334 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/10(金) 23:57:16 ID:softbank060146109143.bbtec.net [35/110]

憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「鋼鉄の裁定 -あるいは天空神の見定め-」10



  • C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月後半 19:47 朝鮮半島 鉄原ハイヴ メインシャフト


 暗闇の中のハイヴは、BETAの蠢く振動と音とで満ちていた。
 メインシャフトやそこに通じているドリフト、あるいはその先にあるホールにいるBETA達が特大の災害への対処に追われているためだ。
凄まじい勢いでドリフトを疾走し、ゆっくりと降下してくる凄乃皇に襲い掛かろうとしていたのだ。
それは何も上や横だけに限らない。遥か下方、地下1000mほどの深さに存在するメインホールに陣取る光線級も同じくその攻撃の矛先を向けている。
 まさしく、そこは恐怖と死の空間であった。この暗闇の中にあって、BETAという異形の生物と正面から相対すれば、一般人ならば立ちどころに恐怖に飲まれるだろう。
人は根源的に闇を恐れ、見知っているとはいえ異形には怯えてしまうのも無理もないこと。
ましてハイヴの内部という死地であることを認識しているならば、なおのこと

 しかし、闇がそこにあるとしても、それを照らすのもまた人であった。
 蠢き、侵入者に襲い掛かるBETAを排除し、巨大な地下への道を降下していく一団が存在したのだ。
 それこそ、AL4直轄部隊のA-01。凄乃皇を主力に、戦術機である浜風らを護衛機として引き連れて、内部を進んでいたのだった。
襲い来るBETAは多い。それこそ、地上にいた時と全く遜色のないペースで現れ、降り注ぐという形でも襲い来る。

「ほんと、ワンパターンね」

 しかし、それらを凄乃皇のコクピットから眺める夕呼は悠然としたものだ。
 凄乃皇の各部に搭載されているパルスレーザーが次々とそれらを焼き落とし、あるいはビーム砲で消し飛ばされるのだ。
また、SFSで随伴している戦術機部隊による迎撃が行われていることもあって、テリトリーに引き込んだはずの凄乃皇は未だに健在だった。
 それでもなお取り付こうと必死になる個体は、凄乃皇を中心として展開されている空間歪曲フィールドに阻まれてしまう。
それを破ろうと必死にもがくのであるが、やがてフィールドの力場によって無惨にも引きちぎられ、死んでいくのがオチであった。
 そしてそれらは、夕呼が漏らしたようにワンパターンであり、あまりにも単調すぎるものであった。

 無論、こちらの消耗や疲弊を狙って物量を叩きつけるというのは決して間違いではないことである。
 しかし、今回ばかりは物量だけでは解決できない相手。突破するには数ではなく圧倒的なまでの質が要求されるのだ。
それこそ、並行世界において観測された超重光線級などのような規格外と言えるようなものが複数。
実際にそれが生まれたことを考えると、決してBETAが適応能力がないわけではないと言える。
とはいえ、だ。基本的に資源採掘を目的とする自己増殖型自立作業機械でしかないBETAとは、元々戦闘に適合しているわけではない。
たまたま災害の排除に投入されているだけであり、その本来の役目は創造主が命じたように資源採掘なのだ。
そのプロトコルに縛られているがゆえに、BETAにはそれ以上の対処を行うことができずにいたのだ。

 そして、そんな生温いBETAの歓迎を処理しながらも、凄乃皇の内部では作業が進められていた。
 その対象は、メインシャフトの壁面に這うようにして配置されている極太の構造物にあった。
 光学カメラで追いかけて行けば、それはハイヴ最奥、反応炉こと頭脳級から伸びており、地上にたどり着くのがわかるだろう。
 緩やかに降下しながらも、凄乃皇はその巨体の中に用意されていたオプション装備により、それの解析を進めていたのだ。

