~戦後~
戦争は終わった。
当初の予想通り、若しくは帝国側の予想を大きく覆し銀河帝国ローエングラム王朝は戦火の中に消えた。
天才的な個人群の帝国対徹底した組織の連合との戦いは、ナポレオン戦争と同様に連合の勝利に終わる。
帝国軍は最期まで抗戦する事は無く、宇宙暦803年のハーン会戦の敗北をもって降伏したとも言えた。何故ならば、最後まで付き従ったオーディン守備軍も、カイザーラインハルトがハーン会戦の決戦時に姉であるアンネローゼ・フォン・グリューネワルトを守るべく二個艦隊を私的に運用した事が諜報部の村中大佐、バグダッシュ大佐に暴露された為交戦意欲を喪失。
ハーン会戦以降、連合軍は意図的に艦艇の生産を取りやめるなど戦後を見据えた動きを見せ、帝国はリッテンハイム、ブラウンシュバイク、シャンタウ、カストロプ、リヒテンラーデなどの主要産業地帯を奪われた為に満足な戦力再編は出来ずに約1年を過ごす。
そして、宇宙暦804年9月にカイザーラインハルトがカイザーリン・ヒルダと皇太子アレクを残し自死した。
『名誉ある自死を賜ってやるから、独りで死ね。俺たちを巻き込むな』
ブリュンヒルトを制圧したある士官の宣言であり、この宣言後、各艦は殆どが連合に投降している。古代地球の隋帝国煬帝と良く似ていると私は不覚にも思った。
そしてオーディンに同盟を初めとした連合各国の国旗がはためいた時、世界は変わった。
銀河連邦の継承国家であり、500年以上続いた専制君主国家、銀河帝国の解体。
約150年続いた戦争が終わった。恐らくビュコック提督の世代では想像も出来なかったであろう、帝国の解体と言う事象を経て。
戦後、オーディン軍事裁判では平和への罪が大きく論議された。
1、 バーラトの和約の放棄の責任追及。
2、 帝国辺境領における非人道的な作戦、焦土戦術の実地。
3、 記録文章により発見された救国軍事会議クーデターへの工作員派遣という捕虜交換時の紳士協定の破棄。
4、 同盟領全域における思想犯、政治犯、公務員、軍人の同盟基本法を無視した拘束。
などである。
特に4以降は同盟側の反帝国感情と八つ当たりが合わさったものであり、同盟市民の民意の暴走を端的に表したものだとも考えらえられる。
それでは数名挙げてみよう
戦犯
前軍務尚書 パウル・フォン・オーベルシュタイン 『極刑』
皇妃 ヒルデガルド・フォン・ローエングラム 『バーラト恒星系ハイネセンホテルにて終身刑』
皇太子 アレクサンドル・ジークフリード・フォン・ローエングラム『バーラト恒星系ハイネセンホテルにて禁固15年、成人後は連合加盟国、大英帝国臣民として身柄引き渡し』
国務尚書 フランツ・フォン・マリーンドルフ 『フェザーン中央刑務所にて禁固25年』
780 :ルルブ:2012/02/26(日) 07:20:43
主な者では上記の四名が挙げられる。
一方で、降伏したオスカー・フォン・ロイエンタールら軍幹部には以下の処置が下された。
オスカー・フォン・ロイエンタール 『ヴァルハラ伯としてヴァルハラ恒星系の指導者に任命』
それは彼の政治センスをシマダ提督が推薦したからだとも言える。
捕虜となった時の言葉、『ミッターマイヤーを殺したカイザーへの忠誠を無くした』という言葉が政治宣伝として利用された事も要因の一つであったと言える。
ウルリッヒ・ケスラー憲兵総監・上級大将は辺境『ヤーバーンホール男爵領領主』に任命された。これはグリルパルツァー大将の焦土戦術で憲兵隊が物資調達と言う名の略奪行為に猛威を振るった為であり、明白な嫌がらせであり、分断統治であった。
エルネスト・メックリンガー大本営幕僚総括官は軍を退役するも、強制的にエル・ファシルに移住させられた。この移住は彼に限った事だけではなく、多くの上級軍人たちが強制退役、予備役編入、同盟領への強制移住を強行させられる事となる。
最後に、帝国が32の諸侯連邦に分裂させられたが、どのようなものかを見て、私の回想録の終焉としたい。
7地域32か国
帝国領を東西南北中央、イゼルローン、フェザーンの7つに分断した。各諸侯国は関税自主権とそれぞれの司法権の独立を義務付けられた。
銀河帝国内部の民法、刑法、行政法などはそのままであったが特別な法律として連合基本法、特別治安維持法、軍事条例S102などが挙げられる。
経済面では関税自主権の創設により32か国は分断された。
軍事面でもS102により各国は、一年戦争の軍縮の一環として、旧式同盟製艦艇、旧式連合製艦艇を各諸侯の規模に合わせて定期的かつ強制的に購入されることを義務付けられる。また銀河諸侯共和国内部での国家間の軍事交流はいかなる場合でも許可されない事が明記された。(これを放棄した場合は、連合に対する宣戦布告行為とすると言う強烈な文言も条約に刻み込まれている)
ただ、この条約の結果、銀河諸侯共和国の州境というべきラインは絶えず宇宙海賊や帝国再興を願う過激派、カイザーラインハルト信望者、ゴールデンバウム王朝残党兵力の効果的な掃討作戦を妨げ、連合領域、同盟領に比べ100年単位で経済が後退する事になったのは歴史の必然であろうか。
宇宙暦805年12月31日、私は歴史の目撃者になれた。
銀河帝国は歴史上の存在になり、新たに連合各国と同盟の傀儡国家群の集合体である銀河諸侯共和国が建国された。
それはカイザーラインハルトが自死してから約1年後の事であり、私的な事を言えば、私が祖父になり、父と呼ばれるようになって2年が経過しての事であった。
宇宙暦812年2月26日
ユリアン・ミンツ閲覧
ヤン・ウェンリー回想録 ・終・
最終更新:2012年03月07日 22:12