745 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2022/04/15(金) 22:45:49 ID:softbank126041244105.bbtec.net [51/103]

憂鬱SRW ファンタジールートSS「ゴート・ドールは踊らない」9


  • ストライクウィッチーズ世界 主観1944年11月中旬 大西洋上 エネラン戦略要塞 軍事区画 第404講堂


 ステファニー・H・レッドフォードがティル・ナ・ローグに配属になっておよそ一か月が経過した。
 ステファニーとしては瞬く間に過ぎた一月余りであったことは言うまでもない。何しろ大変忙しかったのだ。
講義・勉強・訓練・ケア・訓練・休む・講義・訓練とひたすらにビートを刻んでいたためである。
それに加え、姉妹制度によりできた妹(後輩)の面倒を見つつ、自分の面倒も見て、繰り出される課題をこなしていくのであるから。
 けれども、非常に充実していたことは間違いないのは事実だった。一切の無駄がなく、ウィッチとしての修練を積むことができたと、胸を張って言える。
自分が磨かれ、力をつけているのだという実感はあるし、定期的な試験でも徐々に結果を出せるようになっているのだから。
 加えて、ステファニーもそうだが、ここティル・ナ・ノーグにて教導や訓練を受けている人員は半月後に備えてかなり高揚が高まっていた。

「大演習までもう少し、か」
「ステファニーはそればっかだよねぇ」
「だってそうでしょ?大演習での成績優秀者にはアイスランドにできた保養施設への特別休暇が許されるんだから!」

 呆れた顔のミネバが隣の席から言ってくるが、彼女も実際楽しみにしているのを知っている。
大演習に参加資格のある人員に配られたパンフレットを度々見返して妄想を巡らせているのをステファニーは何度か見ているのだ。
 そう、アイスランドの保養地。地球連合が用意した、天然の環境を最大限生かした後方の保養地。
ここでも休みやケアを受けることはできる。だが、訓練や学習がメインであり、どうしても閉鎖空間であることから、限度があったのだ。
その点ならば、この学びの場から物理的にも距離を置いての保養地でゆっくり休むというのは特大のご褒美というわけだ。
 そもそも、このほどの大きな完結した人工物というものが存在しなかったストパン世界の住人にとって、エネラン戦略要塞は息が詰まるのだ。

「いいわねぇ…温泉…娯楽施設…どこまでも自由な時間…」

 温泉自体はここエネラン戦略要塞の設備の一つとして存在している。
 温泉だけでなく、サウナや砂風呂、プールにジャグジーなど様々あるのだが、その中でもステファニーは扶桑式の温泉が気に入っていたのだった。
当初こそ肌を晒すことに恥じらいを覚えていたものであるが、開放感がある種の癖になった気がするのだ。

「でも、成績優秀者でしょ?競争相手が多すぎるんじゃないかな…」
「?でも、ちゃんと区分分けがされているからチャンスあると思うけど?」
「いやいや……」

 確かに年齢や兵科によって区分訳がされているのは事実だ。そこの垣根がない状態でやれば、どうしても有利不利が発生するのだ。
経験豊富なウィッチや成人している兵士が転科してきたウォーザード達が絶対に有利になってしまうのである。
 だが、ミネバの言いたいところはそこではない。

「ほら、上位に入りそうな人って大体わかっているし…」

 そう、1か月余りが過ぎれば、成績の良し悪しというのは自然と発生し、差というものが生じてくるのである。
幸いにして、ミネバやステファニーは中の上というところである。だが、その位置についていると上の層の競争の厳しさにぶつかるのだ。
 つまり、殆ど多くの人員の質は確保されているのだが、その中でも上の方の競争の厳しさに追いつけなくなる。

「でも、やってみる価値はあるよ!」
「前向きね…」

 だが、その時講師が講堂に入ってきたことでおしゃべりは中断となる。
 なんだかんだで、ミネバも真剣に取り組んでいるのだ。
 彼女だけではない。ここにいるウィッチ候補生やウォーザード候補生たちの誰もが、切り替える。
 ここから先は、真剣勝負だ。

