624 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/28(金) 23:25:05 ID:softbank060146109143.bbtec.net [105/155]

憂鬱SRW ファンタジールートSS「宵闇の翼、ガリアを舞う」3


  • F世界 ストパン世界 現地時間1944年10月14日10時5分 ガリア ライン川周辺係争空域「ラインの冠」 高度8000m



 装甲白兵型が脅威であるのは、その名の通り白兵戦を仕掛けてくることにあるだろう。
 通常のネウロイならば接近してくる前に銃火器によって撃ち落とすことが可能であり、あるいは距離をとることで対応できるからだ。
そもそも、航空戦において彼我の距離と速度差というのは防御を与えてくれるものである。故に白兵戦がそもそも成立しにくいのだ。

 勿論、白兵戦に備えて銃火器ではなく刀や剣といった武器を持つウィッチなどがいなかったわけではない。
銃火器の未発達の時代において、ウィッチはそれらを用いて戦っていたという記録も残っているのであるし。
そして固有魔法の中には近接戦、殊更に白兵戦で使うモノを発現させるウィッチもいるため、現代でも現役ではある。
 だが、それらはウィッチという中にあっては、殊更に航空ウィッチでは極めて少数なのである。

 故にこそ、装甲白兵型が防御力により攻撃を凌ぎ、直接殴りかかってくるというのはウィッチ達にとっては未知の領域に取り込まれたに等しい。
それによって落とされたウィッチの数は決して馬鹿にならない。下手をしなくとも四肢の欠損なども起こりうる相手であるのだし。
 更に物理的な攻撃力を、それもシールドを切り裂く切断力を備えた一撃はシールド依存のウィッチにとってはクリティカルだった。
安定したバリアを張り、更に物理的な装甲を備えるMPFでさえも油断ならないのだから危険度は言うまでもなし。

 しかし、前線でそのようなことが起こっているわかってからの対応は早かった。
 ウィッチでも携行・運用が可能な魔導格闘兵装の開発と配備、さらに近接戦闘訓練の実施を行い始めたのだ。
泥縄式といわばいえ。何もしないままに少女たちを送り込むよりよほど効果的であり、より安全を確保できた。
 MPFの方はといえば、実のところ対策としては多くはなされなかった。そもそも、そういうことさえ想定されていたのだ。
これはMPFの出所が技術的にも出自的にも地球連合にあったということに由来した。
つまり、最初から格闘兵装の搭載やその運用を前提としており、その訓練を養成課程において行っていたのである。
地球連合のこれまで積み重ねた戦訓や常識からすれば、格闘戦を想定しないのは、汎用機であるならば愚の骨頂であった。
いや、汎用機でなくとも最低限備えるくらいはするのが当然だった。
 実際、MPFが装甲白兵型のような白兵戦を仕掛けるネウロイの対処をするようになり、あるいはウィッチや魔導士が対応策を実施して、効果はすぐ出た。
 さて、何が言いたいかといえば、だ。

『ハァッ!』

 長物を抱えるクラーラたちをカバーするべく、エーリカは激しい格闘戦を展開したということである。
 マギリングブレードとネウロイの腕がぶつかり合い、激しい音と衝撃を生み出す。
 連続する。刺突、斬撃、バッシュ、回避、回避、次にフェイント……と思わせビーム砲。
 これが数秒もない間に展開された。無表示な顔のような部分をこちらに向け、それでもネウロイは攻撃を繰り出す。

(……ッ!)

 相手の刺突を弾いた直後、瞬発的な加速で次の一撃を回避したエーリカは、回避先で瞬時に砲塔を巡らせ、マギリングキャノンを放つ。
極めて至近距離、しかも瞬時に放たれたそれは直撃を得る---かと思われた。

625 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/28(金) 23:26:10 ID:softbank060146109143.bbtec.net [106/155]

『危ない……!』

 だが、圧縮されたエーテルの強力な弾丸は掠りもしない。
 瞬時に範囲外に脱出され、さらに後ろ向きに反撃の刺突を繰り出してきた。
 装甲白兵型は人間の倍はある長い腕が3対6本もあるため、こういう芸当ができてしまう。
 こちらもそれを大人しく食らうわけにはいかないため、瞬時に下方へ、相手の下側へと潜り込む。
装甲白兵型の格闘戦における唯一の死角、人に近い形であるがゆえに、足元にはブレードが届かないのだ。
無論、相手が姿勢を変更すれば容易く届くため、そこで止まらずに通り過ぎながら攻撃を放つ。

『至近距離!』

 今度こそ、ほぼ0距離だ。
 サブアームと左手に保持した合計3丁の30㎜アサルトライフルに搭載されたグレネードランチャーが火を噴く。
当然、30㎜という大口径弾もフルオートで叩きこみながらの攻撃だ。果たしてこれは、エーテルバリアに突き刺さり、一気に減衰させる。
 当然、爆炎の向こうから反撃の刃が襲い掛かってくる。合計3本、身をよじるようにしてこちらに叩きつけてくる。
 ここまでは想定内だ。こちらに思った以上に食らいついてくれたおかげで、EAを大きく減衰させることもできた。

