294 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/10(金) 00:12:12 ID:softbank060146109143.bbtec.net [24/110]
憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「鋼鉄の裁定 -あるいは天空神の見定め-」9
- C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月後半 19:23 朝鮮半島 鉄原ハイヴ南方およそ40㎞地点 シロガネⅡ
鉄原ハイヴを指呼の距離におさめ、シロガネⅡ率いる艦隊はいよいよ突入部隊の降下に備えていた。
艦載砲によるBETAの排除を行いつつ、進路を妨害するような大型種を優先して叩いていくのだ。
戦術機の稼働時間のことを考えれば、それこそ鉄原ハイヴギリギリまで迫った方がいいのは目に見えている。
何しろ砲撃でダメージを受けたハイヴを守るため、膨大な数のBETAが地表に湧いてきているためだった。
これらを一々相手にしていては、武器弾薬を無用に消費し、衛士たちの消耗も起こってしまう。
連合の戦力以外は、それこそメインシャフトにそのまま突入する軌道での降下が立案され、承認された。
それに先駆け、陽動と地上に湧いているBETAの漸減を行うためにベルリオーズ、ハスラー・ワン、Aの3名の率いる部隊が先行している。
それぞれが別個の門を目指しながらもBETAを適宜排除し、BETAの群れを分散させる。そして、その隙にメインシャフトにダイブ、というわけだ。
その流れを、自分用にチューンされた浜風のコクピット内で何度も確認していた武は思わず漏らした。
「なんかこれ、桜花作戦みたいだなぁ……」
当然であるが、その声は通信回線を通じてパーフェクト・ジオングに搭載されているSKにも届いていた。
『武ちゃんが体験した、オリジナルハイヴに突入した作戦の事だっけ?』
「ああ。00ユニットの純夏と霞と俺の3人で凄乃皇を操縦して、残りの面子が護衛になってな」
あの時は重光線級による集中砲火で危ういところだった。
ほかの艦艇が凄乃皇を守るために自らを盾にしたこと、さらに超重光線級が排除されたことで、凄乃皇はハイヴ内に突入できたのだ。
『……うん、なんだか、覚えはないけど覚えている気がする』
00ユニットだった純夏は、武の記憶にあるように、自分が記憶などを引っ張ってきたことによって情緒を獲得している。
ファンタズマ・ビーイング化の処置を受けてからはより顕著になったと言えるだろう。自分という因果導体の存在もあるだろうが、本当に人間と見分けがつかない。
普段こそ人格をインストールした義体などを使っているが、その気になれば遺伝情報から作り上げた体にインストールされることもできる。
もはや、生きていた状態と遜色がない。それどころか、上回っているとさえ言えるのだ。
『今度は状況が違うし、オリジナルハイヴの予行演習みたいなものだよね』
「……ああ。まだ、ハイヴを二つ落とすに過ぎないんだよな」
そして、その内の片方、フェイズ4のハイヴへと突入するのが目前なのだ。
『武ちゃん、分かっていると思うけど、気を付けてね』
「わかっているさ」
ブリーフィングでも釘を刺されたことだ。
BETAがどのような変化を起こしているか未知数である以上、ハイヴ突入も同様に危険なものになると。
未知というものは恐ろしい。そこに何はあるのかを観測しなければ正体がわからないのだから。
『やりたいことがいっぱいあるんだから、生きて帰ってよ?ほかの世界の分も、たくさんたくさんあるんだから』
「ああ……そうだな、本当に』
ループの輪から抜け出し、本当にこれで終止符を打つ最大のチャンス。
多数の並行世界において起きていた戦いを終わらせる好機。
そして、BETAを倒して、その先に行くという夢。BETAで終わりではなく、むしろ始まりなのだ。
