島遡上の最中にあれやこれやと粉砕している日本軍としては、これ以上現地人の神経を逆撫でして戦中統治に支障を来したくはない。


「だから、コレを使うという訳ですか」

「そうだ。牟田口将軍に習ってな」

「中国戦線のレポートを取り寄せていたのは、その為でしたか」




イタリアの風光明媚な山々の合間を、多数の影が飛び去っていく。
その影は、何百もの布団を叩くかのような騒々しい音を響かせ、鳥よりも幾分か速く空中を往く。
それは、日本軍の回転翼機“ヘリコプター”の集団だった。

史実BK117とUH-2を足して割ったようなデザインのそれ……“九九式回転翼機”は史実UH-1相当の性能を持っている日本軍の主力汎用輸送ヘリである。
開け放たれた側面ドアからは7.7ミリや13ミリの機関銃が眼下を睨み、その奥には完全武装の歩兵達がライフル片手に出番を待っていた。

『空軍が進路を開く、注意しろ』

「爆撃機が来るぞ!」


谷を抜け平地へと飛び出たヘリの群れの横を、空軍の九七式戦術爆撃機が抜けていった。
その数、4機。
彼らはモンテ・カッシーノの山麓に沿うよう、大きく旋回しながら爆弾倉を開く。ばら蒔かれた爆弾は、一直線に線を引くように地面へと直撃していき、次々と焔の華が咲いた。
魁として放たれた数十発のナパーム弾は、砲撃で満身創痍になりながらも麓で雑多な抵抗を続けようとしていた敵兵士を、彼らの粗末な塹壕や廃墟のバリケードごと灼熱の地獄へと叩き落としたのだ。

「フゥー!」

「派手にやりやがる!」

545:奥羽人:2023/03/18(土) 22:58:18 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
地面を好き勝手に焼き尽くした後の、纏わりつくようなどす黒い黒煙が空を遮る。
その煙に大渦の穴を空けながら突き抜けたヘリ部隊は、急上昇の後にモンテ・カッシーノの岩山の上へと出た。

『四角塔の上に歩兵、機関銃と擲弾筒(パンツァーシュレック)を持ってる』

「やはり兵力を隠していたか!掃射しろ!」

「傷つけてはいけなかったのでは?」

「崩れてなかったら誰も構わん!」

先に修道院上空を旋回した観測ヘリが、修道院内部から走り出る枢軸軍歩兵を確認する。
ヘリのドアガンが火を噴き、短翼に機関砲やロケットポッドを装備したガンシップなどと呼ばれている攻撃型のヘリから火線が伸びる。
2門の機関砲から放たれた20ミリの薄殻榴弾が修道院の壁を穿ち、石畳を削りながら応戦しようとしていた歩兵達を爆風と破片の渦に巻き込み、薙ぎ倒していった。
ヘリ部隊はそのまま修道院の側を飛び、側面に搭載されている機載用13ミリ機関銃でフロアや屋上を凪払いながら横を通り抜ける。

「よし行け!行け!」

そのまま修道院南側の少しばかり開けている土地に着地したヘリからは、1機につき11人の歩兵が飛び降りていき、すぐさま修道院守備隊との撃ち合いが始まった。
歩兵を下ろしたヘリは待避を始め、ガンシップはそのまま歩兵支援の為に修道院に対する攻撃を続ける。

「修道院3階の角部屋に機関銃!奴を黙らせろ!」

枢軸軍が侵攻を阻止するため修道院の窓から機関銃の弾幕を張るが、ガンシップのロケット弾がその抵抗を部屋ごと破砕した。

「突撃!突撃!」

垣根の陰に伏せた機関銃手が、目につく窓に向かって制圧射撃を行う。
敵が乱れて出来た隙の間に、他の歩兵は走り出して修道院に肉薄する。
彼らは2個の小隊に分かれて、一方は南側、もう一方は西側から修道院内部に侵入した。

修道院各所には枢軸軍歩兵によって即席のバリケードが築かれていたものの、そのつど擲弾筒(無反動砲)や手榴弾で吹き飛ばされ、前進を阻むには至らない。
むしろ、少しでも前進を阻まれると直ぐに爆発物を投げ込んでくる日本兵に対し、枢軸歩兵の士気がどんどん打ち砕かれていく有り様であった。 

練度から言っても、この時期に本格的な室内戦闘やCQBの訓練に取り組んでいる、もしくは取り込めるような知識・機材を有するのは日本軍だけであり、徴集兵が見知った野戦とはまた勝手の違う閉所戦闘に慣れない枢軸兵は、時間が経つごとに圧倒されていった。

「待て、撃つな!白旗だ!」

「射撃中止!射撃中止!」

結局のところ、勝ち目が限りなく薄くなった守備隊の残党兵達は、追い込まれていった結果次々と降伏していく。
そうしてヘリ部隊の降下から一時間も経つ頃には、修道院は日本軍の手中に収められることとなっていたのだ。

「司令部に連絡だ、修道院を確保、とな」

同時刻、眼下に見渡すカッシーノの街の方でも陸軍が一斉に前進を始めており、街中に立て籠る枢軸軍との激突で、半壊していた街が更なる戦火に包まれていた。

「隊長、西側の麓に敵が集結しつつありますが……」

「ああ、そっちは問題ない」

枢軸側前線で、一際大きな爆発が起こる。

「海軍の連中がやってくれるそうだからな」

それは、帝国海軍の誇る大戦艦「長門」「陸奥」そして、最新最大の化物「大和」「武蔵」
計4隻、計34門の51cm砲による砲撃だった。

546:奥羽人:2023/03/18(土) 23:01:38 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp

【牟田口 廉也(むたぐち れんや)】
大日本帝国陸軍の将官。
第二次大戦では主に中国戦線で活躍していた。
戦争初期における日本軍の華南侵攻の際に実施した、敵前線の攪乱と崩壊を企図してヘリコプターの集中運用により要所を急襲・制圧する機動作戦『ジンギスカン作戦(チンギス・ハーン、高機動力のヘリ部隊をモンゴル騎兵に見立てた命名)』を成功させ、日本軍の急速な前進に大きく貢献した。
この成功により、機動戦を新たなステージに押し上げたとして「スエズの虎」山下奉文や、「攻城兵器」栗林忠道と並んで名将と評されている。

547:奥羽人:2023/03/18(土) 23:02:12 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
以上となります。
モンテ・カッシーノの戦い 第2幕でした。

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最終更新:2023年05月05日 23:47