546 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/02(月) 00:11:19 ID:softbank126036058190.bbtec.net [49/124]


憂鬱SRW アポカリプス 境界戦記編SS「司令本部の憂鬱」


 北米同盟の軍部は考えた。
 どうにかして「壁」「塔」「島」そして最前線の砲陣地を攻略しなくてはならないと。
 人間の盾を使って砲撃をためらわせて入るが、それも所詮は相手の理性に依存したものだ。

 日本解放戦線のプロパガンダに乗せられ、占領地域の住人たちが一斉に離反し、出て行ってしまいかねない可能性だってある。
情報統制や人の出入りに気を使っているというのは、偏に北米同盟が自らの利益の保全のためだった。
都合がいい情報と悪い情報をより分け、反抗などを防ぐというのは常套手段である。
まあ、それが文字通り日本列島の北米同盟の命綱になっているというのは笑うに笑えないのだが。

 閑話休題。
 ともかく、後方にある司令本部ではそういった情報統制を行いながらも、西日本の日本解放戦線に頭を悩ませていた。
昨今は「壁」から前線を押し上げ、前線に恒久砲陣地まで形成されていた。
さらには黒部ダムや佐渡島といった重要な土地や施設の制圧も推し進めており、日々日々東日本に対する圧力を高めていたのだ。
 そんな戦況だから、多少荒唐無稽であっても逆転の目があれば上申される、そんな日々が続いていた。
 その日参謀本部に上申されたその案も、もれなくそれに該当していた。

「これは正気か……」
「正気のはずです。
 一応、こちらでも確認はしましたが、要項自体は満たしておりますから」

 参謀たちの前にある資料。
 それは攻城兵器と呼ばれるカテゴリーの兵器であり、さらに言えばムカデ砲と呼ばれる巨大砲であった。

「ナチの兵器を真似る形になろうってのはな……」
「おまけに地下を掘りぬいて用意するということで……」

 提案された多薬室砲と計画は以下の通りだ。
 要するに空から見えない位置に砲台を作り上げ、動かない要塞などを吹き飛ばしてしまおうというものである。
ナチスドイツのV3を大型化し、さらに山をくり貫いた中に設置するといった方式で隠匿、準備を整えるというプランもついていた。
列車砲「モルフォ」によるカウンター攻撃を喰らうことも前提としており、砲身寿命などは考慮しなくても良し。
ともかく要塞にダメージを与え、動きをそぎ落とし、そこに陸軍を突入させて制圧させるのだということ。

「こいつを採用するようならもう一度陸軍学校に入り直せと言いたくなるな」
「小官も同意です」

547 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/02(月) 00:12:07 ID:softbank126036058190.bbtec.net [50/124]

 そう、これは机上の空論だ。
 そんな長射程の多薬室砲を一から開発なんてどれほどかかるかわからない。
 よしんば作れたところでトラブルが起こる可能性だってある。
 そもそも3つの拠点目がけ、都合がよく配置し、隠匿して工事を進められるかどうかわからない。
 とどめに、仮に都合よく全部うまくいって砲撃ができたところで、それだけで要塞が陥落するわけもないのだ。
 かもしれない、を4つも5つも積み重ね、その上で神の恩寵を受けたら成功するかもという、とても軍事作戦とも言えないシロモノだ。

「だが、これが現実的というか、条件を満たしているのも確かなのが悔しいところだな」
「……はい」

 そう、荒唐無稽に限りなく近く、空想のそれであるのだが、これでも比較的現実味があるというのが事実なのだ。
より正確に言うならば、実現できる見込みというか、筋道が立てられているというだけで他の案などよりマシなのである。
 日本解放戦線の盤外戦術も相まって、人の盾を失いかねない北米同盟は控えめに言って混乱していた。
 表には出してはいないが、それの影響は随所に噴火寸前の火山のようになっているのだった。
 だからこそ、このプランやそれ以下のような、夢を見たか薬をキメた案が浮上してくるようになったのだ。
そういった案は当然没にされているのだが、そんな夢みたいな計画に縋りたくなるのもわからなくもないのだ。

「かかるコストや時間、労力に資材……それらを考えなければ理想的ではあるな」
「ですが、実際には考えなきゃならないのが辛いところですね……」
「一番マシだから、これを上申しなくちゃならなんのだが」

 そう、これはあくまで軍内部での話だ。
 かろうじて可能性が見えるこれを一番マシな案として政治の場に持ち込み、判断を仰ぐしかないのだ。
 これが承認を受けようが否認されようが、どっちにしたって自分たちが楽できないことは確かだ。

「佐渡ヶ島への対処も考えないとならんのにな……」
「まったくです」

 だから、参謀たちはため息をつきながらも仕事に挑むしかないのだ。
 全くを以て楽もできない、苦痛ですらある自分たちの使命に。

548 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/02(月) 00:13:00 ID:softbank126036058190.bbtec.net [51/124]

以上、wiki転載はご自由に。

前線も憂鬱、後方司令本部も憂鬱。

政治側が戦う相手を間違えた結果だから、是非もないよね。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 憂鬱SRW
  • アポカリプス
  • 境界戦記編
最終更新:2023年10月16日 20:37