772 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/18(土) 20:02:08 ID:softbank060146109143.bbtec.net [58/73]

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「錆銀の国」3



  • 星暦恒星系 第3惑星「星暦惑星」 サンマグノリア共和国領「グラン・ミュール」 現地時間星暦2147年8月19日



 さて、事実上のタイムリミット---宇宙怪獣本隊の到達とそれまでのエクソダス完了---までの猶予はなく、各国は巻きで行動を開始した。
 故に、事前のサンマグノリア共和国の罪状についてはおおよそ確定していた。
 地球連合の諜報活動により獲得された情報のリークを受け、それの裏付けを行うべく行動したのである。

 制圧下に置かれた国軍本部地下に隠匿されていた戦死者のリストの回収。
電子上は存在しなくとも、幾多の資料に紛れて紙媒体で残されていた。それが共和国にいた良心ある誰かのほんのささやかな置き土産。
 強制収容所---86区にあるそこから発見された大量の白骨化死体の回収。
 さらにRMIなどに残されていた大量の人体実験の記録のサルベージ。
 何のためか、面白半分にエイティシックス達を地雷原を歩かせ、あるいは銃を浴びせて楽しむ、虐殺行為の記録の確認。
 そして、壁の内側に引きずり込まれ、パラレイドデバイスを埋め込まれ、「遊び」に使われていた幼子たちの回収とその記録の確保。

 それらは、サンマグノリア共和国の、白い国にあってヘドロよりもなお悍ましい、それでいて白い記録と証拠の集まりであった。
 これらを最初に見つけたのは地球連合であり、各国はそれを間接的には知っていた。
 とはいえ、最初は信じたくはなかったというのが正直な話であろう。
 誰だってそうだ、開戦からわずか一週間と少しで、突如として豹変したかのようにそれまでの隣人を迫害しだしたなど。
いや、迫害だけならまだマシかもしれない。戦争に負けている責任を押し付け、紆余曲折を経て、人型の豚とまで定義するなど、正気とも思えない。
そしてそんな彼らを強制労働によって使い潰し、あるいは戦場に強制的に送り込んで戦わせるなど、最早狂気そのものだ。
 それを開戦以来続けて濃縮し、ひたすらに詰め込んだものこそが、今の共和国なのだと認めるしかない。
 そしてその狂気が、誰を発端としていたにせよ、国民に受け入れられてそれを是とされたの紛れもない事実である。

 そしてそれらに大いに正気を削られながらも、各国はそれらを基に裁判と洒落込むことになった。
 まあ、これが裁判という名の内政干渉であり、敗戦国に対する戦勝国による暴力であることは否定しきれない。
とはいえ、それが戦争であり、国家戦略というものだ。人間個人の尺度と国家の尺度はまるで違うものだ。
このままサンマグノリア共和国という、人の形をした人ではない国家を何もせずに放置するなど、危険極まりないのだ。
このままでは他種の人間の迫害を続け、あるいはそれだけを理由として戦争をおっぱじめるかもしれない。
 また、星暦惑星各国がお題目としている理論や理屈に真っ向から歯向かうこれを放置しておくことは、体面上も許し得ない。
 そうして、サンマグノリア共和国に対する、星暦惑星に存在するすべての国家による裁判は幕を開けることとなったのである。

 とはいえ、早々に終わらせたくとも、そうもいかないのも事実だった。
 被告はサンマグノリア共和国のほぼ全員が該当するのだ。
 無論、民主共和制である関係上、サンマグノリア共和国政府の人間が責任を背負うという形になるのは確定である。
本来であるならば、サンマグノリア共和国のグラン・ミュール内部にいる白系種は軒並み罰したいところである。
もっと言うならば、星暦惑星各国の今後の安全保障を鑑みれば、民族浄化さえも選択肢に入れることもやぶさかではない。
そこにその考えに染まった共和国乃至共和国民がいるというだけで、すでにそれは将来的な禍根となりうるのだから。
今すぐでなくとも、宇宙怪獣が来襲するにせよしないにせよ、エクソダスの後に何年か何十年後に復讐戦を挑む可能性はある。

