177 名前:奥羽人[sage] 投稿日:2023/08/20(日) 21:32:53 ID:M014009102000.v4.enabler.ne.jp [2/8]
近似世界 2001年 「一番の敵」
2001年9月11日 大阪
「敵武装グループの制圧完了、確保したトラック内部に爆破装置とおぼしき物を発見!」
「緊急核対応部隊の出動を要請する!」
2001年。
世紀の変わり目という大きな節目を迎えるにあたって、ソ連崩壊以降のある種“弛緩”した空気を謳歌していた世界は、大きな危機に直面することとなる。
「冗談じゃないぞ……これが偉いさん方の言ってた“一番の敵”ということか……!!」
東西冷戦終結以降、一歩間違えば全面核戦争による滅亡という綱渡りを脱した
夢幻会と日本は、新たなグローバル化に向けた革新と発展を緩やかに進めていた。
勿論、史実通りに進むとしたらこの後、9.11同時多発テロから世界は「対テロ戦争」という新たな局面を迎えることは明らかであった。
とはいえ
夢幻会からしたら、どこか他人事の印象が強かった。
長年の同盟国であるイランやUAEを中心に中東地域へと築かれた諜報網から吸い上げた情報によると、原理主義過激派グループの敵意は主に、サウジアラビア(イスラム教二大聖地)に軍を駐留させている
アメリカに向いており、テロリズムの標的も基本的には全て
アメリカを狙っている事が既に明らかとなっていたからだ。
しかしその前提は、とある情報がもたらされたことによって揺らぐこととなる。
『東京、名古屋、大阪に対して一部過激派テログループによるテロの可能性有り』
9月1日、そんなあやふやな情報は、中東系で構成された非正規特殊作戦グループが、アフガニスタン国境近くに存在する小規模テログループの根拠地となっていた村落を襲撃した際に得られた情報によって確固たるものとなる。
民間航空機のハイジャックによる日本国内の主要都市に対する自爆攻撃。
その計画の実在の証明。
9月5日までに精査された情報によってそれが明らかになってからは早く、関連する組織・拠点を割り出して非正規部隊による隠密襲撃を行い、遂に9月9日。
日本に対する自爆テロの阻止をほぼ完了したと判断される。
9月10日、この事後処理を巡る会合においてとある
夢幻会メンバーより、大阪における爆破テロ攻撃の可能性が示唆される。
国外での過激派の動きをほぼ完全に封じ込め、国内においては全く動きの検知されていない現状において、その懸念はある意味妄想の域に過ぎなかった。
しかし、一応との事で大阪中心部に警察及び防諜組織による網を張った途端、それは見つかった。
178 名前:奥羽人[sage] 投稿日:2023/08/20(日) 21:35:10 ID:M014009102000.v4.enabler.ne.jp [3/8]
9月11日
『大阪取引所付近にて不審なトラックを確認、警察が呼び止めたところ搭乗者が突然発砲した』
その一報は即座に政府中枢へと届けられ、“とあるルート”からの情報で最早一刻の猶予もないと判断した政府は、半ば付随被害を無視する形で制圧を指示。
警察特殊部隊が軍用規格のライフルや、防諜組織から秘密裏に貸与された軽機関銃を以て現場を迅速に制圧し、不審なトラックを確保。
その荷台に積まれていたのは「起爆準備状態にあった核爆破装置」だった。
「それでは、なんだ。これは全て、奇跡の賜物という訳か?そんな話があってたまるか……と言いたいところだが、先人達が言っていたのはこの事か……と納得もしているよ」
「マスコミには一般的な爆破テロ未遂と発表し、核の存在は伏せます。さすがに核テロの事実は公表するには危険すぎます」
全てが終わった後、テロに使われた核兵器の出所が調査された。
その結果判明したのが、爆弾は旧ソ連製の敵国に対する破壊工作用の特殊核爆破資材、通称アタッシュケース核爆弾であり、ソ連崩壊時にその特殊性から資料ごと“紛失した事実”まで遺失。
流れに流れて中東のテログループが入手し、その後、日本国内へと秘密裏に運び込まれたという訳だ。
問題は、その国内に運び込まれたルートにある。
ルート自体は問題無い。日本国内にはあらゆる組織が目を光らせており、通常であるならばその何れかに引っ掛かりテロは未遂に終わる。
しかし、今回は起爆直前まで事態が進行した。それは何故か。
問題はそこである。
簡単に言えば監視組織、システムのミスだった。
テログループは偶然にも監視の目を、それらの油断やミス、システムの不具合によって切り抜けることに成功していた。
一番の問題は、そのミスというものが偶然に、破滅的に重なってしまったという事だ。
本来、人という存在は必ずヒューマンエラーを起こす生き物であり、その隙を機械的・構造的なシステムによって補完する事で強固な体制を構築することが重要である。
勿論それは日本の各組織も承知であり、それを前提に監視システムは組まれていた。
それが、全くの偶然の一致にて貫通されたのである。
巡視船の機械的トラブルによる一時的な遅れを初めとして、税関職員の機材トラブルとうっかりによる見落とし、警察車輌の巡回の数分の遅れ、カメラ等の監視システムプログラムの一部エラー、防諜組織における通信トラブルによる情報伝達の僅かな遅れ…………
これら、通常時であればその前か後の段階で容易くリカバリーされてしまうような“インシデントとも呼べないようなミス”が同時多発的に発生し、その全てが核兵器の密輸に有利に働くという結果となっていたのである。
まるで『運命がそう仕組んだ』かの如く。
「要するに、これが我々が戦うべき相手。一番の敵である“歴史”という存在です。なぜ我々が“フラグ”の存在を恐れているのか……理解して頂けましたか?」
179 名前:奥羽人[sage] 投稿日:2023/08/20(日) 21:38:27 ID:M014009102000.v4.enabler.ne.jp [4/8]
以上となります。転載可です。
時系列は大分前後しますが、この話をやっておかないと日本と
夢幻会が何故そこまでリシュリューという存在に対して躍起になるのかがわかりづらいと思ったので。
最終更新:2023年10月11日 20:22