「観測されるだけでも相当量のエネルギーですね……」
「大量のBETAの活動を支えているであろう、膨大なエネルギーの一部なんだから当たり前でしょうね。
 通信インフラであり、エネルギープラントであり、現場指揮を担う頭脳級から供給されるそれを一点に集め、攻撃に転用。
 案外BETAも何らかの情報を受け取っているのかもしれないわね」

 眼前の構造物---仮称「ダクト」に計測機器をいくつも向け、あるいは取り付けながら、ピアティフと夕呼の会話は続く。
AL4の成果によりハイヴの情報を得た記憶を受け取っているので、夕呼には眼前のダクトの目的が何かを推測するのは簡単だった。

「受け取った情報だと、人類の兵器を分析し、解析し、BETAがそれを模倣したことによって誕生したと推測されたのが超重光線級。
 アタシが作って、カムチャツカで使われた電磁投射砲の射撃と、その残骸の一部回収が影響したと思われるそれ。
 こちらでは……あー、そうね」

335 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/10(金) 23:58:19 ID:softbank060146109143.bbtec.net [36/110]

 頭に手を当ていくらか考え込んでいた夕呼は、やがて思い当たるモノを記憶から引っ張り出す。

「同じくカムチャツカのエヴェンスク・ハイヴ攻略において用いられたアプサラスだったかしら?
 アレが影響したかもしれないわね。大型MAという質を突き詰めた個体による強力な射撃。
 ハイヴの頭脳級がそのデータを消滅間際に送信していたのならば……同じように生み出すのもおかしくない」

 そう、やろうとしていることはまさにそれなのだ。
 強力な光学兵器によるハイヴへの攻撃。全く未知のそれを、BETAは災害からの特大の妨害と認識した。
それに対してのどのような対処を行うべきかを考えた結果が、この目の前の光景にある構造物なのだろうと夕呼は推測した。

「どう、内部のG元素の動きは?」
「かなり活発ですね……おそらく光線級がG元素を用いて減衰しないレーザーを発射するのと同じ原理かと。
 ただ、この量を一気に使うということは、相当強力なレーザーが発射可能と思われます」

 やはりね、と嘆息を一つ。
 目の前のダクトはエネルギーのほか、G元素の輸送も行っていた。ほかにも生体反応があることから、これ自体が生きている可能性もある。
あるいは、細胞単位になったBETAが輸送され、地上において個体として形成されているのかもしれない。

「白銀がオリジナルハイヴで目撃し、交戦した生体構造物の一つなのかもね。
 障壁……構造としては門みたいだと言っていたけど、ハイヴの中は案外そういうのでいっぱいなのかも」
「博士、組織のサンプルおよび解析などはおおむね完了しました」
「了解したわ、霞。
 本当はこいつを引っぺがしてでも持ち帰りたいけど、無理にいじったら何が起こるか分かったもんじゃないのが悔しいところね。
 下手をすれば……」
「下手を、すれば?」
「行き場を失った膨大なエネルギーとG元素が一気に噴出して……まあ、愉快な爆発が起こるんじゃないかしら?」

 天井は空いているとはいえ、遮蔽空間であるメインシャフトの中で起こってよいものではない。
 一応空間歪曲フィールドで本体と直掩部隊は守られるであろうが、万が一があると困るのだ。何しろ大量のG元素というのはそれだけ厄介なモノなのだから。
 さて、と一つ手を叩き、夕呼は指示を飛ばした。概ね解析などが終わったならば、あとやることは決まり切っている。

「このまま最深部へ向かうわ。
 そろそろ他の突入部隊もメインシャフトに到達するようだし、うまくいけば最深部で合流できるはずよ」
「了解」
「了解。下降、再開します」

 命令が唱和され、凄乃皇は調査を終え、深部への降下を再開していく。
 未だにBETAの群れがメインシャフトに押し寄せてきているのは変わっていないが、問題は何一つ起こっていない。
 母艦級が無理やりメインシャフトから生えてきてさらに個体を吐き出したのであるが、フレキシブルビームとミサイルの乱打であっけなくノックアウトされた。

