754 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/22(木) 22:25:17 ID:softbank060146109143.bbtec.net [124/153]
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「幕間の物語」
P.D.323。
その年は余りにも多くの出来事が発生した年であり、まさしく激動の年であったと誰もが口をそろえる。
無理もない。停滞という名の微温湯に漬かり続け、緩やかに滅びつつあったP.D.世界を、ちょっとどころではなく揺さぶったのだ。
起こった出来事を列挙するだけでも、少々頭が回れば、あるいは世相を理解していれば大事件だったかがわかるだろう。
火星連合の成立とそれに伴う火星の独立。
セブンスターズの家がいくつも没落あるいはギャラルホルンからの離脱。
各経済圏の所有コロニーで相次いだ独立運動。
エドモントンにおいて行われた火星連合・地球連合合同軍とギャラルホルンの激突。
暴かれたギャラルホルンの非道と腐敗の数々。
ギャラルホルンの解体。
ヴィーンゴールヴの沈没。
地球経済圏と火星連合との間で結ばれることとなった国交。
そして、とてつもないスケールの国家連合である地球連合の存在の曝露。
特に、P.D.世界の内側ではなく、外側から来た地球連合の存在を改めて公にあらわにし、その存在感と力を見せつけたことは大きいだろう。
単なる一勢力ではなく、想像もしえないほどに広い版図と埒外の力を持つ、まさしくデウスエクスマキナの如き存在。
内側ばかり見ていたP.D.世界の人々にとって、盤外からいきなり殴りこんできた巨人。
盤面を自在に変えるどころか、ひっくり返すことも、自分が思うように書き換えることもできる、埒外の存在。
アリ同士の餌の奪い合いに恐竜が踏み込んできたがごとき暴挙。
殊更に、経済圏の上層部などはこれまで甘く見て、見くびっていた地球連合の本気に今更ながらに慌てた。
それこそ、火星連合などのことはさておき、軍事力や経済力の圧力こそあったもののエドモントン条約の履行を一部内容変更しつつも承認。
さらにいくつかの条約や規約を交わし、地球連合との間のホットラインや外交ラインの構築に勤しむ程度にはショックを受け、恐怖していた。
とはいえ、地球連合がさほどの内政干渉まで行わないことを知った経済圏は、その線引きの内側で自由にすることを選んだ。
未だに外の世界と触れ合うことを選べる人間ばかりではない、ということであった。
寧ろ、そういう恐怖から目を背けるようにして、内側によりのめり込んだとさえ言えるであろう。
確かに世界は変わろうとしていたが、同時に変わらないものに固執する動きもまた存在していた。
そんなねじれの中にあって、P.D.世界はまさしく発狂しようとしており、事実としてそのような様相が見られていた。
殊更に、地球連合の目的---P.D.世界、つまり恒星系に対する蓋の構築は火星連合の成立を以て八割がた達成されていたのだから。
それ以上は内政干渉だと跳ね除けられることに、経済圏各国は安堵していたとさえ言えるだろう。
755 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/22(木) 22:26:18 ID:softbank060146109143.bbtec.net [125/153]
そんな動き出しはしたものの未だに淀みの大きい地球圏とは対照的に、月軌道より外、火星連合の勢力圏は大きく動いていた。
火星連合---火星及び諸コロニー群通商統合連合---は積極的にこれまでの停滞を振り払うように活動を重ねていた。
そも、火星連合という組織を形作るところに始まり、その為に必要な人員の育成や機関の設立など、多種多様な社会の仕組みを形成していったのだ。
これは単なる活動家の集まりから始まった火星連合などにとってはまさに急務と言えたのである。
独立することは考えていた。では、その先は?
これに対してまともに答えられたのがクーデリア・藍那・バーンスタインその他数名だけだったという時点でお察しである。
活動家は活動家の範疇でしかものを知らず、政治を知らず、世界を知らない。
まず地球連合はそのことを記が付かせること、すなわち「無知の知」から始めなければならなかったのである。
いや、それ以前に、独立国となったことで生じる義務と権利とその他諸々について火星やコロニーの住人に教えなくてはならなかった。
民主制を採用する以上、民衆がとんでもないアホでもその意志が国家の行く末を決定づけてしまうのである。
だからそれまではクーデリアによる事実上の独裁というのが敷かれることになった。短く見ても10年から20年の長丁場である。
クーデリアはこの事実を知らされた結果、笑顔のまま吐血し、動きを停止させたということだけを述べておこう。
とはいえ、政治的なアレコレにのみ集中することができる状況なのはまさに僥倖だった。
アルゼブラを中心とした企業連が火星の行政などを肩代わりしたことで、火星連合が政治的に自転車操業になることを避けられたのだから。
行政の制度のノウハウの獲得や制度そのものの制定に始まり、如何にして国家がその構成単位を維持していくかを学べたのだ。
地球連合と付き合い、地球経済圏とも折り合いをつけ、自らの国家としての体裁を保ち、活動する。
それは苦難だった。苦行であり、賽の河原に石を積み上げるような、果てのない戦いだった。
単なる活動家であれただけならば、どれほど幸せであっただろう。
しかし、それが独立を果たしたが故の責務であり、逃げてはならない現実との戦いだった。
そのことは、クーデリアがオセアニア連邦やアーブラウとの国交樹立などを終え、凱旋してきた後の演説においても触れられた。
その演説は、外交的な成果を誇るものであった。
だが、同時に火星連合を構成するすべての政治家の卵たち、そして、火星連合に属する人々へと向けられた警鐘でもあったのだ。
それの一部引用し、ここに刻むことでこの幕間の物語の、一旦の幕引きとしよう。
「我々は、まだ荒れ果てた大地に、何もないままに放り出されています。
それでも、畑を耕し、種をまき、自らの生きていく世界を作っていかなくてはなりません。
安易な道、楽な道、進むことを諦めた道を選ぶことは許されていないのです。
厄祭戦の折に、アグニカ・カイエルらが灯し続け、後の人々へと受け渡した光を途絶えさせてはならない。
もはや光のない時代に戻ることは許されず、我々は庇護される立場を抜け、自らを自ら守る立場となったのです。
それが、今の我々のみならず、我々の子供達、さらにその子供、そのまた子供が生きていく社会を、国家を作るためのただ一つの道なのです」
- P.D.324 火星連合 首都惑星「火星」 クリュセ 国会議事堂 本会議場にて クーデリア・藍那・バーンスタイン
756 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/06/22(木) 22:27:23 ID:softbank060146109143.bbtec.net [126/153]
以上、wiki転載はご自由に。
鉄血世界のSSの続きを書いていくにあたり、まずは幕間から始めることにしました。
世界情勢の説明などもありますから、どのくらいになるかはちょっと不明ですね。
まあ、ゆっくりお付き合いくだされば。
最終更新:2023年07月09日 20:08