30:635:2023/02/09(木) 23:29:52 HOST:119-171-248-234.rev.home.ne.jp



スタートを担当するマシュが旗を上げる。
他の超大陸の者はグチャグチャな情緒でゴーストウィニング達を見ているので他に出来るのがいない。
強いて言うなら邪気眼どもだが…流石にシリアスなのでシリアルかしそうな彼らは辞退したりと以外と分別があった。

マシュが旗を降ろすと同時に二頭と一人が駆け出すがゴーストウィニングと竹内は少し遅れる。
先を切ったのは電の乗るゴーストウィニング号、当然だろう。
竹内もゴーストウィニングもゴーストウィニング号が去るという事実に心が乱れてレースに集中出来ていないのだから…。
そのまま最終コーナーまでゴーストウィニング号の独走は続く。


「(何だあの手綱捌きと重心の安定性…本当に今日初めてゴーストウィニングに乗ったていうのかよ…!?)」


竹内は目の前を走りコーナーを曲がり始めるゴーストウィニング号に跨る電に嫉妬していた。
まるで長年連れ添った様にゴーストウィニング号と息を合わせる電、
無論あれより自分の方がゴーストウィニング号と息が合うと自負出来るが自分があそこに至るまでどれ程掛かったことか。
才能と相性、そんな言葉が浮かぶが竹内はレースに集中せねばと首を振る。
実際の所電とゴーストウィニングの相性はそれ程でもない。
いや坂田金時を宿す電ならばそれなりなのだがゴーストウィニングと竹内のコンビの方が最早仏縁レベルな仏契り(ぶっちぎり)な相性なのだ。

しかしそれでも彼我の差は大きい、自分は慣れない馬に乱れた心。
対し相手は初めての騎乗と思えず更に自身の愛馬…あの中山のウマ娘以外では負け知らずの最強馬。
本当に勝てるのという考えが過るがその瞬間ゴーストウィニング号がこちらを向き嘶くと電の姿がぶれながらこちらを向く。
それは先程までの電の服装ではなく。


「俺…の勝負服…?」



ゴーストウィニングはグチャグチャな心でターフを駆け抜ける。
お陰でゴーストウィニング号はおろかライスシャワー号にすら追いつけない。
本当に最後の最後、最期のゴーストウィニング号とちゃんと走る機会(チャンス)、しっかり走りたいのに全力が出ない。


「ちゃんと…ゴーストウィニング号(私)と走りたいのに…!!」


情けなくて涙が出てくる。寂しくて悲しくて…ゴーストウィニング号の前で笑顔で走りたいのに…。


「どうしたのです…?貴方達の実力はそんなものなのです?(お前らの実力そんなものじゃないだろ?)」


電の声が聞こえる。そして重なる様に良く知る声にハッと顔を上げる。
コーナーの先でこちらにちらりと目を向けるゴーストウィニング号とその鞍上、その姿は…。


「たけうちぃ…。」


涙を増やしその姿を見る。
電ではなく、在りし日の…あの日のゴーストウィニング号とその鞍上の姿。
その姿を見て自然と足に力が入る。


「うううう…うわわああああぁぁぁぁ!!」


涙で顔をグチャグチャにしながらフォームもクソもなくゴーストウィニングは加速しゴーストウィニング号に迫る。


「何で…何で…俺とゴーストウィニングが…!!」


顔をグチャグチャにしたのは竹内も同じ。
間違いない。あれは自分とゴーストウィニング。
もう終わった一人の騎手と一頭の競走馬、それが何故ここにある?
グチャグチャの感情の中、騎手の本能か手綱を握り、鞭をしならせる。
その度に前のゴーストウィニング号が近づく。


―――嫌だ嫌だ嫌だ…!追いつけばあのゴーストとお別れだぞ!?―――


自分の一部が訴えるが竹内の身体は涙を流しながらライスシャワー号を加速させる。
そしてゴーストウィニング号を捉え、


「ゴー…スト…!!」



31:635:2023/02/09(木) 23:31:06 HOST:119-171-248-234.rev.home.ne.jp


ゴーストウィニング号を抜き去った…それはウマ娘ゴーストウィニングも同じ。
竹内はとっさに馬上で振り向き、ゴーストウィニングは無理やり体勢を変え後ろを振り返る。
そこにいたのは…差しつつある朝日の光の中を走るのはあの日の中山の竹内とゴーストウィニング、
ゴーストウィニング号はあの日の、あの事故の時刻のまま時の止まったあの日の竹内を乗せていた。
ゴーストウィニングと竹内を縛るあの日の全ては彼(ゴーストウィニング号)が持っていく。

段々と陽炎の様に薄れゆくゴーストウィニング号に竹内とゴーストウィニングは手を伸そうとするが届くことはない。
それだけではないゴーストウィニングらを見ていた者達、ウマ娘の一部は己に異変を感じた。
それとともにゴーストウィニング号のその足は何かの代わりの様にひび割れ砕けていく。


