67 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/18(土) 23:37:02 ID:softbank060146109143.bbtec.net [11/110]

憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「帳の降りた後に」2


  • C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月後半 アメリカ合衆国 国連総会


 大荒れとなった、オペレーション・ジュピターの決算たる国連総会。
 控えめに言っても紛糾したそれは何とか終わり、解散が告げられてから、それは起きた。

「なんだ…?」

 国連総会の開催されている議事堂に、軽快な音楽が流れ始めたのだ。
 その発生源は、地球連合から出席してきた集団である。
 さらには、何人かがいつの間にか服装を変えていたのである。ホログラフィックによる瞬時の着替えだ。
実際にその服を着ているわけではないが、見てくれをごまかすことくらいはできるものであった。
それこそ激しく動き回っても、その服装であることを乱さない程度には。
 しかし、その服装はなんと全身タイツである。衛士の着用する強化衛士装備にも似ているような、身体にぴっちり張り付くようなものだった。
さらには、顔を覆うようなマスクまで着用している。しかもそれは、ハロウィンでもあるまいに、カボチャであった。
ジャック・オー・ランタンといえば、より伝わりやすいであろうか。

 さしもの各国の人員も、なんだなんだと興味をそそられた。
 突如として謎の集団が現れて、この場に置いて何かをしようとしているのだから、ある意味当然だ。

 そして、イントロを終えた曲はいよいよ本番に突入する。
 ドラムのリズムとギターの戦慄が合わさり、調和を以て議事堂という空間を満たしていた。
 ただ単調なのではなく、緩急が付いており、それでいて、何かを訴えかけるかのような、そんな切なる感情が乗っていた。
軽快とは言ったものの、決して安っぽいものではない。軽くて、同時に重たい。サッと過ぎてしまいそうで、熱がこもっているのだ。

 歌詞もまた、訴えかけるものがあった。男性のボーカルの声は、最初は静かに、語りかけるように、親しい人に声をかけるようであった。
 だが、曲が進めばそうではなくなる。曲のそれに合わせるように、熱を帯び、叫び、訴えた。
 他方で、歌詞の内容は抽象的だ。具体的に何かを述べるというよりも、何かを描こうとするかのような。
それでいて、何かを感じ取ることができるのだから、音楽の魔法とは恐ろしいものか。
覇権言語ともいえる英語で歌われていることも、各国の代表に理解させる後押しをしていた。

 そして、最も奇抜だったのが、黒タイツにカボチャマスクの集団だ。
 なんと、曲に合わせて奇妙な踊りを始めたのだ。
 手をかくかくと動かしたり、体をくねらせたり、腕を左右に振ったり、曲に合わせて踊っている。

「……」
「何をやっているんだ……?」
「なんというか、うん……」

 曲にあっているんだか、あっていないんだか、微妙だ。
 だが、不思議と引き付けられる何かがある。その場にいた全員が、それから目を離せなくなってしまった。
これを止めるべき警備員などもまとめて虜にしてしまっていたのだから、奇妙な吸引力があるというべきか。
そう、魅了されたのだ。くだらないと切って捨てるには、あまりにも。

 そうして、おおよそ4分ほどの曲と踊りが終わった後には、ぱらぱらと拍手が出る程度には、彼らは好意的に見ていた。
この場において、国家間の折衝を行うというある種神聖な場において相応しいかどうかは議論の余地はあるにしても、音楽などは良かったのだ。
 それも無理からぬ話である。連合の音楽というのは、β世界の基準から見れば100年以上は洗練されたものだからだ。
 勿論流行り廃りがあり、あるいは変遷というものはある。されども、音楽という根本的なところは何一つ変わっていない。
過去の名曲が未だに奏でられ、人々の記憶に残り続けているのも、それが理由の一つである。
それらに共通して存在する主柱をしっかりとその曲は継承しており、そうであるがゆえに響いたのだ。

68 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/18(土) 23:37:48 ID:softbank060146109143.bbtec.net [12/110]

 しかし、如何に優れた曲であり、引き付けるところのあるダンスだとしても、この場に不釣り合いなのは間違いない。
その認識は、その場にいたβ世界の各国の人間に共通したものであったのは間違いない。
それを代表するようにして、国連総会の議長が、ごほんと咳払いをしたうえで注意をした。

「あー……非常に良い曲だった。
 だが、申し訳ないが、この場にはふさわしいものとは思えない。以後、注意をしてほしい」
「承知しております」

 地球連合の外交官たちの代表は、したり顔でその言葉に頷いた。
 彼とて理解はしている。ここは政治・折衝の場。まかり間違ってもダンスホールでもなければ、そういう娯楽の場ではないのだということを。
 しかし、この場において、米国の代表団がいる場においてやるべき意味があったのだ。

「ですが、これは必要なことなのですよ。
 何しろこれは---『国際協調を行わない国に反省を促すダンス』ですので」

 その言葉の意味を理解できた誰もが、一斉に噴き出した。
 議長も、各国の代表団も、あるいはこの場において進行などを司る職員などもまとめて、その意味するところを理解して、噴き出したのだ。
中には笑いをこらえきれずに身をよじって必死に抑え込もうとする人もいるほどだった。
ジョークにしても、かなりスレスレというか、攻めたどころではないモノ。ブラックジョークの領域かもしれない。
 何しろ、今回の総会の直後なのだから、それの意味するところはおのずと分かろうというものだ。
 そう、その「国際協調を行わない国」と言われれば---

