13 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/16(日) 18:48:09 ID:softbank060146109143.bbtec.net [4/62]
西暦1840年代中頃、後にアメリカ合衆国と呼ばれる国は「明白なる天命(マニフェスト・デスティニー)」の元、西進を進めている真っ最中だった。
旧き大陸---即ち、欧州大陸を離れ、自らの意思でこの新大陸に移住した人々。
フロンティアと呼ばれる領域を開拓し、自らの土地とし、そこに住処を作り、そこで子を産み、育て、そして死んでいった。
進めば進むほど未開拓の土地は広がっており、拓けば拓くほど土地は得られ、自らの財は自らの努力に比例して増えていくという単純構造。
そんな分かりやすい構造に加え、カルヴィニズムという宗教的・精神的な後押しもあってひたすらに進んだ。
即ち、この新大陸を開拓し、自らの版図に加え、財を成すということは神がそれを認めたからだという免罪符であったのだ。
だが、それは彼らが多くを得た代わりに、アメリカ大陸に先住していた人々から多くを奪い取るものでもあった。
イタリアの探検家にして地理学者であるアメリゴ・ベスプッチが発見したとされ、コロンブスがインドを目指し結果的に到達したアメリカ大陸。
この「発見」というのは当時の旧大陸の人々の認識であり、アメリカ大陸そのものはそれ以前から存在していたのである。
ノルウェーを拠点としてたノルマン人、いわゆるヴァイキングが北米にたどり着いていたというのはアメリゴらの何百年も前とされている。
それらに加え、いわゆるネイティブアメリカンという先住民族もまた、アメリカという大陸に住まい、独自の文化を発展させていた。
このように決してノーマンズランドなどではない、むしろ同じ人間の暮らしている広大な土地であったのだ。
だからこそ、土足で踏み込み、開拓と称して踏み込んだ人々は自らの領域を壁で囲った。
襲われることを恐れ、あるいは自らの領域を安堵させるため、対話や交流をする一方で、自ら作った壁の内側に籠ったのである。
話を戻すとしよう。
当時の旧大陸の人々と新大陸の人々の関係は、友好的であり、同時に旧大陸のエゴを押し付けるものであった。
例えばだが、マンハッタン島という島がある。
この島は、入植してきたオランダ人と現地人の取引によって1625年に購入されて組み込まれた。
だが、その際に支払われたのはたったの25ドルであったという。
無論、現代のように開発されて人が生活するような土地だったとは言い難く、その程度の価値しかなかったかもしれない。
しかして、現在の視点から見れば、とてもではないが公正な取引だったと胸を張って言えるかどうか疑問が浮かんでしまうものだ。
同じようなケースは多数みられたが、あるいはそちらの方が平和だったかもしれない。
場合によっては武力という直接手段によって住処を追い出され、あるいは虐殺され、遥か西方への逃避行を、強制移住を受け入れざるを得なかった。
碌な交通手段もなければ、整備された道があるわけでもない。そもそも、そんな長距離移動をするだけの用意も早々にあるわけでもない。
涙の道。そう称されたのは、悲しみか、襲い来る苦難への感情か。
そして、追い出した側の人々、アメリカの人々に良心的な呵責があったかどうかは定かではない。
カルヴィニズム的に言えば、彼らが土地を奪い取り、自らのものとしたことは予定調和であり、天命であった。
だが、そんなことなど知らぬ者たちや信じていない人々のことを、果たして彼らは考えることはしなかったのだろうか?
また、旧大陸から人々が居を移したということは、新大陸になかったものを持ち込んでしまうということであった。
即ち、旧大陸で蔓延し、船旅の中でも生き延びてたどり着いた疫病であった。
アステカなどの例に言うに及ばず、旧大陸で猛威を振るったそれは、目に見えないがゆえに人々によって無意識に持ち込まれた。
そして、取引や接触などを通じて拡散し、蔓延し、多くの命を奪った。
当時の知識ではわかり得なかったと言えば、そうであろう。故意ではない。
かといって全く罪がなかったかと言われれば、微妙なところであったのは事実だ。
それに耐性のあったモノとなかったモノの差。それこそ、生死を分け、領土の取り合いというものに帰結した。
いや、そもそも、ネイティブアメリカンとひとくくりにされる彼らは、そういう概念を持っていただろうか?
