239 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/02(日) 00:00:37 ID:softbank060146109143.bbtec.net [12/83]
憂鬱SRW アポカリプス アウター・ワールド編SS 「新婚気分を強制キャンセルされたタケミカヅチの場合」
太陽系から見た外の世界---太陽系外縁天体を超え、いくつもの空間を飛び越えた先---もはや尋常な手段では早々にたどり着けぬ宇宙があった。
そこまでの距離を示すために「光年」という、光の進む距離によって定義される尺度を使わねばならない領域。
観測するには何百万年も以前の姿を光情報として得るしかないという、途方もない距離の彼方にこそ、この「外宇宙」というのは果て無く広がっている。
どこからが、という区分さえない。右も左も、上も下も、前も後ろも、全てが膨大な空間に呑み込まれそうな世界。
ともすれば、自己などという矮小な存在が押しつぶされてしまいそうな、そんな孤独で、過酷な環境がそこにあろうとする者を威圧していた。
然れども、それでもそこに生命は存在した。
極寒を通り越した停止しそうな寒さ、飛び交う放射線、果てしない暗闇、呼吸を許さぬ状況---あらゆるネガティブ要素がある。
だからといって、それに抗えないわけではない。遥か古代から積み上げてきた知恵と知啓、さらに技術がそこでの生存を可能としていた。
いや、今の時代---C.E.に至った人類は、自らの生まれた母星から遠く離れたこの外宇宙にまで足を延ばしていたのだ。
それどころか、そこにおいて、自らの母星を守るための戦いを演じるほどにまで。
これは、そんな外の世界(アウター・ワールド)の一幕。
「アポカリプス」と呼称される生命の存続をかけた生存競争の中において記録された、わずかな、しかし確固たる命の輝きであった。
- C.E.81 太陽系より○○光年 地球連合呼称「バレンシア恒星系」恒星系外延部
宇宙怪獣との最前線の一角、地球連合呼称「バレンシア恒星系」に地球連合の大艦隊は駐留していた。
現地に存在していたのはハビタブル惑星とは言い難い惑星ばかりであったのだが、そこはそれ。
生命体が存在しないならば、そこにある惑星を容赦なく資源として、あるいは拠点として利用することも容易い。
はっきり言ってしまうと宇宙怪獣とやっていることが誤差に思えてくる行動なのだが、少なくとも見境なく破壊をするよりはましと判断していた。
加えて、この恒星系の陥落はイコールで宇宙怪獣の巣の一部となることにつながるのであって、縦深が光年単位で削られることを意味する。
現地の恒星や惑星などには悪いが、これも人類が生き残るための選択なので容赦してほしい。
閑話休題。
ともあれ、現地の恒星系に存在する惑星や小惑星群を資源化したり、あるいはテラフォーミングにより拠点化した連合は日夜この恒星系で活動をしていた。
相手は数十億を平然と送り込んでくる上に、ワープや恒星間航行なども容易く行ってくる強敵だ。
恐らくではあるが宇宙怪獣側もこの「バレンシア恒星系」に狙いを定めている。定期便が襲ってくるのがその証左の一つとされている。
とはいえ、分かっているならば十分に対処しようがあるし、待ち伏せしてMAP兵器などで掃討することもできるのだ。
まあ、数のぶつけ合いではなく、質によって相手の膨大どころではない数を処理しなくてはならないのだから辛いところはある。
今はローテーションなどを維持し続けているが、今後の宇宙怪獣の襲来のペースや規模、あるいは戦略如何ではどうなるかわからないからだ。
迂闊に入り込まれれば、それこそ惑星一つなど光線ひとつ、体当たりひとつで破壊することも容易い相手なのだし。
240 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/02(日) 00:01:48 ID:softbank060146109143.bbtec.net [13/83]
さて、その最前線を支える「バレンシア恒星系」から少し---といっても光年単位---離れた抗争宙域において。
とあるアーマードコア・ネクストの一団が宇宙怪獣の群れとの交戦を行っていた。
特段珍しいことでもない。宇宙怪獣との生存戦争においては、企業連合もまた麾下の戦力を供出するということはよくあることであったから。
