6 名前:635[sage] 投稿日:2023/05/06(土) 22:57:56 ID:119-171-254-71.rev.home.ne.jp [2/32]
「おぇ…おぃうっぷ…げええええええ…。」
「吐きたくなる気持ち分かるが手を動かせ。」
今年配属されたばかりの若い海兵は今朝食べたオートミールを始めなにからなにまで胃の中身全てを吐き戻す。
その勢いは中身どころか胃そのものを吐き出しかねかいものであった。
「げえええ…おぇ…うっぷ………兵曹…兵曹は目の前の光景見ても何とも思わないのですか…?」
全てを吐き出し少し落ち着いた若い海兵は自分より先任である下士官に尋ねる。
話しかけながらも周囲の光景を目に入れぬ様にしながら下士官の命ずる通りに手を動かし始める。
本来ならば陸の仕事であるが3日前に起きた同様のことに人手を取られ海軍の艦艇より臨時に部隊を編成し派遣されていた。
「思わない訳じゃない…だが以前乗ってたジャップの駆逐艦の攻撃受けた艦でもこれに劣るが似た光景あったからな。」
慣れたという下士官の言葉に同じ人間とは思えない目で見る若い海兵。
下士官はその間も手早く黒く焼け焦げたものを麻の袋の中へと入れていきながら、だがと言う。
「これは…あっちゃいけない景色だ。人間の生み出していいもんじゃない…。」
この世の地獄だと下士官は呟き視線を上げ、若い海兵も続く。
ひび割れた土と焦げた瓦礫や黒ずんだ戦車、所々に横たわる黒く焼け焦げたモノや火が未だに消えぬモノ…皮膚の爛れたナニカがまだ息をしている。
所々の水場はナニかで埋まり強固な筈のコンクリートは瓦礫と化し黒い人の様な影が焼き付く。
それらの間を空母の艦載機乗りや戦艦の砲術科に駆逐艦の水雷科までが酷い火傷を負った或いは目に包帯した陸軍の軍人たちを運んで行く。
「あんな風になる生きてる人間や死体なんておれは見たこと無い…。」
黒く焦げたものや皮膚の爛れたナニカは元人間や生きている人間だった。
下士官や若い海兵は人間の…アメリカンボーイズの遺体を回収していたのだ。
二人は何がこの惨状を引き起こしたのか分からない。
日本の新兵器と言う者もいれば、投入予定の新兵器の誤爆と言う者もいるが真実は不明だ。
暫しその光景を見る二人、遠く日本の司令部があった場所では陸軍が立てたと思しき旗、千切れて焼け焦げた星条旗が風にたなびく。
その時上空より音が聞こえてくる。ミートボールを付けた濃緑の航空機。
「?……!ジャップの戦闘機…!」
「あれは…MYRT(彩雲)だな。偵察機だから心配するな。大方こっちがこの状況だから見に来たんだろ。」
思わず身構える若い海兵を嗜める下士官。
その時下士官の手に何かが触れると思わず下士官はそれを見た。
「雨か…。」
「兵曹…質問いいですか?」
空を見上げたままの海兵が尋ねる。
「何だ?」
「ジャパンの雨は色があるものなんですか…?」
「そんな筈は…。」
頓珍漢な質問に怒鳴ろうとする下士官、だが見上げ目に入る光景に下士官は言葉を失う。
「黒い…雨…。」
悍ましいこの世の地獄に雨が降る。
人類の原罪を飲み込んだかの様な黒い雨が全ての罪を洗い流す様にしとしとと。
7 名前:635[sage] 投稿日:2023/05/06(土) 22:58:50 ID:119-171-254-71.rev.home.ne.jp [3/32]
「地獄とは…斯様な光景を言うのか…。」
言葉を失った帝国陸海軍の者達の中の一人が漸く絞り出した言葉が全てを彼らの胸中を物語っていた。
彼らの顔は一様に青ざめ最早白い者、吐き出す者もいる。