一方的にそれを利用することは、本当に良いことであったのだろうか?それは今となっては、確かめようがないことだ。
しかし、これらは始まりだった。
東に芽吹いた、のちにアメリカ合衆国となる共同体。
この時はまだ、何も知らない。
14 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/16(日) 18:48:40 ID:softbank060146109143.bbtec.net [5/62]
他方、コロンブスとは反対側---太平洋側から新大陸にたどり着いた人々がいた。
地球は球形であり、アメリカという新大陸にたどり着くにはもう片方から回ってくるという方法がとれたがゆえに。
彼らこそ、帝(天皇)を中心とした政治体制をその大陸に敷く、極東の大陸国家。
凄惨な戦いの続いた戦国時代を英傑がただ一代を以て統一させたという経歴を持つ国。
広大な国内の開発に加えて、かねてからの思惑、即ち外界開拓と進出を開始していた日本という国家であり、日本人というカテゴリーの人々だった。
本来の歴史と照らし合わせれば、彼ら日本人がこの新大陸に食指を伸ばすことなど不可能であった。
けれども、彼らにはそれができた。
先進的な技術と明らかにその時代の人々では知る筈の無い知識を活用し、彼らもまた、この新大陸を開拓するという意志を持った集団がいたから。
その新大陸において、のちに誕生する国家がどのような変遷をたどり、やがては強大な国家となることを知っていた尋常ではない人々がいたからだ。
彼らの願望---将来誕生するであろう強大な国家のアメリカ合衆国を前もってデバフをかける---そのために国家を動かした。
全ては将来の安寧のため、覇権国家ではなく地域覇権国家程度で大人しくしてもらうための、前もっての剪定。
その意志は伏されたまま、開拓団によって日本という国家は新大陸に版図を拡大する。
現地に暮らす人々を追い立てるでもなく、騙すでもなく、ただ調和と共存を求め、互いの価値観を分かち合い、日本人は徐々に徐々にとその版図を広げていた。
それはアメリカの方式とは異なるものであり、極めて理知的に、そして、深く浸透していった。
彼らとしては、新天地を求めてきたのであり、争い、戦うために来たわけでもない。
先人がいれば敬い、客人がいればもてなし、ルールの内側にあるならば同胞として認める仕組みを、そのまま使っただけのことである。
だが、ここまで言えば解ることであろう。
この両者、アメリカと日本の価値観は決して交わることはなく、出会えば戦いは避け得ず、和解も和平もないことを。
片や、神の天命、運命や義務に基づき、そして自らこそ文明を開くものと自負するアメリカ。
片や、そのアメリカの強大化を先んじて潰し、将来、未来の安寧を獲得するために暗躍する人々がいる日本。
歴史が浅い新興国と、神話と歴史がつながる古き国。その価値観は悲しいほどに隔てられ、分かり合うには双方の違いがありすぎた。
そして、運命の時---アメリカの武装開拓団と、それを知らぬ日本の開拓集団のファーストコンタクト。
それは、不倶戴天の敵同士としての運命をたどることになる日本とアメリカの関係の、始まりを告げる号砲となったのだった。
15 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/16(日) 18:49:41 ID:softbank060146109143.bbtec.net [6/62]
以上、wiki転載はご自由に。
ちょっとリメイクしました…いや、この場合、リブートに近い形ですね。
というわけで、リブートして色々と議論を反映させたストーリーを書いていこうかなと。
ちょっと話を整理したうえで、
シリーズとしての形を整えていこうと思います。
旧来のSSのリメイクだけじゃなく、新しいSSも加えながらとなります。
どうかお付き合いのほどよろしくお願いします。
16 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/16(日) 18:56:08 ID:softbank060146109143.bbtec.net [7/62]
あ、このままだとタイトル紛らわしいですね
修正をお願いします。
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日本大陸SS 漆黒世界アメリカルート プロローグ
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日本大陸SS 漆黒世界アメリカルート(Re) プロローグ
最終更新:2023年06月23日 19:42