「貴様ら、ふざけるのも大概にしろ!」

 英語で、その罵詈雑言の嵐が地球連合の外交団に突き刺さった。
 とでも上品とは言い難く、またイギリス訛りとは違うそれは、言うまでもなくアメリカ合衆国の代表たちから放たれたものだ。

「言う事欠いて、お前らは祖国を、アメリカを馬鹿にしているのか!?
 先ほどの話し合い以下の会議だけでなく、その後もふざけたパフォーマンスで侮辱するつもりか!?」
「別に貴国のことを言っているわけではないのですが」
「何を……!」

 アメリカの代表が思わず続きを言おうとして、慌てて随伴員によって無理やり口を防がれた。
 そう、反応しては駄目だったのだ。
 反応し、反論しようものならば、それはどういう形であれ「自分たちは国際協調をしていない国です」と発言するに等しいのだから。
故に最も最適だったのは無視してさっさとこの場を離れることであったのだ。
 しかし、それができなかった。状況が状況とは言え、それに反応してしまったのだ。各国の目がある状態で。
それを頭に血が上っていたアメリカの代表は認識できていなかったようだが、何やら言い含められることでようやく気が付いたようである。
 そして、そこでようやく周囲の状況にも気が付いた。他国の代表らが面白がって見物しているのだ。
 別に何かを言うわけでもなく、何かをするわけでもない。ただ、愉快そうに笑って眺めているだけである。

 しかして、何も言わなくとも、何を言いたいかは非常に雄弁だ。
 何しろ、どの国もオペレーション・ジュピターでの米国のやらかしに腹を立てていたのだ。国家をあげての利敵行為だったから。
さらには協定を破ってのG弾投入までする寸前だったというのだから、各国の苛立ちを誘うのに十分すぎたのである。
それらのミスを現場のミスや暴走とうそぶき、自分たちは無謬と言い張っていたのはとても信用できる国の実態ではない。
語るに落ちるというべきか、米国は自らの無能を自ら証明していたのである。

69 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/18(土) 23:38:50 ID:softbank060146109143.bbtec.net [13/110]

 これまでならば米国が圧力をかければ屈していたことであろう。
 だが、今の状況は過去とは違う。地球連合という米国以上の勢力が存在しているのだ。
そういうわけで、誰もが感情をこらえることなく、アメリカの醜態を面白がっていたのだ。
これまでさんざん米国の圧力や政治的な事情に振り回されていた各国にとっては、非常に胸がすく思いであった。
特にこの融合惑星に転移してきて以来、米国の言動などは過激になっていた。当然、各国は鬱屈し、鬱憤をためていたのだ。
それが地球連合がきっかけで噴き出した結果ともいえるだろう。

 それにあのダンスの名前も直球で、非常にズバリ言い当てていて、いっそ爽快だった。
曲としては真面目で、そのままでもよかったものと組み合わせたおしゃれとは言えないダンスが、妙な相乗効果を発揮していた。
目を閉じても、先ほどまでの踊りが瞼の裏側に残っているような気さえもしてくるほどに。

 以上の事もあり、各国は何もしない。
 米国の肩を持つこともなく、かといって連合を褒めたたえることもしない。
 ただ、状況を面白がるだけにとどめて、推移を見守るだけであるのだ。
 笑いをこらえきれずうずくまっていたり、腹を抱えて身をよじっている人員もいるが、まあ誤差であろう。

 しばらくして、状況の不利を理解し、落ち着いた米国代表は強い口調で叫んだ。

「この国連の場においてふざけた行動は慎むべきだ。
 ここは音楽を流す場でもなければ、踊りを楽しむダンスホールなどではないのだぞ!
 この件については後々抗議をさせてもらう!」

 しかし、出来たのはそれだけ。
 いかに怒ってみせようが、圧力をかけようが、まるで意味がない。
 肩を怒らせて出ていく米国の代表団は逃げるようにさえ見えて、非常に滑稽ですらある。その動きさえも、コントの一つに組み込まれているかのように。

 この出来事は、後々に米国から厳重な抗議が送られてきたのであるが、国連は地球連合に対して注意勧告をするにとどめた。
それは、米国の自分本位のふるまいに国連も看過できない状態であったことを如実に語っていたのであった。
オペレーション・ジュピターの発案に始まった一連の流れから、いや、それ以前にBETAの大侵攻の後から、国連はそれを隠せなくなったのだ。
それほどまでに、米国は協調というものを、そして常識というものを置き去りにして振舞っていたのだから。

 米国国内ではこの件は半ばなかったことにされたのであるが、他国ではそうもいかなかった。
 他国で地球連合からリリースされたその曲は、そのダンスと共に普及し、各国で爆発的にヒットしたのだ。
その意味するところは尾ひれ背びれがついて回り、アメリカの過剰な反応も相まって、面白いように普及したのだ。
 彼らはただ踊る。そこに意味を見出すのは他者であり、政治的な主張などない。
 そういう名前の踊りなだけであって、誰かを非難する意図を明確にしているわけではないのだ。
 斯くして、これらはミームとなって各国に広まる。これまでの鬱屈した世界を笑うかのように、愉快でへんてこなダンスは、一息に市民権を得たのだった。
 そして今日も、β世界のどこかで誰かが躍る。その曲に合わせ、歌いながら、あるいは流しながら、世界を少し愉快にするように。

70 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/02/18(土) 23:39:44 ID:softbank060146109143.bbtec.net [14/110]

以上、wiki転載はご自由に。
反省を促しました(晴れやかな笑顔)。

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最終更新:2023年05月14日 19:23