「え…何…これ…?」

「テイオー…?ッ!?なんですの…これは屈腱炎の後遺症のあった私の足が…!!」

「ブルボンさん?」

「あの後の…故障が…?」


ゴーストウィニングの母でゴーストウィニング号の馬主の花舞…いや飯崎鈴夏はウマ娘の異変で全てを察した
膝を着き涙を流しながらもその瞳は閉じることなくゴーストウィニング号の…己の優駿の最後の姿を、勇姿を焼き付ける。


「ゴー…スト…貴方は本当に…私の誇りで馬主孝行で…世界最高の競走馬だよ…。」


この場のウマ娘の、ウマソウルの因果もその結果もゴーストウィニング号がその身に背負い全部持っていく。
彼とウマソウルの残滓達が出来るウマ娘達への精一杯の贈り物…。


「あああああああぁぁぁぁぁ!!」

「うわああああぁぁぁぁぁぁ!!」


ゴーストウィニング号、その最後から顔を背け、前を向き絶叫し疾駆するゴーストウィニングと竹内。
涙を流しながら振り返らずにゴール板を目指し、二人がゴール板を抜けると完全に太陽が昇る。
スピードそのままにゴールという己の役目を終えた二人は漸く振り返り、彼の最後のその姿を焼き付ける。
陽光に照らされたゴーストウィニング号はいっそ幻想的で…儚く消えていく。
幻想の様に、春の陽に照らされた春霞の様に優駿ゴーストウィニング号はゴール板を超えることなく空に消えた。






「なのです―――――!?」


なお、ゴーストウィニング号が消えた電はそのままの勢いで空中に放り出されそのままゴール板を通過した。
だがその程度艦娘である電からすれば問題ないこと、宇宙では音速を超えた戦いまでするのだから。
そのまま前方の竹内乗るライスシャワー号とゴーストウィニングを超えるとクルリと一回転し着地を決めた。


「ヘブシ!?」


着地を決めたはいいがいい感じに腹に突っ込んでくる物体がありそのままの勢いで転がっていく。


「痛たたたたた…一体何なのです…ってゴーストウィニングさん?」


突っ込んできたのはゴールした勢いのままのゴーストウィニング、電に抱き着き顔を服に埋め声を押し殺し泣いていた。
溜息を吐くとその頭を撫でる。一瞬身体をビクリとさせるが更に抱き着く力を強めると泣き声が少し大きくなる。
ゴーストウィニングを撫でながらも周囲を見回す。

竹内はライスシャワー号から降りて地面を叩きながら号泣していた。
その側には武勇が付き添い慰めていた。サイレンススズカ号の経験がある武勇が一緒ならば大丈夫だろう。
馬主の飯崎も同様だが長年の関係のある牧場関係者が側にいる。
問題はゴーストウィニングだ。

一番彼女を慰められる竹内も飯崎もあの状況、そしてゴーストウィニングの情緒は幼い少女のソレだという。
どうしたものかと電が考えていると。


「ゴーストぉ!」「ゴースト!!」「ゴーストさんっ!!」


ゴーストウィニングの名を呼ぶ声、セイウンスカイとナイスネイチャとニシノフラワーの三人がこちらに向かってくる。
ああ、仲の良い二人とあの異界一緒に潜り抜けたニシノフラワーが一緒なら大丈夫…って。


「セイウンスカイさん、ナイスネイチャさん、ニシノフラワーさん!?ストップ!ストップなのでs、ヘブァッ!?」


顔をクシャクシャに歪め涙流しながらウマ娘の全速力で電の方に向かってくるとそのまま飛びついてきた。
お陰で芝の上を再びゴロゴロと転がっていく電、そして漸く止まった所でゴーストウィニングが顔を上げる。

32:635:2023/02/09(木) 23:33:10 HOST:119-171-248-234.rev.home.ne.jp


「ゴーストさん…!ゴーストさん…!ゴーストさぁんッ…!」

「あ…スカイにネイチャにフラワー…すごい顔…。」

「あ…じゃないわよ…!全くどれだけこっちが心配したか…!」

「すごい顔なのはお互い様だよ…。」

「三人とも泣かないで…。」


そんな三人を心配するゴーストウィニング、自然と出た行動だが気丈に振る舞う様に見え三人は更に号泣する。
それにつられてゴーストウィニングも泣く。
電は自分の上で四人が号泣するので身動き取れず空を見上げ少し思う。


「ゴーストウィニングさん…成長したのですね…あ…。」


空を見上げる電、その視界に入る光るものがあった。他の者には見えないが艦娘の目には見えた。
それは暫しゴーストウィニング達に抱きつかれた電の周囲を暫しふよふよと漂うと安心したのか空へ去っていく。
虹の橋を渡る彼…電はそれを無言で見送った。