「……ほんと、バカらしいくらいに楽な仕事ね」
「はい……」

 少し荒んだ声がでてしまったな、と夕呼は自嘲する。
 だが、武から聞いた限りでは、名前だけは同じな凄乃皇は佐渡ヶ島ハイヴ攻略の要となったほどの決戦兵器だったのだ。
勿論凄乃皇単独ではなく、他の戦術機や通常戦力も合同で行った、まさしく総力戦であったことは言うまでもないことだ。
 さりとて、こうも思うのだ。こんなものを曲がりなりにも作ることができた米国が、改良と増産を進めていたらどうなっていただろうかと。
その影響力があまりにもありすぎて危険で、尚且つ何が起こるかわからないG弾ではなく、これに米国が注力していたら---そう思わずにはいられない。

336 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/10(金) 23:59:21 ID:softbank060146109143.bbtec.net [37/110]

「まあ、ユーラシアを失陥しても一枚岩になれなかったあたしたちには、ふさわしいのかもしれないけど」
「博士……」
「わかってるわよ、たらればを語っても仕方がないってね」

 そう、それはたられば、だ。
 G元素を用いたコンピューター、抗重力機関、あるいは動力機関。
 それらは結局実用化されることなく、G弾という形に帰結したのだ。
 後方国家であり、地球に残存する中において最も国力の有ったアメリカにあって、もったいない使われ方をしたのだ。

「でも、今回の活躍で大きく見直されるでしょうね……米国もいつまでG弾なんかに固執できるか見物だわ」

 最も、この凄乃皇は地球連合が開発したも同然の戦略航空要塞。既存の技術で再現するのは楽ではない。
 元々の時点でG元素が必要だったものを、さらに高度な技術で代替することで完成したのがこれなのだ。
それらを一切抜きにして同じようなパフォーマンスの兵器を作り上げるなど、それこそもう一つAL計画を進めるようなものかもしれない。
 ともあれ、と夕呼は高度計を確認する。
 すでにメインシャフトの0地点から700mほど降下してきているのがわかる。

「大佐、AおよびCの部隊を確認しました」
「あら、速いわね」

 下方を捉えるカメラに映ったのは、こちらを見上げているMSやACで構成された部隊だ。
 独特のエンブレムを排しているMSがいることから、別ルート、別の門から突入した部隊に間違いない。
彼らはハイヴ内部の構造や出現するBETAについてのデータ収集を進め、合流する手はずになっていたはずだ。

「まあ、戦術機なんかとは比較にならないのがMSなんだし、ドリフトとホールを伝って突破してくるのは不可能じゃないでしょうね」
「歴戦の衛士でも突破には苦労するのに……」
「ピアティフ、地球連合はBETA程度の敵なんて何度も退けているのよ?別に驚くことじゃないわ」

 そう言えば、と思い出す。
 彼らはBETAなど生温い侵略者に対して戦ってきたのだ。期間こそ短くとも、その短い期間にすさまじい頻度で。
そうであるならば、侵略者を払いのける度に技術は進歩し、力を確実につけてきたはずだ。そうなればBETAも所詮は雑魚ということか。

『A-01、こちらハスラー・ワン。所定のルートをただいま踏破した、合流する』
「歓迎するわ、ハスラー・ワン。これで全員ね」

 そして、メインシャフトの壁の一部を突き破ってきたのは深紅のAC「ナインボール・インレイ」だった。
彼らもまた全機健在でBETAの蠢くハイヴの内部を突破してきたようだ。体液などで汚れているようだが、損傷はまるで見当たらない。
 各部隊が収集したデータなどは一度凄乃皇に集められて、簡単に精査が行われた後、HQへと送信された。
膨大なデータであるため本来ならば時間がかかるし、重金属雲による通信障害で苦労するはずだったが、連合製のそれはその手の妨害をまるで無視した。
 貴重な、それこそヴォールクデータに匹敵する重要な情報の集合体は遅滞なく総旗艦の薬来へと送られ、受理されたのだ。
このデータは、新しい発見も含め、今後のBETA戦において大きな価値を持つことになるであろう。
BETAがとる新しい行動パターンなども含めた情報の更新は、より精度の高い訓練に直結し、BETAの排除に貢献することになるのである。