746 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2022/04/15(金) 22:46:44 ID:softbank126041244105.bbtec.net [52/103]

  • エネラン戦略要塞 軍事区画 第101屋外演習場 見学通路



 見学通路の外を、すなわち空をMPFやウィッチたちが駆け抜けていく。
 人の目を軽々と振り切る速度と運動性と、生身の人では持ち得ぬ飛翔能力と火力を発揮していくのだ。
 対峙するのは、同じく人の力を超える能力をもつネウロイ---を模したドローンたち。
模しているのは決して姿形だけではない。攻撃や挙動もだ。MPFやウィッチたちに劣ることのないそれで、反撃も行っていく。
無論のこと、攻撃は無害なレーザーなどに置換されており、殺傷能力はない。それでも被弾しすぎるのは実戦ならば死を意味する。
だからこそ、彼らは実戦さながらに必死に動き、判断を下し、自らの体を動かし続ける。
 もはやそれは戦闘機や戦車やヘリやその他科学と技術と人の英知の産物を軽々と凌ぐ、圧倒的なモノ。
 彼ら、彼女らは舞う。科学と魔法とを混ぜ合わせた、その鋼鉄の翼に身をゆだねて。
 その姿は、いっそのこと美しい。
 諸人を魅せる、超常の翼の舞踏会。
 音や衝撃は伝わってこない。空気も、匂いも、そこで起こっていることは遮断され、この通路には届かない。
 だが、それでも伝わるものはある。そこが、戦場と何ら変わりない緊張と戦いの場であるということ。戦場という空気そのもの。

「いかがでしょうか?現在と未来の力を融合させた力の、その雄姿は?」

 問いかけるのは、案内を自ら努めているティル・ナ・ノーグの最高顧問であるリーゼロッテ。
 そして、その言葉の先には、端的に言えば日本人とアメリカ人がいた。
 そう、扶桑人やリベリオン人ではない。まったく別口の、違う世界から来訪した日本という国家の見学者だ。
文官と武官の両方がどちらも外の光景を見ている。目に焼き付けているのだった。

「オーバーロード作戦時から戦線投入による実践を経て、ウィッチ及びMPFの技術は着々と進歩しつつあります。
 まだ未慣熟であったものから、戦訓を得て、それらを反映させ、磨き続けておりますから」
「……まったく驚異的だ。ヴェルクマイスター大佐」

 日本国召喚日本の在日米軍の大佐であるマイケル・ソーは観念したように両の手を挙げた。

「少年兵や少女兵を忌避した我々への、アンチテーゼ(反命題)というべきものであるかな?」

 それは、日本国召喚日本の勢力をはじめとした、対ネウロイ戦略において幅を利かせていた意見。
少年兵や少女兵であるウィッチの投入を避け、通常兵科---先端の技術で作られた兵器と兵士を投入することで互換するというもの。
あるいは、素質があればウィッチの互換となりうる魔導士を投入するという選択肢。
 無論その結果についてはとっくに証明されてしまっているのだが。
 そして、そういわれたリーゼロッテは苦笑する。

「どちらかと言えばジンテーゼでしょう。
 あなた方のレベルの技術による通常兵科ではネウロイに勝てない。さりとて、ウィッチでは数が足りず、問題が付きまとう。
 そして、その対立二つの命題の昇華が、このMPFということになります」

 つまり、魔導士をより先進的な技術で進化させ、ウィッチを超えるものとして完成させるという回答。
 ウィッチの戦力的な強化を行いつつも、そのままであることを良しとせず、保有する技術を尽くして互換となる戦力を生み出す。
日本国という小さな島国とは比較にならない国力で、比較しきれないほど進化した技術で、その人口の翼は生み出されたのだ。

「そして、あなた方さえも無視しえないものとなったからこそ、こうしてここまで来られたのでしょう」

747 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2022/04/15(金) 22:47:23 ID:softbank126041244105.bbtec.net [53/103]

