501 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/01/24(火) 23:42:15 ID:softbank060146109143.bbtec.net [39/63]
憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「鋼鉄の裁定 -あるいは天空神の見定め-」8
- C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月後半 17:53 朝鮮半島 鉄原ハイヴ南方およそ250㎞地点 凄乃皇コクピット
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
見事なまでの顔芸を、香月夕呼はかましていた。
彼女をして、とんでもない失態をしでかしていたことに気が付いてしまったのだ。
それに気が付いたのは先ほどの通信の最中。中座という体裁で一時通信を中断して、彼女は沸き上がる感情を思いっきり吐き出していたのだ。
「…………忘れていた」
一頻り叫び、彼女は顔を真っ青にしてぼそりとつぶやく。
意味をなさない言葉の羅列が続けて彼女の口から零れ落ちていくが、同じくコクピットにいる二人は聞かなかったことにした。
どう考えても、彼女は自らも認める失態をしてしまい、それによって正気を揺るがされてしまったのであった。
そんな深淵に落ちた状態の彼女を迂闊に観測するなど、自分から深淵に飛び込むようなものだ。
「やっちまった、やっちまったわよ……そうよ、忘れていたのよ。
その先の知識と情報なんて必要ないなんて浮かれていたのがアホみたいだわ……ああ、もう!
そうよ、この私は天才。けれど天才止まりであって、全知全能なんていうアホみたいな存在じゃないのよ。
XM3の事だって自分一人でクリアできなかったじゃないの、結局他人に頼った結果じゃないのよ。
そもそも、知っているのは社のような例外除けば私くらいなんだし……」
先ほど大洋連合軍からの問い合わせを受け、応答をしていた最中に何かに気が付いて、一時通信を切ってからこの有様。
さしものピアティフも社もかける言葉が見つからないというか、そもそも触れたくないという感情が湧いてくる。
いや、最早本能的に目の前の生物が自分たちにとって危険であると理解できたのだ。
「……ふぅー……落ち着くのよ、そう、落ち着かなくちゃ。
マラをおったてた男に追われているわけでもないし、暴走する機械人形と撃ち合っているわけでもないし、急に決まったオーディションでもないんだから」
何やら並行世界、いや違う次元の情報を受信してしまっているのか、言動がかなり危なっかしい。
言っている内容が支離滅裂ではないのはいいことかもしれないが、それでも何を言っているのか理解できない。
「……博士、大丈夫ですか?」
「……ええ、なんとかね」
片手で頭を押さえ、どす黒い空気を纏いながらも、夕呼は何とか返事を返す。
「そう、BETAが反応炉付近で何か工事をして、尚且つ光線級が減っていて、さらには地表に何かを作っている。
ええ、そう……これは私の『知っているけどまだ知らないこと』の中に類似の情報がある」
即ち、地球連合が言うところの虚憶。自分が命名した現象で言えば「受信」だ。
自分も並行世界の情報を受け取った受信者であり、G弾投下と炸裂によって時系列を無視した移動をした跳躍者だった。
それを理解していたのはいいことであるが、同時に、盲点になっていたのだ。知ったつもりになっていて、認識が追い付かないのだと。
「ピアティフ、通信を繋いでいいわ」
「大丈夫ですか?」
「ええ……急いで伝えないと、流石に危険すぎるもの」
顔色は悪い。しかして、その表情は覚悟を決めている顔だった。
今ここで自分が知っていることを話さなくては、とてもではないが看過できないことが起きるのだと、経験的に理解しているのだ。
「後、念のために記録をとっておいて。自分でも、これは戒めにすべきこととわかっているから……」
そして、通信回線を再度開き、言葉を紡いだ。
自分が受信し、これから分岐したであろう世界で自分が受け取ったであろう、情報。
それが極めて重要であり、この後の動きに密接にかかわるのだと。
502 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/01/24(火) 23:43:04 ID:softbank060146109143.bbtec.net [40/63]
- 朝鮮半島周辺南方海域 大洋連合海軍笠置型航空母艦「薬来」指揮所
その言葉は、指揮所の中において重大な重さを持っていた。
「なるほど、超重光線級……」
『ええ。オリジナルハイヴ攻略を目的とした桜花作戦の、いわば陽動のための作戦。
今の時点ではすでに陥落しているエヴェンスクハイヴ攻略作戦において、その個体は出現しました』
なぜ、夕呼がその情報を知っていて、語ることができるのか?