337 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/11(土) 00:00:36 ID:softbank060146109143.bbtec.net [38/110]

「さて」

 それが終わったところで、改めて夕呼はそれを見る。
 横浜基地の地下にあったのと酷似した、巨大な構造物。
 それこそが、このフェイズ4に達している鉄原ハイヴを支え、監督し、制御している頭脳級だ。
 先行して到着していたAとCの部隊によって待ち受けていたBETAは排除されており、まさしく丸裸の状態だった。
 なれば、最早やることは一つだ。

「あたしたちの一勝よ、BETA」

 その言葉とともに、凄乃皇はとどめの一撃を解き放った。
 胸部の複列大型ビーム砲が、一切の容赦を投げ捨て、何もかもを吹き飛ばしたのだ。
 β世界主観1999年9月19日 現地時刻20:17、ハイヴに突入し、信じがたい速度で最奥にたどり着いたA-01により、頭脳級は撃破。
 これによって、鉄原ハイヴはついに陥落し、リヨンハイヴ、エヴェンスクハイヴに続いて攻略された3つ目のハイヴとなった。

 そして、鉄原ハイヴの陥落に伴い完全に孤立した光州ハイヴは、ついに腹に抱えていたBETAの枯渇という事態にぶつかった。
これを好機とみて、大洋連合軍と合同で踏み込んだ帝国軍および大東亜連合軍は複数ルートからハイヴへと突入。
内部データの採取などを行った後、跡形も残さぬように頭脳級を破壊。さらにG元素の滅却も実施し完了させた。

 その後はハイヴに突入した部隊の回収が行われ、また近隣のハイヴへ逃げていくBETAの掃討戦および追撃戦が実施され、およそ150万もの個体が撃破された。
ついでのように他の近隣のハイヴから迫っていた増援も焼き払われ、それ以上の増援などがないことが確認された。
それらすべての戦闘が決着したのは現地時間の22:27。
BETAが動きをついに止め、追撃もなく、破れかぶれの特攻などもなく、安全が確保されたと判断されたのだ。
 それを以て、総旗艦である薬来より作戦領域全体およびβ世界各国に向けて、作戦成功と完了が宣言された。
 その反応は、あえて語るまい。ハイヴが二つも同時に攻略されたという前代未聞の事態に、誰もが喜びをあらわにしたのだった。

 そう、人類は、ユーラシア大陸の東側の一端を奪還することに成功したのだ。喜ばないはずはなかった。
 確かに、まだわずかな土地を奪還したに過ぎない。欧州側のリヨンハイヴ攻略に伴って奪還した地域と合わせても、広大なユーラシアのほんの一部だ。
 さりとて、敗北続きでユーラシアから叩き出されたβ世界人類からすれば、とてつもない戦果。
 この成功が、良きにしろ悪しきにしろ、今後のβ世界の情勢を大きく変化させることは誰の目にも明らか。
誰もがこの後のことを夢想し、あるいは希望を見出し、はたまた悲喜こもごもの感情を動きとするのだが、それはこの場においては省略するとしよう。
 今この瞬間だけは、喜びに身を任せることを許された時間なのだから。

338 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/11(土) 00:01:08 ID:softbank060146109143.bbtec.net [39/110]

以上、wiki転載はご自由に。
宣言通りハイヴ攻略完了……!

あとはサブタイ回収の話をやっておしまいですかねぇ
やっとこさ、ひと段落です。

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最終更新:2023年05月14日 19:15