507 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/06(月) 23:06:18 ID:softbank060146109143.bbtec.net [57/89]
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「錆銀の国」1
- 星暦恒星系 第3惑星「星暦惑星」 サンマグノリア共和国領「グラン・ミュール」 現地時間星暦2147年8月17日
その日、サンマグノリア共和国は人の手により陥落した。
国を、残されていた領土である「グラン・ミュール」の3方向を包囲され、迎撃砲などを無力化され、地雷原を突破され、門戸を開かされた。
阻電攪乱型の存在しない晴れ渡った空に航空機が飛び回り、兵と武器などを輸送して降ろす、あるいはそのまま歩兵や車両を空挺降下していく。
これによって、事態を悟り逃げ出そうとしていた政府首脳部などは真っ先に確保され、手厚く保護されることになった。
さらにゲートを破って突破してきた歩兵たちや装甲車両などが次々となだれ込み、制圧を重ねていく。
その軍隊は、星暦惑星連合国軍---サンマグノリア共和国の被害者となった国の連合混成軍であった。
彼らの先陣を切っていく戦力の中には、サンマグノリア共和国のRMIの開発した「ジャガーノート」が含まれていた。
より正確に言えば、地球連合によりエイティシックス達を保護した際に鹵獲したそれを、各国が改良して生み出した改良型だ。
極めて軽量で、敏捷で、市街地という環境において、対人・対物という限定環境下に置いての有用性を認められたが故の採用だった。
これに錯乱したサンマグノリア共和国は「エイティシックスが反乱を起こした!」と慌て、ハンドラーたちを動員した。
パラレイドデバイスを通じて脅しをかけ、いつものように従うように命じればいいと判断していたのだ。
だが、乗っているのは各国軍人たちであり、人型の豚であり情報処理装置(プロセッサー)のエイティシックス達ではない。
パラレイドデバイスで必死に怒鳴り散らそうが、そもそも接続する相手さえも存在せず、無駄に声を出しただけで終わった。
そして軍部は各国が本気で侵攻してきた、という事実を受け入れて、軍人たちを動かそうとして---碌にできなかった。
そも、レギオンとの緒戦において正規軍が壊滅していこうは、碌な再建も進めず、雇用対策としての面が大きかったのが国軍だ。
その国軍にしても、戦闘はすべて人型の豚に任せており、やることといえばその管制や監視、あるいは管理や補給を送るだけであった。
軍人としての訓練や鍛錬?そんなものなどまともにやる人間など希少だ。銃が重いからという理由でまともに小銃の訓練さえしていない。
下手をすれば持ち方さえもおぼつかない、そんな集団がサンマグノリア共和国軍の今の姿だ。
無論のこと、歩兵が携行できる武装でレギオン相手に有効なモノというのがほとんど存在しないので、あまり意味がないというのは事実ではある。
さりとて、軍人としての規律や風紀を維持するため、あるいは本気でエイティシックス達の反乱を想定するならば、対処する手段を研鑽しておくべきだったのだ。
まあ、それは余りにも酷すぎたかもしれない。なにしろ、正規軍壊滅後に残っていた、やる気のない者や懲罰兵を主体に建て直した軍。
根っこの時点でそもそもであり、さらに全てをエイティシックス達に押し付けたために、存在意義のない集団に成り下がっていたのだ。
そも、最後通牒や宣戦布告を受けた段階で国軍本部でまともに動いた人間が少数であったのだ。
真っ先に迎撃砲や地雷原などが処理されてしまったときも、未だに現実ではないと、映画か何かと勘違いしていた人間もいたほどに。
そして彼らがしていたことといえば、勤務時間にもかかわらず惰眠を貪るか、あるいは飲酒などをするか、あるいは内職に勤しむばかりであった。
諸国が本気だと気が付いた政府が大慌てで軍に指示を出したときでさえも、動けたのは全体の1割もいなかった。それほどに、動いていなかった。
さらにひどかったのは一般市民だ。
突如として白系種以外の人間が武器を揃えて突入してきたのを、現実として受け止めなかった。
それを眺め、それまでの常識に合わせて解釈しようとして、いろいろな反応を示したのであるが、それがひどい。
ある者は催しものだと勘違いした。
ある者はエイティシックス達が反乱を起こしたと思った。「86は出ていけ!」と壁に落書きしてPRするものがいた。
またある者はレギオン達が突入してきていると考えた。一部では「ようこそレギオン」と垂れ幕を出した。
はたまた、惰眠を貪っていて、騒がしい外に向かって文句を吠える人間(動物)がいた。
自分の商売の邪魔をするなと抗議し、銃口を突き付けられて黙らされた者もいた。
総じて、今が戦時下であり、グラン・ミュールの壁の一枚向こうには戦争と死が石ころのようにあり溢れていることを忘れていたのだ。
508 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/06(月) 23:07:19 ID:softbank060146109143.bbtec.net [58/89]
