113 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/11(日) 23:48:05 ID:softbank060146109143.bbtec.net [27/153]
憂鬱SRW 未来編 エグゼシナリオSS「第二回N1グランプリ第一次予選D13ブロック」2
- C.E.地球 N1グランプリ予選会会場 コロシアムの電脳
予選のバトルロワイヤルは開始から早々に激戦となった。
明らかに強敵のTo-605が2体、そして周辺に参加者たちを包囲するように配置されたエネミー、さらに落下すれば失格の穴のある地形。
互いを蹴落とし合うということも念頭にはおいているが、各員がまず最初にすべきは、おのれの安全確保だった。
「囲まれてちゃおちおち戦えねぇな!」
主として飛び道具のバトルチップを転送されたナビたちは、それを用いて観客席に展開したキャノーダムを撃破していく。
だが、それらはすぐに補充され、次の砲台が顔をのぞかせてしまう。そんなのは考慮のうちだから、対応するようにそれらに攻撃を続行される。
一発撃ち返せばその10倍は撃ち返されるようなそれは、しかし、確実に砲撃の隙間を生み出していた。
弾幕を掻い潜るナビたちは、その程度で倒されるほど軟でもなければ判断能力が低くはない。
着実に撃破と回避を連続して、受けるダメージを小さくしていた。
「上だ!」
「野郎!」
そして、攻撃は何も水平方向だけではない。上からも降り注ぐ。
攻撃ヘリを模したエネミーから地上に這いつくばるしかないナビたちを狙い、ロケット弾やバルカン砲が撃ち込まれていく。
現実における戦場と同じような対地攻撃の連続だ。それは電脳空間においても非常に有効で、破壊力が伴う。
だが、それに怯むことなくシールドやチップによる回避や防御を重ねていく。ここにいる参加者はそういう実力の持ち主であるから。
反撃で撃ち落とされるが、しかし、補充は次々と現れて尽きることはない。馬鹿正直に付き合うとこのままでは済まない。
そう判断し、複雑に変化した地形に隠れるナビも多かった。
「てやぁああ!」
そんな中にあって、こはくは遠慮なく戦っていた。
エグゼブレイカーを振りかざし、飛んでくるエネルギー砲弾を撃ち返して撃破し、あるいは地形を利用して飛び上がって切り落とす。
飛んでいる航空ヘリ型エネミーを次々に足掛かりとすれば、飛翔能力はなくとも空中戦も可能なのだ。
このくらいとなれば、コーゲン・シティの電脳で散々経験してきたことであるし、怖くもなんともない。
調子としても良好だ。次々と撃破していくごとに興奮も高まり、意識も集中していく。エンジンがかかっていくのだ。
「ほっ、よっ!はあ!」
空中での奪取も重ね、連続撃破。そこから綺麗に着地を決めると、すかさず駆け出して襲ってくる銃撃を回避していく。
「エンジン、掛かってきたよぉ……おおっと!?」
それでもなお、飛んできた弾丸を空中ではじき返し、着地。
ついでに他の参加者からの狙いすました射撃も、それを感知したエグゼブレイカーがオートで弾く。
こはくはそのフォローに驚く間もなく駆け出す。足を止めたら的だ。そのまま遮蔽物を利用して射線を切って、一息入れる。
114 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/11(日) 23:49:10 ID:softbank060146109143.bbtec.net [28/153]
『こはく、あまり目立ちすぎると狙われるぞ』
「あ、あはは、やっぱり?」
『このバトルロワイヤルの突破の条件は生存のみ。
だが、この後を考えているなら、有力な候補者を狙う参加者は多くいるだろう』
エグゼブレイカーの懸念はそれだった。
たしかにこのバトルロワイヤルは生存が突破条件であり、無理に他の参加者を蹴落とす必要性はない。
けれども、ここで有力者を結託して蹴落とすというのは戦略としてありなのである。
無論のこと、徘徊しながら見境なく参加者を襲うTo-605の攻撃とキャノーダムらに気を配りながらという難しさはある。
『そのリスクは一時のモノだが、この先の予選において人数を絞り始めたら厄介であろうからな』
「なるほどね」
あの死角からの射撃はそれを企図したモノというのをこはくは理解した。
あそこで自分への攻撃が来たことは理解できたのだが、対応が一瞬遅れた。エグゼブレイカーのアシストが無ければ食らっていただろう。
勿論それだけでリタイアになるダメージではないが、動きに支障をきたして、あらぬところに吹き飛ばされていたかもしれない。
『おそらく、あのTo-605をこすりつけようとしていたのだろうな』
「あれは厄介だよね……」
今もドシンドシンと足音をとどろかせ、そのキャノン砲で周囲の参加者を打ちまくっているTo-605……のデータ体。
解析でもそのHPは尋常ではなく、攻撃を当てても減衰が見られたなど、明らかに通常の仕様ではないことが窺えた。
『役目としてはハンターだろうな。周囲の攻撃で迂闊に飛び出した標的を発見し、追いかけて撃破する』
「攻撃手段とかは?」
その問いにいくつかのウィンドウがこはくの前に表示された。
『主兵装はおそらくだが胴体にある大型のキャノン砲。だが、厄介なのは突進攻撃だ』
その映像は、衝撃的だ。あれだけの巨体が高速で回転し、一気に突撃してくるのだから。
速度と質量の合わさった一撃は、すでに数名の不幸な参加者をリタイヤに追い込むほどのダメージを与えている。
