789 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/30(日) 23:06:40 ID:softbank060146109143.bbtec.net [141/155]
憂鬱SRW ファンタジールートSS「宵闇の翼、ガリアを舞う」4
- F世界 ストパン世界 現地時間1944年10月14日10時33分 ガリア ライン川周辺係争空域「ラインの冠」
「アーベント・フリューゲル」B小隊に補給が届けられたのは、何とか予定時間通りというところであった。
消費した弾薬の補充、損傷したシールドの交換、あるいはパージした武装の代わりを搭載するなど作業は多くにわたる。
武装の多くを外した代わりに武装コンテナを背負った補給装備のMPFが、その作業を進めているのであった。
とはいえ、補給できる量はそこまで多いとは限らない。当面の間に使用する武器と弾薬の補充であった。
このまま長期戦をこなすには不足がある量。それが意味するところは一つである。
『そろそろ撤退かしらね……』
『うん、ガリア軍の撤兵もほぼ終わったみたいだし』
そう、これ以上の長期戦に付き合い消耗を重ねるのは愚策ということだ。
事実として、展開しているカールスラントのガリア派遣陸軍は徐々に後退の動きを見せている。
長距離砲撃によって地面を這うネウロイ個体を次々と潰しながらも、足の遅い戦力を優先して逃がしているのだ。
けれど、それは一つの必然を生むことになる。
『撤兵までの殿は私たち(ウォーザード)ってことかな?』
『大方そのつもりでしょうね。制空権を確保している間に撤兵させないと損害が大きくなるし』
リミットとしては1時間ほどであろうか、と考えたエーリカに通信が入る。
『はい、こちらB小隊レールツァー……はい、はい。了解しました、そのように』
『どうだった?』
通信相手はアーベント・フリューゲルの指揮官であるルドルフ・デッドマンからだ。
後方の指揮車両からは言った指示は至極単純であり、エーリカが想像した通りの内容であった。
『小隊各員、傾注』
後方から送信されてきたデータを共有し、エーリカは指示を出す。
各員のHUDには地図が表示され、各部隊とネウロイの配置および移動の方向などがまとめて羅列されていく。
『現在のところ、ガリア陸軍および救援軍は順次撤退を開始しているわ。
彼らが十分な距離離脱できるまで、空戦隊はここで殿を務めることになった。
私たちは後方のウィッチの部隊と連携してここで阻止線を形成して足止め、その後撤退する』
エーリカの言葉に合わせるように、HUDに表示される地図の上、部隊を示すアイコンが移動していく。
忙し気なそれらは、このライン川を中心とした戦域からの離脱が第一義というのがよくわかる、
『小隊長、ガリア軍は本当に従ってくれるんですか?』
『それは問題ないわ。毎度のようにごねたらしいけど、それでも過去の失敗から押し切られたことになったそうよ』
そう、今回の出撃自体、繰り返されたガリア軍の独断専行に対応するためのモノだ。
ネウロイからの侵攻を受け止めるためならばともかく、積極的にネウロイ支配域に進むことは是とされていない。
その為に散々消耗したのはカールスラントをはじめとした各国軍であったのだ。その積み重なった損耗はどれほどかは言うまでもなく。
ともあれ、である。
『厄介なタイプを後ろに通さないよう、私たちが前面に出る。
油断をせずに行きましょう』
補給作業と小休止は終わり、ここから再び戦いが始まるのだ。
そして、B小隊は再び空の住人となった。彼女らが補給を行っている間にも、戦局はだいぶ動いていた。
それもそのはず、ネウロイもそろそろ増援にうち止めが見えてきたのである。
さらに、ネウロイの航空戦力が航空ウィッチとウォーザードの活躍で減ったことが大きい。
特に、最前線を飛び越えて後方まで届く長大な射程を持つ狙撃砲台型が消え、後方まで届く攻撃が減ったからだ。
790 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/30(日) 23:07:40 ID:softbank060146109143.bbtec.net [142/155]
しかし、それと引き換えに地上型のネウロイへの対処もしなくてはならないということもあり、展開するウィッチやウォーザードの仕事は減っていなかった。
眼下、未だにしぶとくネウロイの地上個体は残り続けているし、航空ネウロイの姿が0になったわけでもない。
