255 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/08/25(金) 22:57:03 ID:softbank126036058190.bbtec.net [18/59]

憂鬱SRW 融合惑星編「The Hound Dog in Megapolis」SS「前日譚 ゴドーの葬送」4


  • 惑星2113 現地時間西暦2113年 日本 東京都 公安局ビル 局長執務室


 再び、常守朱はシュビラと相対していた。
 その要件は言わずともわかるだろう、地球連合との外交についてである。
 日本政府が判断を決めかねて右往左往しているのは、外交官として出向している朱の知るところとなっていた。
 そして、少々頭が回るならば、そうなった原因など一つしかないのである。

「言い訳はしない」

 朱の追求に、シュビラはそう答えるしかなかった。
 淡々と、事実だけを認めた。
 そう、日本という国家が地球連合から渡されたボールに戸惑い、判断を下せなくなっている元凶の一つがシュビラシステムだったのだ。
既に国民の多くがシュビラ世代であり、また、そうでない世代もシュビラに依存した社会に馴染んで暮らしているのが実情。
完璧で誤りのないシステムという触れ込みであり、事実これまで過ちなどを犯していないことになっているシュビラに任せきりだったのだ。
そんな状況下にあった国民や政府が、いきなり答えのない問題を投げかけられ、判断を強いられることになったらこうなるのは必然だ。

「殊勝なことね」

 とはいえ、朱も強くは追及しない。嫌味こそ言えども、それ以上は言わなかった。
 シュビラによる統制と支配体制が無くては、今日の社会はなかったのは事実であるのは認めるところである。
それでシュビラのやったことすべてが、表にしていない分も含めて、綺麗さっぱり許されるわけでもないのだが、ここで追及しても意味がない。
故にこそ、嫌みを一つ言うだけという温情ある対応で追及や弾劾などは行わないで止めたのだ。
 肝心なのはこの後にどうすべきか、という点である。
 手段や方針こそ違えども、朱とシュビラシステムの目指すところは案外共通項が多いし、妥協するところもある。
まして、今回のような地球連合との接触とそれに連なる一連の動きでは、対等にディベートを行うのが重要だったのだ。

「今回明かされた情報を含め、開示が過ぎればサイコハザードなどは避けえない。
 とはいえ、何時までも隠しておくことはできず、また判断を決めることもできない。
 我々としても、このまま停滞されてしまっては困るのが事実だ」
「ええ。まったく厄介なモノね……」
「そして、君と我々の集めた情報を統合すれば、外務省を含む政府首班は決断を下せない状態。
 小田原評定で判断の先送りばかりが決まり、先が見えない状況だという」

 つまるところ、何も決定できていないし、何もできていないということだ。
 これには、宇宙怪獣の襲来の可能性という連合からの情報などを考えるだけでも色相悪化や犯罪係数の上昇が見られたことも関係している。
劇物過ぎる情報を得て、それについて考えるだけでも精神的に負担となり、サイコパスが悪化するのだ。
これまで多くの外交官などをメンタルケア送りにしたということもあり、誰もが考えようともしないという状況にある。
国家という集団の舵取りを曲がりなりにも任される政府が、個々人のサイコパス事情に左右されるという、あるまじき状態であったのだ。

256 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/08/25(金) 22:58:07 ID:softbank126036058190.bbtec.net [19/59]

 朱も思わず嘆息するしかない。
 いつ情報漏洩などが起こる変わらないのだ。
 加えて、外交である以上、相手を過度に待たせるというのも問題である。
 しかし、肝心要の判断を下すというプロセスをいかに問題なく行うか、というのが課題であったのだ。

「国民投票もダメ、政府の判断を待つのもダメ、徒に時間だけを浪費するのもダメ。四面楚歌ね」
「無論のこと、我々が判断を下すというのもある。だが……」
「それは駄目よ」

 そう、朱の譲らない、譲れない点はそこであった。
 シュビラが判断を下すというジョーカーがあるのは事実。さりとて、システムであるシュビラがすべてを決定しすぎてしまうことに朱は懸念を示した。
シュビラが決定をしてしまうように誘導することにも、当然のように反対していた。
これは人が決めるべきことなのだ。

「……最後まで言わせてほしいものだな。我々としても、体裁というものがある。
 シュビラシステムの施政下にあっても、行政権その他は政府の持ちうる権限だ。
 我々シュビラシステムや建前的にそれを抱える厚生省でも、そこまでできるわけではない」
「どうだか、虎視眈々と狙っているでしょう?」
「……ともあれ、現段階で我々ができることは多くはない。それは認識してほしいところだ」

 朱の追求に、シュビラからの答えはなかった。
 この、世界の中心を気取る、人間の脳を集めて生み出された怪物がそういうことを考えていないわけがないと朱は考えているのだ。
今この瞬間もアップデートを重ねて完成度を増し、功利主義的な、最大多数の最大幸福の社会を実現するためにシュビラは暗躍しているのだから。
その為に表になっていない多くの犠牲が積み上げられていることを、決して忘れてはいないのだ。
 一つ咳ばらいをして、仕切り直したシュビラは、本題へと戻る。

「最終的には国民全体に事情の説明をしなければならず、それはリスクを伴う。
 最悪の場合、国家としての体裁を保てなくなるほどのサイコハザードや暴動が予測されている」
「そうでしょうね。個人の命の危険どころか、この惑星そのものの危機なんだもの」
「だからこそ、政府は宇宙怪獣が襲来しないだろうという可能性に縋っているようだが、そこまで楽観視はできない。
 杞憂ならばそれでいいが、可能性が十分あると地球連合は言っているのだからな」
「そうなれば最悪に備えなくてはならない……つまり、エクソダスの実施も考えないとならないわけね」

 ただ、そのエクソダスを行うことが国家の危機につながりかねないという厄介さが付きまとうのだ。
 それへの具体的な策を考えねばならないが、流石の朱でも早々に意見を出せるわけではなかった。

「ともあれ、最悪が……我々としても選びたくはない最悪の選択肢を選ぶ必要があるかもしれないことを忘れないでくれ」
「積極的にそれに誘導するつもりがないなら、従うわ」

 一見すると険悪なやり取り。
 しかし、両者に共通していたのは、トロッコ問題の如き、どうあがいても国家に致命傷を受ける二者択一を選ぶ未来のビジョンであった。
双方に事情があるにしても、そんな最悪を避け、可能な限りダメージを小さくしたいというのは共通だ。
故にこそ、システムとそれに抗うイレギュラーという関係にある両者が妥協し合い、協力し合う余地というものが存在していた。
 喫緊の課題は、未だに決定どころか議論さえも碌にできていない政府の尻をいかに叩くかであった。
 惑星2113の世界各地で順調にエクソダスにも備えた準備が進む中にあって、日本という法治国家であり先進国は、それゆえの苦労をしょい込んでいた。
客観的に見れば、あまりに多くを得て、あまりに多くを抱え込んだが故の重たさに潰される寸前、といったところか。
まだ、真実を知る者たちの戦いは終わってなどいなかった。

257 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/08/25(金) 22:59:34 ID:softbank126036058190.bbtec.net [20/59]
以上、wiki転載はご自由に。

前回の話にもありましたが、思考停止になった日本政府らを受けて、動けている人達の様子を…
他国では比較的スムーズに準備が進んでいるんですがねぇ


本当のところ?
早いところSSでロボットだしてぇです…
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最終更新:2023年09月27日 19:42