709 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/17(金) 23:20:50 ID:softbank060146109143.bbtec.net [46/73]
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「錆銀の国」2
- 星暦恒星系 第3惑星「星暦惑星」 サンマグノリア共和国領「グラン・ミュール」 現地時間星暦2147年8月19日
最後通牒・宣戦布告・制圧という行程を経た日を含めて3日が過ぎたころ、おおよそ「グラン・ミュール」内部の制圧は完了した。
一部では逃げ出した政府首脳部の一部が地下に逃げ込んで籠城したり、あるいは市民が建物に立てこもって抗戦を叫んだりしたが、そう長くはもたなかった。
そも、彼らは戦う手段というものを碌に持っていなかった。もちろんグラン・ミュールの迎撃砲なども存在したが、それは外に向けられるもの。
内側に入り込まれた状態では何ら効果をなさないものでしかない。同士討ちを覚悟すれば使えるかもしれないが、その覚悟はない。
というか、すでに破壊されるなどして無力化されているで使い様がない状況だ。
ついでに言えば、その壁はすでに星暦惑星連合軍の制圧・管理下にあって脱走などがないか監視する場になっているのであった。
それでもなけなしの家財やら道具を用いてバリケードを作ったりして抵抗を試みたのであるが、当然ながらあっけなく抵抗はねじ伏せられた。
レジスタンスやパルチザンなどとも呼べないほどに武力がなく、鎮圧者がそういうことを想定していた以上は何もできないままだったのだ。
対人戦闘などを想定していたジャガーノートが皮肉にも活躍し、あるいはよく訓練された歩兵たちによって処理がなされていた。
死者はなく、負傷者がたまに出る程度で済まされたのは、殺すことを疎んだというのではない。サンマグノリア共和国の人間はそんな価値もないからだ。
少なくとも、作戦---とも呼べない単なる予定を立てた人間も、現場の兵士も、そう考えていて実行に移していた。
と、ここまでが表になるようなサンマグノリア共和国の、抵抗とも呼べないような何かであった。
しかし、ここからが、エイティシックス達の言うところの白豚の本領発揮ともいうべき事態の連続であった。
制圧が進んでいく中にあって、なんとグラン・ミュールの内部に有色種が現れたのだ。
白系種の特徴を含みながらも、髪や瞳あるいは肌の色などが、気持ち悪いほどに白いグラン・ミュールの内側の中で明らかに異色だった。
当然、各国軍は困惑した。いわゆる有色種と判断された人間は人権をはく奪され、人型の豚としてグラン・ミュールの外に追いやられたはず。
その追いやられたエイティシックス達の証言や地球連合から流された情報を鑑みるに、それは徹底して行われたはずなのだ。
「壁の内部に連れていかれて飼い殺しにされていた」
「自分たちは脅されていた」
「保護を求める」
「実験の被検体にされていた」
しかして、最初こそ証言を信じ、保護の方向で動いていた現場の兵士たちは、違和感にぶつかることになった。
切除は単純、誰も彼も、年を取りすぎているのだ。
エイティシックスは、整備士などを除けばほとんど年少の層ばかりしか残っていないのが実情だと判明している。
いま生き延びている世代より下は、強制収容所での生活に耐えきれず殆ど死に絶えているとのことだ。
あるいは生まれたばかりの赤ん坊であっても何ら容赦なく放り出され、まともに面倒も見られずに死んでしまったとも。
場合によっては兵士たちが面白半分にエイティシックス達を殺して遊んでいた、などということもあったというのだ。
つまり、利敵行為により敗北を誘引したからという理由で人型の豚という定義を押し付けた相手を、白系種は碌な扱いをしていない。
だというのに、五体満足で見るからに健康状態のよさそうな、年少ではないエイティシックスが壁の内側にいる?