それは、彼女は桜花作戦のその後についての情報を受信しているからであった。
桜花作戦時において凄乃皇を狙ったのがその個体であった。そう、BETAが突如として人類同様に戦術や戦略を駆使しだしたのだ。
オリジナルハイヴにとって最も脅威となるA-04---すなわち凄乃皇を撃破することを、超重光線級がもくろんだのである。
特にその極大照射は脅威どころではない。
第一射でソ連軍の数百の極超音速再突入体と衛星軌道の数十隻の装甲駆逐艦を蒸発せしめた。
第二射はソビエト海軍太平洋艦隊第2戦隊および地上に展開していた部隊およそ2万を吹き飛ばしてしまった。
そして、その第三射が狙ったのが、前述のように凄乃皇。予め重光線級による集中照射で削るという手を使ってきたのだ。
だが、その第三射は最終的には放たれなかった。極大照射を生き延びた戦術機部隊が吶喊、なんとこれを撃破してのけたのである。
だが、今重要なのはそんな未来において登場する個体についてではない。
それがなぜ鉄原ハイヴでのBETAの行動とつながるのか、である。
それは、と夕呼は自らの考えを述べる。
『反応炉での熱源反応、そしてBETAが突如として工作活動を開始したこと。
推定ではありますが、簡易ながらもこの超重光線級の模倣をやろうとしているのではないかと考えられます』
馬鹿な、と言葉が誰かから洩れる。
そのような行動パターンはこれまでのBETAには見られていなかったことだからだ。
「だが、大侵攻以来、BETAはたびたびこれまでとは違う行動をとり始め、戦術・戦略的な行動に出ている」
柴島はそう評した。
手元のタブレットには、夕呼が虚憶から出力した超重光線級のデータが表示されている。
桜花作戦後に彼女がそれを調べ、分析した結果導き出されたデータだ、粗はあるとしても信じるに値する。
「未来においてやっていたことを、今やっても何らおかしいことではない」
『ええ。そして、今BETAが進めているのは、超重光線級に匹敵する高出力レーザーの照射でしょう。
反応炉からメインシャフトを通じてエネルギーの供給ラインを構築、そしてそれを地上で受け取り、まとまった数の光線級で集中砲撃を放つかと』
「資料にもあった、光線級のインターバル軽減の補助も行う気か……」
「だ、だが、現行の戦力にはアンチレーザー爆雷や臨界半透膜があるとのこと!それならば!」
大東亜連合軍の将官の言葉を、しかし、柴島は否定した。
「それが絶対の防御だという保証はありません。
重金属雲をものともしないほどの出力のごり押し。通常戦力や戦術機がまともに食らえば、その熱量で何らかの影響は避けえないでしょう」
503 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/01/24(火) 23:43:55 ID:softbank060146109143.bbtec.net [41/63]
例えば、と表示されるのは戦術機の簡易なイラスト。
それがレーザーに飲まれる描写がされ、時間経過とともに各所でバツ印が付けられていく。
「臨界半透膜は高熱への防御特性も与えます。ですが、これまでの想定以上のレーザーを集中照射されては、抜かれる可能性もあり得ます。
コーティングの想定はあくまでも既存の光線級や重光線級。それ以上の照射はどこまで耐えきれるか。
また、推進剤や武器弾薬などがレーザーの高熱に晒されれば、当然ですが破壊されてしまうでしょう」
柴島の推測に、誰もが顔を青くした。
殊更に、今作戦において光線級の脅威が下がったどころか0になったと思っていたβ世界の人々ほどそれはひどい。
前述のように、BETAがこの照射を弱い目標---大洋連合軍ではなくβ世界の戦力へ向けた場合にはとんでもない被害が出るのは避けえないことだ。
作戦の立案から発動までの時間が短かったために簡略化せざるを得なかったレーザーへの防御力、まさかここで響くとは。
『ですが、あくまでこれは撃たれてしまった場合の話ですわ』
「そうですね」
しかし、夕呼と柴島、そして大洋連合軍の参謀たちはあきらめてなどいなかった。
「前線に膨大な数を叩きつけつつ、それによって時間を稼いで戦術的な攻撃を狙う。なるほど、厄介です。
ですが、それはあくまでも平面の世界での話。こちらには、それらを飛び越えて砲撃を加え、作業を妨害してやればよい」
「な、なるほど……」
「こちらには航空戦力や航空艦艇による火力がある、か。それならばなんとかなるか」
とはいえ、それは対処療法にしか過ぎない。
結局のところ、ハイヴの反応炉からエネルギー供給ラインを作られて、発射されてしまっては困る。
根本的にはBETAを排除し、ハイヴを攻撃、そして反応炉を叩くことで根本からへし折ってやらなくてはならないのだ。
だから、と柴島は言う。
「というわけで、プランをF-909へ変更。各部隊に通達を。
こちらは阻止攻撃を継続しつつ、同じように準備を整えます」
「準備……?」
帝国軍将官からの問いに、柴島は不敵に笑って、断言する。
「重要目標がそこにあり、膨大な数を飛び越えていかなくてはならない。
だとするならば、我々にすべきは精鋭戦力を集中投入することによる最短ルートでのハイヴ攻略。
わかりやすく言うならば雑兵などは無視して、一点突破で鉄原ハイヴの本丸を叩くわけです」
故に、と夕呼へと視線を送って柴島は要請した。
「香月大佐、ちょっとハイヴの方まで、一気に突入してみませんか?」
『はぁ?』
当然の反応を示した彼女は、しかし、理解できてしまった。
この後、いったい自分は何をするのか、いや、何をやることになるのかを。
『正気?』
「勿論ですとも」
そう、それは地球連合が幾多の戦いで最大の戦果を挙げてきた、伝統と実績のある戦術。
「それこそ、ISA戦術ですから」
504 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/01/24(火) 23:45:11 ID:softbank060146109143.bbtec.net [42/63]
以上、wiki転載はご自由に。
意訳しますと「こそこそなんかBETAがやり出した。なんかされる前に首狩りにシフトするわ」です。
因みに夕呼先生が超重光線級のことを知っていたのは、桜花作戦後に生存しており、また極東ロシアで撃破されたそれを調べていたからですね。
最終更新:2023年08月28日 21:47