577 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/02(金) 21:21:10 ID:softbank060146109143.bbtec.net [84/100]

憂鬱SRW 未来編 エグゼシナリオSS「第二回N1グランプリ前日譚in下北沢」2


  • C.E.地球 大洋連合領 日本大陸 東京 下北沢 STARRY


「問題だ……」

 重々しく切り出したのは、結束バンドのベースでありリーダーである伊地知虹夏であった。
 N1グランプリ緊急対策会議、という前触れで招集された結束バンドの面々は息をのんで虹夏の言葉を聞いていた。
 ひとりが第二回N1グランプリ参加を表明したのを皮切りに、結束バンドの面々もN1グランプリへの参加を決めたのが先日の事であった。
まあ、腕前がお察しだったのでインターネットでネットバトルに自信のある人に指導を仰ぐことになったのだがそれはさておき。
 その後各員が協力し合って腕を磨いたり、あるいはチップ収集に励む中で、その問題がついに浮上してきたのである。

「金が、足りない」

 そう、金が足りないのである。
 その言葉に結束バンドの面々も苦い顔をするしかない。
 ひとりは何やら恐怖を覚えているのか一人で顔芸を披露しているが、それはともかく。

「バトルチップが……というかネットバトルに関係する製品が軒並み高騰しているんだよね。
 光君のアドバイスで私たちも揃え始めていたけど、個人で調達するのにはちょっと限界が出てきた。
 ただでさえお金がカツカツだからね」

 その言葉に、何故か誇らしげな顔をするのがリョウであった。
 彼女は金遣いがただでさえ荒い。ネットバトルの知識やらを仕入れた後、例にもれずネットバトルのために結構散財し、結束バンドの活動に差し障るまで至った。
結束バンドは---というか音楽活動自体が相当に散在するモノだ。イニシャルコストもべらぼうに高く、その後もあらゆることに金を要する。
その為彼女は金策に走ったらしく、バンドの練習を休んでまでインターネットでの腕磨きも兼ねたウィルスバスティングに勤しんだとか。

「まあ、個人でケアする分にはいいんだけどね……問題は、大会参加にかかるお金だよ」

 それは一体何か?要するに、大会に参加するにあたり発生する交通費や宿泊費などである。
 本戦はもちろんのこと、予選や選考会に参加するにはその会場まで行かなくてはならない。
 また、上位に進むにつれて一日では終わらずに続けて予選などが実施されることも予定されており、それに合わせコストがかかるのだ。
当然予選会などの会場の近くの宿泊施設などはすでに予約が殺到しており、費用も高騰しているという調べがついていた。
 そんな中において、学生という身分ゆえに金銭的な余裕の乏しい彼女らは、すでに苦境に立たされていたのだった。

「あー……そうだよねぇ」

 ソレを勘定したのか頭を抱えるのは喜多だ。
 彼女もまた、ネットバトルの知識や経験がないことに起因して、かなり散財してしまったばかりである。
知らずのうちにダークチップを買ってしまったり、扱いの難しいチップを掴まされてしまったりと割と痛い目を見ていた。
それにプラスしてネットバトル向けにPETやナビのカスタマイズを行ったのだから、ここ最近の出費はかなり嵩んでいた。
 ここからさらに費用が掛かる、と分かれば悩みたくもなるものだ。
 客観的に彼女の腕前などから予選を抜けていくのは厳しいが、それでも先を見越しておくのは必要なことだった。

578 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/02(金) 21:22:19 ID:softbank060146109143.bbtec.net [85/100]

 勿論、彼女らはまだ学生であり、扶養される側の人間だ。
 バイトをしたりしているにしても、基本的には扶養者にお金を出してもらえる立場にある。
 とはいえ、それだけでは首が回らなくなる可能性が高く、現時点でも出費に苦しんでいるならば、何かしておきたいというのが虹夏の考えだった。

「こ、こ、ここは……貯めていた貯金を……!」
「それは駄目だって」

 いつか見た豚の貯金箱を取り出してぶるぶると震えるひとりを、リョウは諫める。
それはひとりの将来のための費用であって、ここで使ってしまっていいものではない。
とはいえ、それが非常に魅力的な資金源であることは否定しきれないのだから、かなり現金だなぁとリョウは内心自嘲する。