773 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/18(土) 20:03:11 ID:softbank060146109143.bbtec.net [59/73]

 だが、民族浄化などという手段は、サンマグノリア共和国と同じところに堕ちることになる。
 だから、せめて体面を繕える裁判によって決着をしなくてはならない。
 無秩序な暴力ではなく、サンマグノリア共和国側にも弁明の余地のある工程を経て、制御された罰を下す。
民主共和制をとっているならば、政府や軍などの関係者、殊更に重職にある人間が責任を負うことになる。
代表者というのは民衆の意志によってえらばれて権利を行使できるが、その分だけ責任を負う立場にもなる。
つまるところ、落としどころとなるスケープゴートということになるのだ。
 斯くして、裁判に向けた準備は粛々と進められることとなり、誰も彼もが急ぎで行動を重ねていくことになったのである。

 しかし、順調にいくわけもない。
 元より、サンマグノリア共和国の生き残りは開戦以来10年近くという時間を経て醸成された、白系至上主義に染まっている。
取り調べに応じようとも、会話しようともしないのは序の口。口にするのも憚れる暴言を吐き出し、脅されて口を噤むなどよくあること。
あるいは、ひたすらに取り調べに応じようとしないということもよくあったことであった。

 さらに問題が生じたのは、容疑者となる人員を収容した監獄での話であった。
 いや、これはサンマグノリア共和国の内部においても同様に生じていた問題であった。
 およそ10年という時間が過ぎた中で、サンマグノリア共和国の「食」というものは事実上破綻していたのだ。
これは無理からぬ話ではあるのだろう。国土の多くを失陥し、限られた安全地帯で食料を確保するための選択。
循環系を形成し、プラントから得られる合成食料をメインに据えて配給制を敷いたことによって、生鮮食品などほぼ存在しなくなった。
 そのため、サンマグノリア共和国国民の舌はそれに慣れきっており、それ以外を生理的に受け付けないという事態に陥ったのだ。
これは好みの問題というのもあるが、消化器官という意味合いでも問題となっていたのである。

 エイティシックス達もそうであったが、彼らの身体がそう簡単に受け付けない問題があった。
 消化器官の内部には実のところ人間が考える以上の細菌やら微生物が存在している。それも、信じられないほど大量にだ。
そしてその消化器官内に存在---否、共生している細菌や生物の働きを利用する形によって、人間は栄養素を確保する。
 だが、合成食料という形に食事が制限された場合は?語るまでもない、特定の種が生き残り、適応できない種が減っていく。
その結果として、食べても消化しきれなかったり、栄養として吸収できないまま体外に排出などということが起こるのだ。

 こんな些細なことでも足を引っ張るのか、と悪態をつきながらも、しかし各国は順次対応するしかなかった。
グラン・ミュール内部の合成食料プラントを再稼働させ、同時に食料の配給において一定の割合で混ぜる。
そして、消化酵素などを増やすための薬品を供給し、体内で消化吸収が行えるようにする。これの供給元は地球連合だ。
 最も、その薬の服用や食料を受け入れるようにする仕事は星暦惑星各国に任されているのであるが。
 未だに1000万以上の共和国民が生きており、それに対する統制などを行わなくてはならない。
想定されていたことではあったが、しかし、同時にそれだけの治安維持は楽ではない。
まして、暴力で抵抗してこないが、それでも反抗的態度を貫いている相手など、絶妙に嫌な相手である。
 それもこれも、ケリをつけるまで。各国の兵士たちも、文官たちも、それを合言葉に仕事に励むのであった。

774 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/18(土) 20:03:43 ID:softbank060146109143.bbtec.net [60/73]
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次回は原作にも出てきたアレを。
アレとは?簡単に言えば…うん、アレですね。
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最終更新:2023年07月09日 21:15