ただ、一つ変わっていると言えば、地球連合の最精鋭部隊「ロンド・ベル」に参加することもある、日企連所属リンクス「タケミカヅチ」の姿があることか。
この手の戦場に、それこそありふれている戦場に高級戦力がいるというのは、実はよくあることだった。
「ロンド・ベル」は最精鋭部隊であり、最強の矛---そうであるがゆえに、盾としての能力が低い難点がある。
だからこそ重要な戦場や戦域に派遣されるということが基本的には多いのであった。
彼らが派遣されるというのはまさに戦術的・戦略的に大きな意味を持つ場ということであり、今後の選択の帰趨に大きくかかわるということ。
こういういい方は非常に頭の悪い言い方だが、まさしく決戦!という場に集合できるように備えていなければならないのだ。
さりとて、彼らは何時までも腐らせるというのももったいない話である。
大事な戦力だからと言って温存しすぎるのも問題だ。彼らもまた戦場に出場し、実戦を重ね、経験などを積まなくてはならない。
腕前や感覚などを鈍らせないためであり、あるいは新装備や新機体の慣らしという面も存在する。
そのついでで、最前線における損耗を一時的にでも低下させるという意味合いもあって、こうしてありふれた戦場に赴いているのである。
そして、俗に言う「アポカリプス」の少し前に籍を入れ、幸せな結婚生活を送り損ねているタケミカヅチもまた、この「バレンシア恒星系」を訪れていた。
彼のネクストは、ある程度の射撃能力を持たせつつも、機動力と運動性を生かした近接格闘戦を主眼とする「フツノミタマ」。
今回は対宇宙怪獣を意識し、宇宙怪獣が強力な電気に弱い点を突く「エレクトロ兵装」のテストも兼ねて、それらを多数装備していた。
普段はKPブレードを装備しているところに置き換えているので、わずかな斬撃でもダメージを与えられるのは大きい。
(けどこれ、一般兵向けだよなぁ……)
自分に---フツノミタマに飛び掛かってくる宇宙怪獣を両手に持たせたエレクトロ・ブレードで次々と捌きながらも、胸中でポツリと漏らす。
人間とコンピューターの融合が織りなす剣戟は、宇宙という空間での超高速戦闘において淀みなく振るわれる。
人間の意識や感覚を拡張し、本来ならば視認さえも難しい宇宙怪獣の猛追を識別・判別し、適切に処理できるのはそれがあってこそ。
まあ、それが数百どころか数千にわたって押し寄せてくるので、それと並行して優位な位置をとることもしなくてはならないのだが。
(動き自体はOSで何とかなるし、あとは使う武器というわけだけど、強い人は何を使わせても強いからな)
241 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/02(日) 00:02:37 ID:softbank060146109143.bbtec.net [14/83]
師父なんていい例だ、と思う。
弘法筆を選ばず、とはまさにそれ。本当に強いパイロットは乗機や装備を選ぶことはないのだ。
そういう観点から言うと、自惚れを抜きにしても自分程熟達しているパイロットにこのエレクトロ兵装は不要かもしれないのだ。
いや、倒しやすいということは評価に値するのであるが、それはそれとしていつもの兵装の方が汎用性などは高くないか、と思えるのだ。
「と、きたか……」
上下左右からの、時間差での挟み撃ち。レーダーで探知できたものだけでも百を下らないそれ。
まともに捌くのはリスクが高いと瞬時に判断し、QBの複雑な連発で潜り抜け、同時にすれ違う個体を切り裂く。
ブレードが通り過ぎる、文字通り一瞬間で流された強力な電撃を喰らった宇宙怪獣の個体は、一瞬で細胞が沸騰、形状を失い、死滅した。
両手のほかにも、両肩部と両腰部に内蔵されているサブアームの剣戟も合わされば、一秒もあればそれを数百回繰り返せる。
そして、群れの合間にあえて飛び込み、通り過ぎながら一気呵成に突き抜ける。
生じるのは、数万の個体が一瞬においてその命を散らす、爆発と破壊の連鎖だ。
「!」
それを先読みしていたかのように、あるいは待ち受けていたように、宇宙怪獣の大型個体が吶喊してくる。
その個体の形状は、まるで押しつぶすことを最優先したかのように先端部が巨大な鈍器のようになっていた。
例えるならばモーニングスターの如きそれを、これまた音速を遥か後ろに置き去りにして叩きつけんとしてきた。
大きさは直径だけでも100mは余裕である。10m前半のフツノミタマを狙うにしてはオーバーキルもいいところだ。
