545 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/09/05(火) 23:24:24 ID:softbank126036058190.bbtec.net [88/159]

日本大陸SS 漆黒世界アメリカルート(Re)「7年越しのフロンティア・ウォー」




 アメリカ軍とそれに付随する開拓団により編成された第二次遠征は、第一次の時が嘘のように順調に西進した。
参加する頭数、武器や物資の量、速度、あらゆるものが第一次を遥かに凌駕していたのだ。
それもこれも、十分に用意された蒸気機関車と線路が構築した物量を運ぶ能力のお陰であった。
積み上げられた犠牲は多く、またコストも非常にかかった。イニシャルコストとしては並のモノではない。
それでもそれをやり遂げたのは、偏に西部開拓に夢を見て、そこへの投資を行った国民が多かったからに他ならない。
投資を渋る声がなかったわけではないのだが、それでも多くの資金が集められ、志願兵も集まり、結成されて送り出されたのだ。

 7年ぶりのリベンジ。
 勝手に戦争をけしかけ、勝手に戦争の前に自滅したのが現実なのだが、誰もが今度こそは、と息巻いていた。
彼らはこのために準備を整え、多くを支払ってきたのだから、当然と言えば当然だ。
7年の間にアメリカ国内でばらまかれたプロパガンダや積極的な広告は、無意識下にもアメリカ国民に働きかけ、大きな影響を及ぼしていたのだ。
一過性の流行ではなく、マニフェスト・デスティニーに付随した、ある種の衝動や傾向となって定着したのである。
新たに付け加えられたアメリカ国民の常識と言い換えてもいいかもしれない。

 ともかく、彼らは順調に進んだ。
 中継地点をいくつか経由し、補給や休息を挟み、適宜訓練なども行いながらひたすらに列車で進んだ。
 線路がかけられなかったミシシッピ川とイリノイ川は船によるピストン輸送を重ねることで突破。
川を超えた先の拠点において、予め待ち受けていた馬車などに乗り込み、さらに進む。
これを繰り返した先に、いわゆるフロンティア・ストリップという領域が待ち受けているのだ。

 日本側が防衛拠点を設けたり、あるいは城郭都市の構築を優先したということもあって、日本の前進ペースが緩んでいたから確保できたことだ。
夢幻会の意見としては要害となるミシシッピ川まで一気に行きたかったのであるが、今ある領土を守ることが優先となったことで諦められている。
まあ、アメリカに陸路の突破を強いる縦深を稼ぐことができたのであるから一概に悪いとは言えないだろう。

 そんな期せずして稼がれた縦深を踏破するのは、ここからはきつくなった。
 ここから先はアメリカもさすがに鉄道などのインフラを敷設することが敵わず、偵察を行うにとどまっている。
とはいえ、大雑把ながらも地形の把握などが済んでいるので、何も知らない土地を踏破するよりもだいぶ楽であった。
少なくとも第一次の失敗はしない。多少なりとも疲労していたものの、遠征部隊に悲観は全くなかったのだ。

 遠征部隊は途中で非戦闘要員である開拓団と分離した。
 開拓団が戦闘が終わるまで待機するというのは予定通りの事であった。
 そして、戦闘部隊に関しては、事前の偵察情報に基づいて、最寄りの都市の制圧に向かうことになっていた。
事前の偵察の頻度や精度に関してはあまり良いとは言えないが、それでも一番手近で規模が小さいために制圧しやすいと目された都市だ。
より正確に言えば開拓村であり、一般に想像されるような都市とは違う、人が暮らしやすく整備されているとは言えない場所だ。
自然がそのまま残っており、そこに人工物が用意されている、というアメリカ側でもよく見られたものだ。
 それでも、拠点を0から構築するよりもだいぶ楽になるというのが米軍の考えだった。
ここから先の地理を知り、さらには消費した物資を現地調達することが目的であり、拠点の確保も兼ねての行動。

546 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/09/05(火) 23:25:50 ID:softbank126036058190.bbtec.net [89/159]

 しかし、彼らの目論見はいきなり破綻した。
 待ち受けていたものが、あまりにも違ったのだ。
 彼らは7年余をかけて西部への道を構築し、準備を重ねて、ここまでたどり着いた。
 では、先にここにたどり着いている住人が、いつか襲撃されるということを知った時に何をするであろうか?

「マジかよ……」
「要塞だっていうのか……あれは……」

 野戦築城に始まり、やがては本格的に資材と人を投じて構築された、砦が彼らを待ち受けていたのである。
翻るのは日章旗。日本国に属していることを示す、太陽を表現した旗である。それがある砦の意味は、言うまでもないことだろう。

 実のところ、彼らが得ていた情報は古かったのだ。
 日本側とて馬鹿ではない。偵察に来ている米国側の人間を見つけ、適宜捕縛したりして情報を得るとともに、情報の漏洩を防いでいたのだ。
その結果として、道中までの情報は新しくとも、最前線であるここで日本人が何をしているかの情報が欠落していたのだ。
 そう、この野戦に適した砦の存在は秘匿されており、アメリカ側が知り得なかったのだ。
 彼らの装備には一応大砲なども存在したが、それらがまるで頼りなくなるような、そんな迫力というものが存在していた。

「ど、どうするんだよ……」
「どうするって……まさかこんなことに」

 彼らは一様に混乱した。
 これまで対外戦争では連戦連勝、開拓の邪魔になるネイティブアメリカン達の抵抗も蹴散らしてきた自信があった。
その自信が慢心を招き、非白人である日本人と日本という国家に対する侮りや偏見へとつながっていたのだ。
だから多少情報が足りなくとも勝てる、というのが彼らの見解であり、これまでの行動を推し進めていた元凶だった。
 しかし、ここにきて、それこそ指呼の距離に来てようやく異常事態に気が付いてしまったらどうなるのか?
当然ながら混乱し、困惑し、判断ができなくなってしまう。想定外もいいところの驚天動地の事実。

「や、やってやる、あんなのがなんだ!」
「そうだ、俺たちには神の御加護がある!」
「やっちまえ!」
「だが、あんなのをどうにかできるのか!?」
「はぁ!?怯えてんのかよ!」
「臆病者は帰れ!」
「なんだと!」

 バーン!
 ドドーン!

 言い争いにまで発展しかけたそれは、強制的な中断を喰らった。
 そう、日本側も米国からの侵入者に気が付いたのである。
 両国は戦争状態にあり、明らかに武装している集団がいるならば、もはやそれは遠慮会釈もなしに攻撃すべき対象だったのだ。
 近くに着弾したいくつもの砲弾による衝撃と爆風が、彼らを正気へと引き戻した。
 もはや火蓋は切って落とされた。あとは戦場で雌雄を決するのみ。

「いくぞ!」
「うおおおおお!」

 健気にも、あるいは勇敢にも彼らは飛び出していった。
 このまま動かずにいれば砲撃によって蹴散らされるのは目に見えているからこその前進。
 しかし、規模と物量において差がありすぎたその戦いがどうなるかは明白であった。
 西部開拓へと身を捧げる勇敢さとマチズモに対する過剰な賞賛に無意識に支配され、勝ち目のない戦いに彼らは自ら飛び込んでいったのだ。

547 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/09/05(火) 23:26:41 ID:softbank126036058190.bbtec.net [90/159]

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 だまして悪いが仕事なんでな、死んでもらおう。
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最終更新:2023年10月11日 20:37