488 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/26(水) 23:23:09 ID:softbank060146109143.bbtec.net [76/155]

憂鬱SRW ファンタジールートSS「宵闇の翼、ガリアを舞う」2



  • F世界 ストパン世界 現地時間1944年10月14日9時49分 ガリア ライン川周辺係争空域「ラインの冠」 高度8000m



 「アーベント・フリューゲル」の到着と展開は、戦域における制空権の一時的な確保につながった。
 加えて空を抑えていたネウロイを次々と叩き落し、逼塞せざるを得なかった陸上戦力に自由を与えた。
 稼がれた時間としては1時間もないだろう。それでも、HQからの指示や情報が碌になかったガリア軍が統制を取り戻し、撤退を始めるまでは稼いだ。
制空権を確保したのちには、地上戦力への近接航空支援に移行したこともあり、追撃を喰らうこともなかったのだ。
 そして、ガリア陸軍が後退するのと入れ替わるように、カールスラント陸軍から派遣されてきた地上部隊が前進、布陣を完了させた。
通常兵科に加え、陸戦ウィッチや陸戦ウォーザードもそろえた豪華な陣容だ。

『クラーラ、見えている?』
『うん!もう次が来ている!』

 だが、歴戦のウォーザードで構成されている「アーベント・フリューゲル」に一切の油断はなかった。
 戦場に到着してから確かにネウロイの撃滅に成功したのであるが、これは一時的な勝利でしかない。
その証拠にすでに空と陸の両方に新たなネウロイの群れが沸き上がってくるのが見えている。
単なる小競り合いの範疇というのに、こちらの総数をはるかに上回る数を叩きつけてくるとは豪勢な話だ。
いや、元をたどればライン川越えのための無理な橋頭堡の構築にガリアが固執して、それを事前に潰すためにネウロイが出張ってきているだけなのだが。

(厄介なことをしてくれるわよね……敵より味方が厄介ってどういうことなのかしら)

 エーリカとしては内心ため息をつくしかない。
 そもそも、ライン川より向こう側、カールスラントを占拠するネウロイに対する戦略は「待ち」にある。
 つまり、ガリア解放後の後方拠点の構築や戦力および物資の蓄積を待ったうえで、可能な限り間引きをしてから攻略する時期を待つという形だった。
 故の「待ち」。持久戦というか損耗を抑えるための防衛線に終始するというのが各国の共通見解であり、戦略であったはずなのだ。
それを無視してガリア軍が軍事行動を起こすのもこれが初めてのことではない。度々引き起こしてきたことだ。
 だからこそ、わざわざガリア以外の国の軍が火消しに飛び回らなくてはならないのだ。

『エーリカ?」
『大丈夫よ……ええ、大丈夫』

 僚機のクラーラに返答しつつも、小隊長を務めるエーリカは次の指示を飛ばす。

『各小隊は分散して航空戦力の迎撃を優先して。制空権をとられたら地上の戦力が叩かれるわ。
 敵はこっちを優先的に狙ってくるし、包囲されると流石にまずいからシュヴァルムを維持して対処にあたるわよ!』
『了解!』
『了解です』
『了解しました!』

 小隊メンバーの返答を受けながらも、エーリカはサイコ・エミュレート・デバイスで速やかにマッピングを済ませる。

『今HUDに表示されているエリアを私たちは担当するわ。
 後詰は航空ウィッチたちがいるから、通常固体は彼女たちに任せること。
 私たちはクラーラを中心にとしてアーマードタイプの対処していくわよ』

 クラーラは何も狙撃だけが取り柄ではない。あらゆる分野で人並み以上の能力を発揮できる。
 そして、現状彼女の装備を最大限生かすとなれば、カラドボルグを持つ彼女を中心に据えるのがいい。
 3方向をカバーしつつ、一撃必殺のそれを撃って回れば、一つの殺戮機構として機能して数を効率的に減らせるだろう。

『じゃあ、行くわよ!』

 その声を号砲とし、B小隊はネウロイの群れへと飛翔していく。

489 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/26(水) 23:23:47 ID:softbank060146109143.bbtec.net [77/155]

 ネウロイからの砲火は激烈だった。
 AN-04「甲殻重砲型」とAN-05「狙撃砲台(スナイプカノン)型」、さらにそれに付随する通常型のネウロイからの飽和攻撃。
視界を覆いつくすように降り注ぐそれらは、一見すると隙間がないように見える。並のウィッチのシールドも容易く貫通するだろう。
 だが、こちらもそれらに備えたMPFだ。早々に落とされるわけがない。
 それらの合間を縫うように加速を叩き込み、躱し、身を翻し、シールドとバリアで潜り抜けていく。

