555 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/25(土) 00:25:24 ID:softbank060146109143.bbtec.net [58/78]
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「錆銀の国」4
- 星暦恒星系 第3惑星「星暦惑星」 サンマグノリア共和国領「グラン・ミュール」 現地時間星暦2147年8月20日
グラン・ミュール内部における基本的な行政は、サンマグノリア共和国から各国駐屯軍を配下に置くGHQに握られていた。
とはいうが、やっていること自体はサンマグノリア共和国施政下とそう大して変わるわけではない。
警官の代わりに軍人や憲兵が武装をしてにらみを利かせ、生活必需品や食料が配られ、あるいは監視されながらのいつも通りの生活が続く。
別段、レギオンに蹂躙されたわけでも、各国駐屯軍によって虐殺が行われたわけでもないのだ。
少々騒ぎが起こった程度で、グラン・ミュールの防衛システムの鎮圧などを除けば特段戦闘と呼べるものは起きていない。
そもそも、サンマグノリア共和国国民は殺す価値さえないのだから。
しかし、それでも共和国民の、白系種の瞳は胡乱げだ。
駐屯軍の兵士たち、あるいは徴発された拠点、はたまた各国の国旗などに対する視線は、良い感情を含んでいない。
戦争とは名ばかりだったとはいえ、彼らは何も失っていないわけではない。
彼らは、これまでの生活を、抱えていた幻想を砕かれたのだ。
レギオンとの戦争はいずれ終わるという希望を。
白系種の統べる、穢れのない純白の国土を。
いつものように迎えるはずだった、日常を。
なぜ、有色種などが共和国内を我が物顔で闊歩するのか。
なぜ、有色種に傅くようにし、施しを受けて生活しなくてはならないのか。
なぜ、有色種に指図されなくてはならないのか。
挙句、白系種が有色種に対してやって当然のことをしたのに、それを咎められる?
冗談ではない。
この国は、この世界は、この日常は、全て白系種のモノだというのに。
邪魔をしたのはレギオンであり、それを生み出した帝国だ。
そして、無人機で戦っていたのに横やりを入れてきたのは他国、有色種の国だ。
奴らがいなければ、邪魔をしなければ、もっと豚に相応しい動きをしていれば。
その騙りであり傲慢、あるいは的外れな悲嘆。不満はあるくせに何もしない怠惰。はたまた理屈も何もないただの憤怒。
ごちゃごちゃになった感情が渦巻く、まさに負の循環、あるいは負のエコーチャンバー。
彼らは突き付けられた現実を認めず、閉じこもったコミュニティの内部で無数の真実にうなずき合い、怨嗟を募らせる。
それらこそがまさに、サンマグノリア共和国の腐敗そのものだということにまるで気が付かないままであったのが、まるで救いようがなかった。
556 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/25(土) 00:26:22 ID:softbank060146109143.bbtec.net [59/78]
- サンマグノリア共和国領「グラン・ミュール」 現地時間星暦2147年8月20日 午前7時34分 第一区「リベルテ・エト・エガリテ」
「グラン・ミュール」の中央、第一区に存在する首都「リベルテ・エト・エガリテ」は、普段の賑わいを過去のものとしていた。
当然だ、普段通りの生活が失われ、政治家や軍人の多くが身柄を拘束されるか、はたまた留置所に放り込まれているがゆえに。
かろうじていつも通りなのが第一区の食料プラントくらいであり、それ以外はほとんどが静謐に包まれている。
そして、いつもは人が行きかうメインストリートには駐屯軍の兵士たちが武装を片手に、あるいは装甲車などを傍らに警邏にあたっている。
朝が来れば、いつも通りの引継ぎが行われることになっている。
夜間外出は別段禁じられているわけではないが、それでも憲兵たちの仕事が0というわけではない。
一定の時間を過ぎれば問答無用で自宅まで送られるか、それとも留置所で一夜を過ごすかになる。
それでもそのリスクを冒し、夜の闇に紛れ、何かをしでかすかもしれないので警戒に当たる必要があるのだ。
今のところはそういった直接的な反抗こそないが、間接的には、あるいはそれ以下の幼稚な反抗がよくあるのだ。
そして、第一区の片隅に設けられた検問所で今日もまた引継ぎが始まる。
ギアーデ連邦の黒鉄種の憲兵が、同じ所属の黒珀種の憲兵へと報告を行う。
「どんな具合だった?」
「静かなもんだな。夜間も警戒されているってわかったのか、抗議する連中も静かなもんだ」
ただ、と肩をすくめる。
「いつものように『餌撒き』がメインストリートに、あとはビラと横断幕だな」
「『洗濯洗剤』か」
「ああ」
疲れたような吐息と共に、書き込みがなされた地図が手渡される。
「朝の巡回の時点でこれだけ見つかっている。
あと、海賊放送をしている奴のところに踏み込むって話だ」
「面倒だな……」
「とはいえ、それが仕事だからやるしかない。やるしかないが……」
「たまったものじゃないよな」
手渡された地図には、いくつかの写真が添付されている。
それらを確認し、憂鬱気にため息をつく。
そう、直接的な反抗は見られはしない。憲兵や兵士がいれば、それだけで行動はよく視されている。
けれども、そうではない手段での反抗、あるいは程度の低い嫌がらせというのは途絶えることなく行われているのだった。
