771 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/07/13(木) 23:10:26 ID:softbank060146109143.bbtec.net [73/84]

憂鬱SRW 融合惑星編「The Hound Dog in Megapolis」SS「前日譚 ゴドーの葬送」




 地球連合---正確には地球連合を代表して日本との接触・交流を行っていた大洋連合は、遅まきながらも本題に入り始めていた。
PP惑星日本の外交官が色相悪化などを理由として次々と交代したこと、即席の外交官たちが逐次投入されたことも相まって、遅々として進んでいなかったのだ。
 これはPP惑星日本側の事情ということで、過度に追及はしなかったものの、大洋連合としては今一納得しきれない面も存在した。
サイコパス---人の心理や精神状態を数値化し、その性格や傾向を分析、理想の精神状態を構築することで治安と国家体制の維持を行う国。
最初こそ戸惑いはしたものの、自前での調査で「精神相」ともいうべき差異があることを認識し、これを受け入れることとしたのだ。
 納得しきれない面は多い。とはいえ、所詮は他国の話であり、首を突っ込むべきものではないのだ。
 国の名前や話す言葉は同じようだとしても、その中身が違うというのはこれまでも散々経験したことであるからだ。

 ともあれ、である。
 互いの基礎的な、あるいは基本的な情報交換が完了し、大洋連合の外交使節はいよいよ本題を切り出したのである。
 即ち「アポカリプス」と呼ばれる幾多の脅威との戦いについての情報開示である。
 そして、具体的にこの惑星に迫っている脅威と言えるのが「宇宙怪獣」であった。

 本来は、宇宙怪獣だけでなく、運命そのものを滅びに向かわせようとする負の無限力との戦いでもあるのだが、ここでは明かさなかった。
あまりにも荒唐無稽すぎて信じてもらえるかどうかわからなかったし、説明して納得してもらうのに時間がかかりすぎると判断したためだった。


 すでに宇宙各所で地球連合はこの宇宙怪獣との間で激戦を繰り広げていた。
 加えて、その宇宙怪獣が滅ぼそうとする惑星や恒星系の住人たちと接触し、その文明の保全やエクソダスを手伝うといったこともこなしていた。
 それらは決して一筋縄ではいかない。
 強行偵察などの結果、最低でも3つ分の銀河を根城とする宇宙怪獣の群れが存在することが確認されている。
そしてそれらは地球連合の勢力圏とその周辺を丸ごと飲み込むような天文単位の包囲を作り上げ、破壊を繰り広げていた。
 ただ目的もなく、理屈も理論もなく、生命体を滅ぼす行動のみをとる生命体、全く理解しがたい。

 それが与太話だと思われないように、地球連合ではサンプルを持ち込んでいた。
 確保された兵隊級をはじめ、一般的に確認されている宇宙怪獣の個体を持ってきたのである。
 PP惑星日本でさえも、その宇宙怪獣についての情報はとても信じられなかったであろう。
 いや、正確には信じたくはなかった、というべきか。なまじ科学技術があるだけに、宇宙怪獣の出鱈目さが理解できてしまったのだ。
誤解が無いように言えば、PP惑星日本の科学力でも全容を短期間で解析することは不可能だった。
「わからないということが分かった」、あるいは「自分達では理解も解析もできない相手だと理解した」ところで止まってしまったのだ。

 だが、およそ用意できるだけのあらゆる試みを重ねた結果、認めざるを得なかったのだ。宇宙怪獣の脅威を。
 核兵器どころか恒星クラスの熱量にも耐えうる頑丈どころではない外皮でおおわれている。
 大型個体も小型個体も次元跳躍---いわゆるワープを可能とする生体機関を保有。
 場合によっては惑星さえも容易く砕く熱量と出力を持つ生体光学兵器をその肉体に備える。
 そして、圧倒的なまでの数。一つの群れで120億という途方もない数を揃え、その群れがこれまた膨大な数宇宙を行き、破壊を行う。
 これがPP惑星を含む太陽系、さらにはそれを含む銀河系を狙っているというのを、信じざるを得なかったのである。

