965 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/18(火) 23:44:02 ID:softbank060146109143.bbtec.net [39/47]

征独世界ネタSS「発見されてしまった事実」



 西暦194X年、ドイツは連合国に対して押され続けていた。
 それは最前線の話だけではなく、もっと国家として致命的な攻撃によって押されていたのである。
 具体的に言えば、彼らの総統が語るところのアーリア人によるドイツ第三帝国の領土は、空から散々な攻撃を受けていたのだ。
圧倒的な物量と質でもって押しつぶさんとする連合は悠々と空という場を利用することで、距離や自然の要害を飛び越えてくる。
爆撃機や攻撃機による空からの攻撃、それは徹底した、それでいて効率的な対地殲滅攻撃であった。
後に分析されたところによれば、連合国軍が消費した火薬の何割かがこの航空攻撃によるドイツ戦力および国力の漸減に使われたという。

 だが、この話の本題はそれではない。もっと重要なことである。
 とある並行世界と比較し、戦争が長期化し、尚且つ戦争の中で得たものが多かったドイツ第三帝国は非常に粘った。
押し寄せる空からの敵に対しては同じく空を飛ぶ鋼鉄の鳥を解き放って迎撃させ、あるいは先進的な地対空兵器を以て対処していた。
あるいはアフリカなどでは鋼鉄で出来た猛獣たち---強力な戦車たちが歩兵と共に戦い、連合軍と激戦を繰り広げていた。
それらの活躍は宣伝省を通じ、国家をあげたプロパガンダによって国内を満たしていた。
そう、士気の鼓舞や国威発揚を続けることで、決して挫けることなく総力戦を行っていたのだ。

 けれども、それらが華々しい戦果が上がるとは限らない。
 空襲により老若男女問わず被害を受ける。物資や情報の統制は厳しくなる。次々と兵士は前線に送り込まれる。
あるいは女性であろうが工場に送り込まれ生産を担うようになる。
着々とドイツが劣勢になり、じりじりと弱ってしまっていることを隠しとおせなくなるのだ。
 厳しい?苦しい?だからどうしたと気炎を上げるのは良い。
 だが、いつまでもそれで燃え上がるとは限らない。新しい火種が必要であり、燃料をくべなくてはならないからだ。
それがなくなったら?ドイツ第三帝国は、ナチスはおしまいだ。不満が爆発しかねず、厭戦気分が蔓延するだろう。
故にこそ、ドイツ第三帝国は常に火種と燃料を求め、あらゆる方向で行動を移していた。

 特に槍玉に挙がったのが日本と日本人であった。
 「扱いに困ったところにナチス幹部の悪感情が伝染したから」という何とも馬鹿らしい理由からの「敵性民族」への認定。
それが発端となり始まった日本人への極めてドイツ的な対応の結果と、それの連合国からの曝露で、ある種フリー素材となったのである。
1943年1月3日に行われたいわゆる「総力戦演説」もそうであったように、最早怖いものなしと突き進んでしまったともいえる。
 ここに戦争のあれこれを加えれば、ドイツを苦しめる巨人機「富岳」の開発元が日本だったり、はたまたBoBで散々空軍を苦しめたという事実もあった。
その他にも諸々の事実や情報(日本側のプロパガンダ)もあって、分かりやすい敵であったのである。

 これを後押ししたのはドイツ人の無知に付け込んだ手法であった。
 当時の日本についてよく知っているドイツ人が、果たしてどれほどいたであろうか?
 仮にいたとして、当時のドイツの世論の中において「正しい情報」がまかり通っている中で反論できるだろうか?
答えは「Nein」だ。まして人間というのは信じたいことしか信じないのだから。
 だからこそあらゆる虚偽(彼らの言うところの脚色)が許され、敵性民族であるからという理由で加速度的に悪意が盛り込まれる。
「発見」される「事実」や「歴史」、あるいは秘匿されていた「秘密」。
日本という国家の成り立ちに始まりその成長や発展までを悉く槍玉にあげ、攻撃ならぬ口撃は続いたのだ。