その映像を見たこはくはポツリと漏らす。
「うへぇ……あのプレス機みたい……」
こはくの言うプレス機とは、大鳥重工で開発され、しかし破棄されたロボット「カムイタリ」のことだ。
インターネットで学習をした結果、何故か有機体を潰したい、つまり人や生物に該当するものを潰したいというとんでもない欲望を得た危険なロボットだ。
「一周目」ではまだ普通のロボットだったのだが、「二周目」ではまさかの欲望丸出しで襲い掛かってきたのが未だにトラウマ気味だ。
高速回転しながら突撃してくる様などそっくりでさえある。なんかうらみでもあるのか。
『無理に相手をする必要はない。残りの制限時間を生き残ればいいわけだからな。
ただ、何時までも逃げ回れるわけではないだろう』
「んー……?」
『主催者側も予選参加者が結託して全員生き残りを選ばれても困る、ということだ。
だからこそ、いやでも数を減らすような、そんなことをしてくる可能性がある』
「……うん、わかった。何が来るかはわからないけど、備えておくよ」
『よし、それならいい。移動しよう』
「オッケー」
周囲の様子を確認すると、どうやらTo-605を警戒しつつも、動き回っているナビがいることが確認された。
同じように隠れているだけ、とは限らなさそうだ。明らかに敵意を感じる視線が自分へと刺さってきている。
どうするか?それは単純に答えが出た。
「じゃあ、強行突破だ!」
115 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/11(日) 23:50:05 ID:softbank060146109143.bbtec.net [29/153]
刹那の動きで、こはくは加速した。0からトップスピードへの瞬間的な加速。
それを察知した他の参加者から攻撃が飛んでくる。
想定内だ。すでにこはくはバトルチップを使用している。
そして、そのチップの効果もあってこはくの姿は文字通り景色へと溶け込んでいく。
「!?消えた!」
「インビジブルだ!」
「くそ、読まれたか!」
バトルチップ「インビジブル」。一定時間姿を透明にし、殆どの攻撃を潜り抜けられるというもの。
それによって他のナビの目を逃れ、こはくは疾走したのだ。
「そりゃあ!」
「ぐぁ!?」
そして、完全な不意打ちで一人のナビが武器を構えた状態から吹っ飛ばされ、その転がっていった先で砲撃を受けリタイヤしてしまう。
その背後には、一瞬間だけ、エグゼブレイカーを振りぬいたこはくの姿が見える。
見えるならば、と即座にナビとそのオペレーターたちは行動する。インビジブルというのはとても有効なチップである。
しかし、弱点が0というわけではない。対インビジブル性能を備えたチップが決してないわけではないのだ。
エレキパルス、キラーセンサー、フラッシュボムなどがそれを備えている。対策として持ち込んできているナビも多い。
けれど、それは当たらねば怖くないのである。
当たれば即死という特殊環境を抜けてきたこはくにとって、こと回避という点において胆が太いのだ。
「よっと……!そこ!」
「くそ!」
放射されたエレキパルスを紙一重に回避し、さらに加速。
エグゼブレイカーを振るい、そこから飛んだ斬撃がチップ発動の瞬間の硬直で止まったナビを切り裂く。
とどめに攻撃を受けて吹っ飛んだところまで一気に踏み込んでの連続斬撃で止めを刺す。
『後方、来るぞ』
「ほいっと!」
返事の代わりに、バトルチップのメガブーメランを選択。瞬時に飛んでいったブーメランが、こはくを狙うナビたちの動きを抑止する。
追撃で選択するのはバグボム、対策をしていないナビならば無視しえないバグをランダムに発生させる厄介なものだ。
同時に爆風と共に煙が展張するため、その隙にこはくは逃走を選択する。いつまでも一対多数をするのは危険だ。
「逃がすか……!」
インビジブルの効果が切れ、煙が晴れてようやくこはくの姿をナビたちが捉えた時、すでにダイブ距離はあけられていた。
それでも、攻撃オプションがないわけではない。あれほどの立ち回りを見せた相手は、今後において厄介だ。
だからこそここで、という意志が彼らの行動を後押ししていた。
「私のこともいいけどさー、周りを見たほうがいいよー」
親切心から叫ぶこはくの声に、ふと周りを見渡すと、それがいた。
「こんな時に……!」
相手にTo-605をこすりつけられた、という認識が湧いた。
To-605がナビの多いところを確認するとそちらに向かい攻撃を実施するというロジックなのは、少し観察すれば分かること。
それがうまく利用され、有力者を狙った自分たちに差し向けられた形となる。
「くそ、対処するぞ!」
それでも、強敵を前にして折れないのは、流石勝ち抜いてきた候補者というべきか。
想定外にぶつかりながらも、彼らの闘志は折れてはいなかった。
116 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/11(日) 23:51:24 ID:softbank060146109143.bbtec.net [30/153]
以上、wiki転載はご自由に。
あと1話か2話で終わりにする予定です。
こはくちゃんのフォルダは、自前の攻撃手段があることから、サポート系をメインにしつつ、飛び道具を揃えた形ですね。
まあ、まだ予選なので全力は出しません。サフェドシーアモードもまだ解禁していませんね。
最終更新:2023年07月09日 19:57