264 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/14(水) 22:56:06 ID:softbank060146109143.bbtec.net [58/153]

憂鬱SRW 未来編 エグゼシナリオSS「第二回N1グランプリ第一次予選D13ブロック」3


  • C.E.地球 N1グランプリ予選会会場 コロシアムの電脳


『嫌な予感がする』
「どうしたの、EB?」

 一時自分を狙う集団から逃走してフィールド内部を大きく移動をしたこはくは、地形の陰で一休みしている最中にエグゼブレイカーの声を聞いた。
 すでにバトルロワイヤルも制限時間も残り3分の1となった頃。このころになると既に誰もが生存方法などを確立しつつあった。
ハンターとして参加者を索敵して襲い掛かってくるTo-605の行動パターンは把握され、あるいは攻撃してくるエネミーの特徴も理解されていた。
 それ故にというか、動きが徐々に鈍化していたのだ。誰もが生存に割り切り始めたことで、プレイヤー同士の戦いも減り始めていた。
それもそうだ。極論互いの邪魔をしなければ通過できるようなものなのだから、余計な労力は避けたいというのが自然である。

『状況からするに、このまま膠着状態になるというのは運営にとっては望ましくないと考えていた』
「んー……でも、それも戦略の一つってことじゃないかな?」
『だが、この予選からは各種メディアでも放送されていると聞く。
 動きのなくなった試合など詰まらなくなり、視聴率などを稼げなくなる。そうなればスポンサーとしても困るのは確実だ』
「えっと、それじゃあ……」
『そろそろこちらの膠着を打破するような、そんな何かをしてくるだろうな』

 エグゼブレイカーの忠告を聞くや、素早くこはくは立ち上がって周囲を確認する。
 もしも忠告が正しいならば、何らかの動きがあるはずだ。意識を集中させ、周囲の気配に気を配る。
 そして、違和感を感じ取った。

「静かすぎる……?」

 おかしい。
 周囲に配置された砲台、そして攻撃ドローン、To-605などが動き回り、攻撃を行い、だいぶやかましかったはずなのだ。
 だが、今の状況下においてはまるでそれが見受けられない。まるで何か準備のために一時的に動きを止めたようで---

「!?」

 ふと、上を見上げると、新しいタイプの攻撃ドローンが展開しつつあるのが見えた。
 観客席の方では、これまで弾幕を形成していた砲台が、これまでより大きく、強力なモノに変化しているのも見えた。
単純な砲台だけでなく、ミサイルランチャーと思われる砲台やガトリングガンのようなものも見受けられている。
 そして、地面の大きな揺れが始まった。
 轟音とともに変化したステージはその面積を狭めていったのだ。外延部が崩落し始め、あるいは中央部でも部分的に床が抜け始めた。
これによって、ナビの活動範囲はぐっと狭まったのは確実だ。言うまでもなく、攻撃をよける余裕が大きく減ることになる。
周囲からの攻撃が強化されたことと合わされば、なおのこと危険度合いが増したことは言うまでもない。

「EB」
『やはりだな、準備はいいか、こはく?』
「いつでも!」

 さらに、追加で情報が入る。成績上位者---これまでの戦いぶりで優れていると判断された参加者の位置などが表示されるようになったのだ。
確かに、このバトルロワイヤルは生き残ればいいというものだったが、成績上位者は次の予選でのアドバンテージがあると説明されていたのだ。
これまで結構な立ち回りをしていたこはくも、当然それに含まれており、ターゲティングされることとなったのだ。
 これは狙われる。その認識が両者にはあったのだ。
 即座にこはくは走り出す。
 残り時間を考えれば逃げ回るが吉だろう。
 この後の、つまりこのバトルロワイヤルの次の予選を見据え、成績上位者を倒そうという動きが確実に起こる。
 運営側としては意図的にサドンデスを仕掛けることで、膠着した状態を打破し、より激戦を演じてほしいのだろう。

265 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/14(水) 22:56:48 ID:softbank060146109143.bbtec.net [59/153]

「見つけたぞ!」
「やれ!」
「やっば!」

 そして、つけられているビーコンを基にこはくは補足されてしまう。
 襲い来るのは、ここまで温存されていたであろうバトルチップの攻撃だ。
 ここまで生き残ってきた参加者の攻撃だ、狙いはよく、また高位のチップであることはうかがえる。

「あたってあげないよ!」

 だが、こはくとて上位者だ。
 攻撃の隙間を縫い、あるいは攻撃をエグゼブレイカーではじき返し、せり上がった壁の側面をダッシュで駆け抜ける。
そして、追いすがるナビたちに斬撃を飛ばしたところで、一瞬の硬直。そこにすかさずドールサンダーが伸び---

「残念だったねー」

 バトルチップ「カワリミ」が発動した。
 即座に回避したことで反撃の手裏剣は外れるが、決定的なチャンスを見事に潰された形だった。
 こはくが先読みをしてトラップを仕掛けておいたのが功を奏した形である。
 そして、こはくが被弾したと思い、その先を読んで行動していたナビたちの予想が外れた隙に、次なるチップが発動していた。