それから暫くしシンボリルドルフらウマ娘や秋川やよいらトレセン学園関係者や大見らは皆コースを後にする、
後ろ髪引かれるが関係各所への対応や後処理が待っている。
ウマ娘らは学校が開くか分からないが生徒である以上一応準備だけはせねばなるまい。
しかしウィニングゴーストとほぼ当事者といって差し支えないセイウンスカイ、ナイスネイチャ、ニシノフラワーの四人。
彼女らはそっとしておこうという配慮されたのでそのままコースに残された。


「竹内さんや馬主さんは連れて行ったのだからついでに連れて行って欲しかったのです…。」


抱きつかれたまま放置された電の上では未だに四人が泣いている。溜息を吐く電。



それから数時間後、朝食の時間に電はカフェテリアにいた。
カウンター席に腰掛け電の口を付けたコーヒーの置かれたカウンター越しのテーブル席ではウマ娘達が元気よく食事をしている。
あの泣いていたゴーストウィニングも表面上はいつもの様子を取り戻している。
というか食事しながら異界での出来事をMAD化してサイレンススズカ号らの祝福の歌付けてる。
なお保管されてた食料が何故か尽きていたので急遽デメテルから輸送されて大急ぎで朝食が現在も作られてたりする。
そんな中電はカウンターの下を小突く。


「で、何で数時間で出戻りなのです?あの後に電が骨折って幽世の入口まで出向いてゴーストウィニングさんたちと感動的な別れしたのに。」


感動が台無しだと電はカウンターの下に小さな声を掛ける。


「そのですねえ…天国行ったらこちらの神様から旦那がやらかしたウチが引き取るのウマ娘の皆さんに申し訳ないと言われて、
そちらの神様…ケルヌンノスが引き取ってくれたのでおウマさんに成れることになったのですが…。」


そこには身を縮こませた人物がいた。ついでに何故か電に敬語。


「向こうのセントライトやシンザン達ご先祖様達に凱旋門賞とかのトロフィー(レプリカ)見せまして…。
強いのですとちょっとイキっちゃったのです。ホントちょっとですよ!?
そしたらおウマさんにレース挑まれて戦ったらボロ負けして…。
皆さんが向こうに帰るまでもう一度生まれた世界で調教師の人とかに頼んで鍛え直して貰えと言われまして…はい…。」

「この数時間の間に何やってるのです…。
向こうのおウマさん達は肉体的に最盛期の状態で何年も叩き合ってるのです。天の草原含めれば数十年に渡って。
偶にハルウララ号さんがミスターシービー号さんやマルゼンスキー号さん相手に暮れの中山制覇したり、
ツインターボ号さんがグランプリ馬やダービー馬相手に長距離逃げ切って勝ったりしてるのですよ。」

「ナニソレ怖い…脚質とか適性とかどうなってるの…。」


そんな電を目敏く見つけ近寄るツインターボはカウンター越しに電の足元を覗き込む。


「どうしたんだ電?…あ!!"ゴーストウィニング"がもう一人いる!!」

33:635:2023/02/09(木) 23:34:31 HOST:119-171-248-234.rev.home.ne.jp


ガタンと音がしてその場のウマ娘達がほぼ全員立ち上がる。
ゴーストウィニングがもう一人、その事実は一つしかない。
ゴーストウィニングがフルフルと震え泣き出すと電の方へ突撃を開始する。


「コ"ー"ス"ト"ウ"ィ"ニ"ン"ク"こ"う"――――!!」

「やばい!?」


電の足元から出ると這々の体で逃げ出すゴーストウィニングのそっくりさんをゴーストウィニングが追う。


「ゴーストウィニング号さん!!今度こそ帰ってきたんですね!?」

「こらー待ちなさい!!ゴーストウィニング号!!ゴーストの姿で何故いる―――――!?」

「返して!返してよ!全国放送されちゃった幽世でのセイちゃんの泣き顔返して!?」


ニシノフラワーがナイスネイチャが、顔真っ赤にしたセイウンスカイがゴーストウィニングの後を追う。


「行こう!マックイーン!」

「ええ…散々泣かせた仕返しをしてやりますわ!!」

「ターボも行く!!」


トウカイテイオーがメジロマックイーンがツインターボが続き、他のウマ娘も続く。


「ターボもネイチャも行きましたね。タンホイザ、私たちはどうしましょうか…タンホイザ?」

「イ"ク"ノ"ぉ"、お"と"ろ"い"て"し"た"か"ん"し"ゃ"っ"た"!!(涙)」

「何をしてるんですか全く…。」


まあ中にはそれどころじゃないウマ娘もいるがドタバタとしているトレセンの日常が始まる。


「全く…やれやれなのです。結局は人の夢と書いて全く儚くなかったのです。
時は春、日は朝…空には神様がいてこの世はなべて事もなし…せめて食後のコーヒーくらいの平穏を…。」


そう言いコーヒーを飲む電。


「まあコーヒー飲んでる間には大体は解決するで『あ!ゴーストウィニング号が理事長が大事に育ててる芝の上突っきた!?』…
…コーヒー妙に苦いのです……。」

34:635:2023/02/09(木) 23:35:29 HOST:119-171-248-234.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。
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最終更新:2023年07月02日 16:04