891 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/05(木) 23:12:02 ID:softbank126036058190.bbtec.net [92/124]
憂鬱SRW ファンタジールートSS「千鳥は舞い降りた」2
- F世界 ストパン世界 主観1944年10月 オラーシャ帝国 ペテルブルク 上空
高度をあげれば、すぐにAWACSとの通信が繋がった。
哨戒高度に浮かぶひかりよりさらに上、高高度から見下ろす形でオラーシャの空を見張るウォーザードからだ。
『こちらAWACSオーカ・ニエーバ。コード502W009、雁淵ひかり軍曹を確認。
以降はこちらの管制下に入ります。データリンク、よろしいですか?』
「502W009、雁淵ひかり確認しました。データリンク要請を受諾しました。回線を合わせます」
『……確認しました。
本日のAWACSを担当する工藤みちる、階級は少尉です。よろしくお願いしますね、雁淵軍曹』
「はっ、こちらこそよろしくお願いいたします」
『ここは余裕がない現場だから、いきなりで悪いけど、使える人材と思って接するから』
「了解しました」
『元気でよろしい』
そういうとみちるはコンソールを操作し、この後の哨戒任務に向けた情報共有を行う。
502JFWが制空権を握る領域をカバーするレーダー監視網や監視衛星、あるいは各所の監視所とのデータリンクを繋ぐのだ。
途端に、ひかりのHUDに膨大な量の情報が表示される。AWACSを経由して各地の情報が流れ込んできたのだ。
とはいえ、広大なオラーシャの情報のすべてが必要なのではなく、哨戒と散発的な侵入の排除に適した情報のみが必要となる。
サイコ・エミュレート・デバイスの直感的な操作で、HUDに表示された情報が絞られていき、哨戒ルートとその周辺のそれに集約されていく。
「データリンク、確認しました」
『こちらでも確認したわ。
今日の哨戒は管野中尉とカタヤイネン曹長と合同で行ってもらうわ。
途中までは3人で定時巡回ルートを、その後は別個に分かれての哨戒になる。
低空域や地上侵攻も報告されているから、そこはカバーをお願いするわね』
「了解です」
HUDに表示された哨戒ルートは、レーダーなどの設備では届かない、あるいはどうしても生じる隙間などを縫うように走っている。
広大なオラーシャの大地を全て補いきるには設備が足りず、人手も十二分とはいいがたい。
そもそもネウロイが人類側の設置した設備を発見すると破壊するなどして妨害しているのだ。
ある種の鼬ごっこであり、だからこそ人を派遣して哨戒任務を行うことで、より確実にネウロイの浸透を防ぐことが求められている。
このオラーシャでの任務についてあらかじめ調べていたひかりにとっては、予想の範疇にあったことだし、事前の説明でも聞いていたことだった。
『ああ、そういえば』
「?如何しましたか、工藤少尉?」
『これは先達としてのアドバイスというか忠告。
特に管野中尉は、言葉を選べば敢闘精神が高く、競い合いに熱心なところがあるわ。
雁淵孝美中尉が来ることを熱望していて、その為に撃墜数を稼ごうとしたり、まあ色々と……』
つまるところ、と言いにくそうなみちるの言葉の先をひかりは拾い上げた。
「妹の私に突っかかってくる、そういうことでしょうか?」
『言葉を選ばなければね。まあ、実力で黙らせることくらいはできると思っているわ。
さあ、来たわよ』
眼下、飛翔してくる人型の物体が二つ。
IFFに応答あり。502W003および502W004。すぐさま魔導コンピューターがライブラリと照合する。
該当は当然、直枝とニパである。飛び方も堂に入ったものだ。このオーラシャの気流に慣れているのが窺える。
『502W003および502W004を確認、データリンク確立。W009との回線同期も完了。
さあ、本日の仕事を始めましょう』
みちるの朗々とした声が、ひかりの502における最初の任務の始まりを告げた。
892 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/05(木) 23:13:05 ID:softbank126036058190.bbtec.net [93/124]
みちるが予想し、ひかりが覚悟していたように、やはりというか管野はひかりに突っかかった。
ネウロイが出てこないことを言いことに、孝美の代わりにはなれないだろ、という言葉に始まり、色々と言ってきたのだ。
ひかりはとりあえずは聞き流していたのだが、一言断りを入れて言い返すことにした。
「管野中尉、それは上官としての意見でしょうか?それとも、個人としての意見でしょうか?」
思わぬ反撃に身じろぎしたが、すぐに言葉をつづけた。
「事実だろ?」
「確かに。私は雁淵中尉とは別人です。同じように飛ぶことも、戦うこともできません。
私は私の飛び方があり、戦い方があります」
ですが、と飛行を続け、HUDの情報を見逃さないようにしながらも、ひかりは続けて問う。
「私では不足があるというのでしたら、その根拠をぜひ教えていただきたいです」
「は?繰り上がり卒業のペーペーが何言ってんだよ」
「カンノ、ちょっと言いすぎだよ……」
ニパは咎めたが、ひかりは平然としたものだ。
「ヴェルクマイスター大佐の許可を得、またラル少佐らからも承認を受けております。
その決定が不服でしょうか?」
「たりまえだろ。ここはオラーシャの最前線だぜ?」
「でしたら、そのことをラル少佐に上申なさればよいのでは?」
淡々と、事実のみで言い返されていく。
それが確固たる事実で、揺らがないものだからこそ、直枝は調子を外されていた。
挑発すれば感情的になって噛みついてくると踏んでいたのであるが、まるで動揺もしない。
不気味なほどに落ち着いていて、揺らがないのだ。まるで巨大な岩を蹴っ飛ばしているかのような、自分の非力ささえ感じるほどに。
「それとも、それは先任であり上官としての命令でしょうか?