BETAどころではない外敵が存在し、いつ何時自分たちに襲い掛かってくるかわからないという世界。
これまではたかだか地球一個の中で争っていたものが、もっと大きなスケールになっているのだ。
それでも、怯まず、前に進む。その先に臨むべき未来(明日)があると確信して。
『A-01に通達、A-01に通達。まもなく予定ポイント。パイロット各員は搭乗機にて待機せよ。
繰り返す、間もなく予定ポイントにシロガネⅡは到達する。パイロット各員は搭乗機にて待機せよ。
非戦闘要員およびメカニック班は機体射出に備え退避!』
格納庫内にアナウンスが鳴り響き、あわただしさが増していく。
機体の最終チェックを行っていたメカニック班や整備ロボットたちが退避していき、機体を投入する準備が整えられる。
自力飛行が可能なパーフェクト・ジオングなどはそのまま飛び出し、そうでない戦術機はSFSにより飛び出していく予定だ。
そして、そこからは一気呵成にメインシャフト内部を降下していく手筈だ。
295 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/10(金) 00:12:55 ID:softbank060146109143.bbtec.net [25/110]
この際に行われるのが、メインシャフトでBETAが行った工事のデータ収集だ。
他のハイヴでも建設され得るであろう、超重光線級を模した高出力レーザー砲の性能などを推測するためである。
光線級や重光線級では排除しえない航空戦力の登場や、戦術機がレーザーへの耐性を獲得したことに対する対処と思われるそれ。
今後のハイヴ攻略作戦において非常に大きな障害となりうる可能性が高いそれをよく知ることは非常に重要だ。
それこそ、得られた情報というのはヴォールクデータ同様に各国に伝えられるであろう。
ハイヴの反応炉を転用した要塞砲、あるいは戦術・戦略兵器という全く未知のそれがどれほどのモノか、見極めなくてはならない。
『先に行くわよ。あんたらもしっかりついてきなさい』
夕呼の声が通信に乗り、凄乃皇が先に出撃していった。
その巨体が重たい音を立てながらも、スムーズにハッチから送り出されていき、空中を駆ける。
凄乃皇は防御システムとしてラザフォード場を超える空間歪曲フィールドというのを備えている。
それこそ重光線級の集中砲火でさえも余裕をもって弾くことができる出力を持ち、また広範囲に展開可能とのことだ。
それを利用してレーザーを受け止める盾となる予定なのだ。その陰にいる限りにおいてだが、絶大な防御を得られるのだから利用しない手はない。
ついでにいえば、その全身に搭載されている火力での露払いというのも役割の一つだ。
メインシャフトに入ろうとする災害を見逃すはずはなく、あらゆる手で妨害してくることは確か。
それこそ飛びついてくるのもあるだろうが、それを強引に弾けるというのだから、本当に強力だ。
しかし、それを差し置いてもまさか率先して最前線に、ハイヴの中に乗り込んでいくことを選ぶとは。
「先生も度胸あるよなぁ」
その巨体が出撃していき、艦艇の防御フィールドの外に飛び出した瞬間から、光線級の群れによる大歓迎を受けるのが見えた。
それに応じて、凄乃皇の空間歪曲フィールドが形成、容易くレーザーの大量照射を受け止めた。
同時並行の形で、全身に隈なく配置されている膨大な数の火器が立ち上がり、一斉に反撃をし始める。
数としては浴びせられる光線に劣るけれども、それでも同じく光学兵器による射撃とミサイルによる弾幕が飛んでいくのが窺える。
『凄乃皇、降下軌道へ。続けてA-01戦術機部隊出撃用意』
いよいよだ、と武もまた操縦桿を握り直す。
不思議と緊張はない。むしろ、戦闘を前に心は穏やかなくらいだ。
記憶にある膨大な数の戦いを経てきたからか?用意された戦術機が強いから?味方が強いから?