966 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/18(火) 23:44:51 ID:softbank060146109143.bbtec.net [40/47]

 そして、過去現在にわたりその「証拠」を探していたドイツはついに見つけてしまう。
 即ち、「日ユ同祖論」に。
 この手のユダヤ人と他の民族の結びつきを論じるユダヤ人同祖論というのは、割とありふれたものではあった。
 だが、重要なのは敵性民族とされたユダヤ人と日本人が同じ祖を持つ、という点のみであった。
 きっかけとしては些細なことであった。1901年に刊行されたユダヤ大百科事典にその論の一節が乗っていたことによる。
 そしてそれを遡及していくと、明治期に来日していたニコラス・マクラウドという人物に行きついた。
彼は日本の文化や文明について調べ、その文化の類似性などからイスラエルから日本の祖先は日本列島にたどり着いた、と唱えたのである。

 これに関しては日本人の学者も失笑したとされている。
 だが、あえて事の真偽はこの際は置いておく。
 重要なのは、少なくともドイツにとって重要なのは日本人がユダヤの末裔かもしれないということだ。
 つまり、日本人の捕虜を収容所に送り込み、虐殺し、浄化を図ったというのは正統なる行為と位置付けられると判断した。

 これにくっついたのが、第一次世界大戦でドイツが敗戦したのはユダヤ人のせいだ、という主張。
 日本人は直接参戦したわけではないにしても、うまく他国を焚きつけたのだと「事実」を発見したと論じたのだ。
さらに戦後において日本人が色々と「おいしい」思いをしたことを、ドイツ民族の弱体化のために行ったことだと非難したのである。

 これはまた、ドイツ国民に受けた。
 なるほど、そうだったのかと、個人個人は納得した。
 誰だって、自分たちが悪いと言われたくないし思いたくない。だから誰かのせいにしたくなる。
その対象がユダヤ人だったところに、新しい「真実」として日本人が加わったという、ただそれだけのことだ。
 そういえば、と誰かがそれを補強するような「事実」を訳知り顔で話しだす。
 そしてそれらは瞼のない耳に入り込み、やがては口から吐き出されて他の人間に伝播する。
 とどめにそれらの言葉は文字となり、あるいは声となってさらに拡散を見せていく。

 これらのプロパガンダはより積極的に打ち出された。
 特に英米をはじめとした日本以外の国に対するそれとして大いに吹聴されたのが確認されている。
ユダヤ人の迫害は何もナチスドイツが始めたことではなく、歴史的に迫害され続けてきたもの。
ドイツが発見した事実を知れば、英米をはじめとした他国も態度を改めるであろうという、極めて自分勝手な妄想が付きまとっていたのは言うまでもないだろう。

 斯くしてこの日ユ同祖論は、盛んに唱えられることとなり、各国にも流布されることになった。
 しかして、これを鵜呑みにするのはごくごく少数にとどまった。
 各国に黄色人種への偏見などが全くの0というわけではなく、あるいは危険視する意見がなかったわけでもない。
 しかしながら、少なくとも敵国が吹聴するそんなものを信じて、これまで共に戦った戦友を裏切るというのは常識的に考えてありえないものだった。
打算込みで言うならば、民族浄化を名指しで言われている日本を味方につけていたほうが色々と便利であったのだし。

 斯くして、このプロパガンダは結局国内向けに終わってしまうこととなった。
 そして、戦後にはよくある陰謀論の一つとしてのミームを付与されて、ナチスの迷走ぶりを語る一つの証拠として残ることになったのである。

「この陰謀論から学ぶべきことは、実にドイツ人が勤勉であり、そうであるがゆえに愚かだったという反面教師的な要素である」

 戦後にとある人物が評したこの言葉が、日本の見解を端的に示しているだろう。

967 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/18(火) 23:45:38 ID:softbank060146109143.bbtec.net [41/47]
以上、wiki転載はご自由に。
陰謀論とか詳しくないのですが、ご容赦くださいませ。

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最終更新:2023年05月20日 19:08