800 名前:戦車の人[sage] 投稿日:2023/05/28(日) 00:59:13 ID:61-24-203-31.rev.home.ne.jp [198/261]
アメリカ合衆国軍が1920年代に、世界で最初の本格的歩兵戦闘車として開発と配備を行った重装軌装甲車。
それまでも戦車、装甲兵員輸送車を協働させての機械化部隊による突破は多かったが、装甲車にさらに火力を。
戦車以外の装甲車両、あるいは永久陣地を排除できる火力を、相応の防護力と共に付与した車両はM8が世界初である。
本車の開発は合衆国陸軍及び当時の新興重工業メーカー、カモミールが中心となって行われている。
元々は日本企業であったが需要と供給のミスマッチ、カモミールの技術陣の相当な癖の強さからアメリカ企業として再スタート。
今では筆記用具から打ち上げロケット、人工衛星まで幅広く取り扱う合衆国屈指の総合メーカーとして活躍している。
余談はさておいて、合衆国が日本とともに盛大に死の商人を演じた側面のある第一次大戦は、恐ろしいほどの技術進歩を果たした。
そこには対戦車装備の著しい発達も含まれ、1人から2人の歩兵で取り扱える無反動砲やロケット発射機も含まれる。
何れも有効射程は短いが、成形炸薬弾を用いることで条件さえ良ければ、中戦車を正面から撃破してしまう威力さえ有していた。
そのような状況で装甲車は歩兵の運搬に徹し、前線は主力戦車に任せておけば事は足りるという状況は変貌してしまった。
第一次大戦の段階でも合衆国は英仏独など主要参戦国に劣らず、機甲師団や機械化師団による機動突破を幾度も実施。
それは大きな戦果をあげると同時に、歩戦協働が多少でも崩れれば即座に集中する対戦車火力により、大損害を負う戦訓も示した。
合衆国最大の同盟国である日本もこの戦訓をよく学んでいたが、当面は世界大戦が終結し、何よりも仮想敵国が存在しないこと。
かような状況で全ての分野に潤沢な軍事費を投じるわけにもゆかず、既存の10式装甲兵員輸送車に25ミリ機関砲を搭載。
臨時の歩兵戦闘車としてお茶を濁すのが手一杯であり、如何なる大国の軍隊も常に予算で動くことを痛感させられる。
では合衆国で歩兵戦闘車という新機軸の、そしてけして低コストではない装甲車両開発が軍、そして議会を通った理由は2つ。
仮に次なる世界大戦ないし地域紛争が欧州で勃発した際、日本よりも地理的に近く、迅速な兵力展開を否応なしに必要とされること。
そして兵士や将校たりうる者-有権者とは、如何なる兵器よりも高価であると南北戦争以来、流血とともに学んだ結果である。
801 名前:戦車の人[sage] 投稿日:2023/05/28(日) 00:59:57 ID:61-24-203-31.rev.home.ne.jp [199/261]
かような事情から合衆国陸軍がカモミールなどに令達した要求仕様は、寸法と重量で当時最新のM4A2(T-55AM相当)を大きく超えないこと。
少なくとも正面装甲は歩兵携帯の成形炸薬弾。もしくは重機関銃や小口径速射砲(機関砲)複数の直撃に耐えること。
ライフル分隊(分隊支援火器チーム含め8名)が余裕をもって乗車可能なこと。永久築城や軽戦車程度は排除可能な火力であった。
一見無理難題極まれリという内容であるが、日本と並ぶ軍事技術先進国である合衆国では既に、半自動誘導式の対戦車ミサイル。
軽量砲身を用いる各種高初速火砲、そしてこれらを統制する電子機材などが急速に実用化されつつあった。
駆動系や装甲板に必要な冶金技術も同様であり、合衆国軍もけして無理難題を命じたわけではなく、何なら技術支援金すら提供している。
そして何よりこの発注を請け負ったのはカモミールである。読者諸兄なら御存知の通り、彼らは史実世界では報われなかった旧ソ連・ロシア式兵器。
それを大陸日本やその影響で史実以上に発達した合衆国の、基礎工業力や先端技術を用いて復刻。昇華させることこそ生きがいとする連中である。
彼らは湾岸戦争などで西側戦車にカモられた戦車、装甲車の復権も推し進めており、今回の発注は渡りに船であった。
彼らが様々な史実ソ連装甲車両を検討の末、合衆国陸軍に提供するにふさわしいとした車両のベースはBMP-3であった。
この歩兵戦闘車は100ミリ低圧砲、30ミリ機関砲などの重武装を誇り、更には主砲発射式の対戦車ミサイルさえ有する大火力である。
防御力も主要部に二重装甲を適用することで、ソ連式30ミリ機関砲の徹甲弾連続射撃に耐える程度は十分強靭であった。
かように性能面では申し分なかったが、主砲発射式ミサイルや100ミリ級火砲と30ミリ機関砲の同軸配置など、複雑に過ぎる部分も否めない。
また歩兵戦闘車としては珍しく、パワーパックを車体後部に収めることで、車体前部から中部の火力投射を増大させている。
それはそれで一つの考えではあるが、歩兵の迅速な降車展開という点で、やはり問題があることをカモミールは知悉していた。