彼らは視察の為に帝国軍と連合国軍の戦闘の前線”だった”場所へと赴いていた。
県民を出来る限り後方に下げつつ遅滞戦闘を続けていた帝国陸軍と海軍根拠地隊や陸戦隊、
彼らは突如として発生した巨大な爆発に混乱に襲われていた。
最初に前線より連合国軍主力の陣地に大爆発発生、敵被害甚大の報があった時には誰も信じなかった。
この当時、戦艦の主砲や大型重爆でも用い無い限りそんなこと不可能であったからだ。
制空権は鬼畜米英に握られ連合艦隊は未だに海の彼方、そんなことあり得る筈もないと。
だが度重なる報告に真実と分かるとこれぞ天運、神風、天は我らを見捨てなかったと万歳三唱であった。
それもさらなる事実が分かるまでだった。
「地獄だ…。」
それが連合軍の陣地近くまで潜入した斥候の言葉だった。
一度目の爆発の場所で確認されたのは夥しい数の焼け焦げ焼け爛れた死体と怪我人達、水を求め水場を埋め尽くす死体。
そして降り出したのは黒い雨…最早地獄と評する他ないと偵察に赴いた者達は言う。
何を言うかと一笑に付す陸海軍の上層部であったが二度目の爆発も確認され連合国軍の攻撃が完全に止むと全員が各々が目を合わせる。
そしてならば見てみようということになった。
そして彼らが見たのは正しくこの世の地獄。
先の欧州大戦をこそ地獄と称する者もいたが巫山戯るなと叫びたかった。話に聞く先の大戦以上の地獄ではないかと。
双眼鏡に目を通せば人であったものの残骸が見て取れる、焼き付いた人の影が見える。
焼け焦げた死体を見れば、その空洞と化した目の恨めし気な視線と目があったきがして慌てて双眼鏡を外す者もいる。
焼き付いた影が苦しげに蠢く様に感じ腰を抜かす者もいる。
そんな中でこれよりどうするかと話が切り出される。
米英の主力は既に瓦解、生き残った者達も救助に駆り出され戦闘を行う余裕も装備も無いように見えた。
皆必死に生きる者を救おうと死んだ者らの遺体を故郷に返そうとしていた。
残らざるを得なかった、或いは捕らえられたであろう県民の姿もあり彼らは英米の将兵達の救助を手伝っていた。
今ならば容易くこの島より連合国軍を叩き出すことが出来るだろう。崖に追い詰めて自ら飛び込む様に出来るかもしれない。
だが誰もその話を始めない、この地獄をその目に見た者達は皆戸惑った。
それで良いのかと厄災に遭遇し賢明に生きようとする姿を見て攻撃することは躊躇われた。
その時であった伝令が陸海軍の上層部の下へと駆け込んで来たのは、曰く。
「白旗を掲げたこちらに向かう連合国軍の軍使と思しき姿あり。」
同時刻沖縄本島近海の連合艦隊に近づく白旗を掲げた米駆逐艦の姿があった。
この後、沖縄にある帝国の陸と海の本格的な偵察と県も交えた会議を以て一つの決定が成され沖縄戦はこれを以て終息することとなる。
停戦、そこには敵も味方も無かった。
ただ命を救おうとする戦う者達の姿だけがあった。
8 名前:635[sage] 投稿日:2023/05/06(土) 23:08:23 ID:119-171-254-71.rev.home.ne.jp [4/32]
以上になります。
完全な誤爆による被害者の救助に当たる米海軍将兵が始めてフォールアウトによる黒い雨を確認することとなります。
フォールアウト…死の灰そのものはこれより先の流れ誤爆にて救助に当たる兵士が確認、史上初の間接被爆を救助に当たる連合国軍兵士が受けることになります。
また連合国からの救助の為の停戦要請を現地帝国軍が受け入れ連合国軍兵士の救助と手当に当たったことで連合国側の日本に対する感情が改善するとこになりました。
最終更新:2023年10月10日 16:40