『今!』

 瞬時の動き。自律浮遊してこちらの思念誘導に従う浮遊シールドを斬撃に割り込ませて受け止め、それをくぐった一刀をマギリングブレードで受け止める。
 そして、それによって装甲白兵型の動きは一瞬間、完全に止まる。

『てやぁああああ!』

 その致命的な隙を目がけ、アーベント・フリューゲルのウォーザードの一人、ハンナが切り込んできた。
 その手にあるのは、対魔導装甲エーテル複合ブレード「デュランダル」。
 全長が3m近くもある強大な刀剣。物理的なブレードであり、そこにマギリングブレードを重ねた、最早鈍器に等しい武器。
それ故にMPFでも取り回しはあまり良くなく、回避されやすいそれが、エーリカの稼いだ隙に突き刺さった。
二段三段と重ね合わせた、殺戮のコンビネーションの結果として、それを得られた。その刃は、EAを喪失した装甲白兵型に一気に刺さった。
いや、刺さるを通り越し、その刺突の勢いのままに貫通したのだ、コアごと。
 それを確認するや、即座にブレイク。崩壊するネウロイに巻き込まれないように瞬時に離脱する。

『そこっ!』

 そして、その瞬間に生じる隙を狙う別の装甲白兵型の動きを、クラーラがマギリングマグナムの射撃で牽制、制止する。
 一秒あるかないかだが、この速度域においては絶大な差を生む。
 瞬時に姿勢を立て直し、エーリカはクラーラの射撃に追い打ちをかけるように50mmカノン砲を連続で叩きこんだ。
間を空けることなく、全力のマギリングブレードの突きがそのまま繰り出され、これもコアを貫通した。
この間にハンナは離脱しているし、クラーラは死角に回り込もうとする高機動白兵型への対処に素早くシフト。
 次は---

『散開!』

626 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/28(金) 23:27:51 ID:softbank060146109143.bbtec.net [107/155]

 考えを巡らせた時、サイコ・エミュレート・デバイスを経由したその言葉がB小隊に走った。
 前衛として対処にあたっていた3人をやや離れた位置からカバーしていたテレーゼの警告だ。
 それを瞬間の判断として受け取り、3人は別方向にばらける。
 回避した直後、ビームが3人がいた空間を貫いていた。
 虎視眈々と狙いを定めていた狙撃砲台型のいやらしい砲撃だ。

『ご丁寧に高度を下げて光学迷彩まで……!』

 テレーゼが気が付けたのは、本当に偶然に等しい。
 B小隊の全体のカバーを任されていた彼女は他のネウロイが押し寄せてこないかをけん制していたのだが、その際に地上付近に高熱源を捉えたのだ。
 高熱源、低高度、そして光学迷彩という3つの特性から導き出されたのは、前述のアーマードタイプ・ネウロイに他ならなかった。
遠距離から狙撃してくるという、一見して遮蔽物のない空では意味がないかに見える狙撃砲台型。
 しかし、光学迷彩能力や低高度まで意図的に下がり、雲や霧などに隠れるという手まで使うそのタイプは、幾人もの航空戦力を叩き落した強敵だ。
唯一ごまかせないのがビームを発射までに生じる熱量。その熱源パターンが魔導コンピューターに登録されていて助かったとしか言えない。

『逃がさないよ』

 だがら、分かってしまえばこちらのモノ。クラーラは魔導式レールスマートガンを構え、素早くトリガー。

(この距離なら、外さない)

 その意志のままに放たれ、得られた直撃弾により、狙撃砲台型は消し飛ばされたのだった。
 それを確認し、小隊員のコンディションを確認したエーリカは告げた。

『次に移るわよ。制空権はほぼ握れているから、近接航空支援に比重を置くわ』
『了解!』

 エーリカの声に、撃破の感慨は少ない。
 まだ、膨大なネウロイのほんの一角を崩したに過ぎないということをよく理解しているからだ。

『……地上の方の被害、減らさないと』
『ええ、装備は消耗しているけど、やり様はあるわ』
『本当は対地爆装したいんですけど……』
『ハンナ、それはぜいたくよ』

 エーリカとて理解している。
 制空権の維持のための航空戦と、地上部隊の支援のための対地爆装は中々両立が難しいのだ。
 無論、上空から攻撃するだけでもネウロイの撃破は無理というわけではない。他方で、効率という問題が付きまとうのだ。
数で攻めてくる相手に、質を生かしてくる相手を想定した武器を向ければ、あっという間に弾切れとなってしまう。
 ただでさえアーベント・フリューゲルの戦闘継続時間が長くなっているために、かなり弾薬の残りに気を使いながら戦っているのだから。

『補給が来るまでの辛抱よ、行きましょ』
『うえええ……早く来てぇ』

 愚痴りながらも、次への対処にウォーザード達は飛翔する。
 まだまだ、まだまだ、戦闘は続いていた。
 まるで、底がわからない沼のように、徐々に落ちていき、抜け出せなくなるような感覚が、どうにも抜けないままに。

627 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/28(金) 23:28:37 ID:softbank060146109143.bbtec.net [108/155]

以上、wiki転載はご自由に。

あと1話くらいで終われそうです、多分、恐らく、きっと、メイビー。
その後は設定集ですかね。ネウロイ側と人類側の両方を出さなくては。
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最終更新:2023年08月23日 22:59