このあたりについては降車前に戦車などと協働し、大火力で敵陣を制圧すれば危険性は減少するという意見も存在していた。
だが先の世界大戦で機甲師団所属の機械化歩兵として従軍した経験を持つ者は、流石にそれは危険性の軽視が過ぎると否定。
装甲車と歩兵にとって最も危険な瞬間は、歩兵を展開するため停車した瞬間であり、その短縮は必要不可欠と判断された。
802 名前:戦車の人[sage] 投稿日:2023/05/28(日) 01:00:30 ID:61-24-203-31.rev.home.ne.jp [200/261]
では素直にパワーパックを車体前部に配置するという案も有力だったが、ここで前方投射火力と歩兵降車迅速化。その両立案が浮上した。
それは原型のBMP-3が搭載していた水冷4サイクルV型10気筒ディーゼル-気筒間に144度もの角度を設け、車高を低減させるエンジン。
これを大陸日本との競争で史実以上に自動車大国となった合衆国の技術を用い、コンパクト化を行ってしまえば良いというものだった。
何も新奇なものではなく史実世界においてはイスラエル国防軍が、旧式戦車を原型とした重装甲車でよく用いていた手段である。
そしてその重装甲車の原型となった戦車に少なからず鹵獲されたT-55が存在していたことを考えると、これはこれでロシア式と言えなくもない。
幸いにしてカモミールは自動車部門も他メーカーと提携する形で相応に強く、直ちにこの提案に沿った再設計が実施された。
エンジンには車高がやや増大し燃費でも遜色を見るが、コンパクト性に優れる船舶用を原型とした水冷2ストローク直列6気筒ディーゼルを採用。
変速機もトルクコンバーター方式を用いている点は同様だが、原型に比べより小型効率化をはかり、パワーパックそのものの小型軽量化を達成。
パワーパックを片舷に寄せ、車体側面と背面から原型に比べ、相当に迅速な歩兵の展開を行える構造を作り出している。
エンジン出力は600馬力と当面はまず十分なものであり、トルクコンバーター変速機も前進4速/後進2速の自動式で、操縦は平易であった。
サスペンションは原型と同様、オーソドックスなトーションバー方式を持ちていており、整備性と強度、生産性の向上を図っている。
後述するが車体構造素材を軽合金から防弾鋼板に変更したことにより、25トンに増大した戦闘状態でも十分軽快な機動力を与えた。
そして車体構造のもう一つの変化として、砲塔及び車体双方が前面にきつい傾斜を有する防弾鋼板溶接構造に変更された。
この世界における合衆国陸軍、海兵隊が有する工兵の機械化は著しく、自走架橋や浮橋等も豊富に有していた。
故に河川浮航性能の必要性が低く、軍からの要求にもそもそも存在しなかったため、コスト低減と生産性向上のために変更となった。
勿論生残性の向上については言うまでもなく、既に第一次世界大戦で多用された成形炸薬弾対策を意識し、砲塔・車体全部に中空装甲を採用。
車体内部全体には高分子素材による内張が搭載され、被弾した際の衝撃による破片、戦闘艤装飛散による被害抑制に努めている。
またやはり第一次世界大戦で実用性が乏しいとされたガンポートも廃止され、車体側面や後部ランプは単純な一枚構造である。
803 名前:戦車の人[sage] 投稿日:2023/05/28(日) 01:01:31 ID:61-24-203-31.rev.home.ne.jp [201/261]
車体の完成を見た上で次なる焦点は武装であった。駆動系のコンパクト化と偏差配置の工夫により、車体前方の火力容積は確保できた。
だが100ミリ低圧砲、30ミリ機関砲の連装配置。更には低圧砲から発射する対戦車ミサイルなどは、如何にも複雑に過ぎた。
何しろソ連が得意とした砲発射式対戦車ミサイルなどは、数発で戦車本体に匹敵するほどの高コストとなったのだ。
故にカモミールは軍が火力面で強く求めた要求である永久陣地、戦車以外の装甲車両の排除を一義として火力配置を再設計。
ヤード・ポンド法に合わせ口径を105ミリに、砲身長を38口径に伸ばした低圧砲をバズル式自動装填装置とともに砲塔に搭載。
まずは大炸薬の105ミリ榴弾、成形炸薬弾の速射による陣地、軽装甲車両の制圧を優先した。発射速度は毎分12-15発程度である。
それ以外の武装としては主砲同軸に、低空対空射撃用も兼ねてKordを参考とした12.7ミリ車載重機関銃を1門。
車体正面の左右には歩兵用分隊支援火器を原型に車載化した7.62ミリ機関銃を、各1門搭載することで陣地突破火力を高めた。
弾薬は105ミリ低圧砲が48発(即応24発、予備弾24発)、12.7ミリ機関銃が1000発、7.62ミリ機関銃が4000発搭載されている。
では対戦車火力を完全に割り切ったかと言えば異なる。何しろ既に歩兵部隊にはカモミールも開発に関わった、対戦車ミサイルが配備されていた。