『射撃地点、座標取得!』
『行って!』

 そして、砲撃だ。レールスマートガンの砲火がビームの隙間を綺麗に縫い、弾幕を張る甲殻重砲型を叩き落した。
たった一体と思えるかもしれないが、されども一体。その体に搭載されている砲門の数だけ、こちらを向く火砲が減るのだ。
そうすれば回避運動の先となる間隙がうまれ、相手の飽和攻撃に入り込む余地が生まれる。

『続けるわよ』

 その狙撃で空いた穴を埋めるように動くネウロイに、さらにマギリングマグナムの光条が何本も突き刺さる。
先ほど明けた小さな穴を、力づくで大きくしていくのだ。アーマードネウロイを想定に入れたそれならば、通常のネウロイは容易く消し飛ぶのも効率を上げる。
そしてそれが連続して行えば、相手の膨大な数を生かした攻撃の嵐も、付け入る隙が出てくるというものだ。

『よし、数が減ってきたよ!』
『ええ、でもネウロイも対処してきたわ』

 その言葉通りの個体が複数飛び出してくる。
 AN-06「装甲白兵(アーマードトルーパー)型」とAN-06B「高機動白兵(シュツルムトルーパー)型」だ。
名前の通りアーマードネウロイの一種であり、同時に砲撃力などではなく、近接戦闘に重きを置いたタイプとなる。
厄介なのは速力と運動性、そして文字通りの白兵戦能力。その鋭い腕による刺突はエーテルバリアや魔導反応装甲を食い破ってくるのだ。
射撃能力をある程度持っていることと合わせ、格闘戦に持ち込まれると拘束を受ける厄介な相手でもある。
 だから、やるべきは簡単だ。

『てぇー!』

 弾幕での大歓迎である。
 それぞれのヘルト・リッターが搭載しているマギリングガトリングガンおよびサブアームの30㎜アサルトライフルが火を噴く。
如何にEAと言えども無敵ではなく、攻撃にさらされ続ければ飽和して減衰し、やがては効力を失うのは周知の事実だ。
後は物理的な装甲を打ち抜けばいいわけで---

『当たって!』

 クラーラの放ったレールスマートガンがそれを成し遂げる。
 僚機の弾幕を潜り抜けようともがきながら前進したアーマードネウロイを一撃で撃破。
 エーリカ達が弾幕を張ったのを察知し、素早く連携を組み立てた結果だ。

『うう……数が多い……!
 レールスマートガン、マガジンあと2つだよ!』

 そうしてB小隊はひたすらに脅威となる航空戦力の数を減らすことに終始していたのだが、未だにしつこく追いかけられている。
アーマードネウロイは優先して撃破しているので数としては減っている。それでも後から後から押し寄せてくるのだ。
 食らいついてくるネウロイを打ち落としながら、クラーラは回線で状況を伝える。
 レールスマートガンのマガジンもいよいよラストとなったのは痛い。一射一殺、場合によっては複数貫通するこれは効率的な兵器だ。
 しかし、残念なことにかなりの数持ち込んできたマガジンも、それを上回る数のネウロイをぶつけられたら使い切ってしまう。
弾切れという敵には、どうしても実弾兵器は勝てないのだ。こうなると長大な砲身を持つレールスマートガンそのものが邪魔にもなろうというもの。

490 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/26(水) 23:24:23 ID:softbank060146109143.bbtec.net [78/155]

『クラーラ、弾はちょっと節約して!アーマードタイプの数は確実に減っているわ!』
『わかっているけど……!』

 そう、担当する空域に押し寄せてくるアーマードネウロイの数は減りつつある。
 しかし、決して0にはならず、MPFを落とそうと必死になっているのだ。
 常に数の不利を強いられる中にあって、弾切れというのは厄介な相手なのだ。

『いい加減にしてほしいわね……!』

 背部に搭載されている50㎜カノン砲をまとめて叩き込んで、吶喊してきた装甲白兵型を叩き落しながら、エーリカは悪態をつく。
 現在のところ、制空権はぎりぎりこちらが握っている。展開した「アーベント・フリューゲル」の奮戦で敵主力のアーマードネウロイが減り続けているためだ。
 だが、逆に言えば「アーベント・フリューゲル」が抜けた瞬間に制空権はあちら側に握られるということ。
当初の目的であるガリア軍の撤退は完了し、現在はカールスラント陸軍によって地上は支えられている形だ。
その状態がキープされているのは偏に制空権の確保による陸上戦力の自由と、弾着観測、そして航空支援あってのこと。
 けれども、「アーベント・フリューゲル」も疲労するし弾は減るし、長時間の戦闘でミスだって出てくるのが自然なものだ。
 やむなし、と判断し、戦闘を継続しながらも通信を繋いだ。