ウィッチ、魔導士、そして自分達ウォーザードも順次撤収する必要があることを考えると、引き際を見極めつつ、戦わなくてはならない。
(ちょっと憂鬱ね)
状況としては決して油断できない。そのことを改めて認識したうえで、一つ咳払いをして宣言する。
『B小隊、行くわよ』
エーリカの声とともに、アーベント・フリューゲルのB小隊は一斉に飛び立った。
- 現地時間同日11時14分 ガリア ライン川周辺係争地域 後方約50㎞地点 カールスラント陸軍集結地点
カールスラント陸軍の部隊は、後退してくる味方を裁く作業に追われていた。
どこに撤退すべきか、どのようにルートを選ぶべきか、航空支援の得られるエリアはどこなのか。
はたまた、部隊の状況--負傷者や死亡者がどれほどいて、戦力の状況はどうであるかなどもやり取りしている。
3号指揮戦車KⅡ型を筆頭に。それに追従するSd.Kfz.9E通信強化型を複数引き連れた、通信支援機甲隊がこれを担っていた。
その護衛となるⅢ号対空戦車M.Flakvierling2および陸戦ウィッチらに護衛されつつ、忙しく通信をやり取りしていた。
「了解、負傷者を優先して下げてください、救護班を控えさせています」
「ルートはそのまま、はい……ネウロイの追撃はウィッチとウォーザード達が防いでいます、急いでください」
「擱座した戦車が……?こちらで回収用のMPFを回します、暫くそのままで。はい、生存を優先に」
忙しいやり取りは、それだけ戦場の整理の必要性が高いことを示す。これら通信支援機甲隊がいなければ、どうなっていたことか。
彼らから見て未来の技術を惜しみなく使ったこの戦力により、この状況下にあっても、各部隊に対して有機的な情報伝達を可能としていた。
この強力なデータリンクにより、迷子になったり、燃料切れになってしまったり、あるいは擱座して徒歩で撤退する兵士を拾い上げることが可能となっていた。
ネウロイからのジャミングを受けることもあるとはいえ、この結びつきはどうしても発生する戦場の霧を掃い、見通しの良い戦場を生み出していた。
(今回の撤退はうまくいってくれそうだな)
通信手たちの忙しいやり取りを聞きながらも、アーベント・フリューゲルの指揮官であるルドルフ・デッドマン大佐は胸中でつぶやく。
もはやこのライン川戦線においてだけでなく、各方面でもおなじみになりつつあるガリア軍の暴走。
時に火消しに飛び回る側にまで大被害が出ることもあるそれが起きる度、現場の人間はこのひやひやした時間を過ごすことになる。
複数どころではない将兵の命と、稀少な武器弾薬を消耗してしまう戦場だから、それは決して慣れることはない。
少し前に迂闊にネウロイを刺激しすぎて大侵攻数歩手前の侵攻を受けたのは記憶に新しい。
そのたびごとに戦訓が蓄積され、あるいは運用する兵器の扱いに習熟していくので、全くマイナスだけではないのが救いだろうか?
(いや……問題はそれ以上か)
結局のところ、最大の問題はガリアの国内問題なのだ。
ガリア国内で戦後や発言権をとるために投機的な作戦が立案され、実行に移される。
用意されている戦力はどうあがいても訓練不足で数頼みの烏合の衆。それゆえに毎度大損害で、結局他国が尻拭いをする。
それを問い詰めようにも、ガリアが自国防衛という範疇で動いている建前から、解決が未だにできず、解決のために動くとしても手段が限定された状況。
つまるところ、これがまた繰り返される、ということである。
(しばらくは新戦術や新兵器に習熟するため、と割り切るか)
そうでもなければ、ガリアの後方で安穏としており、あまつさえ政治闘争をしている連中に銃を向けるかもしれない。
そうあっては欲しくない。そうでなければ、最前線の彼女たちに向ける顔がないのだから。
ともあれ、今回の戦場の目的である撤退戦は順調。あとは時間経過で完了するだろう。
(ガリアは文句を言ってくるだろうがな)
それだけが憂鬱だと、ルドルフは深くため息をついた。
戦場はいよいよ終結へと動き出している。そのことだけが、救いのように思えた。
791 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/30(日) 23:08:47 ID:softbank060146109143.bbtec.net [143/155]
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とりあえずこれで一段落。
後は設定を投げて終わりにします。
最終更新:2023年08月23日 23:00