連続して攻撃をかわし、反撃し、潜り抜けた先を待ち受けた死の罠。
だが、この程度の死など、幾度どころではない数経験していた。
刹那の操作で、エレクトロ・ブレードがフツノミタマの両腕部にトンファーのように一時的に保持され、邪魔にならないようになる。
同時に、両腕に内蔵されているKPビームキャノンが即座にチャージされ、瞬時に解放された。
コジマ粒子による分子分解能と質量弾としての特性を持つそのビームは挟み込むように迫る二体に同時に着弾。
最初こそ拮抗し、宇宙怪獣は前進を選ぼうとした。それでも、堪え切れたのはコンマ秒以下の、わずかな間。
連続照射された極太のKPビームが、核兵器さえも容易く凌ぐ耐久性を誇る体表を食い破り、内部に浸透し、中身を焼き尽くしていくのだ。
「スクラップ!」
そして、貫通と同時に、タケミカヅチの一体化しているフツノミタマは回転した。
それも、複雑な軌道を描いての、そしてビームを照射したままの状態での、全方位攻撃だ。
次の個体、次の次の個体、そのまた次の……と何百にも及び包囲を形成していた個体を、まとめて薙ぎ払う斬撃---否、最早舞踏だ。
無論のこと、コジマ粒子の距離や対象を破壊したことに伴う減衰も当然発生し、安全確保ができたのはせいぜいが十数㎞といったところ。
242 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/02(日) 00:03:39 ID:softbank060146109143.bbtec.net [15/83]
「まだ来るか……予想通り過ぎて気持ち悪い」
だから、その十数㎞の先からさらに押し寄せる。
数、数、数。ひたすらなまでの暴力だ。
これでいて、一つ一つのスペックもまた馬鹿にならないのだから面倒どころではない。
「だが、遅い」
だが、その分だけ距離さえ稼げば次の手が打てる。
リアスカート部に接続されていたコンテナから射出されたイクシード・オービットが飛び出して両腕部と連動して展開。
蓄積されていたコジマ粒子と電力を用いた強力なプライマルアーマーを形成、そして、再度チャージされた腕部KPキャノンと合わさる。
タケミカヅチに搭載されているコジマ機関が必要なコジマ粒子を一気呵成に送り込み、ビーム発生機構が興奮状態にして、準備を整え---
「KPビッグキャノン」
その言葉通りのものが、発射された。
太さは直径30mはあり、尚且つ先ほどまで振り回されていたハンドKPキャノンの射程の数倍以上を誇るビームだ。
当然ながらも威力も高い。イクシード・オービットから供給されたコジマ粒子と、そこから展開した収束用のPAによる相乗効果だ。
宇宙怪獣を貫くというよりも消し飛ばし、止まることなく伸びていく様は、一種の美しささえもある。
「消し飛べ!」
その言葉の通りに、全方位目がけた制圧砲撃が放たれた。
本来ならば、格闘戦主体となるフツノミタマに似合わぬ砲撃力。
しかし、その相手が宇宙怪獣ともあれば、これくらいは当たり前のように備えなくてはならない力であった。
「……はぁ」
一先ず、探知範囲の宇宙怪獣は概ね殲滅できた。
だが、エレクトロ兵装のテストは十分かというと、微妙なところであった。
いや、決して0というわけではないが、結局のところ射撃兵装に頼ることになった。
あるいは斬撃を飛ばして処理してしまうことも多かったわけで、直接殴り合うという場面にあたったのは割合として少ない。
(無論備えておくことに意味はあると思うが、まあ、ちょっと批評してみるか……)
既存兵装では効果が薄い相手がいたからこその、電撃を放つエレクトロ兵装なのだろうというのはわかる。
一般兵のレベルでも少しでも上乗せをしたいという開発者側の意図も、理解できないものではない。
そこを含め、現場で使う人間の意見を忌憚なく報告すべきであろう。
そう考えつつも、残りの宇宙怪獣の殲滅に参加すべく、フツノミタマはOBを起動し、一瞬で加速していった。
243 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/02(日) 00:05:00 ID:softbank060146109143.bbtec.net [16/83]
以上、wiki転載はご自由に。
浮気しました、すいません。
でも我慢できなかったのです。
最終更新:2024年10月16日 22:59