710 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/17(金) 23:21:37 ID:softbank060146109143.bbtec.net [47/73]
断言しよう、あまりにもおかしい。
連合に亡命したパラレイドデバイスの第一人者の証言では、その研究過程においてエイティシックスが人体実験に使われていたが、扱いはひどいものだったという。
それこそ錯乱して自我を失ってしまい廃人になった被験者もいたというのだから、どれほどのモノかは想像だに難くない。
にもかかわらず、目の前にいるのは健康そのもので、意思もはっきりしており、施術などを受けた跡もない綺麗な体を持っていた。
続けて、その髪などに不審な点があった。有色種特有の髪の色に、わずかに白系種の色が混じっていたのだ。
それも髪の毛の根元の方あるいは生え際というラインに、ほんのわずかに、されどしっかりと存在していたのだ。
勿論、年を取ることによって白髪になってしまうということはあるだろう。けれども、その外観年齢には似合わない白髪であった。
病気やケガなどによって頭髪の色素がなくなるといったことがないわけではない。けれど、あまりにも不自然すぎた。
何しろこのグラン・ミュールの内側においては、よほどのことがなければ怪我や病気の治療などは受けられるはずなのだ。
消去法的に考えると、その白髪の生え方というのはまるで---
「まさか、こいつら……!」
軍人たちが答えにたどり着いた時、思わず漏らした声に、そして向けられた銃口に過剰なまでに反応した。
やめろ。武器を向けるな。俺たちを誰だと思っている。彼らの口から思わず漏れた言葉の内容が決定打になった。
もう、語る必要はないだろう。彼らはそろってグラン・ミュールの内側にいた白系種だった。
白系種を身の程知らずにも殺しに来たと判断した彼らの一部は、しかし、戦うのではなく、自らを偽ることを選んだ。
髪の毛を染め、あるいはカラーコンタクトレンズを付け、はたまた肌を焼くことによって外見をごまかしたのだ。
少数の偽装が明らかになれば、途端に残る有色種も怪しくなる。殊更に壁の内側にいたという年少者ではないものが。
そうして自称エイティシックス達は否応なく次々と調査を受けることになった。
そして彼らは抵抗した。有色種であることを疑うのかと悲壮な抗議の声まで上げた。
当然ながら、その程度で止めてやるわけがなかったのだが、それでも彼らは嫌に抗議をしてきた。
ともあれ、導き出された結果は、全員が黒であった。
いや、特色としては白いのだが、ともかく真っ黒そのものであったと判明した。
彼らは主に政府関係者---重要職であったり、あるいは役人程度であったりとバラバラではあったものの、外との接触と情報を得ていた人間が主体だった。
彼らは地球連合が有色種を---人権をはく奪された人型の豚であるエイティシックスを積極的に保護していることを知っていた。
当初は劣等種同士のなれ合いと嘲っていた。そんなことをしようが、優性種たる白系種に勝てるわけもないと。
所詮はエイティシックスの仲間であり、いずれはレギオンと戦う中において摺りつぶされ、疲弊し、やがて力を失うと思い込んでいた。
711 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/17(金) 23:23:00 ID:softbank060146109143.bbtec.net [48/73]
しかし、彼らの願望は外れた。
レギオンとの戦いは、各国と共同歩調をとる必要があったとはいえ、一方的な勝利で進んだのだ。
共和国が作れなかった本物の無人機を大量投入し、ギアーデ帝国さえ追いつかぬ技術をつぎ込んだ兵器を繰り出し、圧倒してしまったのだ。
疲弊や損耗などおこりはしない。消費した程度であり、地球連合の力はみじんも揺らいでいなかった。
そして、その情報が外交上のチャンネルから伝えられていても、ごく一部を除いて誰もが信じずにいたのだ。
それはともかく。
いざ宣戦布告と戦争---とも言えない規模の争い---が始まった時、彼らは自分達の身を守ろうとした。
それなりに、彼らなりに危機感があった方だと言えるだろう。宣戦布告を告げられても、そのまま暢気に生活し続けていた他の国民よりは。
最初こそどうにか逃げ出そうとしたものの、皮肉にもグラン・ミュールの存在が逃げ出すという選択肢を諦めさせていた。
なんだかんだ言って、中央にある第一区から外に行くには物理的な距離がありすぎたのだ。自ら作らせた壁に、彼らは阻まれていた。
過去と現在から目を逸らし、虚構を演出するための装置こそ、突如として現実を伴い立ちふさがったのだ。
前述のように、地下に隠れると言う手を取った人間もいたが、そうでない一部は自らの身体的特徴をごまかすことにしたというわけであった。
とはいえ、そんな泥縄のごまかしがいつまでも通用するわけもなく。
時間をかけるならばともかく、急ぎでやったために粗があり、尚且つ口裏合わせなどもできない彼らは、あっけなく馬脚を露す羽目になった。
というわけで、保護から拘束へと対処が変わり、扱いも逃亡しようとした重要人物ということで厳しくなったのであるが、さらに問題は起きた。
やれ不当な拘束だ、やれ内政干渉だ、やれ優れた白系種への迫害だと騒ぎ立て始めた。平たく言えば、逆切れし始めたのだ。
最後通牒も宣戦布告もなされた後だというのに、未だにそんなことを言い張るものだから兵士たちも困惑するしかない。
とりあえず仕事をするしかなく、身柄の拘束と移送をすることが決定。特に重要人物は厳重に監視されることになった。
それでもなんだかんだと言い放ってきたのだが、いい加減に限界が来ていた兵士が実弾を地面に一発警告として撃つと、途端に勢いが0になった。
途端にヘリ下り、言葉を引っ込め、ついでに身を縮こまらせて命乞いをしてくるのだ。
「一体なんだよこれ」
その落差は、とんでもないものだった。
先ほどまでの激高ぶりが嘘のように消え去り、怯えて、怯んで、あまつさえ泣き出す始末。
確かに銃による威嚇は、その気になれば人命を容易く奪えることの恣意行動の一つである。
だが、あまりにも効きすぎているので困惑するしかなかったのだ。精々黙らせる程度か、あるいはさらに激高すると予測していただけに、猶更。
だが、彼らはまだ知らない。第一区の重要ターゲットになった国軍本部や大統領府の人員たちも、これと同じかそれ以上の暴論を振りかざしていることを。
あるいは---このグラン・ミュールという坩堝の中で10年近くかけて醸成された、白系種の歪な精神構造に散々疲弊してしまっていることを知らない。
グラン・ミュールという器は、そこに踏み込んだ者たちを深く深く飲み込もうとしているかのようであった。
712 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/17(金) 23:24:51 ID:softbank060146109143.bbtec.net [49/73]
以上、wiki転載はご自由に。
しっかりしたまえ、星暦惑星各国諸君。
君たちはまだサンマグノリア共和国の入り口に立ったばかりだぞ。
最終更新:2023年07月09日 21:14