415 :ひゅうが:2012/03/11(日) 21:35:07

銀河憂鬱伝説ネタ 閑話――「銀河帝国要塞事情」


――銀河帝国要塞事情

銀河帝国には、宇宙要塞が比較的数多く存在する。
その理由は、始祖であるルドルフ大帝以前から跳梁する宇宙海賊対策や航路防衛用拠点として旧銀河連邦が積極的に建造を行っていたためであった。
もともとは中継ステーションや資源採掘基地、さらには宇宙都市だった場所が拠点化し、城壁を築き兵舎たる艦隊軍港を整えるのは、中世西欧の「都市の武装」とあるいは似ていたのかもしれない。

旧ローマ帝国のライン・ドナウ防衛線のごとき文字通りの「防衛線」が崩れたとき、すなわち人類の版図が拡大から縮小に転じ「宇宙海賊」という名のアウトローたちに根拠地を与えてしまったときに終わりははじまった。
さながら騎馬民族が中華中原を襲うが如く、辺境星系を本拠にした海賊たちは下手な自治星系の軍備をはるかに上回る大船団を編成。組織的な航路上での略奪に走ったのだ。
長期間にわたる不況と、それに伴う星間運輸企業の統廃合、合理化という名のリストラが押し進められた結果、下手をすれば星丸ごとを略奪可能な程度の船舶や装備が彼らにはあった。
そして五月雨式の襲撃は簡単に銀河連邦軍航路警備隊の対処能力を超え、軍事力の本格投入を行おうとすれば今度はその計画を巡って連邦議会や内務省、はては軍務省での「政治的乱闘」が繰り返された。
連邦議会の主流を占めるゲルマン(西欧)系財閥出身議員たちに言わせれば「ノルマン人以来の衝撃」というこの前期大海賊時代を終結させたのが、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムであった。

彼は軍事力を掌握すると同時に独断専行と拡大解釈を駆使して軍事力を集中投入。
ベテルギウス方面航路を再構築すると同時に海賊たちを情け容赦なく皆殺しにしつつ撤退させることに成功する。
当然これに対する反撃は熾烈を極めるも、ルドルフは積極財政による大軍拡により景気を刺激した。
同時に、穏健派の海賊船団が自然発生的に防衛を担っていた開拓地や辺境星系を海賊たちごと投降させることで領内に組み込み、これを「軍管区(テマ)」として広範な自治権を付与する。
こうして彼は掃討作戦を展開させることで航路安定と領土奪還を両立させたのであった。
彼が軍務省軍務戦備局長を最後に政界に転じたのは、そうした政策レベルの理由があった。
そして、政界のトップに立つと彼は領土の再編成。自給自足が可能な星系を中心にした軍管区制を採用し効率的な防衛を可能とすると同時に、広大な領土を統治するため中央政府の権限を軍管区に移管し、徴税権までも付与した。


これが、現在の貴族領の起源となる。

もちろん、重要航路を守るべき軍事力は中央政府直轄とされる。
しかしながら、軍管区ごとの反乱や、領域外の海賊たちを引き込んでの中央航路侵攻といった事態も発生。
これに対しては星系丸ごとの殲滅攻撃も含めた対応が実施され、半ばこれら軍管区を監視する目的のために航路には、小惑星や宇宙港を移動させ防衛設備を付与した拠点が構築されはじめた。
銀河帝国という名の国家が成立する頃には、こうした宇宙要塞は旧連邦領最盛期の3分の1近くに縮小した中央政府直轄区域に14個が設置されていたのだった。
しかし、その外側に位置する各軍管区や連邦時代の自治領群については自治権その他はそのままだった。

416 :ひゅうが:2012/03/11(日) 21:35:38
だからこそ日本帝国をはじめとする自治領諸国は中央政府に半ば見捨てられ、「宇宙海賊たちから重要な工業設備を守る」ことを名目にそれらの富が接収されそうになると、大脱出を敢行できたのであるが。

やがて時代は移り変わり、星系間ネットワークから見捨てられ、時として宇宙空間から降り注ぐ大質量弾頭に見舞われ続けた辺境星系は飢餓と技術水準後退に見舞われる。
テラフォーミング上の保守点検がなされなくなったがための惑星環境の急速な悪化は、億単位での自然によるジェノサイドを出現させた。
そして命からがら脱出した人々を待っていたのは、成立当時の特権をそのままに星や人を丸ごと私物化することを許された貴族たちの農奴としての運命だったのであった。

まったく救いようがないとしか言いようがないが、そんな状況は貴族たちや中央政府による国民――いや平民の監視を目的として、そして細分化されると同時に門閥化していく貴族たちが起こすもめ事の監視のために拠点群の構築を促していった。
帝国暦が200年を過ぎる頃には、宇宙要塞や砦と呼ばれる簡易軍港は帝国領内に40か所を数えていた。
これらの宇宙要塞は、いわゆる「流血帝」アウグストの時代には実戦の波にさらされ、彼から玉座を簒奪した「止血帝」は彼に協力した門閥貴族たちを監視する目的で近代化と増強が行われ始めた。

同時に、貴族軍もようやく装備の統一と中央政府による統制にゆるやかにさらされていった。
宇宙要塞は、地球時代に開発され、星系間航行用の大出力大型推進用レーザー発振器の技術を細々と伝える作用を伴って維持される。
宇宙歴250年代末には、こうして作られた大型要塞の集大成となる巨大要塞が建造された。現在はガイエスブルグ要塞と呼ばれるオリオン腕中央航路の要衝にある球形の人工天体がそれである。
外殻の流体金属と、浮遊砲台という基本的な構造が確立されたのはこの頃だ。
しかし、これもまた金属質小惑星を中心としてその外側に外殻をかぶせるという旧来の建造方法をそのままにしている。

これを大きく打ち破るエポックメイキングな存在となるのが、イゼルローン要塞。
航行困難な航路と現地に資材が存在しないために建造期間は40年に及んだ。
帝国では現在、帝都オーディン外側に大型要塞を建造する計画が進行しているが実のところ自由惑星同盟首都ハイネセンを守る「アルテミスの首飾り」への対抗心が建造の理由であるため、フェザーン回廊に建造予定の新要塞やガイエスブルグ要塞の代替要塞と同様計画段階にとどまっている。
イゼルローン要塞建造にあたっての苦労が図らずも建造しない理由として述べられているのは皮肉というほかないだろう。
なお、軍務省による試算では、建造期間は3年程度で費用も大幅に低減できるということであるため、日本帝国との接触を受け再検討がなされているとの情報もある。

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最終更新:2012年03月12日 22:19