史実の9M14P相当の半自動有線誘導方式の対戦車ミサイルで、飛翔速度毎秒150メートル、有効射程3000メートル程度。
そして最良状態ならば均質圧延装甲で450ミリ以上を貫通可能な威力を持ち、重量も11キロそこそこと軽便なシステムである。
カモミール開発陣は「砲発射に拘らなければ良い」とあっさりと割り切り、既存の対戦車ミサイルを誘導システムごと外装式に搭載。
ミサイルは即応弾2発が箱型装甲発射機に収められ、砲塔左右に搭載されている。車体内部にも2発の予備弾が搭載可能である。
如何に重工業、軍事技術の発達が極めて早いこの世界でも、当時の最新戦車は戦後第2世代相当であり、十分な威力が期待できた。
武装と並んで戦闘車両の火力を担保する射撃指揮装置は、流石に原型BMP-3ほど複雑かつ高性能なものではない。
だがアクティブ赤外線暗視装置、ルビーレーザー測距儀、デジタル弾道計算機、砲・照準器2軸安定装置などは完備している。
これは同時期の主力戦車、M4の改良型であるM4A2(T-55AM)用のそれと共通規格で、スケールメリットによる調達コスト低下も意識された。
804 名前:戦車の人[sage] 投稿日:2023/05/28(日) 01:02:10 ID:61-24-203-31.rev.home.ne.jp [202/261]
そしてM8で称賛されるべきはこれらの戦闘艤装、実効性能を達成するにあたり、最大限民間の商用技術を援用していること。
あるいは既に配備されている装備を車載最適化を行うことで、過剰コストを回避して合衆国軍の要求を満たしていることである。
特に今後、装甲戦闘車両のコストの半分を占めることになる電子装備などは、IBMなどの商業用電子機材を主体となっている。
駆動系、装甲に用いるモジュールや冶金技術も既存の中戦車や大型装甲車の技術を援用、改良したもので、外観に反してかなり新味はない。
唯一難儀したものは38口径105ミリ低圧砲であるが、これも合衆国軍が歩兵用に試作していた90ミリ軽量対戦車砲の拡大改良版である。
カモミールは旧ソ連式の工業製品を布教するためであれば、市場原理も枯れた技術の水平思考も全てを活用したのである。
かくして合衆国軍評価試験部隊においても、現行主力戦車に匹敵する巨体はやや難を示されたが、性能と信頼性は総じて好評を博した。
特に先の大戦で機動突破作戦を経験した機甲師団、機械化師団等では、その高い機動力と生残性、大火力は高く評価された。
歩兵の乗車、展開能力も及第点であり、M1小銃(AKM相当)やM1914軽機関銃(RPD相当)を装備するライフル分隊が、余裕をもって乗車できた。
なおM8は乗員や乗車歩兵の居住性にもそれなりに配慮が行われ、電子計算機冷却用も兼ねた冷暖房空調の搭載。
そしてカモミールが日本の食品メーカーと共同で開発した、レトルト戦闘糧食を迅速に加熱できる温熱器なども備えられている。
機甲師団、機械化師団の機動突破は長距離かつ長時間となることが多く、兵の疲労を抑制することも戦訓から求められていたのである。
M8歩兵戦闘車は装甲兵員輸送車としてはやや変わった構造故に、派生型は指揮通信車や化学防護車程度とさほど多くない。
だが後にロールアウトするM46やM72といった新型戦車と組み合わせても過不足ない高性能を発揮し、長く機械化歩兵の友であり続けた。
射撃指揮装置、低圧砲弾薬、対戦車ミサイル、装甲構造なども段階的な近代化、更新、あるいは強化が果たされ続けた。
後に歩兵部隊の重武装化の加速によりM8でも手狭となり、M60戦車(T-14改良型)を原型とした重装甲歩兵戦闘車が開発されることになる。
しかし合衆国以外のハワイ条約加盟国。その中でも中小国の陸軍では、再整備と近代化を施されたM8改良型がかなり長く現役にあった。
21世紀現在では殆どが退役、もしくは予備装備扱いであるが、合衆国軍駐屯地の多くで展示保存車両を今なお見かけることが出来る。
805 名前:戦車の人[sage] 投稿日:2023/05/28(日) 01:05:07 ID:61-24-203-31.rev.home.ne.jp [203/261]
以上でございます。
改定前との変更点としましては、ご指摘にあったアチザリット重装甲車のそれを参考とした駆動系の後部配置。
それによる無理のない車体機関銃の搭載、砲・重機関銃の十分な予備弾薬搭載容積の確保。
後は追加描写ですが浮航性だけでなくガンポートも廃止し、防護力向上と構造単純化を推進。
また車内に空調、戦闘糧食温熱器を備えることで、長距離機動突破の際の乗員疲労抑制を意識してみました。
後にこの世界では6.8ミ口径火器が標準となるため、アルマータ相当の大型歩兵戦闘車に代替されるんじゃないかな…とか考えてます。
最終更新:2023年06月23日 20:31