そんなものが理由ではない。もっと根本的なものだ。
これまでのいずれとも「違う」、この一点に尽きる。
因果がどうとか、並行世界がどうだとか、そういうことではない。
ここで、この周回で、あらゆる因果に決着をつけるのだということだ。
選択肢や選択の結果に那由他の可能性に広がり、幾多に分散していく世界が一つに統合されていると、夕呼は今の世界を分析していた。
あらゆる可能性があるがゆえに、あらゆる確定的な未来が排除された、まっさらなループの状態。
つまり、この後どのような経過を経て、どのような結末へと向かうのかは、これから書き込まれていくということ。
まっさらな未来が待ち受けているために、人類がBETAに勝利するという未来を勝ち取れる可能性があるということ。
(今回は真っ向勝負ってことだよな)
BETAの動きは前回までの知識と同じだ。
しかし、全く未知の要素が加わっているのは事実。
まあ、それくらいは許容できる。重要なのは適応し、勝利へと向かうことだ。
『ヴァルキリーズ各員に通達、SFSに騎乗せよ』
自動操作で、浜風はSFSの上に乗り、突き出されているハンドルをしっかりと握りしめた。
しっかりと接地できているのを確認し、SFS側へと合図を送っておく。
『ヴァルキリーズ、全機、出撃準備ヨシ』
ガコン、と音を立て、SFSの固定が外され、浮遊する。
そして、一気に飛び出していく。
『ゴット・スピード!』
SFSと共に、A-01は風になった。
296 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/10(金) 00:13:41 ID:softbank060146109143.bbtec.net [26/110]
- β世界主観1999年9月後半 19:42 朝鮮半島 鉄原ハイヴ南方 上空
『見えた!メインシャフト!』
『了解!先行した凄乃皇の陰に入るわよ!ランダム回避を入れつつ加速!』
現在浜風が乗っているSFSは大洋連合から供与されたものであり、光線級の攻撃など怖くはない。
だが、弾けるからと言っていつまでもレーザー照射を受けているのは精神衛生上よろしくない。
だからこそ、すぐさま空間歪曲フィールドの内側に入ることが推奨されていたのだ。
『むむっ、そこ!』
SFSには乗らず、その巨体に見合わぬ自力飛行をするパーフェクト・ジオングは、アーム・ファンネルを展開し、射撃を開始する。
それだけでなく、各部のビーム砲を動員したフルバーストだ。特にアーム・ファンネルのビームは指の向きを細かに変えることでピンポイントで狙いを変えていた。
特に標的になるのは大型の要塞級や母艦級、さらにこちらを狙い続けている重光線級。
指それぞれが別個の目標を狙うのだから、単純計算でも30ものビーム砲のコントロールを担う状態だ。
普通ならば制御しきれないそれを、ファンタズマ・ビーイングであるSKは容易く使いこなす。
その上で巨体に内蔵された火器も惜しみなく使っているのだから、そのキル数とペースは尋常ではなかった。
『SK!そっちに気を取られるな!』
『あ、了解!』
相変わらず圧巻の火力であったが、本来すべきことはハイヴ突入だ。BETAの排除は確かに重要ではあるが、そちらにかまける暇はない。
武の声に、SKこと鑑純夏はすぐに攻撃の手を緩め、凄乃皇の展開する空間歪曲フィールドの内側を目指した。
そのパーフェクト・ジオングと並行して飛行しながら武は一言言っておくことにした。
『普通だったら死んでいたぞ』
『はい、そうでした……』
『あとでベルリオーズ先生に指導してもらおうな』
『えぇぇ……』
そう、ファンタズマ・ビーイングとなったことで衛士として拡張した能力を持つSKでも、ベルリオーズらには勝てない。
容赦なく動きの甘いところを指摘し、さらにそれが修正されるまでとことん付き合い、改善されるまで粘るので、SKの方が先に音を上げてしまう。
まあ、片や黎明期からトップリンクスとして活躍する歴戦の戦士、片やちょっと前までは一般人だったのだからむべなるかな。
むしろ衛士としての訓練を最も受けなくてはならなかったのはSKであったりするのだ。
無論電脳化したことでソフトウェアのインストールで動きを学習するのは一瞬で済ませられる利点はある。
けれども、それを意識的にコントロールし、素早い判断を行えるようになるにはやはり慣れというものが必要だった。