「そりゃあ!」
「くっ……!?」
「……しまった!」

 バトルチップ「ブラインド」。
 強烈な閃光が、射線が通っているがゆえに遮るものがなくナビたちの目を焼き尽くす。ナビたちをオペレートするオペレーターのそれもだ。
 そして、リカバリーまでの時間さえあれば、こはくが反転して肉薄するのに十分すぎる猶予があったのだ。

「とりゃあ!」

 連続の剣裁。美しくも残酷な斬撃の嵐が、ナビたちを次々と切り伏せる。
 重たい一撃のそれは、ついでにナビたちへと転送されていたチップまでも破壊する。エグゼブレイカーの真骨頂だ。

「とど、め!……!?」

 最後の一体に振り落とした瞬間、トラップが発動した。
 バトルチップ「シラハドリ」。ソード系の攻撃に対して罠を張り、それが当たった瞬間に瞬間的に無敵となり---

「やばっ……!」

 ブラインド状態が解除され、ワイドソードの三連撃と共にソニックブームが放たれた。
 元々エグゼブレイカーで倒す関係上、彼我の距離をほぼ0にするほど踏み込んでいた。
 そうであるがゆえに、シラハドリも超至近距離で発動する。

(とった……!)

 その認識が、こはくと相対していたナビにはあった。
 相手が剣を使うネットナビアバターというのはわかっていたからこそ、あらかじめ張っておいた罠だ。
果たして、ブラインドという不意を喰らったものの、こうして一撃入れることができた。
 後はホワイトカプセルを付け加えたこの一撃を基点として、一気に畳みかけるのみである。
 相手がほとんど被弾らしい被弾をしていないので、HPがかなり残っているとしても、そのまま領域外に落とすと言う手が使える。
 相手が少女というのもあって多少は良心が痛むが、これもシビアなネットバトルなのだ。運が悪かったと思ってもらおう。

266 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/14(水) 22:57:50 ID:softbank060146109143.bbtec.net [60/153]

(いけ……!)

 そして、ソニックブームがこはくに直撃しようとして---一瞬間ノイズが奔り---相手の姿が消えた。

「は?」

 文字通り、消えたのだ。
 瞬間的に、そこにいたはずのアバターの姿が消え去った。
 もはや当たる寸前、バトルチップなどで対処も難しいであろう距離から、その姿は消えてソニックブームは虚空へと消えていった。

「なんで……?」
『おい、どうなって……!』

 オペレーターさえも何が起こったのかわからずに動揺を隠せなかった。
 そして、そんな致命的な隙を見逃してもらえるはずもなかった。

「し、しまっ---」
「お返しだぁ!」

 上空に飛び上がっていたこはくは、そこから一気にエグゼブレイカーを構え飛び込んだ。
 エル・バード・ダイブ。必殺の一撃は、とっさのガードも何もかもをぶち破り、相手をリタイヤへ追い込んだ。
ついでのように地面を大きく揺らし、衝撃波であたりの障害物などを吹っ飛ばし、破壊の跡を刻み込んだ。
 しばしの沈黙ののちに、その一瞬の攻防を見ていた観客からは大きな歓声が上がった。

「あ、危なかったぁ……」

 そこからすぐさま走り出したこはくは、荒い息をついていた。
 油断していた。その反省がこはくにはあったのだ。罠チップは、特にシラハドリはソード系主体のこはくにとって想定すべき罠だったのだから。

「ありがとね、EB」
『ああ。だが、まさかここで限定解放することになろうとはな……』

 それはエグゼブレイカーが保有する「ウロボロスシステム」だった。
 コーゲン・シティの外であるため、その範囲と巻き戻しの時間は元のそれよりも大きく劣る。
 それでも、シラハドリの反撃のソニックブームが発射される直前まで処理を巻き戻し、回避運動をとらせるには十分すぎた。

『これはこはくの油断だ、今後は気を付けてくれ』
「うん。ウロボロスシステムも対策を打たれると通用しなくなっちゃうもんね……」

 エグゼブレイカーの言葉にこはくは反省するしかない。
 プログラム処理の一時的な停止と処理のやり直しこそ、ウロボロスシステムの真骨頂。
起こった事象を過去として、処理をやり直し起こるであろう「未来」を認識し、行動し直す。
だからこそ、あの至近距離からの攻撃を回避することができたのだった。
 とはいえ、もっと上位に行くまでは使わないと思われたそれを使わされてしまったのは、流石に予想外だった。

『まあ、今回はしょうがない。今後は油断できないところに来ていると思って行動してくれ』
「了解」

 そして、こはくは前進を選ぶ。
 まだ、制限時間は終わってなどおらず、積極的に成績上位者を狙う動きは加速しているのだから。
 一本と一人のコンビは、戦場を駆け抜けていった。

267 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/14(水) 22:58:37 ID:softbank060146109143.bbtec.net [61/153]
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最終更新:2023年07月09日 19:58