38 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/05/14(日) 01:20:06 ID:softbank060146109143.bbtec.net [5/20]

憂鬱SRW 融合惑星 攻殻世界SS「電脳刑事は電子彼岸花の夢を見るか」2


  • C.E.81 C.E.太陽系 融合惑星 β世界PRTO領域内 海洋都市群「カナン」 攻殻日本国 臨時首都東京 郊外 開拓エリア



 トグサの姿は、あのビルの中にあった。
 そう、九課がテロリスト集団の制圧に向かい、偶発的に精肉屋との遭遇戦に突入したあのビルだ。
現在は九課によって封鎖と保存が行われ、現場に残された証拠を探す現場検証が行われている。
些細な情報でもいい、テロリスト集団やあわよくば精肉屋に関する情報や証拠などが残っていないかを見つけようとしている。
これまで精肉屋は標的となったテロリスト集団や犯罪者を悉く皆殺しにしているほか、監視カメラなどにも姿をほとんど残してこなかった。
そういう意味では九課の面々が電脳に保存して収集した姿形などの情報は重要であった。
それはとっくに証拠として挙げられており、残るは現場という形だったのだ。
 そして、そういった業務は本来ならば鑑識に任せるのが一般的なのだが、トグサはもう一度この現場に足を運んでいた。

 火炎放射器や弓、あるいはジカバチさえ打ち落とす前装式拳銃が使われた出入り口を抜け、ビルの中に入る。
 精肉屋が現れた現場で度々焼却痕が確認されていたことだが、まさか古典的な外見の火炎放射器を持ち出してくるとは予想外だった。
まあ、精肉屋の用いる武器は外見が如何に古めかしく、時代不相応だとしても、尋常ではない兵器ということは判明していることだ。
そして、この火炎放射器は、テロリストや犯罪者が保有していた危険な武器などを滅却するために使われていることも判明している。
超高熱を実現するそれは、時に死体までも蒸発させ、原形も残らないほどの状態にして処理をしていたのだ。

(おそらく、それをする必要があった……痕跡を残さないためもあったんだろうが……)

 トグサは、精肉屋に対して正確無比に目的を果たそうとする意志を感じ取っていた。
 そうであるがゆえに、全ての行動には何らかの理由があると推測をしていた。
 先ほど述べた火炎放射器に関しても、徒に使用しているというわけではなく、狙った対象だけを正確に焼き尽くしている。
そう、それだけのことをしなくてはいけない相手であったのだろう。あの精肉屋が恐れるほどに。
それが何であるかはわからないにしても、精肉屋が、あるいはその背後にいる誰かが看過できないものを持っていたのかもしれない。

 それを心に留め置きながらも、トグサの足は屋内へと向かう。
 ビルの中に入り、吹き抜けにたどり着くと、そこにある床面の破壊の跡を見下ろす。

(精肉屋が着地した跡がこれ、か)

 九課を無力化し、逃走する際に精肉屋は戦闘していたフロアから吹き抜けに飛び降り、一階に着地した。
当然であるがその衝撃によって床は破壊され、陥没が発生した。元より2m近い体躯に鎧をまとっているだけあり、その衝撃はかなりのモノだったようだ。
 この痕跡も、精肉屋の正体に迫るものとして保存されている。地面がどのように破壊されたかを基に、体重などの情報を弾きだそうというわけだ。
その結果として、精肉屋の身体的な情報は一つが仮説とはいえ導き出されている。

(問題なのは、軽すぎるということだよな)

 想定された以上に軽かったというのが分析官の見解だった。
 原理は不明なのだが、発揮された戦闘能力から逆算された義体の重さや推定される全身を覆う鎧の重量から見ると、その数値は余りにも軽すぎた。
重たい重量物が落下し着地したというならば、相応の衝撃が発生して床に残るはずであるのだが、あまりにも被害が小さい。
無論、何らかの方法で落下のエネルギーを相殺したという説もある。とはいえ、見た目以上に実は軽いのでは?というのは一つの証拠として有力視されていた。

39 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/05/14(日) 01:21:29 ID:softbank060146109143.bbtec.net [6/20]

 エレベーターに乗り、交戦したフロアに昇る。
 そこは未だに破壊と戦闘の痕跡が色濃く残り、あの人外じみた戦闘力を持つ精肉屋の脅威を今もなお残している場であった。
ここで9課に属する戦闘力上位の面子が瞬く間に制圧されてしまったのだ。

(……)

 無意識に、片手を胸に当てる。
 今でも鮮明に覚えている。一瞬で肉薄され、その手甲に覆われた腕で殴り飛ばされ、意識を失った瞬間を。
身体を一瞬で突き抜け、意識を刈り取った衝撃を。忘れようのない、痛みだった。
その時に感じた、抑えようのない「死」の恐怖さえも、未だに覚えていて、忘れられない。
無手であったとはいえ、かなり高度に義体化していると推測され、鈍器を振り回す膂力精肉屋に殴られて失神程度で済んだのは幸運だった。
殆ど身体が生身であるトグサの現場復帰が速かったというのはその証拠と言えるだろう。

「だけど、幸運だったわけじゃないとしたら?」

 そう、相手は意味がある行動をしているからだ。繰り返しになるが、精肉屋は一切無駄なことをしていない。
過激なことをしているように見えるのだが、突き詰めていけばやることにはすべて合理性が存在し、理由がある。

 今回の場合では相手が9課を殺す気がなかったというのが、トグサの考えだ。
 自分が五体満足で回収され、早期に復帰したのは、恐らくではあるが精肉屋がトグサを殺すつもりがなかったからだと考えられる。
もっと言えば、戦うことにはなったが、生身で弱いトグサに合わせて手加減をした。