772 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/07/13(木) 23:11:19 ID:softbank060146109143.bbtec.net [74/84]

 ただ、さしもの選び抜かれたメンタル頑強なPP惑星日本の人員でさえも、この情報は劇物過ぎたようだった。
何名もの外交官やそれにかかわる人材が色相の悪化などを理由に病院へと担ぎ込まれるに至ったのである。
無理もないことであった。スケールが大きすぎるだけではない、それ以上のストレス---この地球という惑星の滅びの可能性を示唆されたのだから。
それが与太話や作り話なのではなく、確固たる証拠もそろえた、明確な脅威だと理解してしまったことが彼らの弱い精神を苛んだのだ。

 加えて、あまりにも「大きい」ということが負荷を生んだ。
 本来、人間は物事を俯瞰してみることが望ましい。自己という小さな視点に捕らわれることなく、多角的に、そして広い範囲を捉えるべきなのだ。
 意識的にそうできないのは、そんな俯瞰した、一個人ではない、さしずめ神の視点を持つことが人間の精神程度では耐えきれないからに他ならない。
本来は思い込みや脳内での処理、あるいは補正をかけることにより、精神が受け入れられる情報に加工しえているのだ。
 では、それが不可能なほどの情報を叩きつけられ、脳内で受け止めてしまったらどうなるだろうか?
 それを理性的に理解し、認識できる状態だったら?
 語るに及ばない。それは、某TRPGの状態が現実化し、啓蒙が高すぎるために発狂ということになるのである。

 斯くして、この情報の開示により、これまでに積もっていた精神的負担を含め、サイコハザードがついに発生したのだった。
外交に投入されていた人材たちを発端に、その周辺にかかわる人々、特に外務省に大きな打撃を与えることとなった。
幸いにして、情報統制と上書き、さらには火消しに力を注いだこともあり、拡大はある程度で押しとどめることができた。
槙島事件の際に発生したヘルメット事件から得た教訓をもとにした、サイコハザードの発生に即応できるメンタルケア体制も役立てられた。

 この時点で外務省は外交の中断を要求したものの、政府はこれを認めるわけにはいかなかった。
 大洋連合を通じて得られた情報が正しいならば、ここで外交を閉ざすわけにはいかなかったのだ
宇宙怪獣に抗う術はなく、本気でこの惑星が狙われたならば、この星はあっけなく砕け散るであろうから。
 さらに言えば、地球連合はこの惑星の防衛を行うだけでなく、万が一に備えたエクソダス---惑星外への脱出も行ってくれると明言していたからだ。

 斯くして、精神的な負荷に耐え、生き残ったメンバーを集め、外交は続行された。
 外交に関わる人間の精神や人生などを仮に犠牲にしたとしても、より多くの人間の、より大きな幸福を実現するために行動することを選んだのだ。
シュビラという根幹をなすシステムがそうであるように、あるいはベンサムが説いたように、最大多数の最大幸福を求めたのだ。
日本という国は、まさしく岐路に立たされ、決断をしたのだ。

 そして、その外交の場において、未だに残り続けて積極的に活動を続けていたのが、公安局刑事課から出向していた常守朱だったのは言うまでもないことだった。
 彼女はどこか違うと、地球連合の外交使節は感じ取っていた。彼女は、流されていない。
 リスクにおびえ、失われるかもしれない平穏に縋り、目をつむり口を噤み耳をふさぐことを選ばなかったのだ。
その危険の中に自ら飛び込んで、その中に活を見出そうとしている、全く剛毅な人物だと。
精神的な弱さの目立つ国家の住人の中にあって、彼女は一際輝いて見えたのだ。

773 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/07/13(木) 23:13:01 ID:softbank060146109143.bbtec.net [75/84]

以上、wiki転載はご自由に。
次話より、朱ちゃんにメインカメラを据えてちょっと話を進めますね。
ではおやすみなさいませ。
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最終更新:2023年08月19日 17:44