無論、サンマグノリア共和国が行動する余地はあったのかもしれない。
阻電攪乱型が払われたことにより通信が回復していたことで、迎撃砲の射程外から無線で最後通牒をしていたのだから。
これは後々に文句を言われないための、あくまでもサンマグノリア共和国への懲罰が正当なものというのを担保させるためのモノだった。
とはいえ、最後通牒というからには、その後に何が控えているかは想像してしかるべきだったのだ。
それを鼻で笑い、交渉の席に着くことさえなく蹴ったのはサンマグノリア共和国自身だった。
あるいは、宣戦布告までになけなしの軍備を、グラン・ミュールの迎撃システムを立て直して抵抗することもできたかもしれない。
されども、それらはすべてIFにすぎない。
星暦惑星各国---というかほぼすべての国とサンマグノリア共和国正統政府---からの最後通牒は鼻で笑われ、まともに受け止められなかった。
その後に行われた宣戦布告も、所詮はできるわけがないと根拠のない政府の判断の下、やれるものならばやってみろと嘲笑う始末。
そして、その結果が瞬く間に行われた制圧であった。
さしもの無抵抗ぶり、そしてサンマグノリア共和国の痴呆ぶりには星暦惑星連合国も困惑したが、そういうものと割り切って行動に移した。
政府機関および国軍本部の制圧や兵器の供給源となりうる工廠の制圧。さらに治安維持の観点から重要と判断された建造物の制圧を進める。
勿論、軍や警察の駐留所などを制圧することも忘れない。抵抗を許さぬように、迅速かつ正確に行っていく。
前述のように、訓練も碌にしていない軍人や、そもそも能力の低い警察組織の制圧など容易いものであった。
装甲歩兵やそれを支える豆戦車的なジャガーノート改などを動員している星暦惑星連合国軍の優位は覆しようがなかったのだ。
兵士たちも違和感を覚えていた。
確かに、サンマグノリア共和国の唯一の平穏な場所、戦場を遠ざけた安息地という意味で、グラン・ミュール内は正しく機能していた。
そこに広がっているのは戦時下にあるにもかかわらず、平穏で、平和で、呆れるほどに安全な空間であった。
そこにはレギオンはおらず、レギオンの攻撃はグラン・ミュールと地雷原、さらには距離という縦深により防がれていた。
それこそ、各国の後方や首都などにも同じような光景があっても全く不思議ではないものがあったのだ。
しかし、制圧が進むにつれて、やがて気が付いたのだ。ここは異常だ、と。
見かける市民はすべて白系種ばかり。
彫像や彫刻などを見れば、目や肌の部分に何やら手を入れた痕跡が見える。
流れている政府からの放送---本日も戦死者ゼロを謳い、誇る内容---が耳と目に届く。
さらには、建造物やら何やらは徹底して白い。何か他の色が混じることを嫌ったかのように、その割合は圧倒的に白で占められていた。
とどめに、市民の目が印象的だ。ほとんどが死んでいるのだ。どこか空虚で、虚ろで、茫洋としている。
表情や感情をあらわにしている人間もいるのだが、あまりにも多くが何も感じさせない。
まるで、何も刺激がないところにずっと置かれていて、感覚がマヒしてしまったかのような---そんな死人に等しい顔、顔、顔。
知らなかったわけではない。聞いていなかったわけでもない。まして、認識していなかったわけでもない。
ただ、そうではないだろうと心のどこかで思っていただけだった。流石にそこまではないだろうと。
それはある種の自己防衛だった。そこまで酷いことがあるわけがないだろうという、かすかな希望。
地球連合が集めた証拠などを見ても、まだどこかで良心を期待していたのかもしれない。
しかし、それはここにきて全て裏切られた。聞いていた通りの、いや、それ以上の地獄がここには広がっていると。
壁の内側に籠り、外の世界にも、現実にも目を向けることもなく、ただただ享楽と惰性のままに生きている、おぞましい国家と国民。
いや、最早同じ人間とも思えなかった。なまじ自分たちと同じ体の構成をしていることが、恐ろしさを掻き立てた。
本当にアレは自分たちと同じ人間であり、かつては国交があった国の国民であったのだろうかと。
ここまで恐ろしいことを平気で出来るような民のいる国と、本当に付き合えていたのかと、そう疑ってしまうほどに。
今を見て、過去を疑い、そしてこの国が見ていた未来とは?
純白の壁の中であるはずなのに、仮初とはいえ平和であるはずなのに、なぜこんなにも苦しく、暗いイメージに苛まれるのか。
不安や不穏を感じながらも職務を全うしている現場の兵士たちとは別に、第一区では政治の闘争が幕を開けようとしていた。
現場の将兵たちは、グラン・ミュール第一区の方を見やり、内に沸き上がる不快感と不安を押しつぶそうと苦心していた。
509 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/06(月) 23:08:42 ID:softbank060146109143.bbtec.net [59/89]
以上、wiki転載はご自由に。
はい、おおよそ制圧終わりました。
まともな戦闘になんてなるわけないので……
地の分オンリーだったので、次の話と幕間では会話をちょっと入れます…
では、突入しました星暦惑星連合の皆様、1D10でSAN値チェックです
最終更新:2023年07月09日 21:13