756:earth:2023/07/30(日) 22:57:04 HOST:KD106172122062.ppp-bb.dion.ne.jp
【虚空からのアポカリプス】 

 プロローグ

 大日本帝国で有数の規模を持つ黒森財閥のオーナー一族に名を連ねる14歳の少年・『黒森真治』。
 表向き、順風満帆といった人生を歩んでいた筈の男児は、洋風の書斎にて己の父親から向けられる
鋭い眼光、そして先ほど言われた言葉に戸惑いを隠せなかった。

「そ、それはどういう……」

 彼がいるのは、財閥の長にして、父親たる『黒森鋼三』お気に入りの洋風の書斎。
 そしてその主は机に腕を置いたまま、嘘偽りは許さないと言わんばかりに鋭い眼光を、机の前に立つ己の
息子に向けていた。

「真治、何度も言わせる気か? いや、そもそも『君』にとっては真治は真名ではないか」
「!!」

 まるで中身が違うことを知っているかのように言う男。
 これには真治と呼ばれた少年も内心驚く。
 だが、それを表に出すことなく、すぐに精神を立て直し、とぼけようとする。

「何を言われているのか……」
「判っているだろう。この世界が『君』がかつて作った電子遊戯、いや『令和』とやらの御代ではシミュレーションゲームか。
 これに酷似しているということに」
「!?」
「そして君はこちらに来たときに、すべての情報を数値化して見れるようになっているはず。そこに私の情報もあるだろう?」
「!!?」

 今度こそ少年は驚愕を隠しきれない。そして同時に目の前の人物が自分の同類ではないかという疑問がわいた。
 なぜなら、目の前の男は……

「……貴方も、こちらの世界に?」
「違う。私は少なくとも令和という御代に生を受けたことは無い。勿論、平成にも、そして昭和という御代にも、だ」
「では……なぜ、なぜ貴方の名前が塗り潰れているのですか?。 私のように」

 目の前の男の言うとおり、真治と呼ばれる少年は目に映る人物の情報を、前世で言うならステータス画面のような形で
見ることが出来た。それは名前だけでなく能力や感情などがすべて数値化されていた。
 これに気づいたのは最近のことであったが、何より驚いたのは……自分の名前がまるで塗りつぶされたかのように黒塗りに
なっていたのだ。
 そしてそれは目の前の男も同じだった。今までであった人間は真名が表示されているにも関わらず、だ。
 だからこそ、真治は目の前の男が同じ転生者ではないかと疑ったのだ。

757:earth:2023/07/30(日) 22:58:02 HOST:KD106172122062.ppp-bb.dion.ne.jp

「私も君が言うように転生者なのだろう。だが、それは令和という御代、あの大戦で焼け野原となり、復興し、長い停滞に陥った
 世界からの転生では無い」
「では?」
「大阪幕府、いや、織田幕府主導で大日本帝国が成立したこの世界、君が思い描いた世界で、生を繰り返している。
 大きな未練が故に、前世を忘れることも、輪廻から外れて涅槃に至ることもできん、哀れな男だ」
「……」
「私がなぜそうなるか、判るかね?」
「それは」

 少し考え……一つの可能性に到達する。

「いや、まさか」

 そう、それはあまりにも荒唐無稽な答えであった。
 普段なら「ないな」と切り捨てるだろう。しかしこの特殊な状況ではどんな答えでも荒唐無稽と切り捨てられない。
 そして何より、名前以外の鋼三のステータス、特に技術に関する数値はこの時代においてあまりにも高すぎた。

「遙か未来、いや私が作ったシナリオ、あの仮想日本がメインプレイヤーとして参加する冷戦で何か起きた、と」
「起きたのだよ、君が結末の一つとして用意した最終戦争がね」 
「?!」
「あの地獄を知るが故に、私はやり直しを望んだ。だが何度望んでも、終末は覆らない。誰かが外部から干渉しているかのように」

 彫りの深い端正な顔が能面面となり、衝撃の言葉を継げる。

「内側からこの流れは打破できない。だから私は望んだのだ。この世界を作った人間を、いや外部から観測し得た人間を」
「ま、まさか」
「本来なら死産になるはずだった後妻の子、依り代にはちょうど良かった」
「!!」

 あまりの内容に真治は青ざめてよろめいた。
 そんな血縁上の息子を見て、鋼三ははっきりとした口調で告げる。

「改めて言わせて貰おう。ようこそ、この地獄へ。異界の自覚なき創造者にして、観測者、そして救世の鍵となり得る者よ。
 地獄の先住民を代表して、心の底から歓迎させてもらう」

758:earth:2023/07/30(日) 23:00:55 HOST:KD106172122062.ppp-bb.dion.ne.jp
あとがき
久しぶりだったので色々と荒が目立つ気がしますが……
とりあえずプロローグを投稿しました。

大抵の転生はやり直しとかですが、今回はむしろ引きずり込まれた形です。
世界情勢については次回以降かな。

今回は火葬戦記よろしく大海戦がしたいものです……出来れば良いな(遠い目)。

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最終更新:2023年08月05日 18:10