557 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/25(土) 00:27:22 ID:softbank060146109143.bbtec.net [60/78]
『洗濯洗剤』。
彼らが自称するところの「聖マグノリア純血純白憂国騎士団」。
これが目下のところ、サンマグノリア共和国の抵抗勢力として一応はリストに載っている組織だった。
最も、これがレジスタンスやパルチザンなどといった上等なものではないというのが、各国の共通見解であったのだが。
その理由は、はっきり言ってしまえばみみっちいことしかしないことにある。
アジテーション目的と思われるビラのばらまき、海賊放送、建造物の壁や地面への落書き、果ては横断幕の作成と展張。
それらすべてに共通するのが、要約すれば「有色種は出ていけ」「純白の国土を人間の手に取り戻せ」といったものであった。
あるいは、各国や各国の駐屯軍などへの誹謗中傷など枚挙にいとまがない。
「人型の豚は出ていけ」
「国土を返還せよ」
「不当な占拠をやめろ」
「86区へ出ていけ」
「誇るべき純白の国土を汚すな」
おおよそそんなところである。
はっきり言ってしまえば、よくもまあそんなことをする元気があるものだといったところか。
他にやっていることといえば、憲兵たちが話していたような「餌撒き」にある。
やっていることは単純、どんぐりなどの飼料を巡回ルートや拠点の周囲にばらまくということである。
まあ、要するに「人型の餌などこれで十分だ」と言いたいのであろう。
特に害があるわけではないのであるが、邪魔であるし、衛生的にもよろしくないものが混じることもあるため、たびたび清掃が行われている。
しかし、それ以上はしてこない。
より正確に言うならばやれないのだ。いざとなれば暴力でねじ伏せられてしまうということを理解しているのだろう。
各国がやられっぱなしというわけでもなく、下手人は逐次逮捕されている事実が広まっているということもある。
「しょうもないことには力を入れているもんだよな」
「……まったくだな」
けれど、それがずっと続いているのも、偏にそれをやるような馬鹿が出てくる母数があるからに他ならない。
そして、もっとしょうもないことが、公然の事実として各国の間には広まっている。
「『洗濯洗剤』の主宰が大統領補佐官で、それを隠さずに公言しているってのもなぁ」
「ああ……」
558 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/25(土) 00:28:21 ID:softbank060146109143.bbtec.net [61/78]
当然のことながら、その大統領補佐官であり、聖マグノリア純血純白憂国騎士団トップのイヴォーヌ・プリムヴェールの身柄は拘束されている。
しかして、彼女の最初のアジテーションの結果なのか、はたまた名前だけが使われているのか、活動はトップを抑えても収まりはしない。
「『白系種こそ優良種であり、有色種を統率し、適切に使う権利がある』なんてよくもまあ言えたもんだよな」
「変に突き抜けて度胸あると思うよ、俺は」
「ははっ、違いない」
それに、その『洗濯洗剤』はあろうことか、宣戦布告されたことを引き合いに出し、徹底抗戦を叫んでいるのだ。
なので、一応は各国はその聖マグノリア純血純白憂国騎士団を名乗るテロ組織との間に戦争状態にある。
一応そういうことになっているのであるが……件の『洗濯洗剤』が名前だけは立派な嫌がらせ集団でしかないので、戦闘さえ成立していない。
そも、制圧がなされた段階で、抵抗の原動力となる武器や兵器は奪われていたのだ。
そして抵抗するかに思われた軍人たちはまともに小銃さえ使えないという有様であったし、銃の整備さえ碌にしていないという有様。
そんなわけで、御大層なことを言う割には碌なことができないというわけであった。
それでいて、本気で各国軍を追い出し、レギオンを駆逐し、さらには宇宙怪獣さえ何とか出来ると放言しているのだから、一周回って笑えてくる。
それも、自分たちが戦うのではなく、各国が不当に奪った「部品」であり「資産」のエイティシックスを使ってと言っている。
「あそこまで突き抜けられているのは逆にすごいもんだよな」
「まあ、上に言わせれば共和国内にまともな連中は残っていないって認識らしいからな。
いっそ、そういう体験ができる国に来たって思った方がいいぞ」
空元気な憲兵たちは、しかし、自分たちに刺さる視線を感じ取る。
直接ではないにしろ、抗議の視線を送ってくる共和国の人間が多数いるのだ。
攻撃を受けるわけではないにしろ、こんなしょうもない国で仕事をしなくてはならないのが、果てしなく面倒だ。
ともあれ、命じられたことはしなくてはならない、と気を引き締めて今日の業務に取り掛かるのであった。
こんな錆びた銀の国からさっさと帰りたい。そんな本音を押し殺して。
559 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/03/25(土) 00:29:20 ID:softbank060146109143.bbtec.net [62/78]
以上、wiki転載はご自由に。
原作をリスペクトしましたが、いやー、正気度が下がるぅ。
これでもマイルドな描写で、もっと醜悪な姿を見せているんだから原作はヤベーですわ。
これで一区切りか、もっと深淵に進むかは、ちょっと考えてからにします。
最終更新:2023年07月09日 21:15