さらには駆け引きというものを学ばなくてはならなかったので、実のところ一番手がかかったのはSKであったのだ。
『先は長いんだ、油断するなよ?』
『はぁい……』
生身だったらあのアホ毛がしなびているんだろうな、と思いつつも、武は先ほどから続けて飛んでくるレーザーの嵐を潜り抜けていく。
戦術機より小回りは効きにくいが、出力が大きいので大きな回避を繰り返すことで狙いを絞らせない動きができるのは満足できていた。
こういった戦術機を運搬する支援航空機というのは、そう言えば思いつかなかったなと武は思う。
297 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/10(金) 00:14:13 ID:softbank060146109143.bbtec.net [27/110]
まあ、光線級への対処方法が重金属雲だよりで、基本的に空を飛ぶということができないから当たり前ではあった。
対レーザー蒸散塗膜や耐熱耐弾装甲というのも存在していたが、基本的に気休め程度でしかなかったのだ。
空を飛ぶというよりは、光線級の射線を自在に舞う戦術機の方が必要だったわけで、そういう意味ではXM3は合致していたのだろう。
(並行世界では、俺はXM3以外を提案していたのかな……)
そんなことをふと思うのだ。
並行世界の理論については夕呼から聞いたことはあるが専門用語のてんこ盛りであり、流石に理解が追い付くものではなかった。
けれど、要するに分岐点でどういう行動をとったかという「IF」があるということは理解できていた。
そういう観点で言えば、自分が戦術機を自在に動かすためにXM3というOS以外の開発を提案していた可能性もあり得たのかもしれない。
そこまで考えて、しかし、武は首を横に振った。
それはあくまでも「もしも」にすぎないのだと。今あるのはXM3であり、自分の提案で早くに接収されたXG-70。
それを武器としてAL4はBETAと戦っていくのだ。ありもせず、考えつかないものを考えても仕方がない。
(さて、ハイヴは……)
視線を前に戻せば、ハイヴのモニュメントは先だっての凄乃皇のビーム砲撃によって吹き飛ばされて、半ばで折れて崩壊しかかった状態のままだ。
ただ、違うのはそこに何やら構造物を新たにBETAが建設しつつあることであり、それを狙う攻撃をBETAが身を挺して防いでいることか。
人間でも中々にできない、個体を犠牲にして何かを守ろうとする動き。BETAの場合、途方もない数でそれを為しているというのがむしろ怖いほどだ。
『各員、これからメインシャフトを降下するわよ。
ブリーフィングで伝えたように、ハイヴ内に観測された構造物は精査するから手出ししないように』
先頭を行き、最も攻撃を受けている凄乃皇からの通信で、誰もが改めて気を引き締める。
ヴォールクデータなどを鑑みるに、内部空間はBETAが張り付いていて、こちらを全方位から虎視眈々と狙っている状態だろう。
凄乃皇は元より、それに続く戦術機なども当然ながら排除を行うべく効果のない攻撃が繰り返されている。
『前方、モニュメント残骸です!BETAの群れが、壁のように……!』
『邪魔ね、吹き飛ばしなさい』
『了解』
だが、そんな攻撃は邪魔なだけであり、同時に凄乃皇らの進む道の障害でしかない。
通信に乗った言葉に応じるかのように、凄乃皇はその胸部の大型ビーム砲を拡散照射。瞬時にクリアリングを済ませる。
『さあ、行くわよ』
そして、開かれた先は深淵。
BETAが万を超える数いるであろう、ハイヴ内部に続くメインシャフトだ。
その直径に合わせ空間歪曲フィールドが出力を修正し、突入の準備を整える。
さあ、ここから先は出たとこ勝負だ。反応炉を破壊し、このハイヴを落とす。ようやくの本番に、武は無意識に獰猛な笑みを浮かべていた。
298 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/10(金) 00:15:03 ID:softbank060146109143.bbtec.net [28/110]
以上、wiki転載はご自由に。
ちょっと長くなりましたが、ハイヴ突入です。あと一話で鉄原ハイヴは消えますねぇ…
最終更新:2023年08月28日 21:49