 リーゼロッテの言葉は正しい。
 このストパン世界においてMPFというものが普及し始め、あるいはPSという兵科が導入されて、確固たる戦果を挙げていることは事実。
その情報を日召日本が知らないということはなかった。ストパン世界だけでなく、地球連合とも外交を行っているのだ。
その中で情報が入っていないということはなかった。殊更に、自勢力圏にネウロイが来ることも考慮しなければならない日召日本は。

「聞いたところによれば、なんとかオーバーロード作戦の損害の補填を行いつつあるとのことですが……やはりそういうことなのでしょうね」

 断言され、日米の武官や文官たちは沈黙で返答するしかない。
 1941年に始まり、1942年の大反攻作戦で生じた大きな損害。それは、一国の軍事バランスを崩すのに十分すぎた。
 そしてこの2年という時間、他国の力を借りながらも日本という国家は自らを守る戦力を整えようとしていた。
 だが、これまでの戦力だけの補填では意味がない、というのも事実であった。ネウロイの脅威が来るかもしれない。
あるいは、もっと別な勢力が現れて日本という国家を脅かすかもしれない。かもしれないだらけだが、備えるのが国家の仕事でもあるのだ。

「おっしゃる通りです。残念ながら、我々には自国を守る戦力に事欠いております」

 日本側の代表である九津見一佐が、まさしく血を吐くような声をあげた。
 現状日本国の防衛は、なんとも奇妙ではあるが平成世界から派遣された在日自衛隊に半ば依存している状態にある。
戦力---つまり、戦闘に必要な兵器や武器なども同じく平成世界自衛隊から融通してもらっている形だ。
連合の支援もあって着実に進歩をする平成世界日米のおさがりをさらに日召日本が使うという何とも悲しいリサイクル。

「そのためにも、使えるものは何でも使わねばならない。そんな状況なのです」

 武官である彼が漏らすのだから、相当なモノだろうとリーゼロッテは察する。
 まあ、彼らがここに来ることになったのも、地球連合や平成世界日本などに、彼らの方から救援要請があったためだ。

「ティル・ナ・ノーグを率いる私としては、そして兵器をセールスする側としては歓迎します」

 リーゼロッテはそう返す。むやみに否定はしない。否定してもどうにもならないからだ。
 無論、彼らに余力というものが小さく、この状況下でパワードスーツというものを導入しようとするのはとてつもない苦労となりかねないのは知っている。
既存戦力の補填だけでも青息吐息なのだから、そこまでの余裕があるとも思えない。

「……わかりました。とはいえ、あなた方が情勢に振り回されているかもしれないということをご承知おきください」

 それは、忠告だ。かつてウィッチを彼らの視点で人道的な配慮から戦いから遠ざけた時と同じ轍を踏まぬようにという、願いを込めた。

「ここにいるウィッチたちやウォーザード候補生たちは『ゴート・ドール』などと呼ばれております。
 何も知らない無知な少女や兵士たちが、生贄の山羊の如く送られてきたことから。あるいは踊らされている人形のようだからとも」

 そして、と日米の見学者たちを見据え、問いかけるのだ。

「貴方がたは、果たしてどちらでしょうか?彼女たちのように情勢に踊らされるか、あるいは逆に情勢を乗り越えていくものか」

 ゴート・ドールと、今後の展望が見えず迷える子羊たちの国。
 果たして、そこにどれだけの差があるというのか。
 その問いかけを投げかけ、リーゼロッテは案内を続ける。自らは役割を果たすことに集中する。
 最終的に意志決定をするのは彼ら。その一助となれることを、願いながら。

748 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2022/04/15(金) 22:48:13 ID:softbank126041244105.bbtec.net [54/103]
以上、wiki転載はご自由に。
これにて「ゴート・ドールは踊らない」を一区切りとします。
ちょっと強引になりましたけども。

日本国召喚日本もまた、2年を経て外に目を向けつつあるという感じです。
まあ、この後酷い目に合うんですけどね(無慈悲)
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最終更新:2023年11月03日 10:46