『HQ、こちらアーベント・フリューゲルB小隊。
 戦闘継続により、弾薬の消耗が激しい。補給のため後退の許可を求める』
『こちらHQ。残念だがそれは難しい。次のネウロイの群れがレーダーに探知された。
 ここで制空権が奪われると地上戦力が打撃を受ける、何とか持ちこたえてくれ』
『ですが、その為の装備がなくなりつつあるのです』

 HQも状況を把握しているのだろう。
 ガリア軍の救援という意味では目的は達成している。同時に、如何に引き際を見定めるかという問題にぶつかっている。
敵の殲滅乃至大多数の撃墜で相手が自然に撤収していくならばまだいい。けれど、増援が絶え間なく押し寄せてくると下がるに下がれないのだ。
オーバーロード作戦の時にエーリカも経験したことだ。絶え間ない物量を食い止めるとは、こういうことなのだと。
 というか、だ。

『後続の部隊は?』

 そう、ここに投入されているMPF部隊は何もアーベント・フリューゲルだけではなかったはずだ。
 MPFの強みがこれだ。魔導士並みに数を揃え、ウィッチ以上の戦闘力を誇るといういいとこどりという特性。
そうであるため、訓練期間こそ長くなるものの、それでも戦力を揃えやすく、この戦域にも他の部隊がいたはず。

491 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/26(水) 23:25:00 ID:softbank060146109143.bbtec.net [79/155]

 そのようにブリーフィングでは伝えられており、その彼らの所在を聞く。彼らとバトンタッチできれば。その思いは、しかしむなしく裏切られた。

『別方面……ポイントR23にガリア陸軍の生き残りがおり、そちらの救援に向かっており、現在交戦中です』
『あー……もう!』

 そう、HQとの情報リンクで、孤立したガリア陸軍の生き残りがいることが伝えられたのだ。
 彼らを見殺しにできるわけもなく、本来は交代要員として控えていた後続のMPF部隊がそちらに振り分けられたのだろう。
救援に来たのに、確認された友軍を見捨てるなど本末転倒だ。その様に采配されたのも無理からぬ話か。
 少しは建設的に考えよう、とエーリカは問いかける。

『……どれくらいかかる?』
『あと30分はかかるかと。負傷者が多いため、後退速度が遅くなっているとのことです』
『……わかったわ、出来るだけこっちは粘るわ』
『ご武運を』
『可能なら、ウィッチか誰かに少しでも弾薬を持たせてこっちに送ってくれると助かるわ』
『何とかします』
『ええ、お願い』

 ベストではないが、ベターか。そう割り切り、エーリカは通信をB小隊につなぐ。

『各員、聞いて。
 後詰の部隊が野暮用で遅れることになったわ。
 後最低でも30分はここを支えないとならなくなった』
『嘘でしょ……?』
『え、武器とか消費しているのに……』
『騒がないの、この程度よくあったことなんだから』

 そう窘めるしかない。
 よくあることだ、特にオーバーロード作戦を経験したウィッチならば嫌というほど聞いた。
 アレに比べれば、遥かに状況はマシだ。まあ、その原因がガリアの野放図に部隊を展開させたというのが許しがたいが。

『カールスラントの精鋭の意地、見せてやろうじゃない』

 相手が格闘戦を挑んでくるならば、こちらもそれで応じるまで。
 こういう時のためにと用意されていたエーテルブレードを引き抜いて、エーリカは獰猛な笑みを浮かべる。

『ウィッチ上がりを舐めてもらっては困るわね、ネウロイ!』

 そして、次なるネウロイの群れは押し寄せてくる。
 それに対し、彼女らは臆することなく飛び掛かっていく。
 彼女らはウォーザード。戦う魔法使いなのだから。

492 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/26(水) 23:25:33 ID:softbank060146109143.bbtec.net [80/155]
以上、wiki転載はご自由に。
この後無茶苦茶格闘戦をした。

あと1話か2話+設定集でおわりですかね。
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最終更新:2023年08月23日 22:57