「では、なぜそんなことをしたのか?」

 その言葉を口に出し、自分に言い聞かせる。その「何故」を他の事例と合わせトグサは考え続ける。
 義体を破壊されて戦闘不能に陥った少佐、水銀と血のようなものを混ぜた弾丸で撃たれたバトー、そして鈍器で気絶させられた残りの面々。
どれも殺しには至っていない。あくまでも動けなくさせるか、戦闘続行能力を奪うにとどめている。
その気になれば、これまでさんざん手にかけてきた数多の犯罪者同様に9課の人員は殺されていただろう、あっけなく。

(それは、精肉屋の狙いがあくまでも犯罪者やテロリストであり、治安を維持する側の9課は標的ではないから)

 そうなのだ。
 初犯と思われる事件が確認されてから一貫していることは、標的となっているのが何らかの犯罪者などに限定されている。
時には人知れず静かに大量の犯罪者を処断し、時には抵抗を粉砕して殺戮をしていることもある精肉屋。
それが目的である以上、それとは真逆の、民間人の虐殺や治安維持の人間を殺すといったことはしていない。
憶測に憶測を接ぎ木したような、そんな考え。さりとて、そうでなければ説明がつかないのも事実だ。
 方法は不明だし、偶然か必然かもわからない。けれど、精肉屋はおそらくあそこに9課が来ることを知っていた。
どういう人間が来るかも、どういう目的なのかも、どういう装備なのかさえも、おそらく事前に知っていた。
 そして、殺す意味はないが交戦して潜り抜けなければならず、やむを得ず9課を無力化して逃走したのだ。

(課長も少佐も納得していなかったけれど……)

 自分だって荒唐無稽なところがあるのは理解できる。
 けれど、この仮説以外に説明を付けられるものは存在していない。

40 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/05/14(日) 01:22:29 ID:softbank060146109143.bbtec.net [7/20]

 では、そんなことをすることで利益が出るのは誰か?という疑問にたどり着く。
 他国の領土に侵入し、テロリストや犯罪者を殺して回り、治安を向上させ犯罪を抑止することで得られる利益を享受するのは誰か?

(この国の人間じゃない、かもな)

 茅葺政権は現在のところ、積極的にこのカナンへの入植と定着を推進している。
 だが、その政策は正直なところ国民受けをしているかといえば微妙なところだ。広く薄く広まっている望郷派の意見が、少なくはない反発を招いている。
先日目撃したような矛盾---都心部の過密人口に対し、郊外の開拓エリアが手つかずのまま放置されている---状況が多数起こっているのがその証左の一つだ。
 そういった空気の中において、積極的に行動を移す人間がどれほどいるだろうか?想像にすぎないが、少数どころではないと判断している。

 翻って、国外は、もっと言えば自分たちの地球からエクソダスしてきた人々以外ならばどうだろうか?
 例えば、このカナンが存在している領域は日本帝国をはじめとしたPRTOの主権範囲内というか、勢力圏の内側にある。
 さらにこの融合惑星という惑星は、地球連合の勢力圏の中において重要な立地にあることは知っている。
 そういう観点で言えば、この融合惑星の一角を占めるカナンに入植した国々の動向に対して非常に敏感になるであろうことは確実だ。
国家戦略---それこそ、安全保障という観点から言っても地球連合はその存在を無視しえず、強い関心を持っている。
たびたび地球連合の外交官などが訪れて、積極的な渉外活動を行っているのはトグサもよく知っていること。
その来訪や積極的な活動の目的が、自国の融合惑星への積極的な土着の促進にあるということも、である。

 それは当然、内政干渉となる。
 いかにこのカナンの割り当て区画が融合惑星にあり、PRTOの勢力圏にあるとはいえだ。
 だが、それも表沙汰にならなければ全く問題ない。表沙汰になっても関係がないことと判断されれば、それは同様だ。
いわばこれは非正規活動。その程度の事ならば、どの国も平然とやっている事である。
それが大きく問題となっていないのは、互いが互いの国に仕掛けていることで、黙認し合う関係にあるからに他ならない。

 無論、そしてこれは繰り返しになるが、トグサの考えにすぎず、しっかりとした根拠は薄い。
 相手が言いがかりだと言い出せば、こちらはひっこめるしかない程度の説得力しか存在していない。

 それでも、だ。自分はこれを追いかけなくてはならない。
 テロリストや犯罪者を追いかけ、時にこれを攻勢に出て、捕らえ、犯罪などを止めることが9課の使命。
 それに関与することなのであれば、それは仕事の内である。

「よし……」

 考えながらも続けていた現場の視察はこれで一区切り。
 戦闘において生じた余波や痕跡を改めて確認し終えたことで、ここで集めるべき情報は集めることができた。
 次は、足ではなく電脳で探りを入れることだ。先だって、公安9課は政府のコネクションを通じて地球連合のネットでの調査を行う権利を得た。
これによって、このカナンという狭い地域では得られない情報との照らし合わせができるようになる。

(行こう)

 ここで得るものは得た。
 あとは、自分たちが集めた情報を整理し、少しでも真実に近づくことだ。
 正直、怖さがある。これはひょっとすれば国家間の巨大なやり取りの中に首を突っ込むのかもしれないと。
 けれど、それでも。これを見過ごすわけにはいかない。その意志を以て、トグサは進んだ。

41 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/05/14(日) 01:23:31 ID:softbank060146109143.bbtec.net [8/20]

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返信はオイオイネー

今宵は寝ます
おやすみなさいませ
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最終更新:2023年06月03日 21:51