「そう、今後の結束バンドの活動費用のことも考えて、なんとかしないとと思うのよ」
「でも、そんな簡単にお金を稼ぐのは難しくない?」

 うぐっと虹夏は言葉につまる。
 そう、学業・バンド・バイト・ネットバトルという予定で結束バンドの面々のスケジュールはぎちぎちだ。
ここでさらに金策に走るというのは時間的な余裕が非常に乏しく、身体的な負担も考えれば避けたいところである。

「た、たとえばさ?ウィルスバスティングでお金とかチップを稼ぐとか……」
「チップの売り買いは一定額以上になると許可とか必要になるんじゃなかったかな?」
「そ、そうだったような……チップ販売業者、でしたっけ?」

 そう、不法なチップの売買や流通あるいはそれに伴うトラブルなどを防止するため、一定額以上の売買には許可が必須となる。
ネット上では金銭と合わせた交換などのグレーゾーンなものも行われているが、一歩間違えば御用改めとなる。
ここにいる面子が大会に参加するための準備を整え、尚且つ当日に消費するお金を得るには、その方法ではまだ足りないのだ。
 微力ながらそれで補填をすべきか、誰がどこでやるべきか、そんなことを色々と話し合う。
 だが、所詮は学生の考え、どうしても限界があった。

『キキキ……話を聞いた限りではお困りのようだね』

 そんな彼女らに助け舟を出したのは、ひとりのナビであるシェードマンであった。

579 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/02(金) 21:23:50 ID:softbank060146109143.bbtec.net [86/100]

 彼が提案したのが、結束バンドの物販による活動費の工面というものだった。
 しかもその方法がなんとも手が込んでいた。

『ただの物販ではなく、君たちが獲得して使わないチップを付属させてしまえばいいのさ。
 昨今ではバトルチップの需要は高まっているのだからね、宣伝も兼ねて売り出せば買い手は確実につくだろう』
「で、でもそれって……」
『確かにチップの売買にあたる。
 だが、これはあくまで結束バンドの物販にチップがついているだけであって、チップが主眼の販売ではない。
 大会に参加するための資金調達という期間限定的にやれば、あくまでグレーゾーンのまま、法に触れることもないだろう』

 そんな方法が、と結束バンドの面々はシェードマンの法に関する知識に舌をまく。
 確かに、シェードマンの言う通りグレーゾーンだ。しかし、PETで調べた売買に関する規則などに抵触しないのは何となくだがわかる。

『幸い、このキミ達がネットバトルの練習でウィルスを倒しているおかげで、在庫には困らないだろう。
 STARRYの電子機器の電脳には演奏に誘われてララパッパやプルメロなどが多く出現する。
 割とレアなウィルスのチップの価値は高いのは承知の通り。これを抱き合わせれば、誰も困らない』
「結束バンドのCMにもなって、おまけに買った人たちはバトルチップがおまけでえられて、私たちはお金を得られるってこと?」

 お金マークを目に浮かべながらも問いかけるリョウに若干引きながらも、シェードマンは肯定した。
 要するに法の隙間を縫ってしまえば何とでもなる、ということである。
 それに感心する面々の中で、シェードマンは次の人物に声をかける。

『虹夏くん』
「な、何?」

 呼ばれた先、虹夏はシェードマンの言葉に身を跳ねさせながらも返事をした。

『君のお姉さんならば、年齢的にもチップ販売業者免許をとれるはずだ。
 以前確認したが、STARRYは「興行場」ではなく「飲食店(特定遊興飲食店営業)」ということで申請していた。
 設備投資を抑えるためにライブハウスではなく、ライブもやる飲食店ということにしたのだろうな。
 それを利用して、飲食店の店舗の一角でチップも販売するのはどうかね?』
「ここをチップ売り場とする!ってこと?」 
『……まあ、将来的には、だ。
 抱き合わせ販売というグレーゾーンは便利だが、長く悪用すると良からぬことにつながる。いつまでも主軸にするのは危険だ。
 ともかく、審査さえ通過して経営実態に問題がなければ、恒常的に売り出すこともできるだろう。
 それまでは物販に抱き合わせで売ることで、ここの客にお金を落としてもらう。
 結束バンドの活動の支援になると言えば、客の心理的なハードルもさらに下がるだろうしな』
「姑息……」
『だが、正攻法ではうまくいかないのも事実だ。正論なのは結構だが、それで立ち行かないのが現状を招いているんだろう?』