502JFWの人事権についてはラル少佐にありますから、そこから指示を受けたのでしょうか?」
「お、おい……」
「確認しますね。
こちらアサルト4……じゃない、502W009、AWACSオーカ・ニエーバ応答願います」
「待て、待てったら!」
流石にそれ以上追及されては、自分が 責を受けることになる。だからこそ直枝は焦った。
通信を続けようとするひかりに近づき、強引に止める。
「……なんでしょうか?重要事項ですから確認しようとしているのですが?」
こちらを見る目が、冷たい。
機械的に、あるいは事務的に対応されていると、そういう実感がわく。
まるでオーカ・ニエーバの連中を相手にしているかのようだ。
(くそ、そうか、同じところで教育されたんだったな……!)
893 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/05(木) 23:14:29 ID:softbank126036058190.bbtec.net [94/124]
オーカ・ニエーバの面々も、同じように直枝に対応してきたのと似ている。
それもそうだ、相手は同じティル・ナ・ノーグでの教導を受け、軍人らしい軍人として送り込まれてきたのだから。
下手に挑発しようが、言葉を引き出そうが、そうはいかない。仕事の場において、そういった伸るか反るかの鉄火場の常識が通じないのだ。
敢闘精神などがないとは言わないのだが、必要でないときには常に引っ込めておいて、いざというときにむき出しにしてくる。
つまり、自分がいくら言ったところで意味もなく、時間の無駄。墓穴をせっせと掘っていたに過ぎないのだ。
「わかった、謝る。それでいいだろ?」
「……わかりました、管野中尉。
姉の雁淵中尉がこれなくなったのは不満でしょうが、それを私に八つ当たりされては困ります」
「わーったよ」
『言い争いは十分?』
そこに割り込んだのは、AWACSオーカ・ニエーバ、みちるだった。
呆れのため息とともにその声が通信に割り込んできて、直枝はびくりと体を震わせた。
『さっきからのおしゃべりは、記録させてもらったわ。
管野中尉、ちょっと仕事の最中のおしゃべりの域を超えていないかしら?』
「うっ……」
『502がそういう風紀だというのはわかるけど、それをいきなり新人に押し付けるのは問題よ?
それに、雁淵軍曹の言う通りこれ以上は八つ当たり。看過できる範囲を超えるわ』
「……すいません」
そう、AWACSは哨戒にあたっているウィッチたちの通信管制も仕事の一部。
その気になれば何を言い合っているかを拾い上げるなど容易いことなのだ。
『それと、雁淵軍曹はちょっと慇懃無礼の節が見られるわ。
嫌味にならないように注意をなさい』
「はい。管野中尉、失礼をいたしました」
「あー……まあ、いいか。お相子だ」
これで良し、と思ったものの、あらぬところから攻撃は飛んできた。
『それと、カタヤイネン曹長。少しは止めるくらいの気概を見せてください。
この件はラル少佐に報告をあげておきますので、それぞれお説教くらいは覚悟してください』
「うえええ……」
結局のところ、全員が痛み分け、という形で一連の言い争いには決着がついたのであった。
894 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/05(木) 23:15:33 ID:softbank126036058190.bbtec.net [95/124]
以上、wiki転載はご自由に。
次回、戦闘を予定しています。
因みにコードは以下の通りとなります。
502JFW本隊
502W001:ラル
502W002:サーシャ
502W003:管野
502W004:ニパ
502W005:クルピンスキー
502W006:ロスマン
502W007:ジョゼ
502W008:定子
502W009:ひかり
502W010:孝美
第101独立飛行隊
101W001:カーチャ
101W002:バルバラ
101W003:みちる
101W004:鏡子
最終更新:2023年11月03日 11:23