831 名前:ひゅうが[age] 投稿日:2023/03/21(火) 21:23:42 ID:p6280002-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp [163/218]

―――征独日本世界ネタ 「主力空母狂奏曲」その2



海軍大臣の座に就いた山本五十六は海軍省の面々を集め、開口一番こう言ってのけた

「新型戦艦は不要。すべて空母に改装すべし」

のちの歴史を知るものはわかるように、これは成功しなかった
新型戦艦、のちの大和型戦艦の建造は既に開始されていたし、何より当時の戦略兵器の筆頭であった戦艦をたとえ役に立たないからといって勝手に空母に改装するなど軍縮条約に逆戻りするのでない限りできるものでもない
理路整然と反論された山本五十六は少しばかりふてくされて「なら空母で構想中の新型戦艦を沈めるにはどれだけの機体があればいいか計算せよ」とのたまった
結果は意外に早く出た

「現状の海軍航空隊では、空母10による波状攻撃をもって半日程度を有する」

早い話が、現状の海軍航空隊では新世代の戦艦1隻沈めるのに同じかそれ以上に高価な空母を10隻も必要とするという失格宣告だった
後世からみればやや過剰評価気味(従来の戦艦はその数分の1で撃沈できた)唖然とする山本だったが、航空本部から挙げられた言葉に気を取り直した

「なら、艦載機の攻撃力を2倍3倍にすればいいじゃないですか」

航空本部から出された意見は、かつての陸上攻撃機なみの搭載力を持つ新型艦載機の開発か、そもそもの搭載機数の増加だった
当然、機体は大型化傾向になるだろう
山本は、腹心の航空本部長大西瀧二郎を艦政本部に乗り込ませた

「140機以上を搭載できる新型空母を計画してほしい」

山本と大西には秘策があった
建造中の新型戦艦の船体を流用したうえでの超大型航空母艦の建造である
この構想は、山本をバックにした大西ら航空本部の強硬な主張で、構想状態にあった次々期新型戦艦建造計画を食いつぶしつつ進行
奇妙なことに、福田 江崎 牧野ら「三奇人」に実質的に牛耳られるに至った艦政本部からの抵抗はまったくなかった
それどころか彼らは即日嬉々として試案を提出してきたほどだった
彼らは第4次海軍軍備補充計画(マル4計画)で翔鶴型をさらにタフに改設計した空母大鳳を既に設計し終えていたが、その次の空母として全長320メートルに達する基準6万5000トン級空母を構想していたのだ

832 名前:ひゅうが[age] 投稿日:2023/03/21(火) 21:24:22 ID:p6280002-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp [164/218]

「今後の艦載機の大型化高性能化により、満足な数の艦載機数を確保しつつ運用するにはこの大きさが必要となる。双発艦上機の運用を可能とするにはカタパルトに加えてこの規模が必要だ」

それが彼らの主張だった(さらに奇妙なことに彼らの予言は実際当たっていた)
さすがにこれは海軍省の大半から待ったがかかった
いくらなんでも巨大すぎるために新型戦艦建造用に拡張あるいは新設されたドック群ですら同時2か所でしか建造が不可能であったからだ
そこで計画に修正が加えられた
船体については建造中の新型戦艦の設計案のひとつ(A-140)を流用し、翔鶴型や大鳳の構造を
そっくり引き継いだ全長290メートル 基準排水量5万5000トン、満載排水量6万7000トンに達する巨大空母である
格納庫は、山本五十六も妙な情熱を示した双発艦載機をすら搭載可能な規模にまで拡大され、頂戴な船体は開発が難航する油圧カタパルトの完成前でもこれを発艦可能なだけの大きさがあった
昭和25年計画完遂予定とされた第5次海軍軍備補充計画(マル5計画)では、4隻のこの新型空母建造が計画された
のちに、幻の新型空母と呼ばれる「G14(設計案名)」である

833 名前:ひゅうが[age] 投稿日:2023/03/21(火) 21:24:59 ID:p6280002-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp [165/218]

そう。彼女らは幻に終わった

原因はただ一つ
1939年9月1日、欧州において勃発した第2次世界大戦だった
艦隊側との取引により新型戦艦3番艦までの建造と引き換えの次々期主力戦艦の建造中止を反故にしてまで1隻でも建造を強行しようとした山本五十六だったが、俗にいう「ダンケルクの悲劇」、帝国陸軍2個師団の降伏と5個師団分の装備喪失という非常事態で戦争の長期化が確定したうえにことによると英国の脱落すら考えられる状況において恐慌状態となった海軍は理性的な判断を下した

「戦時急造型装甲空母群の建造」

がそれである
線図は既存の大鳳のそれを拡大し、懸念されていた油圧カタパルトは英国との戦時取引によって完成品を輸入することができたことから「双発機なみの搭載量に達しつつあった新型の単発艦載機群」すら運用が可能なことが判明したのである
艦艇攻撃力が著しい増加を示していた現状(特に独軍の急降下爆撃)に対しては既存の装甲に加えて変質狂的ともいわれるくらいに強化された関節防御力の強化で対応された
こうして、「改大鳳」型の量産計画は、G14計画を逆に食いつぶして進行
当初計画で6隻が建造線図上に載り、次々に建造されていった
既に翔鶴型によって装甲空母の建造経験を持ち、拡張工事を行わずとも既存設備によっても建造が可能な改大鳳型は、24時間操業による建造期間短縮もあってわずか3年で次々に海上へ踊りだすことになったのだ

結果としてこの選択は正しいものとなった
米国のエセックス級航空母艦に代表される諸外国の空母群がそのトップヘビーと限定された装甲によってドイツ空海軍の猛攻を受けて少なからず戦没していったのに対し、翔鶴型および大鳳の妹たちは1トン爆弾の直撃や魚雷命中を次々に受けて傷だらけになりつつも戦場に踏みとどまり、期待値以上の戦力を発揮したのだから
G14ほどとはいかないものの巨大な格納庫は大戦末期はおろか戦後1960年代に至っても大型化したジェット艦載機の運用を可能としており、後継艦の誕生まで立派に役割を果たしてのけたのだ

最後になるが、彼女たち「傷だらけの貴婦人」たちの生みの親である「三奇人」のものとされる伝説的な言葉を記しておこう

「1990年代まで使用できる空母を作りたかったが、今はこれが精いっぱい」

けだし謙遜にすぎる言葉である
なお、前半部分をして、「三奇人」は戦後のジェット化による機体の極端な大型化を知っていてG14のそのまた原案を設計したという研究者もいるが、さすがにそれは妄想がたくましすぎるというものである

834 名前:ひゅうが[age] 投稿日:2023/03/21(火) 21:25:44 ID:p6280002-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp [166/218]
(おしまい)

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最終更新:2023年05月27日 19:24