580 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/02(金) 21:25:16 ID:softbank060146109143.bbtec.net [87/100]

 その親切さと辛辣さを合わせた言葉に、反論はなかった。
 事実上結束バンドのプロデューサーであり、監督でもあるシェードマンの発言は重たかったのもある。
 結局のところ、バンドというのは単なる遊びではなくて、かなりシビアな経済活動なのだ。その手の知識が豊富なシェードマンの弁舌に勝てるわけがない。
 そして実際のところ、シェードマンの提案は正鵠を射ており、現実的だった。

『あとは……ある程度の資金があれば、業者に依頼してチップを作成し、販売することもできるだろう。
 レギュレーションに合うかどうかのチェックや正規のバトルチップとして認可されるかの審査も必要だが、収入は抱き合わせよりもさらに良い。
 この近辺でえられるバトルチップから生成するか、あるいはデータを採取してやるか……まあ、そこは追々決めればいいだろう』

 まあ、その為には元手となるデータと資金が必須なのだがね、と付け加える。
 あくまでおまけとはいえ、正規に免許を取得してチップショップとして営業するならば、在庫はいくらあってもいいものなのだ。
 それらにかかわる業者や免許などについてネットを通じて情報を集めて、結束バンドの面々が見えるよう表示してやる。

「シェードマンって、前職はそういうことをやっていたの?」
『キキキ……それについては守秘義務があるからノーコメントだ。
 ただ、人の心理をついて売り込むというのは得意分野とだけ言っておこうか』

 まさか、ダークチップシンジゲートにしてテロ集団のネビュラの幹部だったとは言えない。
 まあ、その経験があったおかげで、プロデューサー業をやったり、今回のような事態にも対処できているのだから、ナビの人生もまた万事塞翁が馬か。
 ともあれ、と戦々恐々とした視線を送ってくるバンドの面々に問いかける。

『では、どうするかね?』

 結果は、言うまでもない。
 シェードマンの提案した詳細な販売計画は虹夏の姉の星歌の承認もえて、実行に移されることとなった。
 結束バンドの面々はネットバトルの訓練がてら、バトルチップを電脳で回収・確保して在庫を用意することになった。
当然であるが、高いバスティングレベルを出さねばチップは得られないため、必然的にテクニックを磨くことにつながった。
 こうして得られたバトルチップはバンドの物販におまけとしてつけられることとなり、PRに成功しつつ顧客にとってもプラスをもたらすこととなった。
 最終的には、星歌がチップ販売業者の免許を取得し、さらにチップ製造業者との契約によって正規認可されたチップを販売できるようになった。
ここには結束バンドが収集したデータから作られたチップが並んだのは言うまでもない。
 また、これにより得られた資金でSTARRYの一角にはバトルマシンが設置され、バンドのほかにもネットバトルを楽しめる店となった。
あくまでも音楽の合間の余興、という体裁ではあったが、N1グランプリ開催で関心が高まっている状況ではドストライクであった。
 こうして、結束バンドは資金難を乗り越え、ついでにSTARRYは思わぬ副収入を得ることとなったのである。

「ほ、ほんとうにシェードマンって、何者……?」
『キキキ……しがないご主人のナビさ』

 そんな辣腕を振るったシェードマンにひとりが思わずビビっていたのであるが、まあ些事であろう。
 彼女らはドタバタを繰り広げつつも、大会に向けて準備を重ねていったのであった。

581 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/02(金) 21:26:05 ID:softbank060146109143.bbtec.net [88/100]

以上、wiki転載はご自由に。
思ったより長くなりましたねぇ…

ちなみにですが、ゲーム上における、STARRY 結束バンド物販チップショップで買えるのは以下のチップですね。

オウエンカ
ティンパニー
ディスコード
サイレンス

バウンドノート1
バウンドノート2
バウンドノート3

ラビリング1
ラビリング2
ラビリング3

バスターリング
バスターパルス
バスターブーメラン
バスターヨーヨー

ボッチノイズ1
ボッチノイズ2
ボッチノイズ3

ビッグパルス
ウイングブーメラン
ストリングショット

チップの詳細については気が向いたら設定をあげます。
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最終更新:2023年06月03日 21:27