722 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/09/23(土) 23:35:18 ID:softbank126036058190.bbtec.net [106/145]

憂鬱SRW アポカリプス 境界戦記編SS「最前線司令部の憂鬱」



  • 境界戦記惑星 日本列島 北米同盟占拠地域 旧山梨県 甲斐市 前線司令部 会議室



 旧山梨県の甲斐市に設営されたこの北米同盟の拠点は、比較的新しい---というかごく最近に緊急で建造された場所だった。
他の位置にあった司令部機能を一部どころかすべて移転して、対日本解放戦線への対策本部としても用意されていた。

 なぜ、そんなことをする必要があったのか?
 偏にそれは、現在会議室に表示されているMSCU-M107W「ホワイト・モルフォ」が原因だ。
諜報網などから得られた情報からするに、近未来的な外観を持つ戦略列車砲と目されるそれは、なんと有効射程500キロは固いレールガンを保有していたのだ。
これが確認されているのは、日本解放戦線の重要拠点であり要塞である「関ケ原要塞」の向こう側だ。
そこから半径500キロとなれば、関東圏や北陸、果ては伊豆諸島までもが飲み込まれているというとんでもないものであった。
無論、フェイクや誇張の可能性もあったのだが、東京湾ど真ん中に叩きこまれた示威的射撃により、嫌でも認めざるを得なかったのだ。
 さらに撃ち込まれた砲弾についての調査や諜報部が掴んだところによれば、砲弾は800ミリというトンデモ砲弾であった。
第二次世界大戦時にドイツが運用していたグスタフ・ドーラ列車砲と同じ大口径砲だというのだ。
そして、そのスペックは確認できるだけでも、それが赤子に見えるレベルというのは明白だ。

 ここまで言えばわかるであろう、この列車砲による砲撃を恐れ、北米同盟は泡を食って戦力配置などを見直したのだ。
射程圏内から逃げ出したいのは山々であったが、逃げたところで今度は日本解放戦線が詰めてくることに変わりはない。
その為、代替案として日本列島に点在する山岳地帯の稜線に隠れるという手を選んだのである。
レールガンと言えども曲射は可能であるが、少なくとも真っ向から叩きこまれるよりは何倍もマシという判断をしていた。

 加えて、司令部機能を地上から地下に移すことによって、動きを悟られにくくするというのを選んだ。
自分達の頭の上の制空権を握れていないということで、航空偵察で配置などが露見する可能性もあっての選択だ。
制空権が握れなくなったことにより偵察を自由に許してしまうほか、軌道上の衛星なども多くが使えなくなるなど、踏んだり蹴ったりであった。
だからこそ、地上においても天空から見下ろす目を恐れ、さらにはいつ飛んでくるかもわからない砲撃におびえる日々が続いていた。

 そして、比較的最前線に近いこの甲斐市の前線司令部に設置されているのが、この「モルフォ」への対策本部であった。
 モルフォは脅威である、だからこそ何とかせよ、ということなのであるが---居並ぶ面子は半ば以上に諦め顔だ。
 とはいえ、命令は命令。会議を開き、話し合いを行い、その議事録などを提出する義務がある。
 よって今回も定例の会議が行われることになったのだ。
 日々の諜報活動や観測、あるいは得られたデータの分析結果は蓄積されており、そこからわかることもある。

「……とはいえ、これではな」

 「モルフォ」対策本部を任される大佐は髪の毛をぐしゃぐしゃと掻くしかない。
 日々蓄積されていくデータや情報は、「モルフォ」への対抗策が0であるということを裏付けするものばかりであったのだ。

723 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/09/23(土) 23:36:16 ID:softbank126036058190.bbtec.net [107/145]

 まず、この列車砲の脅威が確認され、攻略が検討された時、真っ先に考案されたのは巡航ミサイルによる撃破であった。
彼我の距離があり、間には自然の地形や「壁」があるため、それを飛び越えて攻略するには順当だと考えられたのだ。

「とはいえ、航空機どころか飛翔体の進入を許さないようだからな」
「衛星による迎撃とは、まるでSFですな……」
「SDIも真っ青だよ全く……」

 が、当然没となった。
 巡航ミサイルを試しにはなってみたところ、日本解放戦線(本当は地球連合)の衛星や地対空システムにより悉くが落とされる羽目になった。
航空機による爆撃ないし直接攻撃も発案はされたのだが速攻で没となっている。

「絶対的に制空権を握られている関係から、こちらの攻撃オプションの過半が使えないからな」
「衛星破壊攻撃も行われたのでしたっけ?」
「ああ、結果はお察しだがな……」

 その後もいくらか発案されたのだが、スマートに解決するのは不可能、と判断された。
 次いで考案されたのが、同じような大型砲を開発・配置することによってカウンタースナイプを決めるというものである。
こちらも速攻で没になった。その理由はごく単純だ。

「こっちは即座に発見されてカウンターにカウンターを喰らったと……」
「せっかく用意された新兵器が吹っ飛びましたからね」

 その時の資料を読み返すと、あの時の悲劇が脳裏によみがえる。
 それこそ、V3などのようなムカデ砲を超えるそれを用意しようというのだ、必然的に多くの人員や資材が投入されていた。
入念に情報統制や隠しての作業を行ったのであるが、当然そんな動きをしようものならば天空の目が見つけて通報する。

「……そして、基地ごと吹き飛んだ、か」
「あれ以来、この手の作戦に音沙汰がないってのは、そういうことでしょうね」

 ああ、と部下に返事をしながらも、大佐はこのプランの欠点をもう一つ見透かしていた。
 モルフォが一体どこにいるのか不明だ、という点だ。
 スパイなどの情報を基に位置の割り出しを行うのだが、どうやってもタイムラグが発生する。
 そも、最初に発見された時は巨大な要塞砲としてみなされており、それが次の日には消えていたのだから誤認ではという判断さえあったくらいなのだ。
いくつかの情報と、それから計算された弾道から推測された発射位置から鑑みて、ようやく列車砲のたぐいと判明したのはごく最近の事である。

(線路上にしか展開できないと思われるそれの行動範囲を絞ることはできるが、どこにいるか正確にわからなければカウンターしようがない)

 モルフォ対策ではなく、どちらかといえば「壁」攻略を企図したであろうその大型砲では正確に位置を把握しなくては意味がないのだ。
これが固定目標や要塞であるならばともかく、相手が動く列車砲を相手にするのは些か以上に難しい。
空から見られていることを考えれば、位置を補足してから速やかに砲をくみ上げて発射して先制するという理論上だけはできるそれをやらねばならなかった。
そも航空偵察も弾着観測もできないのにどうやるつもりだったのだ、というツッコミはさておき。

724 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/09/23(土) 23:37:17 ID:softbank126036058190.bbtec.net [108/145]


 そして、次にぶち上げられたのがコマンド部隊の投入というものである。

「これについての進展は?」
「ダメですね」

 肩をすくめた部下の報告はにべもない。

「陸路、空路は封鎖状態なのは言うまでもなく。
 制海権はかろうじて東日本側を維持していますが、そこから先は日本解放戦線……地球連合の制圧下です。
 潜水艦から発した潜水艇によって放り込むと言う手も何度か試されていますが、悉くが失敗。
 貴重な諜報員や兵士が消えていくのを本国は許容できないとのことでして…」
「その代案検討は?」
「こちらもダメです。現状、難民に混ぜた協力者や諜報員で何とかしていますが、チェックがかなり厳しいので……」

 そうか、と大佐はため息をつくしかない。
 少し考えればわかることなのは事実だ。壁の向こう側に諜報活動員を送り込むことだけならばできるし、事実これまで何度かやって成功はしている。
 だが、その際にはほとんど生身で放り込み、現地で必要なモノを調達してこちらとコンタクトを取らなくてはならないのが手間なのだ。
余計なものは持ち込めないというのがあまりにも痛かったのである。
それだけ、壁越しにこちらとの通信を行う方法を確保するだけでも一苦労なのだ。
一般的な通信手段では傍受される可能性があり、実際に傍受されているという報告も上がっている。
 だからこそ暗号を用いたり、符丁などを使うなどしているが、どこまで通用しているかと疑問が付くのだ。
 まして、破壊工作などを行うようなそんな人間を送り込むにはリスキーすぎるのだ。

「おまけになんだ、頭の中をのぞかれるだって?」
「ええ、報告に上がってきていますね。
 ?発見器のようなものでそれなりに精度があるようです」
「とはいえ、すり抜けられているのも事実か。これをメインにしているのも当然だな」
「消去法ですけどね」

 いうなよ、と愚痴る。
 結局のところ、情報を集めるだけでほぼ手一杯で抵抗しようがないのだ。

「で、総じて手詰まりなのが確認された、ということでいいか?」
「大佐、もう少し言い訳の立つ言い方を……」
「だが事実だろう?
 そうじゃなきゃ、いつ飛んでくるかわからない砲撃におびえて隠れるなんてことをしない」

 あるいは、と続ける。

「そうでなければ、首都圏に乗り込んで日本人を盾にするなんてことをするわけないだろ?」
「それは……」

 そう、前線司令部は確かに隠れることを選んだ。
 だが、どうしても隠れられない重要拠点などは存在していたのだ。それに北米同盟が出した答えが、日本人という盾だったのだ。
 日本解放戦線が日本の全土奪還を考えているならば、元の日本を取り戻す必要があり、その為には首都圏などを攻撃できない、はず。
そういう楽観的な予測も合わさって、日本人の盾は現在も用いられている。
 だが、他国の人間とは言えそれを平然と行える人間ばかりではないのが実情だ。
 それに加え、日本解放戦線は躊躇っても、地球連合が躊躇う理由は乏しいのだから。

「それに現状、最前線は押されている。
 モルフォの撃破どころじゃないってのは、いい加減上層部もわかりそうなものだがな」
「確かに…「壁」攻略どころか、そこにたどり着くルートを拓くだけでも致命傷になるかもしれませんからね」
「結局、今回も同じ結論になりそうだな」

 そう、何度か知恵を出し合ったが、毎回ほぼ同じ結論にたどり着くのだ。攻略は困難どころではないと。
 それでもいつ何時自分たちが砲撃で消し飛ぶかわからない上層部は何とかせよの一点張りだ。

「やってられないな」

 そんな憂鬱な日々は、まだ続く。だから、ため息はどうしても止まらなかった。

725 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/09/23(土) 23:38:13 ID:softbank126036058190.bbtec.net [109/145]

以上、wiki転載はご自由に。
北米同盟の詰みっぷりの再確認でした。
でも、北米大陸が他の惑星から来た勢力によるヒャッハー(比喩)されているから北米同盟も必死なんだよなって…
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最終更新:2023年10月16日 20:20